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革命の魔女  作者: 深月美琴
第1章 ヴァイス国編
8/10

これから

 そうやって夢中になって焼き菓子を口へと放り込むリーリエと、リーリエを穏やかな目で見つめるソレイユの前を数多の人が通り過ぎていく。

 やがて、人波の中からリヒトが現れ、二人の姿を捉えた。二人もまた、リヒトに気づいたようで、ソレイユは挨拶をするかのように手を挙げ、リーリエは自分の場所を示すように、無邪気に手をぶんぶんと振る。


「んんんー!!!」


 口に詰め込みすぎているせいで、何も聞き取れはしないが、名前でも呼んでいるのだろう。それにしても、何故こんなにも楽観的なのか。リヒトは無性に腹立たしくなっていく。

 それ故か、リヒトはまた訝しげな顔を見せた。しかし、同時に少し緊張が緩んだのか、ほんのわずかだが顰めっ面の顔も緩める。油断できないことに変わりないが、あまりに重苦しい雰囲気でいても目立つだろう。

 ただの言い訳かもしれない。それでも、魔女を萎縮させるのは可哀想、そんな感情もリヒトにはある。多少は魔女相手に気を使ってはいるのだ。

 リヒトはそのまま二人の元へと足を向かわせる。

 二人の前に立つと、もっもっと口を動かすリーリエに声をかけた。


「…おい」

「?リヒトも食べまふか?」

「違う!何をどう考えたらそうなる!!貴様は…」


 あまりに理解できない思考回路にリヒトがつい声を荒らげる。リヒト本人は無意識だろうが、そのままくどくどと小言を言ってしまいそうだ。対して、冗談でもなんでもなくリーリエは真面目に聞いているから、なんとも噛み合わない。

 また空気が悪くなる、そう察したソレイユが割って入り、リヒトの言葉を遮る。


「まぁまぁ。ギスギスしたって楽しくねぇだろ」


 不満気な顔をしたリヒトが、小さく舌打ちをして顔を逸らした。ソレイユの言葉にはどこか従順なところがある。今回の場合は、ソレイユの言ってることが最もだと思ったこともあった。

 ソレイユはリーリエに顔を向けて提案する。


「動きながら食おうぜ、な?」


 ソレイユの言葉に賛同し、リーリエが返事をしたのを確認すると、リヒトを筆頭にして三人は次なる目的地を目指した。

 やがてリーリエが焼き菓子を食べ終える頃、服屋へと到着し、リヒトがリーリエの方へと体を向ける。


「何処にも行かずに待っていろ。絶対だ、わかったか?」

「私、15ですよ!!そんなに念を押さなくても平気です!」


心外だ、というようにリーリエが抗議する。そこまで言われなくても、自分にだってそれくらいはできるというのに。そんな気持ちが込められていた。


「信用出来ないから念を押しているんだ。街に着くなり何かに吸い寄せられてすぐに何処かへ行こうとしたしな」

「うっ……」


 リーリエはバツが悪そうに視線を明後日の方向へと泳がせた。先程の自身の行動が思い起こされる。リヒトは事実を言っただけだ。リーリエは反論できない。

リヒトはふんと鼻を鳴らして店の中へと入っていく。リーリエの頭にぽんと手を乗せ、「ちょっと待っててな」と声をかけるとソレイユもリヒトの背を追っていった。二人の背中にひらひらと手を振って、二人を見送ったリーリエは店先で街ゆく人々を眺める。

 とあるお店の前で欲しいものをねだる子供を宥める母親の姿、コーヒーを嗜む女性たち、寄り添ってゆったりと歩く老夫婦。

 こんなにも人がいることに、何より笑顔に溢れきらきらと輝いている街の様子にリーリエは何だか嬉しくなった。自分がちゃんと自身の使命を果たせていた事に対する喜びだった。


 強制されていただけだった。それでも、誰かを守ることに関して誇りを持っていたことに嘘は無い。


 ただ、それを果たせているのかどうかはずっと知らないままだった。外に出るきっかけなんてものはなく、憧れはあれどずっと躊躇していた。

 ずっと心の片隅で抱き続けていた夢はひょんな事から叶うことになり、自分の目で眩い街の光景を見ることが出来たのが、どうしようもなく嬉しくてたまらない。

 一方で、それを理解したからこそ、このまま自分がこの国を離れて良いものか。

 こうして飛び出してきてしまったが、このまま突っ走ってしまっても良いのか。そんな葛藤が生まれる。

 自分勝手に飛び出しておいて、今更かもしれないが。

 リーリエが悩ましそうにしていると、背後から力強い声が聞こえてくる。


「あんた!入口に突っ立ってないで、興味があるなら入っていきな!」


 突然背後から声をかけられ、リーリエは驚きのあまり飛び上がりそうになった。

 ゆっくりと振り返ると、店の中から強気そうな女性が顔を覗かせている。

 リーリエは事情を説明した。


「えっと、私は、同伴者を待っていて……」

「あぁ、あの軍人さんの。けどね、あんたその服もう随分着込んでいるだろう?裾のあたりは解れているし」

「え?…あ、そうですね」

「せっかくなら新しいものを選んでお行き」


 リーリエは慌てて、胸の前で手を振りながら断った。


「あ、いえ、お金を持っていないもので…」

「あの軍人さんたちならあんたの服代くらい払えるだろう?甘えときな」

「え、いや、それは流石に……」


 結局、女性はリーリエの腕を引っ張って店内へと引き入れる。流されるがまま入ってしまったが、リーリエは再び目の前の光景に目を奪われていた。

 店内には男物から女物まで、数え切れないほどの服が並んでいる。落ち着いた色のものもあれば、派手な色のものもあり、ひらひらとした可愛らしい服もあれば、しゅっとしたかっこいい服もある。服以外にも、耳飾りや首飾りなどの装飾品や靴も置いてあった。

 リーリエは、今着ている質素なものとほぼ同じデザインのものしか服というものは知らない。こんなにも、服とは種類が豊富なものなのか。自分のものと同じような形でも、ひらひらとしたような装飾があるかないかでは、印象が全く違う。

 先程のリヒトの予感が当たるように、リーリエは魅力的な服に吸い寄せられていった。

 この店の主人の妻である女性が引っ張りこんできたとなると、リーリエを叱るのもお門違いだ。リヒトは何も言えずに額を押えた。既に自分もソレイユも、買うものを選び終えて店を出ようとしていたというのに。

 皆が店の中にいるとなると、外の様子が全く分からない。早く外に出なければ。

 その事をソレイユに伝え、自身の着ていた服を買ったものに着替えると、リヒトは先に店の扉を開けて出ていった。

 ソレイユもまた、着替えを終えると、リーリエの元へと近寄り声をかけた。


「何か欲しいのがあったか?」

「………はい」


 きっと、ないと誤魔化してもソレイユは自分の本心を見抜くだろう。自分は隠し事が上手くはなさそうだ。

 だから、リーリエは包み隠さず答える。


「これが…」


 そして、一着の服を手に取った。落ち着いた深い緑色のワンピース。襟元や袖に装飾が施され、シンプルながらになかなか可愛らしいものだ。


「それだけでいいのか?」


 どうせなら、何着か買っていけばいい。せっかく自分で選ぶことの出来る機会だ。ソレイユはそう思った。

 しかし、リーリエは首を縦に振った。


「はい。一着あれば、十分有難いです。それに……この服が、とっても気に入ったんです」

「…そうか」


 ソレイユが会計を済ませると、リーリエも一旦服を取り替えることにする。

 普段着ているものは留め具も何もついていないため、脱ぎ着するのは非常に容易だ。

 しかし、この服は首の辺りにいくつか留め具がある。確か、ボタンというものだった気がする。これを留めなければ、首元がはだけてしまう。だが、留め方がわからない。

 そのことに一瞬戸惑うも、その留め具の反対側に穴が空いているのをみつけ、リーリエはある記憶をはっと思い出した。

 それはいつの日か、ウェーバーがたずねてきた日のこと。

 とある魔法について、新たな発見をしたことで、リーリエはそれを書き留めるのに夢中になって小屋の中が散らかり放題になっていた。それを見たウェーバーは、掃除をするために腕をまくろうとした。

 確か、その時に自身の袖の留め具を外していた。

 それならば、至極簡単なことだ。この穴に留め具を通せばいい。実際にやってみると、なかなか難しく少々手間取ったものの、予想通りに留め具は固定された。

 たったそれだけのことなのに、リーリエは新たなことが身につき嬉しくなる。一方で、それすらも知らない自分になんだかおかしくなってしまった。


(これから知っていきたい、普通の人の当たり前を。)


 先ほどまで着ていた服を手に取り、着替えた際に服の中に入り込んでしまった首飾りを取り出して、身支度を整えると、そんな気持ちを抱えたままリーリエは試着室から出た。




 リーリエの着替えを待っていたソレイユの元へと行き礼を言うと、リーリエはそのまま店の主人とその夫人にも頭を下げた。


「素敵なお洋服、ありがとうございました!」


 深々と頭を下げるリーリエに服屋の主人が豪快に笑う。


「はっはっは!!丁寧な嬢ちゃんだなぁ。あんたみたいな人に買ってもらえて、その服も喜んでるよ」


 リーリエは笑顔のまま再びお辞儀をし、店を後にしようとする。

 すると、隣で同じように笑っていた夫人が、リーリエを呼び止めた。


「ずっと気になってたんだけど、あんた、その目どうしたんだい?」

「え。えっと、ちょっと色々あって…」

「怪我でもしてんのかい?」

「いえ、怪我ではないです!」


 夫人は自身の服の腰あたりにあるポケットの中をごそごそとまさぐり、黒い何かを取りだした。


「それなら、そんな包帯をぐるぐる巻きにするんじゃなくて、これでもつけときな。まだ見栄えが良くなるから」


 そう言って、夫人は包帯を解くと、布でできたそれをリーリエの目に当て、布に繋がっていた紐をリーリエの頭の後ろで縛ってくれる。瞳は見せないように、リーリエは片目を瞑りながら待っていた。


「はい、この方がいいだろう?」


 夫人がどこからともなく、鏡を取り出す。その鏡に映った自分の姿に、リーリエは思わず感嘆の声を上げた。


 かっこいい。


 率直にそう思った。リーリエはその興奮を隠しきれないように、ぺたぺたと自身の目元に触れる。

 夫人を見上げると、また笑顔でお礼を言った。夫人は満足そうに微笑む。

 引き続き感謝の言葉を口にしながら、店の主人達に手を振ると、二人は今度こそ店を後にした。



 店先では、リヒトが待ちくたびれたのか、少しむすっとした顔で立っている。


「遅い」

「わりぃな!」

「ごめんなさい!」


 本当に反省しているのか。

 そんな言葉を飲み込んで、リヒトは歩き出した。


「早く行くぞ、これでもうこの街を出れる」

「はい!」


 後ろからリヒトを追いかけてきた二人がリヒトの隣に並ぶ。僅かに早足になりながらも、三人は出口を目指し歩き続けた。

 やがて、もう間もなく出口が見えるところまで来た頃。

 リーリエが立ち止まり、ぽつりと呟く。


「……私、このままこの国を出ていいんでしょうか?」

「……今更何を言っている?」


 リヒトが問うた。


「……本当に何を言ってるんでしょうね、私。

 でも、もし私がいなくなって平和が脅かされたらと思ったら、怖くて。烏滸がましいかもしれないですけど。そう考えたら、なんだかどうしたらいいのか、分からなくなってしまっているのかもしれないです」


 先程自分の目で見た光景が焼き付いている。リーリエは役目を放棄することをつい、躊躇ってしまっていた。物憂げな表情をするリーリエの頭に、またぽんと手が乗せられた。大きくて、優しいその手はソレイユのものだ。


「だからって、それでリーリエの自由が奪われていい理由にはならないだろ。そもそも、一人に押し付けて閉じ込めて、強制させるなんてのが正しいわけがねぇ。お前だけが苦しみながら、孤独で生きていかなきゃいけないなんて、おかしいに決まってる」


 リーリエと目を合わせると、「そうだろ?」とソレイユが笑う。そこに付け加えるように、リヒトはただ前を向きながら言った。


「……この国にも軍はあるんだ。決して怠惰ではないし、万が一の時には戦うことができる。貴様がいなくても、他国に優越している魔法がある限り、この国の平和がすぐに脅かされるようなことは無い」


 ソレイユに比べれば、ぶっきらぼうだが、リヒトも気をつかってくれているのだろう。

 ソレイユがまた口を開いた。


「今は、一旦の休暇だとでも思えばいいんだよ。その後どうするかは、お前が決めればいい。お前は人間だ、自分で選んで決める権利があるんだからな」


 二人はこんなにも自分を気づかっていてくれている。二人の気持ちを無下にすること、何より自分たちのことを省みずに、連れ出してくれたのに、それをないがしろにするわけにはいかない。


「……はい」


 リーリエはソレイユの目を見つめ返し、返事をした。

 リーリエの答えを聞くと、ソレイユは来た道を振り返り、街を眺める。


「……なぁ、リヒト」

「何だ」


 ソレイユがぱんと顔の前で手を合わせた。


「わりぃ、家族に手紙だけ出してってもいいか?」

「……そうだな。それも、済ませた方がいいだろう」


 リーリエがはっとする。

 これから彼らがどうなるのかは、分からない。魔女の逃亡を手助けした以上、詳細は語られずとも、お尋ね者のような扱いにはなってしまうのかもしれない。

 後のリーリエの選択がどのようなものであったとしても、二人はこの国に帰ってこられるのか分からない。

 だから、手紙を書くのだろう。


 自分のせいだ。だが、謝ればまた二人に気をつかわせてしまうかもしれない。二人は自身の意思で選択をしたのに、それを否定するような形になってしまうかもしれない。

 リーリエは何も言えなかった。


「まぁ私は必要ないが」

「…本当かよ?」

「…………」


 少し考え込んだ後、やはり書くことにしたのか、リヒトは歩き出す。

 二人が手紙を書き終え、送るまでのほんの少しの時間、リーリエはただ待っていた。

 二人が手紙を出し終えると、ついに街を後にする。

 この国の検問はなかなかに厳しいが、検問があるのは他国に近い場所と王都のみだ。この街のように、国の外れでは無い限り検問はない。近くにあったのが検問のない街だったのは、幸運なことだった。

 また、検問を通らずに他国へ出るには森を進むことになる。当然、通り抜けされないように、ベーゼ王国を囲む森の中には結界が仕掛けられているが、その結界の仕組みを知っているリヒトがいれば森は抜け道同然だった。

 そうして、街を出た後は順調に進んでいき、ヴァイスとの国境(くにざかい)である川までたどり着く。

 まずリヒトが飛行魔法を使い川を渡った。

 ソレイユもリヒトに続く。

 川の反対側にいるリーリエにソレイユが手を差し出す。


「行くぞ、リーリエ!」

「はい!」


 直後、リーリエも飛行魔法を使い、浮かび上がると、川を飛び越える。

 差し出されたソレイユの手を取り、地面へと足を着いた。

 ついに、あの森からも、ベーゼ王国からも飛び出したのだ。この先にはどんな世界があるのだろうか。

 その期待感にリーリエは胸をふくらませた。




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ヴァイス国編なのに、まだヴァイス国に入れてなくてすみません泣

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