死刑衰弱 決着
「何を言っているんだエリシエル。カードはまだ残っているじゃないか。ゲームはまだ終わらないはずだ。」
突然ゲーム終了を言いつけられたアリスは混乱しながらもエリシエルに冷静に問う。
あと一歩の所でコウを殺せそうになっていた。アリスとしてはここで引き下がるわけにはいかなかった。
しかしエリシエルはなんの感情もなく言う。
「さっきも言った通り、ゲームは終わりました。」
これにはアリスも怒りを抑えることが出来ず。
「ふざけるな!お前は言ったはずだ。このゲームは最後の1人になるまで終わらないと。そして今、丁度1人分のカードが残っている。なぜコウに引かせないんだ。」
腹の底から叫んだからかアリスの息は切れている。そんなアリスを見ながらコウは笑っていた。
「何を笑っている!」
「何か勘違いをしているようだなアリス。」
「勘違いだと?」
「ああ。大きな勘違いだ。エリシエルはルール説明の時に最後の1人になるまで終わらないなんて一言も言っていない。」
「は?言ってただろ。何を言っているん…あれ?」
アリスは思い出した。
「…確かに言っていなかった気がしてきた。ゲームが続行不可能になるまで、だった。」
「正解だ。」
(じゃあなんで私たちプレイヤーは最後の1人になるまで終わらないと勘違いしていたんだ?……あ、そうだ。思い出したぞ。)
アリスの表情を見てコウが語りだす。
「思い出したようだな。最後の1人になるまで終わらないとお前らに思い込ませたのは俺だ。」
「エリシエルが言ったゲームが続行不可能になるまでというルールが、コウ以外のプレイヤーには理解できていなかった。しかしコウが、そのルールの真意は最後の1人になるまで終わらないということだ、と言ってみんなはそれを信じた。しかしその前提条件が間違っていたとしたら…」
(全てはこの男の手のひらの上。)
「だがおかしい!ゲームが続行不可能になるまで、これが意味することは最後の1人になるまで終わらないと同義だ。これ以外にゲームを終わらせる方法はないはずだ。」
そう言いながらも、アリスは別の方法がないか考えていた。
(あるはずがないんだ、そんなこと。カードを引かないという方法も考えたがそれはルール違反になり、実際にそれをやったプレイヤーは死神に処刑されていた。)
何も思いつかなかった。
「お、お前の負けなんだよコウ!だって場にはまだカードが2枚残ってる!この2枚は両方が2なんだよ!さっさと引け!そして死ね!」
何も思いつかなかったアリスに出来るのはこれくらいしかなかった。最後のあがきだ。
コウはそれを見て馬鹿にするように笑いながらため息をついた。
「はぁ。仕方ないお前がそこまで言うなら引いてやるよ。」
そう言うとコウは机の上にあるカードを一枚ずつめくった。
最初に引いたのは♣2
(そうだ。そしてもう一枚も♣以外の2だ。)
最後の一枚をコウがめくった。
出てきたのは♦3
「なんでええええええええええええ!」
叫ぶアリス。アリスは自分の目を疑った。予想していた現実とはまるで異なる信じられない光景にただただ叫ぶしかなかった。
アリスの中の常識が、現実がひっくり返った。
そしてコウは笑っている。
「ゲームが続行不可能な状況とはこのことだ。最後の2枚が異なる数字になっているためこれ以上はゲームが続けられないんだ。」
コウの言っていることはアリスにもわかった。目の前には♣2と♦3。当然こんな状況では「死刑衰弱」どころか神経衰弱すらできないだろう。状況は理解できる。しかしこの状況に至るまでの経緯が理解できなかった。
「なななななな何でこんなことに!」
(わからない。いつからこうなっていた。何が起こった。)
「お前は一体何をした!今度はどんなカラクリがあるんだ。」
当然アリスはコウがコイントスの時のように何かの仕掛けをしてこの状況になったと思った。しかしコウの口から出てきた言葉はアリスにとって、信じられない言葉だった。
「俺が何をしたかって?馬鹿なお前が信じてくれるかわからんが、俺は何もしていない。しいて言うなら最後の1人になるまで終わらない、とルールを誤解させたことくらいかな。それ以上のことは何もしていない。」
「あ?そんなわけないだろ!だって神経衰弱としてありえないことが起きているんだぞ。最後の2枚の数字が違うなんておかしいだろ!」
コウは「やっぱり信じてもらえないか。やれやれ。」といって首を振るだけだった。
アリスはそれを見て余計に腹が立ってきた。
「おいエリシエル!この男は何かカードに細工をしたに違いない。さっさとペナルティーを与えてくれ!」
怒り狂うアリスにエリシエルは表情一つ変えずに答える。
「ルール違反は行われていません。」
「そんなわけがないだろ!何かの間違いが…」
「ルール違反は行われていません。」
言葉を遮りそう言うエリシエルに、アリスはもう何かを言うことを諦めた。
そして力が抜けたのか、その場で跪く。
「また…私の負けなのか…」
「負けではないだろ。生き残ったんだし。」
慰めているのか馬鹿にしているのかわからないような言い方をするコウにアリスは笑うしかなかった。
「確かにゲームでは勝ったかもしれないが、お前との勝負に負けたんだよ…」
「あっそう。」
「負けを認めるよコウ。だから教えてくれ。なぜ最後の数字が違っていたんだ?」
「うーん…」
となぜかコウはうなった。
「馬鹿なお前に理解できるように説明するの難しいな~。」
「おい、さすがに私を馬鹿にしすぎだぞ。今までの私とは違うんだ。」
「今までとは違う?じゃあなぜルール説明の時に気づかなかったんだ?このゲームの『穴』に。」
「ゲームの『穴』、だと?」
「そうだ。」
コウは一呼吸おいてから説明を始めた。
「そもそも神経衰弱で最後まで同じ数字が残るのはそれまでずっと同じ数字を引いてきたからそうなるんだ。だがこの『死刑衰弱』ではその前提が崩れている。何かわかるか?」
そう問われたアリスだったが、考えることもなく答える。
「それがわかっていたらこうなっていないよ。」
「それもそうだな。じゃあ正解を言うと、このゲームには死神カードというのが存在する。死神カードとかたいそうな名前がついているがこれは言ってしまえばジョーカーのことだ。このジョーカーがゲームを狂わせた。」
「うん。」
「『死刑衰弱』ではジョーカーをワイルドカードとして扱うというルールになっていた。その結果今回ジョーカーのペアになったのは、最初に女プレイヤーが引いた♥2と小太りの男が引いた♠3だ。」
アリスは話を聞きながらこれまでのゲームの流れを思い出していた。
「ああ。確かそうだったな。」
「そしてその後もゲームは続いて行ったが、もうこの時点で最初に言ったゲームの前提は崩壊している。ワイルドカードのジョーカーが2と3を持っていってしまったことで、場に2のカードが3枚と3のカードが3枚余るという状況になってしまった。すると3枚の内ペアが出来るのは当然2枚なので1枚だけが場に余ってしまう。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何を言っているんだ。」
わかりやすく説明したつもりだったが、アリスは理解できていなかったようで、コウは肩を落とす。
「わかったよ。じゃあもっと簡単に説明するな。1、2、3、4、5、そしてジョーカー。この6枚のカードのセットが二つあったとしよう。これで同じ数字同士を組み合わせると何組できる?」
「そりゃ当然6組だろ。」
「そうだ。じゃあジョーカーをワイルドカードとして扱った時、1と1、2とジョーカー、3とジョーカー、4と4、5と5の組み合わせをしたらどうなる?」
「5組しかできず、2と3が余る。」
ここでようやくアリスは気づいた。
「そうか!これが6枚のカードじゃなく54枚のカードでやったのが『死刑衰弱』だったというわけか!」
コウはため息を吐きながら言う。
「そうだ。やっと理解してくれたか。28人でこのゲームをやり、ワイルドカードが2枚あった場合、生き残る人数は26人になる。そして今回生き残ったのが俺とお前だったというわけだ。」
「お前はルール説明を受けていた段階でこのことに気づいていたのか?」
「当たり前だろ。逆になぜ気づかない。2枚余っちゃうな、って。」
「やはり私は…」
アリスは己の愚かさに再び気づき、そして落胆する。自分は少しは成長出来ていると思っていた。しかしそれはただの勘違いに過ぎなかった。
「私はまだまだ実力不足だ。」
そうアリスはそう思った。しかしコウの考えは少し違った。なぜならこのゲーム、ジョーカーが同じタイミングで引かれない限り2人が生き残るというものだったが、そこに至るまでが大変だ。1/28も確かに成し遂げるには高い壁だ。しかしアリスは、運と直感のみで2/28を成し遂げたのだ。
「まあ面白いゲームだったよ。次は転生者のレオとやってみたいね。」
コウはそう言うと、ゲーム会場をあとにする。
アリスも顔を上げ、コウについて行った。
(もっと強くならなければいけない。いつかこの男を越えられるくらいに。)
読んでいただきありがとうございます
ブックマークや評価お願いします
登場ゲーム裏話「死刑衰弱」
やはりこういう作品を書く上で大変なことは、作中でやるゲームを考えることです。いつもは色々考えてゲームを作るのですが、このゲームにおいては「死刑衰弱」という名前から先に思いつきました。ダジャレではあるものの自分の中で気に入った名前だったので、この名前のゲームをどうにか読んでくださる方に納得してもらえるようなオチがあるものにしようとできたのがこれだったわけです。おもしろいと思って頂けたらうれしいです。
次回のゲームも楽しみにしていてください。