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死刑衰弱 死の流れ

 勝負事において「流れ」というのは間違いなく存在する。

 一度勝てば、勝ちの流れは止まらず勝ち続ける。スポーツやギャンブルなどではよくあることだ。しかしそれと同時に負けの流れというのも存在する。勝ちの流れの時に少しのミスをし、流れが逆転するということもよくある。そして不思議なことに負けの流れは覆すことが出来ず人をどん底まで突き落とすものだ。負けの代償が大きければ余計に。

 特にそれが命ともなれば。


「この流れのままだと俺は必ず同じ数字を引くな。」


 コウはただそう呟く。

 5人連続で死亡。これは確実に「死の流れ」が来ていた。そしてそれは他のプレイヤーも感じていた。

 そのことに一番動揺していたのはアリスだった。コウがこの流れのまま死ねばアリスにとっても嬉しいことだろう。しかしそうなれば「死の流れ」は6人連続で続いたということになり、確実にアリスも飲み込まれる。


(私は何を望めばいい。コウの死か。それともコウの生存か。)


 しかしアリスが望んだところで流れというものは止まらない。

 コウは黙ってカードを見ていた。


 こんな経験はないだろうか。

 知らされてもいないのに今日の晩御飯がなぜかわかった。

 突然、家のインターホンが鳴る気がして、実際に鳴る。

 ランダムで流していたはずなのに次の曲が何となくわかる。

 そして、伏せられているはずのカードの数字が何となくわかる。

 

 そんな時、人は…


「何よりも神懸かっている。」


 コウはカードを2枚引いた。

 ♠A♠K


「この程度の流れでは俺を殺せない。」


 コウは「死の流れ」を回避した。


 これに他のプレイヤーは驚嘆した。


「ありえない…この流れで生き残ったやつを俺は見たことがない。」


「あいつ何者だ…」


 だがアリスは驚かなかった。この男ならやりかねないと。

 そして同時に恐怖した。


(他のやつらはわかっていない。今自分たちが誰を相手にしているのかを。コウはデスゲームをするためだけに異世界からやってきた転生者だ。そんなやつに私たち凡人がどう立ち向かえばいいんだ。)


「さあ次はあなたですよ。」


 エリシエルにそう言われていることにしばらくしてから気づいた。


「あ、そうだった。」


(「死の流れ」はコウが止めた。しかし「死」が付きまとっていることに変わりはない。)


 アリスは深呼吸をした。そして冷静になった所で、カードを引いた。

 

「よっっっっっっし!」


 ガッツポーズをするアリス。周りからは舌打ちやら「くそ」という声が聞こえてきた。

 

 残りプレイヤーは20人。

 その後もゲームが続き、30分程経ったが死者は出なかった。


「またこれか。」


「長くなるな。」


 今生き残っているのはいずれも<運>のゲームの猛者たち。そう簡単に死ぬほどやわではなかった。


(死神カードは2枚とも引かれた。つまりあとは同じ数字のカードを引くしか死ぬことはないが、やはりここに生き残っているやつらはそんなミスはしないか。)


 ゲームは膠着状態が続いた。こうなってしまうと、終わらせるには次の「死の流れ」を待つしかない。

 プレイヤーたちは「死の流れ」が自分ではない所で発生することを祈るしかなかった。

 黙々とカードを引く作業だけがまた30分程続いた。だがついにその時が訪れる。

 アリスの次の番の男が同じ数字を引いたのだ。


「や、やっちまった…」


 男はそう言うだけで特に取り乱すこともなかった。しかしその目には涙が。


「そうか。俺はもうこの戦いについていけなかった。気力がなくなっていた。だから…」


 男の背後に死神が現れる。死神は男の背中に手を当てた。


「じゃあなお前ら。俺は地獄で待ってるよ。」


 そう言うと、男は自分の左胸を抑え、苦しみだした。


 心臓麻痺


「う…うがぁ…あああ…ぐるしいいいい…」」


 男の顔色はみるみる青白くなっていき、口からは泡を出しながらその場に倒れ込む。


「くそ…が…」


 男は死んだ。


 ゲーム会場にまた恐怖が生まれた。一時間程、何もない時間が生まれていたため、ここでの男の死はプレイヤーたちの心に大きな恐怖を与えた。

 そしてこういう時に訪れる。「死の流れ」は。


 なんとその後10人連続でプレイヤーが死んだ。


(これは間違いなく来てる。「死の流れ」が。)


 誰しもがそう思った。しかし気づいた所で止まるわけでもない。その後も数人が死に、やってきたコウの番。


「すごいな。こんな短時間であと8人にまで人数が減るなんてな。」


 その言葉には恐怖など微塵も感じている様子はなかった。


「だが俺にそんなものは関係ない。なぜならこの瞬間の俺は何よりも神懸かっているからな。」


 ためらいもなくカードを引くコウ。そして当然のようにそれは別の数字だった。


「おかしいだろあいつ。」


「なんなんだよ。人間じゃない。」


「馬鹿げている。」


 コウに恐怖するプレイヤーたち。しかしアリスはコウに他のプレイヤーとは違った感情を向けていた。


「す、すごい!」


 尊敬だ。アリスはコウの実力を尊敬していた。


「すごい。すごいよお前は。」


「だろ?」


「だからこそ私はお前を越えなければいけない。ここで私はお前に勝つ。」


 アリスはカードを引く。

 ♥9♣10


「どうだ。私も中々やるだろう?」


「面白くなってきた。」


 コウとアリスの間で繰り広げられる戦いに他のプレイヤーは追いつけなかった。

 それ故にアリスのあとのプレイヤーは3人連続で死んだ。

 残るは5人。


「終わりが見えてきたな。」


 コウの言葉通り、このあとも2人が死に、残り3人。

 残ったのはコウ、アリス、そして40代くらいの男。

 机の上には4枚のカード。


「ここまで死と身近になってゲームをしたのは初めてだ。」


 そう言ったのは40代の男だった。


「俺の名はネスト。運がいいだけで適当に生きてきただけだった。だからこそあんたたちに感謝したい。俺は人生の中で一番生を実感している。こんなこと初めてだ。」


 ネストはそう言うと爽やかな笑顔を見せた。


「そうだな。私も感謝しているよ。だが生き残れるのはこの中で1人だけ。後悔のない戦いをしよう。」


 アリスはネストの方へ行き、手を前に出す。ネストもそれに応え、2人は握手を交わした。


「くだらない仲良しごっこはやめた方がいい。俺たちは殺し合いをするんだ。」


 そう言ってコウは4枚の内から2枚を引く。

 ♣2と♥6

 コウは4枚になってもなお、回避した。


「♣2と♥6か。ということはつまり他の2枚も2と6ということか。」


 ネストはそう言う。


「そういうことになるな。」


 自分の番になったアリスもそう言う。


「4枚のカードがあってその内2枚は2でもう2枚が6か。そしてそこから2枚のカードを引く時、違う数字を引く確率か…えーっといくつだ。」


 アリスは計算が出来なかった。


「まあ確率なんてどうでもいい。とにかく生き残ればいいんだ。」


 計算することを諦め、カードに手を伸ばすアリス。


「うおおおおおお。」


 雄たけびとともにカードを2枚引いた。結果は。

 ♣2と♦6。


「よし!生き残った!」


 アリスも中々の神回避をした。


 そしてネストの番。


「いい戦いだったよ。」


 ネストはカードを引く。

 ♥6♦6


「俺もここまでか。」


 6と6を引いたネストはその場に跪いた。


 そしてネストは死神に処刑された。

 コウとアリスの2人はそれを見届けた。


「ゲームもこれで終わりだな。」


 満面の笑みをしたアリスがコウに言う。

 アリスが満面の笑みを浮かべているには理由があった。


「残り4枚の状況からネストが6と6を引いて残り2枚。そして次の番はコウ、お前だ。つまり机に残っている2枚のカード2のペアを引くお前は死ぬということなんだよ!」


 アリスが勝ち誇り、満面の笑みを浮かべている理由はこれだった。


「あー。これで私は転生者をデスゲームで殺したということになり、晴れてアークライト家に返り咲きだ。すまないなコウ、お前は私の踏み台となってもらう。」


 よっぽど嬉しいのかその場で踊りだすアリス。


 コウは黙って下を向いている。

 踊りながらアリス。


「何か言ったらどうだコウ。それかさっさとその2枚を引いて自分の命を終わらすか。」


 コウは顔を上げる。その顔は。


「なぜ笑っているんだ…」


 コウは笑っていた。デスゲームの時にするいつもの恐ろしい笑顔だ。

 アリスはそれに飲み込まれそうになる。しかし今は違った。


「なんだ。強がっているのか?だが無駄だ。カードを引くにしろ引かないにしろどうせお前は死ぬんだ。強がれるのも今の内だ。」


 そう言ったアリスだったがなぜか自分の言葉に自信が持てなかった。


(なんだ。一体なんだこの胸騒ぎは。)


「さっさと引けよ!」


 それを誤魔化すようにアリスはコウに向かって叫んだ。

 その時。


「ゲーム続行不可能により、ただいまをもって『死刑衰弱』終了とします。ゲーム勝者はコウ、アリスの2人のみとなります。」


 という無機質なエリシエルの声が。


「へ?終わり?」


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