表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

エピローグ - 約束の翼

STRIXの表彰台は、ドバイの夜景を一望できる、ブルジュ・ハリファの特設ステージに設けられていた。

中央に立つのは、少し戸惑ったような表情でトロフィーを抱く、初代チャンピオン、ステラ・シルヴァーシュテーン。

その隣、2位の表彰台にはAIのロゴだけが映し出され、3位の表彰台には、ドミトリー・ヴォルコフが静かに立っていた。


レックス・マーベリックによる陽気なインタビューが続く中、ドミトリーは、ステラにだけ聞こえる声で呟いた。

「見事な飛行だった、小娘。だが、覚えておけ。俺が追い求めているのは、伝説の首、ただ一つだ。次はない」

それは、彼なりの最大の賛辞だった。ステラは、静かに頷き返した。


---

数週間後、日本の最先端医療施設。

ガラス張りの無菌室の向こうで、ルーカスは、穏やかな顔で眠っていた。彼の身体には、彼の未来を創るための遺伝子治療薬が、静かに投与されている。


「…本当に、良かったのか」


病室の外の廊下で、ビョルンが、隣に立つステラに問いかけた。

「賞金は、君が命懸けで勝ち取ったものだ。ルーカスの治療費1億円を差し引いても、まだ9億円も残る。君が、受け取るべき金だ」


STRIXの後、ステラは、賞金の権利のほとんどを、ビョルンに譲渡していた。


「いいえ。あれは、ルーカスが作ってくれた翼で掴んだ勝利。だから、あれは彼のものよ」

ステラは、ガラスの向こうの幼なじみを見つめながら、優しく微笑んだ。

「それに、私には翼があれば十分。また稼げばいいもの」


その表情には、かつて「ヴィーナス・ウィング」で勝った後の、冷めた光はどこにもなかった。

ビョルンは、そんな彼女の横顔に、亡き親友ゼノの面影を、そして、彼をも超える、真のパイロットの姿を見て、静かに目を伏せた。

「…ありがとう、ステラ。君は、息子だけでなく、どうやら俺の魂まで救ってくれたらしい」


---

一年後


スウェーデンの飛行場は、11年前のあの夏と同じ、穏やかな日差しに包まれていた。

そこに、一台の車椅子がゆっくりと近づいてくる。自分の足で、それを押しているのは、すっかり元気になったルーカス・リンドベリだった。


滑走路では、最終調整を終えた「フェンリル」の改良型が、太陽の光を浴びて輝いている。その翼に寄りかかっていたステラが、笑顔で彼に駆け寄った。


「もう、そんなに歩いて大丈夫なの?」

「ああ。リハビリは順調だ。…それに、早く身体を慣らしておかないと、な」


ルーカスは、いたずらっぽく笑うと、ステラにまっすぐ向き直った。

その瞳には、1年前の病室にあった儚さは、もうない。パイロットだった頃の、挑戦者の光が宿っていた。


「最高のメカニックとして、君をチャンピオンにした。約束は果たしたよ」

彼は、そこで一度、言葉を切った。


「でも、次はパイロットとして…僕自身の翼で君に挑戦する。だから、それまで世界最強のチャンピオンでいてくれ、ステラ」


その言葉は、新たな挑戦状。そして、11年前に交わした、空への夢の続きだった。

ステラは、太陽のように眩しい笑顔で、力強く頷いた。


「望むところよ、ルーカス」


二人の夢を乗せた約束の翼が、再び大空へと羽ばたこうとしていた。

果てしなく続く、青い軌跡を描くために。


- FIN -

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ