2人の転生者
「そのレオってやつに勝てそうなの?」
「デスゲームで俺が負けることはない。だから俺は死なないだろうよ。だがルールによってはお前は死ぬかもしれないな。」
コウは冗談交じりに言う。アリスにとって恐れている所はそこだった。
(タッグマッチとはいえ、ゲームの勝利条件に2人ともの生存が条件に入っていなかった場合、私が生き残れない可能性だってある。)
不安そうな顔をしているアリスの心情を読み取ってか、コウは言う。
「まあでも安心しろ。やるからには完勝だ。お前が死ぬことはないさ、今回だけはな。」
その言葉からはいつものような強い圧を感じた。しかし今回は敵ではなく味方だ。その圧はとても頼もしく感じられた。
「…助かるよ。」
コウに礼を言うのも癪だったので、小さい声でアリスはそう言った。
車に乗ってから一時間程が経った頃、ついにカジノエリアに到着したようだった。
前回来た時よりかは、朝だということもあってか人は少なかったが、それでもデスゲームがたくさんある場所とは思えない程栄えていた。
「4人で出来るゲームをレオが見つけてくれたそうだ。そしてその場所っていうのが、確かこっちか…」
アリスは地図のようなものを見ながら、カジノエリアをずかずか進んで行く。道中では酔っぱらいたちに絡まれたり、精神をおかしくした者たちに絡まれたりもしたが、それらをかいくぐりながら進んだ。
人通りが少ない場所に出た所でアリスはコウに質問をした。
「レオってやつは転生前はどんなやつだったんだ。」
「どうしたいきなり?」
「対戦相手のことはなるべく知っておきたいと思ってな。知っておけば対策も出来るかもしれない。」
「へえー。」
今までは強い自信と多少の危機感だけでゲームに挑んでいたアリスが、対策までも考えるようになったことに少しは成長を感じられた。この「へえー。」は僅かな感心からでた言葉であった。
「俺も直接会ったことがあるわけじゃないから詳しくは知らんが、アメリカ1ギャンブルが強いらしい。それにこの世界に転生させられたということが強さの何よりの証拠だろう。」
「その情報は前聞いた。他にないのか、レオの情報は。」
「うーんそうだな…確かやつは強者にしか興味がないらしい。お前みたいな弱者を見下しているらしいよ。」
「なるほど。お兄様タイプか。」
(そういう人間の弱点と言えば、自信があるが故に多くのことを取りこぼす。恐らく私のことは眼中になく、最初からコウばかりを狙うだろう。そこに隙が生まれるはずだ。どんなゲームが行われるかは知らないが、仕掛けるとしたら一番最初だ。)
静かに考え込むアリスを見てコウも黙る。
2人は異なる思惑、そして同じ目的を抱いて会場に向かった。
「着いた。ここみたいだ。」
そこは豪華な建物だった。大きさはさほど大きくはないが、いかにもカジノといった、ギラギラとした建物。
すぐそばにはゲームの難易度が表示されていた。
難易度
<知>・・・4
<技>・・・1
<運>・・・3
参加人数4人
「確かこの建物の前で集合のはずだったんだが…」
とアリスは周りをきょろきょろと見渡す。すると。
「遅れてすまない。」
コウとアリス2人の背後から声が。2人は振り向いた。
「やあ、会えてうれしいよ。四宮コウくん。」
目の前には2人の男女が。男はしわ一つない上下真っ白なスーツを着こなし、堂々とした態度の男。髪も真っ白で、くるくるとした髪もぼさぼさという印象を与えず綺麗に整えられている。胡散臭い笑顔も美形な顔のおかげでよく似合っている。
「お前がレオか。髪の毛そんな色だったか?転生前は確か金髪だったよな。この世界に来てストレスでも溜まったか?」
「これはこの世界に転生してからの生まれつきだよ。そういう君こそ今着てるその黒いコート汚れてない?もしかしてお金がなくて良質なものが買えてない感じかな?」
コウとレオ、会って早々煽り合う2人の間には他者を飲み込んでしまいそうな独特の雰囲気が漂っていた。これが強者。そう思わせるものがこの2人にはあった。
「その女の子が今回僕に手紙をくれた子だね。」
コウと同じく全てを見透かしたような目で見られたアリスは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
(ビビっていちゃだめだ。ここからすでに勝負は始まっているんだ。)
「ええそうです。アリス・アークライトと申します。」
アリスは毅然とした態度でそう答えた。
「さすがはアークライト家のお嬢様。とてもお美しい。レオ・アリアドネです。」
というレオの社交辞令に。
「美しい?そうか?」
と言うコウ。
「あっそうだ。こちらも紹介しないとね。この女性は僕の奴隷、シキさんだ。」
レオが紹介したシキという女、女はレオとは対照的に真っ黒なドレスを着ている。腰まで伸ばした真っ黒な艶のある髪とよく合った格好だ。ドレスの胸元から見える大きなモノは全ての男たちの目をくぎ付けにしてしまいそうであった。
「あーそうだったな。この世界、文明が発展しているわりにはいまだに奴隷制度というものが存在してたんだった。」
コウは嘆くようにそう言った。そして続けて。
「でも奴隷にそんな高そうなドレス着せるなんてお前、もしかしてかなりヤバい性癖持ってるな?」
とコウはレオを睨む。レオは両手を横に振り、笑いながら「違う違う。」と言って説明を始めた。
「シキさんとはとあるゲームで一緒になったんだ。当然転生者である僕は無双したさ。それでほとんどのプレイヤーは死んだ。そんな中シキさんだけが生き残った。ゲームが終わったあと僕は普通に帰ろうとしたんだがシキさんがなぜか僕を引き留めてこう言ったんだ。『あなたの奴隷にしてください。』ってね。」
「その女が。」
コウはシキをじっと見つめる。シキはそれに反応することなくずっと一点だけを見つめている。
「もちろん僕は最初は断ったよ。僕に奴隷を所持するなんて下品な趣味はないからね。でもシキさんがしつこくてね、ずっと付きまとってくるんだよ。それで根負けした僕は仕方なくシキさんを奴隷にすることにした。もちろん彼女に酷い扱いをしたりなんかしてないよ。あくまでも家の手伝いをしてもらってるだけだ。手伝いさせるだけでも僕はあんまり気分は良くないけどね。」
「ふーん。」
「まあそんなことはどうでもいいさ。とにかく早くゲームを始めようじゃないか。」
レオはテンション高めにそう言う。よっぽどコウとの勝負を楽しみにしていたんだろう。
コウ、アリス、レオ、シキの4人はギラギラとした建物に入った。
「へえー、中は本物のカジノみたいな場所なんだね。転生前を思い出すよ。」
レオが言うように中はカジノのようだった。天井に張り付いたでかいシャンデリアのようなもの、目がチカチカしそうな模様のカーペット、そしてカジノテーブル。
中には1人の女がいた。
「レディースアンドジェントルマン!ようこそ命のチップを奪い合うデスギャンブルに!わたくし、今回ゲームの進行を務めさせていただきます、天使のセレシアといいます。」
ふっさふさの茶色の髪をなびかせた天使セレシアは一礼した。
アリスが今まで見た天使の中でも一番背が高く、そして一番アレが大きかった。
「それでは皆さんこのテーブルに集まっていただけますか。」
4人はセレシアがいたカジノテーブルの前に集まった。テーブルはカジノに置いてある楕円状のテーブル。
「ではお好きな席にお座りください。早いもの勝ちですよ。」
テーブルの前には4つの椅子が、椅子は楕円を囲むように4つ。どこに座るかによって勝負の運命が左右されるかもしれない。
まず最初に座ったのがレオだった。座った場所はテーブルの向かって一番右。
「シキさんはそこ座りなよ。」
レオに言われるがまま、シキはレオの隣、右から2番目の椅子に座った。
(まずい、敵チームに先に選ばれてしまった。せめてコウより先に座らないと。)
アリスは焦ってコウの顔を見る。しかしコウは笑いながら。
「先選んでいいよ。俺はどこだっていい。」
コウの余裕のある態度に腹が立ったがアリスは先に選んだ。選んだ場所は向かって一番左。レオが一番右を選んだので端になにかあるのかもと思いそこを選んだ。
コウは必然的に左から2番目の席に。
座った順番はこうだ。左から、アリス、コウ、シキ、レオ。
「皆さんお座りになられたようなので今回のゲーム、『命賭けポーカー』の説明に入らせていただきます。」
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