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革命の魔女  作者: 深月美琴
第1章 ヴァイス国編
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森を抜けて

空間転移魔法もまた、詠唱を必要とする非常に高度な魔法で、超自然魔法の1つに指定されるものだ。その魔法を使えたという人間は、歴史上でははるか昔の偉大な魔法使いただ一人だけである。

ソレイユとリヒトはまさか自分たちがそんな魔法を体験することになるとは予想だにもしていなかった。

柔らかな風が頬を撫で、宙に浮いているようなふわふわとした不思議な感覚がある。

どこか居心地の良いその感覚に身を任せていたが、それも束の間のことで、ほどなくして足は再び地面へと着き、思わず目を瞑っていたソレイユとリヒトはゆっくり瞼を開けた。

そこには未だ青々と生い茂る木々が広がっている。あの森の奥深くからは抜け出したようだが、そこまでの距離は移動していないようで、2人は少し拍子抜けする。

すると、リーリエが申し訳なさそうな顔で叫んだ。


「……ごめんなさいっ」


さらに続けて言う。


「空間転移は転移先の場所が分かってないと使えなくて。そんなに遠くまでは飛べてないんです。早くしないとウェーバー卿が来てしまうかも……。」


俯いたままそう言ったリーリエの頭に軽くぽんと手を乗せると、ソレイユはさわやかな笑顔で答えた。


「お前の魔法が無かったら今頃とっつかまってたよ。ありがとな。」


ソレイユの言葉にリーリエが安心したような笑みを浮かべる。そんなリーリエにソレイユは尋ねた。


「つっても、何でここは分かったんだ?あそこから出たことねぇんだろ?」


ソレイユの問いに、リーリエは口元に手を当て頭を悩ませる。そういえば、何故この場所を転移先に指定できたのだろうか。あの場から離れようと無我夢中だったとはいえ、記憶にない場所を指定することは出来ない。まだ森の中だからそこまで景色は変わってはいないけれど、あの小屋からはかなりの距離を移動したはずだ。


(はっきりと覚えていないだけで、私はここに来たことがある……?あの結界から出たことがあるはずないのに…?)


未だうんうんと唸っているリーリエにソレイユが言う。


「そんなに深く考え込まなくていいぜ。そこまで大事なことじゃねぇしよ。」


リーリエがソレイユの顔を見つめる。


「……そう、ですね。」


思うところはありながらもリーリエは微笑み頷いた。そんな2人の和やかな、悪く言えばこの危機的状況であまりにも緊張感のない雰囲気を、苦々しい顔をしたリヒトが一喝した。


「そんな呑気な話をしている場合ではないぞ。猶予はないんだ、今すぐにここを離れる必要があるだろう。」


そう、リヒトの言う通り3人にそんな悠長なことをしている時間はない。既にウェーバーの魔の手は迫ってきている。今背後にいないことは幸いであるとも言える。

追手を撒くには、早急にこの国から離れなければならなかった。だが、二人の行動は突発的で無計画なことに変わりはなく、そんな穏やかな会話をしている場合では無い。リヒトの危機感は当然のものだった。


「どこへ向かう?まずは(まじな)いの解除を目指すべきだろう。」


そう話を進めようとしたリヒトに、リーリエは少し考え込んで答えた。


「それなら……」


リーリエが続けた国名をソレイユが繰り返す。


「ヴァイス?」


リヒトは相変わらずの仏頂面のまま、リーリエに尋ねた。


「そこに手がかりがあるのか?」


リーリエはリヒトの目を見つめ返し、首を縦に振る。


「はい、呪い師はヴァイス国にいますから。まずはそこで話を聞いてみる必要があると思います。」


ベーゼ王国の周りには3つの国が隣合っている。

国の周りには覆うようにして森が広がっているため、都市と都市が隣合っている訳では無いが、交通整備はしっかりとされており、ベーゼ王国側にて厳しい検査はあるものの、各国への道は開かれていた。

ベーゼ王国に隣合う3つの国。

まず、マハト帝国だ。

この国はここ一帯の国の中では領土も国力も最も大きく、ベーゼ王国にとって一番緊張関係にある国である。その理由としては、軍事に関して特に力を入れており、兵器や武器の開発が非常に進んでいることが挙げられる。ベーゼ王国の武器はマハト帝国に提供してもらっているものも多い。その対価としてベーゼ側から魔道具を提供している。魔道具は主に2種類あり、杖のような魔力を込めて使うものと、既に魔法が込められた魔力がなくても使用できるものである。道具に入っているのは基礎的な魔法だが、魔法が全く使えない者からしたら非常に便利なものだ。

かといって、万が一にも改造が施されれば魔道具は脅威になる。そのため、近年はそういった取引には慎重な姿勢を見せているらしい。いずれ防御魔法や結界を凌駕する兵器が生み出されれば、ベーゼ王国は侵略される可能性もある。

友好関係を築いているようで、常に注意し続けている国であった。

次に、エーデル王国。

この国は特に資源に富んだ国で、ベーゼ王国は多くの交易を行なっている。

ベーゼ王国も自然豊かな国ではあるが、充実しているのは森林や水であり、鉱物や燃料といった面では少し乏しいところがある。一方で、エーデル王国は経済発展に伴い、森林の減少や水の汚染が見られ、ベーゼ王国とは相互補完的に良好な関係であった。また、エーデル王国からもたらされる海洋資源は貴重なものである。ベーゼ王国からも海は目指すことは可能だが、都市から海へたどり着くまでには森林が広がっており、そこは魔女が住むと言われていた場所だ。立ち入り禁止区域のような扱いのため、ベーゼ王国では海洋資源の確保が困難だった。資源確保のためにも、エーデル王国は欠かせない存在である。

最後にヴァイス国である。

小国ではあるものの、ベーゼ王国も含めた四つの国の中で、特に長い歴史を持っているといえる国だ。

それもそのはずで、ベーゼ王国を除いたマハト帝国とエーデル王国の領土は元々、このヴァイス国のものであった。

様々な諍いが起きる中で、三つに分裂したようなものである。

広大な土地を持っていたヴァイス国は今は一番小さな国になったものの、はるか昔からの歴史は今も確かに残されていた。

現在各国に伝わっている衣服や建物の原型ともいえるものは今なおヴァイス国内で受け継がれ、その姿を確認できる。

ベーゼ王国とは、交易などが非常に活発というわけではないが、人気の観光地の1つとして親しまれていた。

良い意味で平凡なその国に、何世代にも渡って魔女を蝕み続けた(まじな)いをかけた人間がいるというのか。そもそも魔法と異なる摩訶不思議な力の存在自体が今更ながらに不思議に思えて仕方なかった。様々なことが起こりすぎて、深く考える暇もなかったため、今更になるのは致し方ないが。

リーリエに世界を見せるなど言っておいて、まだまだ自分は無知であることをソレイユは実感していた。

だが、それと同時に期待にも胸をふくらませていた。

自分たちもこうして他国に繰り出す機会はなかなかない。未知なる世界を知れることに、好奇心が刺激される。

追われる身なのにも関わらず、なんだか自由になれたような気がしていた。

ソレイユは口角を上げると、リーリエに手を差し出す。


「じゃあ、とにかく向かおうぜ。ヴァイス王国に!」


リーリエはにっこりと笑ってその手をとった。


「はい!」


ヴァイス国を目指し、光に向けて、3人は走り出す。

期待に目を輝かせている2人と呆れたような顔をしている1人とで、その表情は対照的だったが、3人の足並みは確かに揃っていた。

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