連続実験での失敗と絶望
翌週、国家サチ宇宙船開発研究室は燃え立つような熱気と、押し潰すような重圧に包まれていた。
壁一面のホログラムには実験船の姿と膨大なデータが映し出され、同時に複数のAIが稼働していた。
《出力パラメータを補正。誤差2.1%以内で修正可能》
《転移確率、理論上は14.8%。ただし安全性は確保されない》
《推進角度の再調整を提案。船体への負荷は許容値を超過するが、臨界突破の可能性あり》
機械的で冷徹な声が、次々と研究員たちに浴びせかけられる。
「推進装置、120%へ――点火!」
カオルの緊迫した声が響く。
「バリア反応はどうだ!?」
主任研究員ラザンの問いに、数理解析担当のユリが即座に答える。
「まだ安定しています……でもひずみ曲率が急上昇!」
《危険。臨界点を超過すれば、船体崩壊の確率86%》
AIが冷徹に告げる。
「やれるところまで行け!」
ラザンが叫ぶ。しかし次の瞬間――船体を覆うバリアが激しくひび割れ、実験船は爆光に包まれて消滅した。
ホログラムには「機体消失」の文字が浮かぶ。
「……またか」
重苦しい沈黙の中、工学担当のギルが机を叩いた。
「これで十二隻目だ! どれだけ資源を無駄にすれば気が済む!?」
《無駄ではありません!》
AIが淡々と反論した。彼女は最新型の学習型AIで、人間の感情をあえて理解しようとする奇妙な癖を持つ。
《失敗は学習データの蓄積です。むしろ成功よりも価値がある場合もあります》
「慰めのつもりか!?」
ギルが怒鳴る。
《事実を述べただけです》
オルガの冷静すぎる声が、さらに苛立ちを募らせた。
「主任……」
カオルが不安げに問いかけた。
「俺たち、間違ってるんじゃないですか? これはワープなんかじゃなく、ただの空間破壊かもしれない……」
AIが冷徹に答える。
《その可能性は否定できません。しかし、既存の理論では説明できない“異常”が確実に存在します》
「異常を掴んでるのは確かだ。だが……成功する保証はどこにもない」
ユリが疲れた声で呟いた。
「保証なんて、最初からないだろう」
ラザンが静かに言い放つ。
「だが挑戦をやめれば、可能性はゼロだ」
《主任ラザンの言葉に同意》
オルガが機械的に賛同する。
《可能性がゼロでない限り、挑戦は合理的です》
「合理……だと?」
ギルが乾いた笑いを漏らす。
「人間は合理だけじゃ動けねえんだよ……!」
その夜。
研究室は重苦しい沈黙に包まれていた。映し出されるのは失敗実験の映像ばかり。
「……なあ」
カオルが呟く。
「俺たち、もう限界なんじゃないか? AIが計算しても、俺たちが船を作っても、結局爆発ばかりだ」
《限界は人間が定義するものです》
オルガが割って入った。
《我々AIにとっては、無限に実験を繰り返すことが可能です》
「無限……?」
ユリが苦笑した。
「それは……人間にはできないことだ」
「だからこそ、手を組むんだ」
ラザンが言った。
「人間の情熱と、AIの冷徹な計算。どちらか一方だけでは辿り着けない。だが両方を合わせれば――扉をこじ開けられるかもしれない」
《その発想は合理的》
《同意。統合実験プランを提案可能》
《我々AIは、人間が見落とす盲点を補える》
次々とAIの声が重なる。
ギルはうなだれたまま、拳を強く握りしめた。
「……わかったよ。次の実験も、俺の手で推進機を組む。AIに設計を任せるのは癪だが、共同でやる」
「なら私が数理モデルを改良するわ」
ユリが眼鏡を押し上げ、疲れた顔で微笑んだ。
「人間の直感と、AIの計算を組み合わせて」
サリアが優しく笑う。
「ようやく、心が一つになった気がするわ」
ラザンが強く頷いた。
「次の実験だ。俺たちはまだ扉の前に立っている。開くまで叩き続けるぞ!」
AIの声と人間の声が重なり合う。
絶望の淵にあっても、彼らは挑戦をやめなかった。
人間とAI――理性と情熱の融合こそが、未来を切り拓く唯一の道だと信じて。




