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革命の魔女  作者: 深月美琴
序章
2/8

森の奥深くに住まう者

 王太子成人の式典から3日。

 王都は今だなお大いに賑わっていた。

 この国では式典の後、その延長として祭りが始まることが多い。王族が国民の前に姿を現すのは基本的には式典の際だけなため、主役である王太子は不在であるものの、王族を慕う国民たちによりその盛り上がりようは言うまでもなかった。

 人々はあちらこちらで酒を酌み交わし、祝いの言葉を叫ぶ。当然問題など起こることもなく、王都内の警備をしていたソレイユとリヒトは暇を持て余していた。


「相変わらず祭りの間はやることがねぇな。」

「当然だろう。皆が王たちを祝うことに夢中で、悪さをしようなどと考える輩が現れないのだからな。」


 リヒトの言葉を聞きながらソレイユは笑顔を見せる民衆へと顔を向け呟いた。


「でも、良い事だよな。」

「?なんだ?」


 リヒトが聞き返すと、ソレイユは顔を和らげながら答える。


「それだけ平和ってことだろ。王族を想い、慕い、敬って、皆が1つになれる。そのおかげで消えることない笑顔が見れる。これってすげぇ良い事じゃねぇか。」

「…そうだな。」

「俺たちはこの笑顔を、平和を守るために軍に入ったんだ。まだ3年ぽっちしか経ってねぇけど、これからもこの笑顔が消えねぇように、王たちも民も守り続けていきたい。そのためにももっと強くならねぇとな。」


 そう続けたソレイユをリヒトが不審そうな顔で見つめ問う。


「急にどうしたんだ?」

「んだよ、その顔。ふと思ったこと言っただけだろうが。」

「それにしては長かったな。」

「うるせぇよ!」


 そう噛みつくソレイユを見つめ、リヒトは瞼を閉じてふっと笑った。そして、先程のソレイユのように民衆を見据えて口を開いた。


「だが……お前の言う通りだ、ソレイユ。私たちはこの国を、民を守るために軍への入隊を志したんだ。その気持ちは忘れてはならない。」


 軍に入る者は、良家つまりは貴族階級出身である場合が多い。その理由としては、一般階級に比べて教育が充実しているということがあげられる。この国では酷く貧しい民はいない。豊かな自然によるたくさんの恵み。それを王や貴族階級の人間が独占するようなことはなく、全ての人間に平等に分け与えられていた。しかし、貴族制度があるため、一般階級と貴族階級では少しの差は生じていた。その一例が教育である。文字の読み書きや基礎魔法は皆が共通して学ぶものだ。貴族階級ではそこから更に魔法の教育が発展しており、使用できる魔法はさらに広がる。そのため、高度で多岐にわたる魔法が使用できる者が求められる軍においては貴族階級から多くの人材が輩出される。つまり、ソレイユやリヒトが軍に入ることは至って普通のことだ。しかし、2人は貴族の一般的な道として軍への入隊を決めたわけではない。並々ならぬ信念があった。その1つがこの国の平和を守ることだったのだ。それは幼い頃2人が交わした誓いでもある。今一度、2人はその誓いを心に刻んだのであった。

 


 

 

 



 


 





 



 そんな出来事から時は流れて夕刻よりも前。

 本来ならば、今日の夜まで警備の任務であったが、せっかくの祭りなのだから参加してくるといいと勧められ、第一部隊・第二部隊に引き継いで第三部隊はその日の仕事を終え解散していた。

 早々に仕事を終えたことで、本当に暇になってしまった2人はこの後のことについて相談する。


「どうするよ、リヒト。酒場でも行くか?

 ここ何日かは禁酒だったしよ。」

「お前と酒を飲むのは好かん。めんどくさい絡み方しかしないからな。」

「なんだと!?」

「私は帰る。ではな。」


 さっさと話を打ち切ってリヒトがスタスタと歩き出す。その背を追いかけてソレイユは首根っこを掴んだ。


「おい!何をする!!」

「寂しいこと言うなよ〜。なんかしよーぜ。」

「やかましい!!」


 リヒトは必死で逃れようとするも、ソレイユの筋力には敵わない。踏み出そうと前へ出した足はソレイユの方へと引き戻されるだけだった。


「おいっ、いい加減に…」


 怒りを顕にしながらソレイユの方を振り返り怒鳴りかけたリヒトの言葉を遮るようにソレイユが何かを思いついたようで叫ぶ。


「あ!」

「な、なんだ…」


 その声量に驚かされたのか、少し怯んだようにリヒトが尋ねる。ソレイユは意気揚々と言った。


「この前の森に行こうぜ!」

「は?」

「お前が誰かを見たって言った森だよ。もし誰かが住んでいたら問題だろ?仕事の延長だと思ってよ。」


 建前だろう。リヒトは瞬時にそう思った。長い付き合いだからこそ、この男の考えることはおおかた分かる。どうせ、滅多に行くことの無い森の奥へと行きたいだけだろう。誰かが住んでいるわけもないのだから。しかし万が一にも。万が一にも誰かが住んでいたら。即刻に対処しなければならない。私が行くのはあくまでも仕事の延長だ、そう自分に言い聞かせるようにして、リヒトは「そういうことなら……」と答えた。その返答に顔を綻ばせたソレイユはウキウキとした様子で歩き出す。その背中に向かってため息を吐きながらも、リヒトは後に続いた。

 不気味な程に光輝く月が森へと向かう2人の背を照らしていた。

















 王都をぬけた2人は先日の目撃現場から更に森の奥深くへと進んでいく。すると、突如リヒトが立ち止まる。そんなリヒトに気を取られ顔を向けたソレイユは前を確認しないまま足を踏み出した。ところが、なにか壁のようなものへと衝突し、呻き声をあげながら後ろに倒れ込んだ。


「いって!?」

「何をやっているんだ、お前は。結界があるだろう。」

「言えよ!!」


 そう憤りを顕にしながら己に迫ってくるソレイユを無視し、リヒトは結界に触れる。


「……随分と高度な結界だな。」


 そしてそのまま魔力を込めると、結界を構築している術式が現れた。実は結界はかなり高度な魔法である。魔法は、基本的には自身の魔力を消費し、杖を媒介することで使用できる。例外といえば、詠唱を必要とする高度な魔法と結界魔法である。

詠唱を必要とした魔法は未だ謎が多く、杖が必要であるはずの魔法を、詠唱を代替とすることで発現できる。それ故か、膨大な魔力が必要であり、杖を通さずに直接手に魔力を込める形で使用する。そもそも、使用できる人間がいるのか否かもはっきりしておらず、もはや伝説的な魔法として指定されている。

一方で、結界は様々な条件をつけたり、一般的な魔法を組み合わせたりした、いわばオリジナルの魔法であるため、自身で古代数字を用いた術式を一から組み上げ、そこに魔力を込めることでようやく実体化する。手順が多く少しのミスで魔法が発動しなくなってしまう結界魔法はそれ故に非常に難しいのである。

また、結界魔法ならではの特徴として、書き換えることで効果を変えられるというものがあげられる。例えば、如何なるものも侵入させないという結界であっても、書き換えることで特定の人物だけは侵入できるという結界にすることが可能なのである。この書き換えはただ結界魔法を使うよりもさらに困難なものであるため、できる者は限られた者だけになる。だが、ここにいるのは結界魔法の天才、リヒト・リッターである。一刻も過ぎないうちに術式を書き換え、2人を結界内へと踏み入らせた。2人を結界内に入れると結界は再び穴ひとつない壁へと変わった。その様子を見つめながらソレイユが呟く。


「相変わらずすげぇなお前。」

「このくらい造作もない。だが……あれだけ高度な結界が張られているのは違和感がある。警戒しろ。」


 リヒトがそう言った直後、2人の進行方向からガサッという音が鳴る。それに伴うように風が吹き、草木が揺れた。2人が警戒態勢に入ると、想像とは大きく異なったものが姿を現す。


「誰ですか……?」


 おそるおそるといった様子で木の影から顔を出したのは左右異なる色の瞳を持った少女だった。


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