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アークライト家での心理戦

 蒸気機関で走る車に揺られ、いくつかの街を抜けた。コウがいた世界の車と比べると乗り心地は悪いものの、発展途上の異世界にしてはまずまずのものだ。

 安定したスピードとともに長いこと車に乗っていたコウは愚痴をこぼす。


「もう二時間は乗ってるよな。まだ着かないのか?」


「もうすぐ見えてくるんじゃないか。」


 口元を歪ませたアークライト家のお嬢様アリスはそう言う。

 アリスに言われ、コウはしばらく車のまどから外を眺めていた。街を抜けてから見える景色は森ばかりだ。


「もうこの景色は見飽きたんだけどなぁ。」


 眠くなり、瞼が閉じそうになっていたコウの目が覚めた。それはあるものを目にしたからである。


「もしかしてお前ん家ってあれか?」


「ああそうだ。ようやく着いたみたいだな。」


「デカい屋敷とは聞いていたが、ありゃ屋敷っていうより城じゃないか。」


 森の隙間から見えたのは、森の中にたたずむ場違いで屋敷とは思えないほどの大きさの屋敷だった。

 これはだれでもどこかの王族の城だと勘違いしてしまうだろう。


 屋敷の一部が見えてからさらに車を走らせること5分、目の前にはこれまた大きい門が現れた。門をくぐり、車はさらに進む。横に広がる景色はどうやって整えられているかわからないほどの美しい庭が。見たこともない異世界の花が咲き誇っている。


「降りる準備をしておけよ、コウ。」


 アリスはこの美しい庭を見慣れているからなのか、一切そっちの方を見ることなくそう言った。

 車は停止した。


「さあ行くぞ。」


 運転手が車のドアを開け、アリスは降りて行った。コウは自分でドアを開けアリスについて行く。

 玄関の大きな扉を開け、2人は中に入っていった。


「すげー家だな。」


「当然だ。」


 デスゲーム「氷鬼」をやった屋敷もそれなりにでかかった。しかしここはそれとは比べ物にならないほどだった。

 大きな屋敷の中を2人は歩く。どこへ向かっているのかコウは教えられていなかったが、とりあえずアリスについて行くしかなかった。

 しばらくしてとある扉の前に来るとアリスは立ち止まった。

 

「着いた。とりあえずこの部屋で待機していてくれ。私はお父様を探してくる。」


 コウだけ部屋に入らされた。


「こんだけデカい家に住んでりゃ人1人探すのも大変だな。」


「そうだな。」


 そう言うとアリスは1人、どこかへ行ってしまった。

 部屋にはコウ1人が残された。


「物の配置や置いてある物的にここは客間ってとこか。さすがアークライト家、客間ですらこの出来だ。しかもこんな部屋が大量にあるんだろうな。」


■■■


 アリスは父親を探していた。


(まあ大体自分の部屋にいるだろう。)


 屋敷中を走り回り、ようやくアリスは父親の部屋に到着することができた。コウの言う通りこれだけ家が大きいと部屋から部屋の移動すら一苦労だ。

 

 アリスはノックした。コウの屋敷の扉を叩くような強さではなく、優しく。


「アリスです。」


「入れ。」


 威厳に満ち溢れた声を聞き、アリスの背筋が伸びる。

 恐る恐る部屋に入るアリス。


「随分と遅かったじゃないか。」


「申し訳ありませんお父様。友人を連れてきたら遅くなってしまって。」


「友人だと?これから大事な話をしようという時に友人を連れてくるとは、つくづくお前は頭が悪いな。」


「そ、それはすみません。」


 自らの父親に言われてようやく気付く。こういう場にはあまり人を呼ばない方が良いのかもしれないのだと。


「それでは当然2人の話し合いにその友人を同席させるというのはだめということでしょうか?」


「当たり前だ!」


 アリスの父カリストはそう吠える。


(じゃあコウを連れてきた意味なかったな。まああいつにはあの客間でゆっくりとしてもらうか。)


 人の休暇を潰しておいてなおこの考え、根っからのお嬢様である。


「まあいい。それで今日はお前に話があって呼び出した。」


「は、はい。それで話っていうのは一体。」


「お前には転生者を殺す猶予を一か月与えていたが、それを変更する。あと五日以内に達成できなかったらアークライト家を追放する。」


 アリスの予想通り、カリストに呼び出されるときは決まってアリスにとって良くない知らせの時だ。そして今回もそれは当たっていた。

 しかし今回のは今まで今までの中でも特に悪いことだった。


 アリスの目の前が真っ暗になった。カリストに言われた言葉が脳内で何回も再生される。しかしそれを受け入れたくないからか、脳が拒否反応を示し、その結果アリスはフリーズするしかなかった。


「聞いているのかアリス!」


 アリスはハッとした。動かなくなったアリスを正気に戻したのはカリストの威厳だった。

 

「き、聞いております。しかしなぜあと五日にしたのでしょうか?本来ならあと三週間残っているはずです。」


「お前ここ一週間で二つのゲームに挑んだそうだな。」


「はい。そしてその二つともで勝利し、生きてかえってくることができています。」


 アリスのこの言葉にカリストはいかにも、不機嫌そうな顔をした。


(なぜお父様は今の言葉で気分を害されたんだ。)


 一つの言葉選びのミスで、今のアリスは命取りになる。こんな状況の中アリスは冷静でいられるはずなどなかった。


「勝利しただと?」


「は、はい。でなければ私はこうやってお父様に会うことはできていないはずです。」


 またミスをおかしたのかカリストの顔はどんどんと不機嫌になっていく。

 深呼吸をしてカリスト。


「その二つのゲームの両方に、転生者がいたそうじゃないか。」


「はいおりました。」


 言ってからアリス気づく。


(しまった!転生者がいたゲームを二回やってその二回ともで転生者を殺せなかった。つまり、私は転生者を殺せる器ではないと言っているようなものではないか!)


「二度のチャンスがあってもそれを活かせることはできなかった無能に三週間の猶予を与えるほど私は甘くない。」


(だめだ。なんとかして説得しないと。)


「確かに私は転生者と二度の勝負の末、どちらも敗れました。しかしそれはその転生者、コウがありえない程の実力者だからです。他の転生者なら可能性はあります。」


「コウ…だと?随分と仲良さそうじゃないか。」


(コウに反応した。じゃあコウを使ってお父様を説得できるかもしれない。)


 コウに反応したカリストに反応するアリス。アリスはコウを使ってカリストを説得することを考えた。

 これはアリスがカリストを説得できるかという、心理戦であった。


「ええ。転生者コウとはいまだに親交があります。なのでいつでも奴とのデスゲーム勝負をすることができます。しかも今日ここにコウを連れてきております。」


(我ながら良い発言。)


 心理戦。相手が何を考え、何を欲するのか、それを考えうまく誘導する、そんなことがアリスに出来るはずもなく。

 それはアリスが最も苦手とするものの一つだった。


「ここに連れてただと?」


「はい!」


 反応を示したカリストに喜びが隠せないアリス。しかし反応を示したのは良くない意味だとは気づいていなかった。


「さっきお前は友人を連れてきたと言ったな。そしてその後には転生者を連れてきたとも言った。つまりお前は我々の敵である転生者を友人と言っているのか。」


(しまったあああああああああああああ!)


 自分がおかしたミスにアリスはようやく気付いた。覆すこともできない重大なミス。

 心理戦(茶番)はあっという間にケリがついた。


「そ、それは言葉の綾です。友人というか、戦友といいますか…」


「もう遅い!貴様に期待した私が馬鹿だった。五日の猶予すら甘かったな。期限は明日だ。明日の内に転生者を殺せなかったら貴様をアークライト家から追放とする。」


 全身の毛を逆立たせ、身体を震わせながら怒るカリスト。アリスはまた説得をしようとしたがこうなってしまったらどうにもならない。


(明日の内に転生者を殺せだと。無理だ、無理に決まっている…)


 アリス、完全敗北である。


読んでいただきありがとうございます

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