第1話 仮面、拾ったら人生終わった。
その日、俺はいつもの帰り道、アニメショップの袋を提げて歩いていた。
「ふぅ……限定版ゲット……これで今週は乗り切れる……」
駅前の路地を抜け、薄暗い裏通りにさしかかった時だった。
足元に、何かが落ちていた。
「ん?」
しゃがんで拾い上げる。手の中には、ピエロのような仮面。
白地に赤と青の模様、口元は笑っているような……いや、笑ってる。こわっ。
「落とし物……だよな? 交番……はめんどいな……ま、貰っとくか」
俺はそう言って、仮面をリュックに突っ込んだ。
そのまま早歩きで家路につこうとした、その瞬間――
パンッ!
乾いた銃声が響き、向かいのビルの前に黒いワゴンが突っ込んできた。
「動くなァァァッ!!」
「きゃあああっ!!」
――現金輸送車襲撃の現場に、出くわしてしまった。
「……う、うわああああっ!? ちょ、ちょっと、なんで俺!?」
「テメェ! 動くなっ! 殺すぞゴルァ!」
拳銃を突きつけられ、地面に押し倒される俺。
最悪だ。なにこのタイミング。漫画か。
(……漫画なら、今ごろヒーローが現れて助けてくれるのに……)
俺が心の中でそう呟いたときだった。
リュックの中の仮面が、キィィィンと光った。
「おい……お前……ピエロか?」
「え?」
「それだよそれ、その仮面。ピエロだろ?」
「ち、ちがいますよ! 落ちてたんです! 俺、ただの通行人ですし!」
「じゃあよ……その仮面かぶって、裸で踊ってみろ。やったら逃がしてやんよ!」
「……は?」
「ほら、脱げよ! ほらほら! やるか、死ぬか!」
「……やります!!!」
即答だった。
生きるために、俺は服を脱いだ。Tシャツ、ジーンズ、パンツ……全部。
「うわっ、マジかよ!? なんだそのだらしねぇ身体、腹出てんぞオッサン!! うけるっ!」
「うるせぇ!! こっちは命かかってんだよ!!」
俺は仮面を顔に押し当てた。
――その瞬間。
光が爆発した。
目の前が真っ白になり、身体が焼けるように熱くなった。
(あれ? 俺、今何考えて……ああ、好きだったアニメの……美少女ヒーロー……)
手足がすらりと伸び、胸が重くなる。
腰がくびれ、髪がふわりと揺れた。
気づけば――
俺の身体は、どう見てもエロい美少女だった。しかも全裸。
「え? ええええええええっ!?!?!?!?」
仮面だけをつけて、くねくね踊っている“美少女”な俺に、犯人もポカンと口を開けていた。
「な、なにこれ……なんだこれ……コワイ……」
「……いや……ちょっと……恥ずかし……」
その時、俺の中に――何かの力が、湧き上がってきた。
「もう……うるっさいんだよ!!!」
ズドンッ!!
拳が炸裂した。犯人の顔面に直撃。
男はふっとび、コンビニの自動ドアを突き破って昏倒した。
静寂。
俺は、ゆっくりと、自分の“柔らかすぎる胸”を見下ろす。
「……これ、マジでどういうこと?」
こうして、俺の“ヒーロー(?)”生活は始まった。
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▼次回予告(仮)
> 『第2話:正義の名はノゾミちゃん!?とりあえず服を着させてくれ』




