異世界へ
「う……ここはどこだ…」
四宮は目を覚まし、うめきを上げながら身体を起こす。
「眩しいな。」
目の前に広がっている景色に四宮は驚嘆する。
そこには広大な空が広がっていた。だが普通の空ではない。なんとその空は虹色だったのだ。青い空に虹がかかっているのではなく、文字通り空が虹色なのだ。
「ようやく目を覚ましたか。」
どこか聞き覚えのある女の声。
声のする方へ顔をやると、そこには1人の女が玉座のようなものに座っていた。そして女の見た目を見た四宮はこの女が普通ではないことを一瞬にして感じ取る。
なぜなら女は真っピンクの髪色、この世のもととは思えないほど美しい顔立ち、メリハリのある一流モデルのような身体、そしてなにより、どこかの民族衣装かのようなほとんど裸の状態だったからである。
「初めましてコウくん、私は女神アンジェラ。」
聞き覚えのある声、それはさっきまで四宮が脳内で会話していた女神の声だからであった。
「あんたが女神様か。随分と派手な格好だな。」
「これが私の正装だよ。」
「俺の世界でもそれが正装だったらいいんだけどな。やはり俺がいた世界は退屈だ。」
「私もその意見には賛成だ。」
ここで四宮に一つの疑問が生じた。
「そういえば俺ってさっき死んだよな。まだ転生してないみたいだし。ここは一体何なんだ。」
「ここは言ってしまえば、この世とあの世の間の世界といったところだ。そして今からコウくんには転生して異世界に行ってもらう。だがその前に色々説明しておかないいけないことがある。」
「そりゃそうだよな。だって俺死ぬとき特に何も説明されてなかったもんな。」
「そうなのだ。まだ死んでないものに別の世界の諸情報は話してはいけないというルールだったのでな。」
普通の人間であればなんの説明もなしにとりあえず異世界に行けるから死んでくれないかと言われても躊躇するはずだが、四宮はそれらを一切見せず毒ガスレバーを引いた。アンジェラはその行動に少し引いていたが、今はその態度が察されないように毅然とした態度で対応していた。
四宮はあくびをしながらその話を聞いていた。そして眠そうに目をこすりながら。
「そうか。それじゃあ説明を始めてくれ。」
アンジェラは四宮の態度に苛立ちを覚えたが、それを押さえて話を始めた。
「回りくどい言い方も嫌いそうだし、結論から先に言うわ。」
「そっちの方がありがたい。」
「お前は異世界のデスゲームでとにかく勝てばいい。」
アンジェラの言葉を聞いた四宮の口角が上がる。
「それは俺の得意分野だ。」
「そう、ただお前は勝ち続ければいいの。」
「そんなことか。」とつぶやく四宮に、アンジェラが自らの顔の前で人差し指と人差し指でバツ印を作りながら。
「ただしそれだけではダメ。ゲームに勝ち続ける上でさらにやらなければいけないことがある。」
「やらなければいけないこと?それはなんだ?」
「他の転生者を殺すこと。」
アンジェラがその言葉を発する時、空気が少し重くなるのを感じた。
顎に手を当てながら四宮。
「なるほど。俺以外にもそっちの世界には転生者がいるってことね。」
「その通りだ。詳しい説明は今からする。」
「はいよ。」
「女神は私の他にもたくさんいるが、今回は私を含め7人の女神が選ばれた。女神は自分の世界を一つ持って良いとされている。だがその世界は誰かからもらったのを自動的に自分の物にできるといった簡単なものではない。」
相変わらずあくびをしながら聞いている四宮。
アンジェラは気にすることなく話を続ける。
「世界を手にできるのは勝負に勝った女神だけ。そしてその世界を賭けた勝負をさっき言った7人の女神で行っている。重要な勝負内容についてだが、これがお前たち異世界人に関係してくる。女神は1人につき1人異世界人を選び、こっちの世界に連れてくる。そして連れてきた異世界人同士をデスゲームで殺し合わせる。」
「あーなんとなくわかってきた。つまり俺はあんたの駒ってことね。」
「言い方によってはそうだな。それぞれが厳選した異世界人を使ってデスゲームで殺し合わせ、最後に生き残った異世界人を選んだ女神がその世界を手にするというわけだ。」
女神は駒として異世界人を利用している。このことを知った四宮は怒るだろうとアンジェラは思っていた。しかし四宮から出てきた言葉は予想外のものだった。
「おもしろい。つまりそれって俺みたいなやつが他に6人いるってことだろ?」
「え?…ああそうだ。」
予想外の返答にアンジェラは動揺を見せた。だが…
(こういうタイプの方がありがたい。)
「それで他の転生者とやるゲームの内容は?」
「それについても今から説明する。実は今からお前が行く世界ではデスゲームが一般化されている。それこそお前が少し前にいたあの世界同様貧民がやっているような状況だ。そしてお前は転生してから各地で開催されているデスゲームに参加してもらう。参加するゲームは別に何でもいい。」
「ほう。」
「一つのゲームで勝てば多額の賞金が出る。生活費はそれでどうにかしろ。転生者との勝負だが…これは正直に言うと、どこにいるかわからない、だ。」
思わぬ返答に四宮は意図せず「は?」と言ってしまった。
「これは他の転生者との勝負の場を私たちが提供するわけではないということだ。つまり参加したゲームにたまたま転生者がいたら全力で殺しに行けということだ。」
「え、じゃあ転生者を見つけることから始めるってことか?」
「それも一つの手だがそれよりも簡単な方法がある。それはゲームに勝ちまくって自分の名を世間に広めるというものだ。お前にとってはこっちの方が向いているんじゃないか?」
「まあそうなんだけどね…」
四宮のその言い方は何か不満があるような言い方だった。
「何だ?それではダメなのか?」
「ゲーム会場にいる他のプレイヤーはほとんどが貧民ばっかりなんだろ?そういうやつは向上心や野心がない。今日の飯のことしか考えていない。最悪死んでもいいと考えているやつだっている。そんなやつらと戦っても何も面白くない。それじゃあ全く刺激が足りない。」
アンジェラは「あーそんなこと。」と言って笑った。
「それなら安心してほしい。実は7人の転生者が現れるというのは現地の人間には知らせてあるんだ。その上お前たち転生者には懸賞金がかけられている。いや金ではないから懸賞金とは違うか…」
「じゃあ何がかけられているんだ?」
アンジェラはにやっと笑い四宮の目を力強く見つめながら。
「願い…だ。」
「願い?」
「そう、転生者ではないものが転生者をデスゲームによって殺せたらどんな願いでも一つだけ叶えるというものだ。これがあることによって世界のあらゆる分野の天才たちがデスゲームに参加する。お前は退屈なゲームから解放されるわかだ。」
四宮の曇っていた目に再び光が灯る。
「それはいいな。」
(やる気を出してくれてよかった。私の運命はお前にかかっているのだからな。)
四宮が人差し指を立てながら。
「一つ疑問なことがある。」
「何だ、言ってみろ。」
「他の転生者との勝負は全てデスゲームによって決まるみたいだが、もし不慮の事故や事件に巻き込まれて死亡した場合はどうなる。それで死亡した転生者を選んだ女神は不憫じゃないか?」
「あー言い忘れていたな。実は転生者はデスゲームのルール以外で死ぬことはないんだ。つまり高い所から落下しようがいきなり他人に殴られようが無傷なんだよ。」
これは四宮にとっても予想外だったようで思わず「マジか。」と声を漏らした。
「これで言わなくちゃいけない説明は全部出来たはずだ。ゲームについての諸々は行ってみればわかるだろう。お前の異世界での名前はコウ・ノクス・レイヴンだ。中々かっこいいだろ。それじゃあいってらっしゃい。」
アンジェラは今までで一番の笑顔でそう言った。そしてその言葉と同時に今まで四宮…ではなく、コウ・ノクス・レイヴンが立っていた場所に穴が開き、コウはそのまま落下していった。
コウは落下しながら上空を見上げるとアンジェラが穴の外から顔をのぞかせて何かを叫んでいた。
「言い忘れてることあった~!相当重要なことがない限り私たちもう会うことも会話することもないからね~!」
コウはそれを鼻で笑うだけだった。そして。
「ゲームを楽しもうじゃねえか。」
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