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第1話 跡地



今日もまた町が消えた。




戦争はもう二十年以上続き、衰えることを知らない。


『一緒に国を守るヒーローになってみないか?』


まだ知識の浅かった幼い子供にとって、憧れるものになれるというのはこの上ない喜びと希望だった。


金のなかったうちの家族もほかの職より高い給料がもらえるということですんなり許してくれた。


人手が足りずに子どもまで軍として使おうとしている国の考えも知らず。


軍に入ったのも束の間、養成施設で厳しい訓練と無情で命を奪えるようにするための冷酷な教育を受けさせられた。


その教育の厳しさのあまり逃げ出そうとしたやつも出てきたが、すぐに見つかり罰という名の人体実験を行っていた。


もちろん子供がそんなものに耐えられるはずもなく、みんなそのまま姿を消した。


だから一緒に入ってきたバカな子供たちはみんな生きる希望などとっくに失っていて、残忍な大人の操り人形として生きるしかなかった。


軍に拾われて十五年が経ち、気が付けば人間として大切なものをなくしてしまっているような気がするが、もはやそれすら考えないようになった。


出動命令が出れば物を壊し、人をあの世へ導く。


もはや国に操られているロボットと変わらない。


国を守るという建前のためとはいえ、いまだになぜここまでしなければいけないのかわからない。


『涙は弾丸だ』


泣いている奴に同情し見逃すと、いつか撃ち殺しに来る。


だからたとえ戦う意思がないやつでも殺せと、そう教わった。


俺は今まで何人もの人を撃ってきた。今更ためらいも抵抗もない。


ただ、やらなきゃやられる。


この世界で生き延びるために、生き残りがいたら誰だろうと容赦なく殺す。


それが俺の仕事だ。




今日も跡形もなくなった街を歩く。


ちらほらと降ってくる雪と一緒に灰が冷たい風にあおられて舞っている。


火薬の匂いといろんなものが焼け焦げた匂いをタバコでごまかす。


数分前まで人でにぎわっていたとは思えないほど静かだ。


この街には何の思い入れもないはずが、高く積みあがった瓦礫と開けた空が一抹の寂しさを感じさせる。


辺りを見回しては転がっている死体を足で小突いて生きているのかを確認していく。


「うぅ…た……すけ…」


這いつくばりながら俺の足を掴んできた。


それを振り払い銃口を頭に当て、間髪入れずに引き金を引く。


この作業を続けながら歩いていく。


離れたところでも静寂に刺激を与えるように銃声が一つ、また一つと響いている。


どこかで俺みたいに作業している人がいるみたいだ


しばらく歩くと中央に噴水がある大きめの広場に出た。


そこにはかなりの量の人が散らばっていた。


ここが戦いの中心だったのだろう。


身体の損傷具合から、もう助かっているやつなんかいないことが見て取れる。


戦場のむごさを実感しつつ辺りを見渡す。



見つけてしまった。



生き残りだ。


壊れた塀にもたれかかり、膝を抱えてうずくまる少女。


タバコの煙を肺いっぱいに入れる。


近づくと少女もこちらに気が付いた。


体中傷だらけで血が流れた後もあるが、運よく生き残ったらしい。


だが、その運もここで終わりだ。


銃をゆっくりと構え、頭に照準を合わせる。



少女は笑っていた。



いつもなら恐怖で泣き叫ぶか命乞いをするか、はたまた死を受け入れ祈りをささげるかだったが、なぜか笑っていた。


可憐な花のように美しかった。


鼓動が速くなる。


今までに感じたことのない感覚。


指が震える。


この花を俺の銃で散らさなければならない。


そんな邪念が頭を支配する。


冷や汗を垂らす俺を見て、少女は銃口を掴み、自ら額にもっていった。


自分の運命を理解しているようだ。


だがそれでも撃つことはできなかった。


今まで何人もやってきたのに。


撃つのをためらっていると、力尽きたのか銃から手が離れ、ぱたりと落ちた。


たった数十秒の出来事だが、整理ができずにただ少女を見つめていた。


そして気づけば俺は花束を持つように少女を抱え、歩いていた。


なぜこうしているのか分からない。


ただ、こうしていると謎の安心感があった。


日も暮れ始め、引き上げるのにはいい時間になった。


少女を車に乗せ、本部に任務完了の報告を入れると、家に向かって走り出した。

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