愚者
アークライト家というエリート家系があった。それはその世界のあらゆる分野で成功を収めていた。政治、学問、技術開発、そしてデスゲーム。
そんなエリート家系に1人、落ちこぼれと呼ばれる女がいた。引き締まった身体で艶やかなブロンドヘア、整った顔立ちに赤い瞳。名はアリス。
彼女は政治、社会学はおろか、単純な計算すら時間をかけないと解くことが出来ないほど頭が悪かった。そのためアリスは、優秀な親、兄弟姉妹だけではなく使用人すらからもさげすまれていた。
「お前はなんて馬鹿なんだ。」
「アークライト家の恥さらし。」
「なんて可哀そうな子。」
普通の人間であれば心が折れてもおかしくなかった。が、アリスは強かった。誰になにを言われようとも自分を卑下することなく自信にありふれていた。それには理由があった。アリスは身体能力が非常に優れていた。その辺の体力筋力自慢の男には喧嘩で負けたことがなく、アリスの身体能力は常識を超越していた。
だがそれすらもアークライト家の中でもよく思われていなかった。なぜならアークライト家は「知のアークライト」と呼ばれるほど頭脳に特化した家系だったのだ。つまりそれとは真逆にいるアリスは目障りでしかなかった。
戦争のない今、身体能力が高いというのは別に重要ではなかった。
そんなある日その日が訪れる。
「アリス、お前にはアークライト家を出てもらう。」
アークライト家の当主、つまりアリスの父の言葉にアリスは呆然とした。
「そ、そんな、なんでですかお父様。」
「やはりお前の頭脳ではわからんか。理由はお前がアークライト家に何も貢献していないからだ。逆に今まで追放しないでいたことに感謝してほしいくらいだよ。」
アリスの父は自慢の口ひげを手で伸ばしながらそう言う。
その言葉にアリスは涙ながらに懇願する。
「お願いします。お許しくださいお父様。私にもチャンスを…」
アリスの言葉を遮って父親。
「チャンスは散々あっただろ!お前はそれを活かせなかったそれだけだ。」
絶望して膝から崩れ落ちるアリス。
(一体私はどうやって生きていけばいいのだろう。貧民のようにデスゲームでその日暮らしをするしか…)
その時アリスは閃いた。
「お父様一つ提案がございます。」
「なんだ今更。」
父親は険しい顔で聞き返す。
「デスゲームです。情報によればもうすぐこの世界に7人の転生者が来るそうですね。そして転生者をデスゲームで殺せたらその者の願いがなんでも一つ叶う。」
「ああそうだ。それがなんだ。」
「私が転生者を殺して願いをアークライト家の為に使います。アークライト家の役に立つと誓います。」
アリスは素晴らしい提案をした、と自分で自分をほめていた。しかしそれを鼻で笑う父親。
「なんだそんなことか。それなら間に合っている。お前より何百倍も優秀な兄弟姉妹たちが取り掛かる予定だ。お前の出る幕はない。」
「そんな…」
「それに、お前みたいな低能がデスゲームで生き残れるわけがないだろ。命の無駄だ。」
(確かにその通りかもしれない。だがまだ反論の余地はある。)
「お父様はデスゲーム難易度というものをご存じでしょうか。」
この言葉に父親の眉間がピクリと動く。
「バカにしておるのか。知っているに決まっとるだろ。」
「失礼しました。ご存じの通りデスゲーム難易度には三つの項目が存在します。それぞれの難易度一つ一つに難易度0から5までが存在します。一つ目の項目、<知>。
この難易度が5に近ければちかいほど、ゲームクリアに頭脳や知略が必要になっていきます。お父様はこれらのゲームを兄上たちにやらせようとしていますね。」
「そうだ。」
「デスゲーム難易度の項目は残り二つあります。<運>と<技>です。<運>は文字通りゲームクリアに運や直感が必要になってくるものです。そして<技>、これはゲームクリアに身体能力、運動能力が必要な項目です。」
ここまで聞いた父親が口を挟む。
「つまりお前は<技>のゲームばかり参戦し、それで転生者を殺す、ということをしようとしているのだな。」
「その通りです。これなら馬鹿な私にも可能性はあります。私には並外れた身体能力がありますから。」
重い沈黙が流れる。アリスはこの提案が飲まれなければアークライト家を追放され、途方に暮れてしまう。
アリスの頬に冷や汗が伝う。
沈黙を破り、父親が口を開く。
「一か月だ。一か月以内に転生者を殺せ。達成できたらアークライト家の一員として認めてやる。」
(やったーー!)
「ありがとうございますお父様!」
「ただし!一か月以内に達成できなかったらお前を追放し、アークライトと名乗ることも禁ずる。」
その言葉はずっしりとアリスの心にのしかかる。
「はい。必ずやアークライト家の為に転生者を殺して見せます。」
父親は部屋から出て行った。
「はあ~~~~~~~~~~~~~~~~」
アリスは思いっきり息を吐きだした。それは今まで重い空気いたためうまく呼吸ができていなかったからである。
「とりあえず一か月の猶予ができた。これからどうしようか。」
馬鹿でかい部屋で1人、アリスは考える。
「いや、考えてる暇なんてない。私には時間がないんだ。今すぐデスゲームに参戦しないと。」
アリスは近くで開催されている<技>の難易度が高く、他の項目が低いゲームを探すことから始めた。
そして街に出て一日と三時間、ついに見つけた。
難易度
<知>・・・2
<技>・・・5
<運>・・・2
参加人数100人
「これだ!」
場所は郊外のかなり大きな屋敷。大きいとは言ってもアークライト家と比べたら小さなものだが。
屋敷の前には大勢の人間が集まっていた。誰もがみすぼらしい恰好をした者たち。 つまりゲーム参加しようとしている貧民たちであった。
(これがデスゲームでその日暮らしをしている貧民たちか。今までは他人事だったから何も考えていなかったが、私もこうなりかねない。)
アリスは力強く拳を握る。
人込みの中を歩いて行くと周りの人間たちがざわざわし始めた。
「あれってアークライト家の落ちこぼれ、アリスじゃねーの?」
「まさかそんなわけ…ってマジじゃん。」
「もしかして追放されたんじゃね?」
貧民たちはアリスの話題で盛り上がっていた。
(好きに言えばいいさ。身体を使う分野において私は誰にも負けない。)
孤立しているアリスに1人の男が話しかけてきた。
真っ黒なコートを着ている、ぼさぼさの黒髪の男。
「アークライト家のお嬢様なんですね。もしよかったら協力しませんか。」
(なんだこの胡散臭い男。)
「そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。俺の名前はコウ・ノクス・レイヴン。よろしくお願いします。」
コウと名乗る男が手をさし伸ばしてきた。
「信頼できない男と協力はしない。だがお互い利用し合う関係ならいいだろう。」
とアリスはコウに圧をかける。
それに対しコウは笑顔で。
「構いませんよ。」
「いいだろう。」
アリスはさし伸ばしてきたコウの手に自分の手を重ね、握手をした。
その瞬間。
「お待たせいたしました、死に飢えたデスゲームプレイヤーの皆さん。」
頭上から羽をパタパタと羽ばたかせて飛んでいる女、ゲーム進行役の天使だ。
この世界では女神の使いである天使がその役割を担っている。
「今回進行を務めさせていただきます、天使のリリスです。どうぞよろしく!」
赤髪の天使リリスは元気いっぱいというようなタイプの天使だった。
「<技>が5のこのゲームを選んだということは皆さん運動神経に自信があるということですね。それは素晴らしいです。」
満面の笑顔とは対照的に参加者の顔は強張っていた。無理もない、これから死ぬかもしれないというときに笑っている方がおかしいのだから。
アリスはふと横にいたコウに目をやる。コウの表情を見たアリスは自分の目を疑った。コウはリリス同様満面の笑みをしていたのだ。
(気持ち悪い男だ。)
「それではこれから皆さんにやっていただくゲームを発表しちゃいま~す。ゲームの名は…『氷鬼』です!」
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