第6話 拾物
結局あれからカルミアの姿を見ることはなかった。
どうなったかは知る由もない。
一時の幸せを手に入れられただけで奇跡だ。
本来ならあの戦場で死ぬはずだった。
ほんの少し死期が遅れただけ。
そう思うことにした。
行方知れずのまま数年が経った。
戦争はいまだに続いている。
お互いの力は拮抗したままだった。
だが、どくろのマスクと黒いマントで身を包み、軍や政府の活動を邪魔する組織、通称死神の活動により、兵力は次第に衰えてしまった。
それでも戦争を続行してきたが、軍がつぶれてしまうのは時間の問題だろう。
そんな中、俺は気が付けば指揮官になっていた。
簡易的な建物が立ち並ぶ前線基地で上官や政府からの情報を元に作戦を練る。
暗がりの中、一つの電球の光を頼りに資料とにらめっこする。
すると突然、どこからか爆発音が聞こえてきた。
緊急事態を知らせるサイレンと兵たちの声が鳴り響く。
一人の若者兵士が慌てて部屋に入ってきた。
「報告!防壁が爆破され、黒いマントのやつらが侵入しました!例の組織と思われます!」
ついに来たか。
ここには戦力があるわけではない。
追い返せても被害は甚大だろう。
「今すぐ全員集めて第二拠点へ撤退しろ」
「戦わないんですか?」
「この戦力だと犬死するだけだ。それなら撤退して体制を取り直し、作戦を見直したほうがいい。生きていればいつかまたチャンスが来る。命を無駄にするな」
「イエッサー!」
若い兵士は敬礼し、急いで部屋を出ていった。
奴らの狙いは概ねわかっている。
俺の命とこの資料だ。
軍の幹部やリーダーを消し、情報を漏洩させることで軍をまともに動けなくする。
それがこの組織のやり口だ。
だから今すぐ撤退すれば部下たちの命は助かるだろう。
机の上に置いてあるタバコを手に取る。
次の瞬間、部屋の壁が爆発した。
爆風に吹き飛ばされ、壁に激突する。
頭を強く打ち、意識がもうろうとする。
体が言うことを聞かない。
ぼやけた視界の中に黒い足が映る。
とうとうこのときが来たか。
なぜだろう。
これから死ぬというのに気分がいい。
いつの間にか口角が上がっている。
うつむいたまま死を受け入れるように目をつぶる。
ピィーッ
甲高い音が頭の中に響いた。
どこか懐かしいこの音は…。
力を振り絞り頭をあげる。
俺の顔を見た死神はしゃがみこんで俺の目線に合わせると、マスクとフードをとった。
白くて長い髪、首から下げた見覚えのある古ぼけた笛、背丈も顔立ちも変わっているが俺にはわかる。
「カルミア……生きてたのか…」
俺の声を聴いてカルミアは一瞬微笑んだが、すぐに暗い顔をした。
「どうした、そんな顔して。せっかく再会したんだからもう少し喜んでくれよ」
少しはにかんで見せてもカルミアの表情は変わらなかった。
カルミアの手に強く握りしめられた拳銃がこれから起こる悲劇を物語っていたからだ。
「そうだよな。お前はお前の仕事があるもんな。時間がないだろ。名残惜しいがとっととやってくれ」
タバコをくわえ、最期の一本を吸う。
カルミアの顔は強張り、手が震えている。
知り合いを殺すことがどれだけ苦しいか、本人にしかわからない。
悩んだ末、カルミアは銃をしまおうとした。
その手を俺が掴む。
「覚えているか?昔好きだったヒーロー。俺はあのヒーローみたいになりたくて軍に入ったが今じゃこのザマだ。むしろお前らの組織のほうがこの国のヒーローになれる。だから、代わりにこの国を救ってくれないか」
カルミアは首を横に振る。
かたくなに銃を俺に向けようとしない。
「俺はもうこの先生きていくのが難しくなるだろう。どうせ死ぬなら、信頼できるやつに命を預けたい。怖いなら、俺が一緒に引き金を引いてやる」
カルミアの銃を持った手を頭へと向けさせる。
カルミアの目から涙がこぼれる。
「じゃあ、あとはまかせたぞ。お前が俺の、この国のヒーローになってくれ」
最後にカルミアに向かって笑って見せると、俺は引き金を引いた。
銃声と赤黒い血しぶきが戦場に広がった。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
つたないところもあったと思いますが、楽しんでいただけましたか?
僕にとって読まれること自体が珍しいことなので、この作品を見つけて、読んでくれただけでとてもうれしいです!
ゆっくりですけどほかの作品も投稿しているのでそちらもよろしくお願いします!
改めて、読んでくれてありがとうございました!