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相克

「まったく、どれだけ待たせるつもりだあの女。」


 上質な素材で作られているであろうふかふかの椅子に座りながらコウは呟いた。

 アリスが客間から出て行った瞬間からコウは、人差し指をトントンととやりながら秒数を数えていた。


「もう10分は経つ。誘っておいてこれだけ待たせるとは、何か特大なサプライズでもないと釣り合わないぞ。…そろそろ行こうかな。」


 コウは客間から出て屋敷を探索しようと考えていた。目的はただ一つ。アークライト家の人間にデスゲーム勝負を持ち掛けるためであった。

 コウはついに席を立ちあがる。その瞬間、外から足音が聞えてきた。


「アリスが帰ってきたか。…いやこのリズムは別人か。」


 常に人の動作や癖、リズムなどを注視しているコウにとって、アリスかそうでないかを足音で判断するのは容易であった。

 足音はどんどん大きくなり、このままコウがいる客間に入ってきそうだったので、再び席につく。

 案の定客間の扉を開き誰かが入ってくる。


「ノックもしないで入ってくるなんて、教育がなってないですねアークライトの方は。俺はお客さんですよ。」


 扉の方に顔をやり、挑発めいた発言をするコウ。


「はっはっは。何がお客さんだこの悪魔め。」


 そう言ったのは、年は二十代前半といったところだろうか、高身長でモデルのようなスタイルをした綺麗な顔立ちの男。髪はアリスと同じブロンドの髪で、エリートサラリーマンかのようにきっちりと整えられている。高そうなスーツを着こなしているその姿はハイスペックという言葉がよく似合うだろう。


 男はコウの対面にある同じデザインの椅子に座ってコウと睨み合った。


「自己紹介がまだだったね。俺はカイルだ。カイル・アークライト、よろしく。」


 この世の全てを見下しているかのような目をした男、カイルはそう名乗った。


「コウ・ノクス・レイブンです。どうぞよろしく。ところでカイルさんはアリスのご兄弟ですか?」


 コウも名乗った。敬語ではあるものの、どこか他人を馬鹿にしているような言い方で。


「ああそうだ。俺はアリスの兄だ。だがあんな出来の悪い妹、妹だとは認めたくないけどね。まああと数日で家を追放されるらしいからよかったよ。」


 その話にコウは引っかかった。


「あと数日で追放?妹さんの話によればまだあと数週間はあったはずですが?」


「それがさっきアリスとお父様が話しているのを盗み聞きしてしまったんだよ。その内容によるとアリスはどうやらお父様を怒らせてしまったらしく期限が明日中になってしまったようだ。」


「そうでしたか。ところで何の用でここに?」


 コウのこの質問を待っていたかのように、薄く微笑むカイル。


「いや実はね、アリスとお父様の話し合いで一つ面白いことを耳にしたんだよ。」


「ほう。」


「コウくん。君、転生者なんだってね。」


 コウも微笑む。カイルよりも深く不気味に。


「ええそうです。俺は転生者です。」


「はっはっはっは。いいね!転生者に会うのは君が初めてだよ。言いたいことはわかるよね。」


「ふっはっはっは。これは都合がいい。あなたのような人間を探す手間が省けました。」


 2人は笑った。その空間は命を奪い合おうとする2人のおぞましい空気で包まれた。常人では耐えられないほどにそこは、恐ろしい空間だった。


「それじゃあ今すぐにでもデスゲームを始めよう。ちなみにコウくん、君はどのタイプのゲームが得意かな?<知><技><運>。」


「どれも得意です。なんせ俺はデスゲームをやる為だけに生まれてきた人間ですからね。なんのゲームであったとしても負けるはずがないんですよ。あなたみたいな凡人と違って。」


「おもしろいね、コウくん。」


 カイルの顔は笑っていたが、明らかに怒りを隠しきれていない顔だった。


「君は知らないのかい、俺の今までの戦績を。デスゲーム15連勝だよ。そんな俺に本当に勝てると思っているのか?」


「15連勝ね。」


 そう言うとコウは椅子の背もたれにもたれかかる。


「この世界のゲームと俺がいた世界のゲームで内容が全然違うからあまり比べられるものじゃないかもしれないが、俺はデスゲーム300連勝以上している。」


「…300…か…。」


 カイルの顔が少し引きつっている。だが冷静さと余裕のある態度は失っていなかった。


「もしその話が本当だとしたら、なおさらおもしろい。ぜひ君のような人間とゲームをしてみたいよ。」


「それで、カイルさんはどんなゲームがお望みですかな?選んでいいですよ。弱者にゲームを決めさせるのは強者として当たり前のことですから。」


 カイルにとってこの言葉は屈辱的なものだった。カイルは自分より優れている人間に滅多に会ったことがない。それ故にデスゲームでは一度たりとも自分以下の人間と戦ったことがなかった。そのため、コウが言ったセリフはいつもカイルが言っているセリフだった。それを初めて人に言われる。こんな屈辱的なことはなかった。

 しかしカイルはその言葉を受け入れるしかない。なぜなら、事実自分よりもコウの方がデスゲームでは上だということもカイルは理解していたからである。優秀だからこそ自分のプライドすらも捨てれる。


「悔しいがここは俺がゲームを決めさせてもらおう。俺はアリスと違って頭がいい。だからゲームは<知>の難易度が高いゲームがいいと考えている。」


「<知>ね。いいんじゃないですか。俺もこの世界にきてから<知>のゲームはあまりやっていませんからね。楽しめそうだ。それじゃあ移動しましょうか、ゲーム会場へ。」


「そうだな。」


 2人は椅子から立ち上がった。その時、客間の外から誰かが走っている足音が聞えてきた。


「アリスの足音だな。」


 兄であるカイルが気づき、そう言う。

 足音が聞えてきた直後、客間の扉が開いた。現れたのは予想通りアリスだった。


「コウ!早く帰るぞ!…ってお兄様。」


 焦りの表情を見せているアリスはコウとカイルの顔を交互に見る。


「なんだアリス。そんな転生者を殺すタイムリミットが明日中だと宣告されたような顔をして。」


「な、なんでそれを知っているんだコウ!」


 アリスはコウの横に立っているカイルを見て気づく。


「あの話し合いの場でお兄様が盗み聞きをしていたんですね。そしてそれをコウに教えた。」


「その通りだアリス。馬鹿なお前の割にはいい考えだ。」


 さらにアリスは気づく。


「ということはお兄様、コウが転生者であるということも聞いていましたね。」


「ああ。」


「じゃあ今2人はデスゲームの勝負をするという約束をしたと。」


「「そうだ。」」


 コウとカイル、2人のデスゲームプレイヤーはそう答える。


「待ってください!お兄様との勝負はまた別の日にしていただけないでしょうか?私には時間がありません。私がこの男を殺さないといけないんです。」


 アリスは必死に訴えた。だがそんなアリスにカイルは笑いながら答える。


「だったらアリス、俺たち三人でゲームをすればいいじゃないか。同じゲームでどっちが先にこの転生者を殺せるかの勝負だ。とてもおもしろそうじゃないか。」


 この提案がされるとアリスは予想していた。しかしそれはアリスにとって望ましくないことだった。なぜなら。


(お兄様とコウに2人を同時に相手するなど無理だ。コウも化け物級に強いが、お兄様もとんでもなく頭が切れる。今の私ではどちらか1人を相手するので精一杯だ。)


「どうしたアリス?まさか俺とコウくん同時に相手するのが怖いのか?はぁ、やれやれだよ。コウくん、俺の提案いいと思うよね。」


「俺はなんだって構わないよ。」


 2人の強者の圧にアリスは潰されそうになる。


(このまま逃げてもいい。コウとお兄様2人でゲームをやらせれば。そしてもしコウが生き残った場合に私が次に勝負を挑めば。しかしお兄様がコウに勝ってしまえば私がアークライト家に復帰できる道はほぼなくなる。)


「どうするんだよアリス~。」


 うつむくアリスの顔をのぞき込むカイル。


(お兄様はいつもこうだ。私をゴミを扱うかのように馬鹿にして。だけど今の私は違う。)


「コウ。これを見ろ。」


 アリスが取り出したのは小さい紙。


「あ?なんだこれ。」


 コウはそれを受け取ると中身をじっくりと見る。


「これは…」


「なんなんだよ。俺にも見せろよ。」


 カイルものぞき込む。今まで散々馬鹿にするような顔をしていたカイルの顔が怒りに染まっていく。


「その紙に書かれているのは転生者レオ・アリアドネの所在地です。」


 転生前の名をレオ・ウィリアムスという、コウとアリスが少し前に話していたアメリカ最強ギャンブラーだ。


「さっきのお父様との話し合いで最後の最後にお父様が入手していた転生者レオの情報を聞き出すことに成功しました。この情報はあとでお兄様に話す予定だったそうです。しかし私は聞き出せました。『お前に言ったところで別に何も成し遂げられないだろう。』とセットで言われてしまいましたが、それでもお父様を説得する心理戦は私が勝ったのです。」


 カイルは怒り、コウは笑っている。


「賢い2人ならもう気づいていると思いますが、私はさっきレオにデスゲームの勝負依頼の手紙を出してきました。それも転生者、コウの名を使って。」


 カイルが怒り、コウが笑っている要因はこれだった。コウはカイルとの勝負よりも、より自分が楽しめそうなレオを選ぶ、それによりカイルは後回しにされてしまう。


「そういうことらしいですカイルさん。あなたとの勝負はまた別の機会にさせていただきます。」


 そう言うとコウは紙をその場に捨て、客間から出て行った。アリスはカイルに軽く頭を下げ、コウについて行った。


 客間に1人残されたカイル。その顔は真っ赤になって、今までの余裕が一切感じられなかった。


「あのクソ野郎ども!よくもこの俺を馬鹿にしやがったな!絶対に復讐してやる!」

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