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氷鬼 真相 part1

 その後のゲーム展開は、目の見えない鬼からただ逃げるだけというとても簡単なものだった。しかしこれも全てコウのおかげではあった。


「そこまで!これにてデスゲーム『氷鬼』終了となります。生き残った方は屋敷の入口まで戻ってきてください。」


 ゲーム会場である屋敷にリリスの声が響く。それを聞いたプレイヤーたちは涙を流しながら喜び、そして称え合いながら入口へ向かって行った。

 コウが残りの鬼を全て無力化してからは当然犠牲者が出ることなくゲームは終了した。

 アリスは他のプレイヤーとは違い1人暗い表情をしていた。


「おいアリス、何をぼーっとしてるんだ、さっさと行くぞ。」


  そこには、初めて出会った好青年のコウはいなかった。悪魔のような笑顔の中にあるこの世の全てを見通していそうな鋭い目つき。


「あ、ああ。」


 そんなコウにアリスは恐怖しながらもついて行く。


 屋敷の入口につき、開いていた扉から外に出た。

 そこにはすでにほかのプレイヤーが待機していた。はじめは百人いたプレイヤーもいまでは大分数を減らしている。


(そうだよな。ゲーム途中でもたくさん凍え死んでいるやつらを見かけた。無理もない。)


 アリスたちのあとのにも数人のプレイヤーが屋敷から帰ってきた。

 生き残っているプレイヤー全員が返ってきたようで、リリスは話を始めた。


「お疲れ様でした!お~思ったより生き残りましたね。途中なぜか鬼の様子がおかしくなりましたからね、それが原因でしょうか~?」


 というリリスの言葉にプレイヤーたちも反応する。


「確かにそうだった。途中から鬼がずっと目をこすりながら暴れてるだけで俺達を襲ってこなくなったんだよな。」


「そうそう。俺も鬼と出くわした時は死ぬかと思ったが、俺のことが全く見えていないみたいだったよ。」


 ざわざわしだしたプレイヤーたちをリリスは人差し指を唇にあてて「しー」とやって収める。プレイヤーたちは最初に怒られたトラウマがあるからすぐに黙った。


「それではゲーム結果の発表です。生き残ったのは全部で59人です。41人は残念ながら死にました。まあ覚悟の上で参加してると思うので仕方ないですね。生き残った皆さんには賞金の十万フロムが与えられます。これにて解散!」


 リリスは話を終え「パンッ!」と手を叩くと右手についていたグローブが消えていった。


「41人も死んだのか…」


 リリスの言葉に肩を落とすアリスだったが、他のプレイヤーたちはそんなことどうでもいいという様子で盛り上がる。


「よし。これでしばらくは生きていける。」


「これをギャンブルで増やすんだ。」


(そうだ、こいつらは貧民だ。私みたいに大きな目的があってデスゲームをしているわけじゃない。こいつらにとってデスゲームはちょっと危険な仕事にすぎないんだ。)


 プレイヤー兼貧民たちは各々の帰路についていった。

 その中にコウも混じっていることに気づいた。アリスは慌てて追いかける。


「コウ、ちょっと待て。」


 コウに追いついたアリスはコウが着ている黒いコートを引っ張り制止させる。


「なんのようだ?」


「お前には聞きたいことがたくさんある。」


「仕方ない。耳を貸してやるか?」


 そう言ってコウはアリスの方に身体を向ける。


「まずお前が転生者というのは本当か?」


「ああ本当だ。そんな嘘をつくメリットはないだろ?だって転生者はデスゲームでは色んな奴に狙われるからな。」


「確かにそうだな…じゃあ次の質問だ。お前は『氷鬼』どう攻略したんだ?」


「どう攻略?それは説明した通りメチレンブルーを作ってだな…」


 適当に話し、ごまかそうとするコウを遮り、アリスはまた問う。


「もうその話は嘘であることはわかってる。鬼には人類の作ったものは効かないんだ。つまりそのメチレンブルーとかいうのも効かないはずなんだよ!」


「おー、そこまで気づいていたのか。なのにまだ答えが見えてこないか?よく思い出せ。お前だけは見ていたはずだ。俺のことを。」


「は?何を言ってる…」


 そう言いながらも、ゲームが始まってからのコウのことを思い出してみるアリス。しかしアリスは頭が悪く記憶力も悪い。そう簡単に思い出せるわけもなかった。


「全然わからん…」


「お前は馬鹿なのか?あからさまにおかしいことがあっただろ。」


(おかしいこと…?)


 じっくりと考えているアリスにコウが近づいてくる。アリスは特に何も警戒せずにいた。するとその時、コウが突然右手でアリスの左胸を触った。


「きゃっ!」


 驚いたアリスは甲高い悲鳴のようなものを上げ、後ろに飛んで逃げる。


「お、おいお前!女の胸をいきなり触るとは一体どういうつもりだ。」


 コウは何も言わずニヤニヤしているだけだった。


「貴様ああ!」


 だがその時突然思い出す。


(そういえばこの男、ゲーム中一度も他のプレイヤーを解凍させていないよな。どうして?)


 それは右手で触るというコウの行動から思い出されたものだった。


(あれ?っていうか途中からコウの右手のグローブの青い石三つとも光ってなかったような。)


「おいお前。ゲームの途中から青い石三つとも光ってなかったよな。誰にも使っていないはずなのになぜだ?」


「気づいたか。それで結論は出たか?」


「い、いや、そこまでは。というかもう私には何も思いつかない。」


 人生初のデスゲーム、死にそうになりながらギリギリ生き残っただけのアリスの頭はパンクしていた。


「そうか。じゃあ正解発表といこうか。鬼を無力化した青い液体の正体、それは凍った人間を解凍するときに使うあの青い石なんだよ。」


「は?は?」


 コウの思いもよらない発言にアリスにパンクしていた頭がさらにパンクした。


「お前見てなかったのか?誰かを解凍するときの石の動向を。青い石がついたグローブで凍った人間に触れると青い石の光が抜けて黒になるだろ。あの時の光の消え方、まるで液体が減っていくみたいだったじゃねーか。つまりあの石は黒い石の中に青い液体が入っていたんだよ。」


「そう…だったのか?」


「ああそうだ。俺がそれに気づいたのはリリスが見本であのグローブを使った時だ。その時に俺はこれがどうにかゲームクリアに役立たないかと考えた。」


 アリスはここで思い出す。


(そういえばあの時、コウは何かブツブツ言っていた。まさかあの時から…)


「そしてそれを実行に移したのは薬品が大量に置いてある部屋に行った時だ。あの時俺は青い液体を取り出したかったがお前に見られたくなかった、だからお前に部屋の見張りをやらせたんだよ。」


 全てがつながっていく。


「あの部屋にあった刃物で石をつついてみたら簡単に割れたよ。そして案の定石から出てきたのは青い液体だ。俺はそれを試験管に入れたという訳さ。あ、ちなみに俺がメチレンブルーって言ってたあの液体、メチレンブルーなんかじゃなくて適当に作ったただの青い液体だ。お前を説得させるには具体的な薬品名言っとけばいいかなって思って。だから俺が昔薬学やってたってのも嘘ね。」


 コウが話している内容に圧倒されて言葉が出ないアリス。ただぼーっと話を聞くしかできなかった。


「鬼が三体、液体が丁度三つあったからこの作戦はうまくいったよ。」


 いたずらが成功したときの子供のような笑顔で話すコウ。ここまでだまっていたアリスはついに口を開く。


「いやおかしいだろ。液体が取り出せたとしてもそれが鬼に効かない可能性だって十分にあり得ただろ。こんな計画無茶苦茶だろ!」


 アリスは大声でそして早口で思ったことを口にする。そんなアリスを鼻で笑いながら。


「もちろん俺もそれは考えたさ。でも成功する可能性の方が高いと思った。」


「なんで!」


「青い液体は鬼が作り出した氷に効く。つまりそれって鬼自体にも効くんじゃないか?と思ったわけだ。それに人類が作った物では一切傷がつかないとリリスは言っていたが、それって裏を返せば、少なくとも人類が作った物でないあの青い液体なら効くと思った。」


「はあ?そんな理由?それだってまだ確証がないじゃないか?」


 激しく詰め寄るアリス。


「確かに確証はなかったよ。だから試すことにした、実験体を使ってね。」


「実験体って…」


 ここにきてアリスはようやく気付く。


「そ、そんなまさか…コウ、お前やりやがったな…」


「はは、気づいたかモルモット。俺は三つある鬼に効くかもしれない液体の内一つとただの青い水二つをお前に授けた。その理由はお前に試してもらう為だ。石から取り出した液体が鬼に効くのかを。その結果石から取り出した青い液体は鬼に効くことがわかった。」


 アリスは膝から崩れ落ちる。そんなアリスを見て笑いながらコウは言う。


「このゲーム、最初から最後まで俺の手のひらの上だったんだよ。」

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