勝負前夜
「レオとの勝負を取り付けるなんて中々やるじゃないか。」
「まあな。」
アークライト家からコウの屋敷に走る車内で、ご機嫌な2人の会話が弾む。
「こっちの世界に来て一か月、ようやく転生者とのデスゲーム勝負できる。とても楽しみだ。」
コウにとってはこれ以上ない程喜ばしいことだった、アリスも転生者を殺せるかもしれないチャンスを手に入れることができたことに対しての喜びはあった。しかしそれはつまり自分も殺される可能性もあるということだった。
(レオ・アリアドネ、一体どんなやつなんだ。コウみたいに頭のおかしなやつだったら相手するのは厄介だ。)
転生者という未知の存在に若干の恐怖を覚えるアリス。
「ところでアリス、カイルと俺との三つ巴勝負を避けた理由はなんだ?」
「それはお前みたいな化け物デスゲーマープラスお兄様のような頭の切れる性格の悪い人間、この2人を同時に相手するのは無理だと思ったからだよ。」
「それもそうだな。じゃあレオとの勝負はどうなるんだ?俺の名前を使ってレオに勝負を挑んだってことは当然俺もゲームに参加する。そしてお前も明日中に転生者をデスゲームで殺さないといけないからゲームに参加する。となるとお前は俺とレオの転生者2人を相手しなきゃいけない状況なんじゃないか?これは俺とカイルを相手するより大変だと思うが。」
「さすがはコウ。気づくのが早い。」
そう言ったアリスはいつになく自信たっぷりの様子だった。
「そんなの対策してあるに決まっているだろ。今までの私だったらそれに気づかず詰んでいたかもしれないが、私は進化したんだよ。」
憎たらしいほどのどや顔をコウに向けるアリス。しかしコウは全く気にする素振りを見せず「ふーん」というだけだった。
「私が何をやったか興味がないのか?」
コウの興味のなさそうな態度にどや顔だった顔はむすっとなった。
「興味がないというか何となくわかったんだよ。どうせ2対2のタッグマッチを挑んだんだろ。」
「な、なぜわかった。」
自信満々だった作戦が見破られてしまい。アリスは思わず声が出た。
「お前にとってはそれが一番都合がいいからな。俺との勝負を経て自分1人の力じゃ転生者には勝てないことがわかった。しかしどうしても転生者に勝ちたい。そんな時に現れた転生者レオ、1人では勝てないが俺のような実力者を味方にすれば勝てるかもしれない。そんなとこだろ、お前の考え。」
(全て当たっている。この男、まるで私の思考全てを見透かしているかのようだ。)
「ま、まあ半分くらいは当たっているかな。」
「何強がってんだよ。」
(また見透かされた。こいつを敵にまわすと厄介だ。でも今回は違う。同じ目的を持った頼りになる相棒だ。ここで私はレオを殺し、今度こそアークライト家に戻るんだ。)
_____________
車がコウの屋敷に到着した。外はもうすっかり暗くなっている。
「勝負は明日の朝、カジノエリアで行う。」
「やっぱりギャンブラーとの勝負はギャンブルデスゲームでか。おもしろい。」
コウは笑った。周りが暗いこともあってかその笑顔はいつも以上に不気味に見えた。味方になったとしてもこの顔は恐ろしい、とアリスは思った。
「そんじゃあ俺は寝坊しないようにもう寝るわ。また明日。」
車から降りたコウはそのままアリスに壊された扉に向かって行った。
するとなぜかアリスも車から降りた。
「何を言っているんだコウ。今日は私もお前の屋敷に泊まらせてもらうぞ。」
アリスの言葉にコウは足を止め、振り返る。
「え?」
その顔はとても嫌そうな顔をしている。
「だって今の私の住んでいる場所からカジノエリアまでは遠い。私1人が勝負に行くのならそれでもいいが、今回は違う。会場までは車で行くんだろ?もし私が今日帰った場合、明日の朝お前を迎えに行かなくてはならない。それは二度手間だ。だったら最初からお前の屋敷に泊まり、明日一緒に行った方が効率がいいだろ。」
「まさかお前に効率の話をされる時がきてしまうとは…」
コウはアリスが今仮で住んでいる場所を知らなかった。なのでこのような事態になるという可能性をあまり考えていなかった。というよりも考えないようにしていた。
なぜなら。
「お前と一夜を過ごさなきゃいけないのか?めっちゃ嫌なんだが。」
「そんなことを言うなよ。私だって好きでお前の屋敷に泊まるわけじゃない。仕方なく、だ。」
ここで駄々をこねたって無駄だということはコウにもわかっていた。しかし認めたくない。
「その辺に宿なかったか?」
「ないよ。それはここに住んでるお前が一番知ってることだろ。というかいいだろ。別に同じ部屋で過ごすわけじゃない。使ってない部屋いっぱいあっただろ。その中に一つを使わせろってだけだよ。寝巻は持参してきた。」
ここまで言われてコウはようやく諦めた。「はぁ」とため息を吐き、肩を落とす。
「仕方ない。」
「なんでそこまで嫌なんだ?まさかお前お泊り会したことないな~。」
からかうようにアリスは言った。しかしコウは表情を変えることなく、無情に言う。
「いや、俺お前のこと嫌いなんだよ。誰だって嫌いなやつに家泊まってほしくないだろ。」
コウから言われた衝撃の言葉にアリスは一言すら発することが出来なかった。コウがアリスに対してきつい応対をするもの友達としてのスキンシップの一つだと思っていた。しかしそれはどうやら本気で嫌がっていたようで、ショックを受けた。
今まで散々、家族や使用人に馬鹿にされ、嫌われてきたアリス。それでもアリスの心に深い傷がつくことはなかった。しかしコウに言われた言葉にはなぜか大きなショックを受けた。
それがなぜなのか、アリス自信にもわかっていなかった。
「あ、あそう。嫌いだったのね。いや、別に気にしてないけど。そうだったんだ。ふーん。まあね。そんなこともあるよね。ほんとに気にしてないからいいんだけどね。」
アリスは何を言っているのか自分でもわかっていなかった。何のために発せられた言葉だったのか。自分を慰めるためか。はたまた嫌われていることを本当に気にしていないことをアピールするためだったのか。それはわからなかった。
そこから翌朝までの生活は2人のとってとても苦痛なものだった。嫌いな人間と過ごすコウ。自分のことが嫌いだと言っている人間と過ごすアリス。
別々の時間に適当なご飯を食べ、適当な時間にシャワーを浴び、適当な時間に寝る。翌朝までの時間はとても長く感じられた。
そして朝はやってきた。
2人は着替え、屋敷から出た。車の前には運転手の男が立っている。
「迎えありがとう。」
アリスは運転手に礼を言うと車に乗り込む。コウも同じように乗り込んだ。
「いよいよだな。」
コウのヒリヒリとした興奮がアリスにも伝わってきた。
「そうだな。」
アリスも興奮していた。しかしコウと同じように楽しみだけだはなかった。相手するのはデスゲームをするためだけに転生させられた猛者。少しのミスが命取りになる。
恐怖はあった。
(大丈夫だ。今回はコウが味方だ。)
そう自分に言い聞かせるアリス。しかし昨日の発言が引っかかる。
(私嫌われてるんだよな。本当にこの男は私を助けてくれるのだろうか。…いや大丈夫!コウは感情よりもゲームのルールを優先する男だ。そんな心配は無用だ。)
アリスは不安感情を無理やり消した。
ぎくしゃくした関係のままの2人を乗せた車は動き出した。
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