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革命の魔女  作者: 深月美琴
第1章 ヴァイス国編
10/10

裏表

「大丈夫か!?」


 ソレイユが駆け寄る。

 心配をかけまいと、リーリエはぎこちない笑顔を作った。


「へ、平気です。ちょっと疼くだけなので」

「……また、魔族でも出たのか」


 リヒトが尋ねる。

 リーリエの眼が疼くのは、王族が魔女の力を欲した時、その役目を果たすまでの間の時間だった。

 そのため、今回もそうかと思ったのだ。

 リーリエは首を振る。


「……いいえ。多分今回は…王が意図的に(まじな)いを発動させてるんだと思います」


 それがこの(まじな)いの厄介なところである。

 どれだけ離れようと、こうやって簡単に干渉してくる。

 (まじな)いをかけたのは呪い師だ。しかし、その内容は王族主体のものであった。

 王族が魔女を使いたい時に、魔女を閉じこめるために、ただ王族の意のままに、(まじな)いは発動される。

 具体的にどのような方法・経緯で(まじな)いがかけられたのかは、リーリエの知るところではないが、この(まじな)いが王族のためにかけられたのは明白だった。

 リーリエの呼吸が乱れる。初めてのことではなくとも、この感覚に慣れるというのはなかなかに難しいものだ。落ち着かせるように、ソレイユはその背を撫でていた。

 ほどなくして、リーリエの呼吸も落ち着いていく。

 ずっとそばで落ち着かせてくれていたソレイユに、リーリエは礼を言う。


「ありがとうございます、ソレイユ」


 そして、二人を見つめ先程の言葉の続きを紡ぐ。


「……かけたのは呪い師ですけど、王族の思うままに調整することもできるんです。今回はもうだいぶ落ち着いてきたので、恐らく牽制みたいなもの……」

「……戻ってくるように促している、ということか」


 リヒトが顎に手を添える。

 それならば、早急に(まじな)いを解く必要がある。

 ただ、魔女に(まじな)いをかけた呪い師は既に死んでいるだろう。呪い師といえど、人間であることに変わりない。人はいずれ死ぬ。


「……(まじな)いは、かけた本人でなくとも解けるものなのか?」


 それが不可能ならば……選択肢なんてものはない。

 リヒトの質問にリーリエがわずかに項垂れた。


「……分かりません」


 その疑問は、リーリエも薄々感じてはいた。

 だが、深く考えようとはしていなかった。

 逃れられないかもしれない、そう思いたくなかったのだ。

 部屋が静寂に包まれる中、その空気をソレイユが壊す。


「分からねぇこと考えたって仕方ねぇだろ!つーか、まだ何もしてねぇのに、そんな暗いこと考えなくていいっつーの。行き当たりばったりが良くないのもわかるけどよ、考えすぎも良くないぜ」


 ソレイユはそういう男だ。悪く言えばかなりの楽観的、だが良く言えば前向きなのだ。それでいて気遣い上手。ソレイユの前向きな発言は、そんな気遣いからもきている。


(……ソレイユのこういうところには、本当に救われる)


 呆気にとられていたリーリエも、ソレイユに笑顔を向けた。


「……例え解けなくても、意地でも慣れてやります、私!」


 ソレイユの言う通りだ。今こんなことで暗くなっていたって意味が無い。それに、ここまで連れ出してくれたのだ。そんなにことが上手く運ばなくたって、リーリエは構わなかった。

 リーリエは気合を入れるように「よし!」と声を上げた。

 そんな精神論で、とは思ったものの、リヒトはその言葉を飲み込んだ。解くこと以外にも、何か解決策はあるかもしれない。何事も模索すべきだ。

 途端に明るくなった室内で、リヒトは誰にも気づかれないような小さな笑みをこぼす。

 すると、リーリエが膝に乗せた拳をにぎりしめて、不貞腐れたような顔をした。


「……なんだか、少し腹が立ってきました」

「何でだ?」


 リーリエがばっと顔を上げてソレイユを見る。


「王族に、です!こんなことで自分の思い通りに出来ると思ってるのも、相変わらず私をこき使おうとしてるのも、なんだか無性に腹が立ちます」

「……お前もそういう感情あるんだな」


 どこか安心したような目でソレイユがリーリエを見つめた。


「ありますよ!私は聖人じゃありませんし。…………王族は、好きではないです」


 後ろめたいように、言いづらそうにしながらも、リーリエははっきりと言う。ずっと言うことの出来なかった、リーリエの本音だった。

 そんな負の感情から切り替えるべく、リーリエは憂いを帯びた瞳を閉じる。再び目を開くと、また腹立たしそうな表情へと戻った。


「協力とかでいいじゃないですか!強制されるのはおかしいでしょう…!?」

「落ち着け。……まぁ、そう思えるようになったのなら、いい傾向ではあると思うがな」

「な。そんならよ、あの人も嫌いなんじゃねーのか」

「あの人って?ウェーバー卿ですか?」


 ソレイユが頷くのを見ると、リーリエは即座に否定した。


「そんなことないですよ。あの人は優しい人なので」


 意外な返答にソレイユ達は思わず目を剥く。

 二人の表情を見たリーリエは苦笑いした後、どこか懐かしそうに、首飾りを手で弄った。


「……本当に優しい人なんですよ。あの小屋に来た時は、いつも私の話を聞いてくれたり、質問に答えてくれたりして。口数が多いわけではないんですけど、ずっと見守るような目で静かに聞いてくれて。あの人のおかげで、寂しさは紛れてたなって思うんです」


 ソレイユとリヒトはリーリエの話が信じられなかった。

 自分たちが持っていたイメージと、リーリエの話すウェーバーの姿が全く一致しない。

 付け加えるように、手で触っていた首飾りはウェーバーからの贈り物だろうとリーリエが説明したことで、二人はさらに困惑していく。


「……いや、ほんとか?」


 あまりに信じられずにソレイユが怪訝そうな顔をした。

 リーリエも、ソレイユ達がそんなにも不審に思っている理由は理解していた。

 ソレイユ達が見た、ウェーバーのリーリエに対する扱いは、到底優しい人がするものではない。


「まぁ、あれを見たら信じられないかもしれないですけどね。私もあんな感じのあの人を見たのは、まだ二回目です。……前も、今回も、そういう状況になった時はあんな態度をとっているだけで、普段は本当に優しいんですよ」


 ウェーバーはリーリエの記憶に残る数少ない人だ。

 リーリエが生まれてから今に至るまでの長い間、ずっと交流し続けてきた。

 だから、ウェーバーの二面性やちぐはぐな行動の理由に、リーリエはひとつの答えを出している。

 ウェーバーはきっと、魔女に同情する気持ちと自身の責務を果たさなければならないという責任感とで板挟みになっているのだろう、と。

 ああやって傷つけられることはあっても、ウェーバーに与えてもらったことは多い。

 そのため、リーリエはウェーバーを嫌いになることはおろか、どちらかといえば好きですらあった。

 嫌いになれないのは、リーリエにとっての直接的な交流者がウェーバーしかいなかったことも、大きな要因かもしれない。


「ウェーバー卿に教えて頂いたことはたくさんあります。お母さんが死んでしまってから、基本的な生活のことや言語とかは全て教えてくれたんですよ」

「……確かに、生まれてからずっと閉じ込められていたとは思えないくらい、普通なようだな」


 普通の人と同じ暮らしは送れなくても、暮らしていく術や外の世界での常識の一部はウェーバーが教えてくれていた。当然、全てを教えられたわけではないため、知らないこともあったが、外の世界への取っ掛りはできていた。

 その意味では、やはりウェーバーには感謝しかない、リーリエはそう思っていた。

 さらに、リーリエにはウェーバー以外にも孤独を埋めてくれる、会話のできる存在がいたのだ。


「そうでしょう?ウェーバー卿と、妖精さんがいたから、私こうして会話だって普通にできるんですよ」

「妖精さん?」


 急に、物語上の種族の話が出てきたため、ソレイユは思わず繰り返してしまう。


「そうです!姿は見えないんですけどね、たまにお話してくれるんです」

「幻聴でも聞こえたのか?」


 無邪気に肯定したリーリエだったが、二人は信じられないようで、リヒトなんてあまりにも冷たい。

 かといって、今現在妖精なんて種族は存在していない。

 やはり、寂しさを空想で埋めていたのではなかろうか、そんな考えがソレイユとリヒトの頭をよぎる。


「違いますよ!本当に妖精さんがいるんです!!ね、ソレイユ……!!」

「あー、まぁ、そうだな…?」

「絶対信じてないじゃないですか!!」

「おい、もう寝るぞ」


 そこで会話は打ち切られ、各々先程決まった組み合わせでベッドへと入る。

 妖精の件を信じて貰えなかったことで、少しむくれながらも、リーリエは少々狭いベッドで温もりを感じながら眠りについた。

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