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革命の魔女  作者: 深月美琴
第1章 ヴァイス国編
9/10

宿屋

 ヴァイス国では、大掛かりな検問は行なっていない。

 あからさまに不審者、といったことがない限りすんなりと街へと入ることが出来る。リヒトはそう予想していた。

 そして、彼の予想通り、簡単にヴァイスへと入ることに成功する。これで、一旦は追跡から逃れたと言ってもいいだろう。リヒトの眉間のシワが少しだけ減った。

 そうして初めに入った街は、ベーゼとはまた一風変わった街並みが拡がっていた。

 一際目を引くのは、多くの街にある聖堂だ。

 この国は信仰を掲げている人間が多い。そのため、どの町においても聖堂が必ず存在するのである。

 彼らにとって、全ては神の恵みなのだ。祈りを捧げる場は必要だった。その上、今入ったこの街においては、ちょうど祭りが行われているようだ。

 五穀豊穣を祝っているのか、収穫したであろう作物の屋台が立ち並び、広場の人だかりでは何かしらの催し物が行われている。煌びやかな装飾、飛び交う楽しげな声。その賑わいは一目見ただけで分かる。夜に入ったからか、その輝きは一層のものだった。


「わぁぁぁ………」


 頬を紅潮させ、感嘆の声が漏れるリーリエ。今日だけで、見知らぬ光景は二つ目だ。国が、街が変わればこんなにも景色も変わるのか。リーリエはなんだか感動した。

 ようやく彼女に自由を、と言いたいところだが

 今日はまずしなければならないことがあった。

 宿探しだ。1度決まってしまえば、何泊かすればいいが今現在どこも決まっていない。

 その上、祭りがやっているのは彼らにとって少し誤算だった。

 元々観光客も多い国だ。祭りと重なったということは、宿もそれなりに空室が埋まっているかもしれない。

 一旦リーリエをソレイユに任せ、リヒトは軽く聞き込みを行なった。

 やがて、二人の元へと戻ると、いつの間にやら屋台で食べ物を購入していたらしく、まるでリスのように食べ物を口に詰め込んだリーリエが手を振っている。

 どこかで見たその光景に、リヒトは突っ込む気も起きなかった。二人に一声かけて、宿探しへと赴こうとする。


「とりあえず宿を見つけるぞ」

「はい!」

「……随分と納得が早いな」


 リーリエは従順な程に素直に受け入れた。

 一旦は我慢などしなくていいのだから、少しくらい不満を言うだろうと思っていたリヒトは拍子抜けする。

 リーリエは、祭りはまだ数日続くという話を食べているものを買う際に聞いたのだ。そして、明日以降、祭りをしっかり楽しもうとソレイユと話をした。ソレイユはリヒトの考えを察していたため、リーリエにそう提案したのだった。

 リーリエは得意げに鼻を鳴らしながら、そう答える。

そこまで自慢げになるようなことではないが。

その言葉をリヒトは口には出さなかった。

 三人が歩き出すと、リヒトはソレイユに耳打ちするように言う。


「おい、甘やかしすぎるな」


 リヒトが目を離すと、ソレイユはリーリエに食べ物を買い与えている。その甘やかしっぷりは少々気にかかるところだ。


「そんなつもりねぇんだけどな。出来ることはやってやりたくなんだよ」


 リヒトは笑っている親友の横顔を見る。

リヒトから見て、ソレイユはいつもそうだった。何にだって手を差し伸べて、気遣って、自分のやれることをなんでもやろうとしてしまう男なのだ、ソレイユは。そのせいで、自分に重圧がのしかかることだってあるかもしれないというのに。

ソレイユとリヒトはもう長い付き合いだ。ソレイユのことを、誰よりも理解している自信がリヒトにはあった。ソレイユの家族以上に。

 そのため、ソレイユが自身の優しさや責任感で押し潰されないか、リヒトはずっと気がかりだった。

魔女の件も自分が連れ出したからと、ソレイユは思っているのかもしれない、そんな可能性をリヒトは考える。

しかし、今回はソレイユだけではない。リヒトもまた、関わっているのだ。

 魔女を気遣うのは自分もすべきだろうか。

 生真面目なリヒトはそう頭を悩ませた。

 慣れないことを熟考していると、一軒目の宿屋に到着した。早速入ってみると、中は人に溢れている。

 望み薄で主人に空き部屋はあるかと問うと、やはり今日はもう空いていないとの事で、三人は仕方なく宿屋を後にする。

 その後も何軒か回ったものの、なかなか空きはなく、最初はるんるんとした歩きだったリーリエも、段々と落ち着いてきていた。五軒目になって、ようやく空室のある宿屋を見つけることができ、特にリーリエが安心したように息をついた。リーリエはそこまで体力はない。これ以上歩くのは少々厳しいと感じていたため、ほっとしたのだ。

 幸いなことに、部屋も複数空いているらしい。


「部屋数、どうするか」

「節約できた方が有難いが」

「三人一緒でいいんじゃないですか?」


 リーリエの一言で、二人はリーリエへと目線をやる。

 なんというか、危機感がない。

 あの環境では、そういった意味合いの危機感を抱くことは無いかもしれない。二人も決してそんなことはしない。ただ、そうだとしてもその発言には少し引っかかり、ソレイユが諭すように言う。


「いやいや、一応男と女なんだから、な?」

「……一人は嫌です」


 リーリエが僅かに俯く。

 リーリエとて、ソレイユの言葉に思うところはあったが、それ以上に孤独になる方が耐えられなかった。

 近くにいるとしても、部屋にひとりぼっちは心細い。

 黙っていたリヒトは、宿屋の主人に向き合う。

 そして、一本、指を立てた。


「一部屋頼む」


 リーリエがばっと嬉しそうに顔を上げる。


「おい!?」


 思わずソレイユが突っ込むと、リヒトは淡々と答えた。


「本人が希望しているのだから問題ないだろう」

「つっても、寝る場所とかよぉ」

「どうにでもなる」

「…………」


 あまりに淡々と言うものだから、ソレイユは黙り込む。

 何より、隣でやったやったと喜ぶリーリエを見れば、それ以上は何も言えなかった。

 それに、冷静に考えれば一緒に旅をする仲間なのだから、寝食を共にするなど、全くおかしなことではない。

 別に気にすることじゃないのか、ソレイユは無理やり自分を納得させた。

 主人から鍵を渡され、部屋へと向かう。

 扉を開けると、我先にとリーリエが部屋の中へ入っていった。宿屋もまた、リーリエにとっては初めてなのだ。

 リーリエに続いて二人も部屋の中に入ると、予想通りの光景が拡がっており、ソレイユは思わず頭を抱えた。

 ベッドが二つ。この宿は、いくつかの大部屋以外は、全て2人用の部屋だった。そのため、当然ベッドは二つ。


「……寝る場所どうするよ」


 ソレイユの、つい口から出てしまった言葉にリーリエが反応する。

ベッドを合わせて三人で寝ても良いが、真ん中の人がベッドとベッドの間の隙間のせいで、寝にくくなりそうだ。それならば、1つのベッドで二人寝るのが最適ではないか。


「二人で1つと、一人で1つ、でいいんじゃないんですか?」

「誰と誰が1つで寝るんだ?」


 リーリエは頬に指を当て、少し考え込む。組み合わせとしては、ソレイユとリーリエ、リヒトとリーリエ、ソレイユとリヒトが考えられる。この中で1番寝にくく無さそうな組み合わせなら……。

 リーリエが荷物を整理していたリヒトを見た。


「体格的に、私とリヒトですかね?」

「は?」


 リヒトとリーリエの目線がかち合う。

 リヒトの顔は至極嫌そうだった。


「何故私が貴様と?」


 本音を全く隠そうとしないリヒトの態度に、リーリエがむぅと頬を膨らませる。


「一番妥当じゃないですか。それに、どうにでもなるって言ったのはリヒトでしょう?」

「ぐっ……」


 リヒトが言葉につまる。

 バスルームなどを除けば、ベッドとテーブルと椅子しかない質素な部屋だ。

 寝るとなると、選択肢はベッドか床かしかない。

 せっかくベッドがあるというのに、自分が床で寝るのは嫌だし、ソレイユやリーリエを床で寝かす訳にもいかない。リーリエの案が最も最適だった。

 別に異性として意識するようなこともない。

 非常に複雑な表情をしながらも、リヒトはその提案を受け入れた。

 一方で、心做しかリーリエは常にうきうきしている。

 独りではない夜など、いつぶりだろうか。

 そんな喜びが漏れ出てしまっていたのだ。

 浮かれたままのリーリエも、ソレイユ・リヒトも寝る支度を整えていく。

 もう夜遅くというわけではないが、早めに就寝しようとする、その時だった。

 リーリエが僅かに呻き声を上げる。

最悪だ。リーリエは心中でそう呟いた。

 ソレイユとリヒトがリーリエに目をやると、リーリエは左眼を押さえ、額に汗を滲ませていた。

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