第1話 物語の始まり@異世界
目を覚ましたら、異世界だった。
全く信じられないようなことだが、真実だった。近所のお寺に流れ星を見に行くつもりが、色々あって、気を失った。そして、気づいたら知らない場所の知らないテントで寝ていたという訳だ。
ゆっくりと起き上がり、大きな伸びをしてからテントを開く。
「海斗、起きた?」
透き通るような美しい声が耳に溶け込む。遅れて、声の主を目がとらえる。小柄な少女だった。清流を思わせる、薄い水色の髪にはナチュラルウェーブがかかっていた。
その、美しさに一瞬見惚れてしまう。
「朝食できたよー」
彼女がこちらを向いて微笑む。
どういうわけか心が今にも飛び出しそうな心地がする。
緊張と気まずさで、一度喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「固まっちゃって、どうしたの?」
彼女の困惑した様子を見て、一度飲み込んだその言葉を、言わなくてはならないと決意する。
「あなたは、誰ですか?」
「——」
彼女はあまりの驚きに絶句しているようだった。
「どうして、僕のことを知っているんですか?」
「本当に・・・」
彼女がなんとか言葉を絞り出す。
「本当に、私が誰か分からないの?」
僕は黙って頷く。
両者の間にしばしの沈黙が訪れる。
彼女は僕のことを知っている。一方で、僕は彼女のことを何一つ知らない。ここから、考えられることは1つだ。
「多分ですけど、僕が記憶をどこかに落としてきちゃったみたいです。」
記憶喪失。どうやら、異世界に来てからの記憶を失ってしまったらしい。
「心配かけてすみません。どうせすぐに記憶くらい戻りますよ。」
暗い顔をして俯く彼女を少しでも元気づけようとする。
「よければ色々一から教えてください。あなたの名前と——それから、どういう関係性だったのかを。」
「——私の名前は千染楓。あなたとの関係性は・・・」
少し考えるような仕草を見せる。
「ただの旅の仲間よ。」
そう、きっぱりと言い切った。
***
川越海斗の異世界の物語が始まる。