死刑衰弱 混沌
死神は動かなくなった女を放り投げた。
エリシエルは言う。
「死体は邪魔になるのでこちらで片付けさせていただきます。」
そして先程と同じように指パッチンをすると、女の身体は浮いてどこかへ移動させられた。
一連の光景を見ていたプレイヤーたちは絶句した。今まで運の良さ故に、デスゲームにおいても死というものを実感してこなかったプレイヤーたちが、今それを実感する。
「ではテンポよくいきましょうか。」
エリシエルはそんなプレイヤーたちを気にすることなくそう言った。
どうやらカードを引く順番は死んだ女プレイヤーから時計回りのようで、次に引くのは、女の死を見てから完全に気力をなくし死んだ目をした男だった。
男は自分の番になってからも一切動くことなくどこか遠くを見ているようだった。
「あいつ、完全に戦う気を失ってる。」
そう言ったのはコウだった。
「戦う気を失ってるってことは死を受け入れたってこと?さっきのあんな光景見て自分の死を受け入れることなんて私なら無理。」
アリスは強くそう返す。しかしコウは。
「逆だ。死を受け入れたんじゃない。死を受け入れられないんだ。俺はデスゲームで散々こういうやつを見てきた。自分の死を受け入れられないやつはこうやって考えることを放棄し、現実から逃げる。だが末路は決まっている。」
コウが言い終えると同時に。
「5分経過しました。意図的な遅延行為とみなし、ペナルティーです。」
無情にもエリシエルはそう告げる。
生気をうしなった男の背後に死神が立った。死神はさっきと同じように前に手をかざす。またもさっきと同じように何もない空間から何かが出てきた。
だが出てきたものはさっきのロープとは違った。死神が持っていて一番腑に落ちるもの。鎌だ。それも巨大な。
死神は鎌を大きく振りかぶる。その瞬間、男は生気を取り戻した。ここに来て迫りくる「死」に抗った。振り返り背後にいる死神を見る。
斬首刑
男の首は飛んだ。
コロコロと転がる男の顔はプレイヤーたちの方を向いたところで止まった。
「なんて残酷な…」
絶望するプレイヤーたちを横目にエリシエルは指を鳴らし、男の首と身体をどこかへ移動させた。
「ただいま5分以上の遅延行為という禁止行為をするプレイヤーが現れたためペナルティーを与えました。しかしそれによってカードを引かないまま1人が脱落するという状況が発生いたしました。」
(あ、わかったぞ。カードを引かずに1人が減ったってことはこのままでは全員分のペアが揃ってしまうということ、つまりこのゲームでは1人も生き残らないということになってしまう。)
流石のアリスでも気づいた。このままでは全員が死んでしまうことに。
それをエリシエルが説明する。
「このままだとプレイヤー全員が死亡するという状態になってしまいます。しかし安心してください。先程の男はルール違反をおかし、ゲームの妨害行為を行ったということなので当然それは認められることはありません。なので一名分のカードのペアを減らした状態で再度スタートとさせていただきます。」
そう言うとエリシエルは指パッチンをし、カード2枚を消した。
(よかった。これで全員が死ぬという状況は回避された。しかしこの中の1人しか生き残らないという事実は変わらない。)
「それでは3人目のあなたから初めてください。」
3人目の男は覚悟が決まっているようで迷いなく2枚のカードを引いた。
その結果は♣6、♡4だった。
「よし!生き残った!」
この男が流れを作ったのか、この後13人連続でペアを回避した。
そして次の番、コウ。
コウは笑っている。
「ど~れ~に~し~よ~う~か~な~。」
コウはおもちゃ売り場でおもちゃを選ぶ子供のように楽しそうにカードを選んでいた。
「カードの裏面に微かな汚れとかあってどうにか判別できないかと思ったけど、さすがは天使さん。そんなものは全くない。じゃああとは己の直感を信じるしかないね。」
コウは2枚のカードを引いた。
(ここで同じ数字を引くか死神カードを引いてくれないかな。そしたら私はアークライト家に戻ることが出来る。)
そんなアリスの願望は叶うことはなく。
「セーーーーーーーーフ!」
♠K、♠Qのカードをみんなに見せてからもとの場に戻した。
コウの次はアリスの番だった。
「ここで同じ数字か死神カードを引いたら終わる…」
アリスの心臓は物凄い速さで動いていた。
カードを引く、これだけの動作をするだけがとても難しかった。なんせ命のかかったものなのだから。
「大丈夫だ。私は運がいい。」
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
(運がいい?それがなんだそんなのなんのあてになる。いやこれのおかげで私はここまで来たんだ。でも本当にそうか?私は運がいいのか?だからそれはコウが証明してくれただろ!)
アリスの頭の中では不安、恐怖、自信、多くの感情がめぐっていた。
それを整理することは今のアリスには不可能だった。
「うおおおおおお!」
感情を整理することを諦め、アリスは雄たけびを上げながら2枚のカードを引いた。
「お願い!」
引いたカードを見る。
「やったあああああ!」
♣7♦5
アリスは生き残った。
_______________
その後は長い戦いが続いた。運の良いプレイヤーの集まりだったためか、誰も同じ数字のペアも死神カードの引くことがなく一時間は経った。
だがこのゲームはどれだけ時間が経っても意味がない。
「2人死んで、あと26人。ゲームが終わるまではあと25人死なないと終わらないじゃないか。」
と誰かが愚痴を漏らす。
「長い戦いになるな。」
一時間もカードを引いて同じカードも死神カードも引かなかった。それはプレイヤーたちにとっては自信に繋がっていた。もしかしたら自分は本当にこのゲームで生き残ることが出来るのではないのか、と。
しかしそれは自信ではなく油断であった。
「し、死神カードだとぉぉぉぉぉ!」
1人の小太りの男が遂に2枚目の死神カードを引いた。セットで引いたのは♠3。
「い、嫌だ!まだ死にたくない!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
男は力の限り叫んだ。しかし当然そんな行為には意味がなくて。
男の背後にはすでに死神が立っていた。
「俺に近づくんじゃねーこのクソ死神!」
男は死神に殴りかかった。しかし拳は死神の身体を通り抜けた。
当たらないとわかっていても男は何度も殴った。
男の拳は当たらない。しかし死神の身体は男に触れることができた。
死神は男の太い首を骨の手で掴んだ。そしてその手からは火が出てきた。
「ああああ!熱いいいいいいい!」
炎は首から顔や胸まで広がっていき、ついには全身を包み込んだ。
火あぶり
「熱いいいいいい!」
1分くらい部屋中を暴れ回ったあと、男は倒れて動かなくなった。
不思議とその炎は他のものに広がることもなく、他のプレイヤーには熱さを感じなかった。
「これで3人目。ゲーム終了まで残り24人。」
アリスはそう呟く。
(長い。今日中に終わるかすら怪しいくらいだ。)
しかしアリスの予想は外れる。
なんとその後10分の間に5人も死んだのだ。
串刺し
電気
八つ裂き
毒
銃殺
どれも無残なものだった。
そして次の番、コウ。
「これ次俺が死ぬ流れ?」
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