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命賭けポーカー 勘違い

 セレシアが配った5枚のカードを確認するアリス。


(くそ、ワンペアもない。外れじゃないか。)


 他のプレイヤーもカードの確認をしている。アリスはそれを見逃さない。表情からでも強い手が来たのかそうでないかくらいは読めるようにならなければいけない。

 しかし。


(相変わらず何を考えているのかが全くわからない。)


 天才ギャンブラーのレオ、一切表情が変わることがないシキ。そして全く底が見えることがないコウ。アリスごときにわかるはずがなかった。


 最初のベットタイムではシキからだ。

 自分の番からスタートになったシキはなぜかレオの方に顔を向ける。そしてレオはシキに向かって。


「まあ最初だし10枚でいいんじゃない?」


 その言葉を聞いたシキ。


「ベット、10枚。」


 自分の意思はなく、勝負の命運も、自分の命さえレオに任せている従順な奴隷。


(この女自分の意思がないのか?こんだけの美貌があってなんでそれをうまく使いこなせないかね。トロいだけじゃなく容量も悪いんだな。)


 戦いの場でなければアリスはこの考えを直接シキに伝えていただろう。しかしこの場でそれをするのがどれだけ無駄なことかというのはアリスもわかっていた。


 その後、他のプレイヤーも10枚ベットし、そのまま勝負は進んだ。


「それでは次にカードチェンジです。まずはシキから。」


 セレシアにそう言われたシキは自らのカードをすぐにレオに見せた。


「う~ん。僕が持ってるカードと見比べると、そうだな~。じゃあこれとこのカードを交換しよう。」


 レオに言われるがままシキは2枚のカードを交換した。交換されたカードをレオは見る。


「いいカード引いたねシキさん。」


 レオは満面の笑みを見せた。


(このイカサマ野郎。)


 とアリスは思った。しかし。


(馬鹿だったなレオ。私にイカサマが認められる種明かしをするなんて。)


 次にコウのカードチェンジ。


「3枚交換だ。」


 交換されたカードをみて少し微笑むコウ。


 その後、アリス5枚交換。レオ3枚交換。


「では勝負の時間です。まずはシキからベットするチップの数を決めてください。」


 妖艶な声をしたセレシアがシキにそう促す。

 シキは相変わらず、レオにカードを見せる。そして。


「じゃあシキさんのこのカードと僕のこのカードを交換しよう。これで僕の手は強くなった。最初のベットだけど、50枚とかでいいかな。」


 シキは返事をすることも頷くこともせず。


「ベット、50枚。」


(50枚か。さっきとは違って賭けやすい額だ。しかしそれはコウや私を誘い出すための罠。もし50枚に乗ったら次のレオのターンで額を上げられる。そして最悪次のシキのターンでまた上げられる可能性もある。この勝負には乗らないのが定石。だがこっちにも考えはある。)


 アリスは自分の椅子を隣にいるコウに近づける。


「おいコウ。お前も気づいているんだろ。プレイヤーどうしのカード交換はレオとシキだけが認められているルールじゃない。私たちにも有効なルールだ。つまりあの2人、いや、レオに勝つには私たちもカード交換をしよう。お前の手札を見せてみろ。ちなみに私の手はこれだ。」


 そう言ってアリスはコウのカードをのぞき込んだ。

 とその時。


 ドンッ!


 コウはカードを綺麗に揃え、裏向きでテーブルに叩きつける。


「断る。」


「…え?」


 アリスは一瞬フリーズした。しかしすぐに正気を取り戻し。


「え?今断るって言った?」


「ああ。言った。」


「なんで?なんで断るわけ?これはタッグマッチだぞ。それに協力しないとレオには勝てない。1人でどうやって勝つつもりなんだ!」


 アリスは焦る気持ちが抑えられずに、強い口調で説得しようとした。しかしコウはそんなアリスとは対照的に冷静だった。そしてアリスの提案を受け入れるつもりもなさそうに黙った。


「おいなんか言えよ!どういうつもりなんだよ!」


 テーブルを叩き、ものすごい形相のアリスはコウに迫る。このままでルール違反の暴力をふるってしまいそうな勢いだ。

 その様子を見てレオは笑っていた。それに余計に腹が立ち。


「何笑ってるんだレオ!」


 と怒りの矛先はレオに向かった。

 しかしレオは手を叩き、笑いながら。


「いやー。やっぱり種明かしをして正解だった。こんなに面白いものが見れるなんて。はっはっは。」


「面白いものってお前がさっき言っていたことか。まさかそれがこのことだって?」


「そうだよ。」


「何言ってるんだ。それじゃあお前は私の提案をコウが断ると知っていたのか?」


 レオは笑いすぎたのか、目から零れ落ちる涙を指で拭き取って。


「別に知っていたわけじゃないけど、コウくんならそうするかなって。」


「なんで!なんでそうなる!だってこれはタッグマッチだぞ!断る理由がないだろ!」


 レオに向かってそう叫ぶアリス。するとアリスの隣にいるコウが口を開く。


「何か勘違いをしていないかアリス。」


「は?勘違いだと?一体私が何を勘違いしているっていうんだ。」


「はぁ…そんなことにも気づいていないか。」


 コウは心底馬鹿にしたような口調でそう言った。


「だから、私が何を勘違いしたのかを言えって言ってるんだよ!」


「じゃあ教えてやるよ。」


 コウはアリスに身体を向け、そして目を見て言う。


「これはタッグマッチじゃない。個人戦だ。」


「……は?」


 アリスは目を大きく見開き、口をあんぐりと開け、間抜けな表情を披露した。意識がどこか別の世界に飛んで行ってしまったかのような顔。

 

 その様子見て笑うレオ。そこでようやく現実戻ってきた。


「タッグマッチじゃない?個人戦?お前は何を言っているんだ。だってこれは最初から私とコウ。レオとシキのタッグマッチだっただろ。それに私はタッグマッチをすると、レオに提案をしたはずだ。なあそうだろレオ。」


 アリスはレオにそう問う。

 レオは笑い終えると真っ白の服の中から紙を取り出した。


「それは?」


「君からもらった手紙だよ。勝負の誘いのね。」


 それはアークライト家でアリスが書いたレオを勝負に誘うための手紙だった。


「なんでそれが出てくるんだ。」


 アリスには理解が出来ていなかった。しかしコウとレオに2人は理解できているようで。


「レオ。その手紙、この馬鹿な女のために読み上げてくれ。」


「了解。」


 そういうとレオは手紙を広げて。


「『転生者レオ・アリアドネ殿。私とデスゲームで勝負をしてほしい。私では面白い勝負を提供できないかもしれないが、一つ耳よりな情報がある。こちらには転生者のコウ・ノクス・レイヴンがいる。そちらももう一人連れてきていいので、4人で勝負をしようじゃないか。場所とゲームはそちらが決めて良い。』以上だ。」


 聞き終えたコウは笑っていた。


「おいおい。なんなんだよこの馬鹿丸出しな文章は。その辺のガキだってこれよりまともな文章書けるぞ。」


 手紙を馬鹿にされ、アリスは顔から火が出るくらい恥ずかしかった。しかし今はそれどころではなかったので、そこには触れずに。


「私の文章能力の話はどうだっていい。それよりもこれが一体なんだっていうんだ!」


「あ?まだ気づかないか?この手紙でお前一回もタッグマッチだとか2対2の勝負だとか言ってないじゃないか。」


 目から鱗だった。確かに言われてみればそんなこと一回も言っていない。


「…た、確かに。で、でもなんでお前がそれを知っているんだ。私はお前には一回もこの手紙を見せていないはずだ。」


「そうだ。俺は知らなかった。だからこのゲームのルールを聞くまではずっとタッグマッチをするものだと思っていた。しかし『命賭けポーカー』のルールを聞いてその考えが変わったよ。なぜならこのゲームのルールでイカサマが認められていなければどこにもタッグマッチの要素がないからな。」


「じゃあもしかしてお前が気づいたっていうこのゲームのルールの特大の穴ってこのことなのか…?」


 アリスは椅子から崩れ落ちそうになった。


「ああ…そんな…」


 そしてさらに追い打ちをかけるようにレオが言う。


「手紙にはタッグマッチとは書いてなかったけど何となくタッグマッチがしたいんだろうなとは察していたよ。だからこそ僕は相手が嫌がる選択をした。この世界にはタッグマッチのデスゲームなんていくらでもあるが僕はあえてそれを選ばず、あくまでも4人対戦のゲームを選んだってわけさ。しかも僕の相方は奴隷のシキさん。君たちはタッグを組めないけど僕たちはそれが出来る。最高の条件を提案してくれた手紙だった。」


 さすがは天才ギャンブラー抜かりがなかった。

 そしてここでようやくアリスは気づく。


(このゲームもしかして…私対コウ対レオ&シキという状況なのか?私は1人で2人の転生者を相手しなければならないのか?コウ1人にすら勝ったことないのにそれに加えてもう一人の転生者であるレオも相手しなければいけない…)


「いやだ...いやだ...いやだ...」


 気づいたその瞬間。アリスの目の前に広がる光景全てが「死」にしか見えなくなった。

 アリスはただ震えるだけだった。


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