女神の声、悪魔の笑い声
四宮は真ん中のレバーが安全であるという確証を得た。
「これでこの勝負も俺の勝ちだ。」
だが四宮の心は満たされていなかった。
そう、四宮は退屈していたのだ。
全く刺激のない勝負で勝ち続ける日々、使いきれない金だけが手元に残る。
(この勝負を最後にデスゲーム引退しようかな。)
真ん中のレバーに手をかける四宮。
するとその時、今までに感じたことない違和感を覚えた。
(なんだこの感覚⁉)
それは四宮が手をかけていた真ん中のレバーからであった。
(このレバーを引けば俺は間違いなく死ぬ。だがなぜだ?左右のレバーは間違いなく毒ガスが出る。じゃあこのレバーから感じる違和感は一体何なんだ?)
その時だった。
(四宮コウ。お前は今の人生に満足しているか?)
どこからかとても美しく品のある女の声が聞えた。
「誰だ?」
四宮は振り返るがそこには誰もいない。
そこで今度は別室にいる山口に向かって質問をする。
「おい、そっちに女はいるか?」
敗北を噛みしめていた山口だったが、四宮の質問で我に返った。
だが、その質問の意味は全くわからなかった。なぜなら山口と平山がいる部屋には女などいないからである。
「なんのことだ、女なんていないぞ。」
(じゃあ一体どこから声が聞こえてきたんだ?)
考え込んでいた四宮にまたさっきと同じ女の声が聞こえた。
(デスゲーム無敵の男でもこればっかりはわからないか。)
声が聞こえてきたと同時に周りを見渡すがやはり誰もいない。
ここで四宮は一つの結論を導き出した。
「まさかだが、脳に直接語り掛けてきたってやつか。」
(ピンポーン!正解!)
四宮の脳内で女の元気な声が響き渡る。
「うるせーな。人の頭の中で騒ぐんじゃねえ。」
(これは失礼した。)
女の声は冷静に謝罪した。
「ところでお前ナニモンだ?ついに最新の技術で人の脳内に語り掛けれるようになったのか?」
(それは不正解。)
「じゃあ一体なんなんだ?」
四宮は落ち着いた様子で女に聞く。
この状況をモニター越しに見ていた山口と平山は混乱していた。
「お、おい四宮のやつ、ついに頭おかしくなったのか⁉」
「私にもさっぱりわかりません。それに毒ガスが出ないレバーがわかったのにやつはなぜまだレバーを降ろさないんでしょうか?」
2人の声は四宮の部屋にも聞こえていた。
「おい女、俺が変人されてる。これはどうにかなんないか?」
女は笑いながら答える。
(これはおもしろい。私的にはこのままでいいのだが、君がそこまで気にするなら教えてあげよう。君も脳内で喋ることができるよ。)
(そういうことは早く言ってくれよ。)
四宮も早速脳内で喋り始める。
(それで本題だ。お前は一体誰なんだ?)
一瞬の沈黙が訪れたあと女は静かに語る。
(女神だ。)
女神と名乗る女の答えを聞いた四宮はしばらく黙っていた。当然女は四宮が混乱して黙っているのだと思っていた。だが四宮の反応を聞いてそれは間違っていたと悟った。
(女神か、まあそういうこともあるのだろう。)
(は?驚かないのか?女神だぞ。今お前に語り掛けているのは女神なんだぞ?)
(いきなり脳内に語り掛けておいてそれはないだろ。そんな超常現象が起こったんだ、今更女神くらいじゃ驚かない。そんなことよりだ、お前が俺のところに
きた理由はなんだ。)
(私が女神なのがそんなことだと?さすがはデスゲーム界最強なだけある。肝が据わってるな。じゃあ本題だが、お前には今から目の前にある三つのレバーの内一つを引いてもらいたい。)
(ほう。)
そこで四宮は気づいた。なぜ真ん中のレバーを引いても死ぬ気がするのかを、それはこの自称女神がそうなるように仕組んだのだと。それをしたことにより、三つのレバー全てが外れとなった。
つまり女神は四宮を殺そうとしているのだ。
(なぜ俺を殺そうとしているんだ?)
(おー。理解が早くて助かるよコウくん。)
いきなり下の名前呼びに馴れ馴れしさを感じた四宮だったが突っ込まなかった。
(回りくどい言い方をするつもりはない。コウくん、君にはここで死んでもらい異世界転生してほしいんだ。)
異世界転生。本や漫画、アニメでしか聞かない単語を聞いて四宮は少し戸惑った。
本当にそんなものが実在するのか、と。
(異世界か…なぜだ?)
(理由はまだ言えない。だがこれだけは断言できる。異世界はお前が退屈しているこの世界よりもずっと刺激的で魅力的だ。)
その言葉を聞いた四宮の目に一瞬、光が灯る。
「いいだろう。その誘い乗った!」
四宮はその覚悟を脳内でなく、口にだした。
そのまま迷いなく真ん中のレバーに手をかける四宮。
その様子を見て逆に焦る女神。
(ちょ、ちょっと待って!なんでそんなに躊躇がないの?今から死ぬんだよ?)
天を見ながら四宮は答える。
「刺激的で魅力的、それ以外の理由はいらない。俺は俺が楽しめる場所を常に探していた。この世界になかったものがそっちにはあるんだろ女神様。その為なら俺は命だって投げだすさ。」
(そう。)
とだけ女神は答えた。
四宮はそのまま真ん中のレバーを下に降ろした。すると三つの管全てから「プシュー」という音とともにガスが放出された。
「い、一体何が起こっているというのだ。」
そう叫んだのは山口だった。元々真ん中のレバーは引いても何も出ず、部屋の鍵があくシステムになっていた。なのに今現在の状況はそれとは真逆の状態だった。
「おい平山!どうなってる!お前がこのような細工をしたのか⁉」
「私にもなにがなんだか。というかそもそも真ん中の管は毒ガスが貯めてある場所には一切つながっていません。真ん中のレバーを引いてなんらかのトラブルがあり左右からガスが出たとしても真ん中から出るなんてことは絶対にありえないんです!」
怒鳴られた平山だったが当然平山にもわからない。なぜならこれは神の御業なのだから。
「ぐ、ぐあ…」
喉を押さえ苦しみだす四宮。その様子を見て平山は取り乱す。
「どうしましょう社長!勝負では我々は完全敗北でした。なのにこのままでは四宮は死んでしまいます。無敵の男をただのトラブルで殺してしまうんですよ。助け出した方が良いのでは。」
「いや、このままでいい。」
「え?」
「このままでいいと言っておるだろ!トラブルだろうが何だろうが毒ガスは噴出されたのだ。それを読めなかった四宮の負けだ!」
山口はやけくそになっていた。
勝てると思っていた勝負に負け、予期せぬトラブルが発生し、山口の頭は完全に混乱していた。
「勝ちだ!これは私の勝ちなんだ!」
興奮し、身体は震え、目は血走り、顔は赤くなっていた山口の耳にどこからか笑い声が聞こえてきた。その笑い声は不気味で聞いているだけで頭がおかしくなりそうなものだった。
「ふっはっはっはっはっはっはっはっは…ふっはっはっはっはっはっはっは!」
笑い声の主は毒ガスが充満しているガラス張りの部屋にいる四宮コウのもだった。
横たわり、喉を押さえ、苦しんでいる四宮は不気味な笑みを浮かべカメラのその先、山口の顔をとらえていた。
「ああ、ああ、あああああああ」
突如山口は発狂し走り出した。
「社長!そっちはダメです!」
パリーン
山口は窓ガラスを突き破り、高層ビルから落下していった。
「ははは…はは…はは…」
笑い声は次第に小さくなっていった。そしてついに悪魔の笑い声は消えた。
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