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死刑衰弱 死の恐怖

 会場の空気が一気に変わった。さっきまでへらへらしていたプレイヤーたちも今では黙り込み険しい表情をしている。

 自分が死ぬはずがない。死ぬなんてありえない。例えデスゲームで死人が出るとは言ってもそれは自分ではなく他の誰かだ。そんな甘い考えの者はもうこの場にはいなかった。

 いくら自分の運が良いからといって、27人の内、26人が死ぬまで終わらないゲームだとは誰も思っていなかったのだ。


「自信があることはとても大事だ。だがそれと同時にある程度の危機感を持っていないと何事も上手くいかない。それはデスゲームでも人生だったとしても。危機感を持って何かにビビることも大切だ。ビビることで、それの対処を考える。そうやって人類は発展してきた。」


 静寂に包まれたゲーム会場に響くコウの声。それはこの場にいる誰しもに刺さる言葉だった。危機感を捨て、自分だけは大丈夫とずっと逃げてきた人生。プレイヤーたちにこの言葉は刺さった。

 そしてコウは言う。


「怯えろ。考えろ。そして戦え。」


 またも場の空気が変わった。今度は重くなく、熱く。

 その様子を見ていた天使エリシエルは言う。


「あの、まだルール説明が終わっていないんですが続けてよろしいですか?」


「ああ。続けてくれ。」


「『死刑衰弱』では普通の神経衰弱と違う点がもう一つあります。神経衰弱の場合は記憶力を競うゲームでもありますが、『死刑衰弱』では違います。それはゲーム難易度に関係しています。本ゲームでは<運>が5、<知>が1でした。つまり『死刑衰弱』では記憶力よりも運を重視するということです。」


「それはどういうことだ?」


 とプレイヤーの1人が質問する。さっきまでへらへらしていた男はそこにはいない。その目には覚悟が宿っていた。


「つまり、伏せられたカードは毎回ランダムに場所が変わるということです。言葉で言うよりも見た方が早いでしょう。」


 そう言うとエリシエルは持っていたトランプの束を宙に投げた。バラバラと落ちていくカードたちは大き目の机の上に、横に6枚、縦に9枚等間隔に並んだ。


「本番ではこのように54枚のカードが並べられます。そしてプレイヤーの誰かがカード2枚引いてペアが揃わなかったとしましょう。そうすると引いたカードは元あった場所に戻します。」


 エリシエルは2枚引いて、引いた場所に戻す。


「本来の神経衰弱の場合であれば、今戻したカードの場所と数字を覚えますが、このゲームでは違います。」


 そう言ってエリシエルはさっき戻したばかりの2枚のカードを引く。すると、それはさっき引いたカードとは違うカードだった。


「この通りカードは別のカードに入れ替わっています。これは何の規則性もなしに入れ替わっています。また、これは誰かが引いたペア、つまり場に戻らないカードのペアがまた伏せられることはありませんのでご安心を。」


(なるほどこれは記憶ゲームじゃなく完全運ゲームだ。)


 アリスはルールを理解した。


(これは私にとってはありがたい。なぜならば私は記憶力が悪い。だから運で勝負する方がやりやすい。だが問題点は…)


 アリスは横に立っているコウを見る。コウは伏せられたカードを見ながらブツブツと言っている。


(この男だ。コウの運の良さは未知数。このゲームでは1人しか生き残れない。つまり私が生き残るには、コウを上回らなければいけない。そんなことができるのだろうか、この私に…「氷鬼」だってコイントスだって散々負けてきた。コウに勝てるイメージがわかない。)


 各々が色々なことを考えていた。そんな中エリシエルは言う。


「そして『死刑衰弱』最大のポイントの発表です。やはりデスゲームと言えばどのように死ぬのかが見どころですね。焼け死んだり、凍え死んだり、餓死したり切り裂かれたり。」


 エリシエルは今までのクールなレディーという印象から大きく外れ、瞳をキラキラさせながら言っていた。その様子を見たプレイヤーたちは思い出す。

 これはデスゲームだったのだと。


「そして『死刑衰弱』で、もし同じ数字を引いてしまった場合のペナルティーはこちらです。」


 エリシエルが言い終わると同時に、床から何かが出てきた。真っ黒の何かが。


「な、なんだこいつ。」


 それは人型だった。真っ黒のローブを羽織った人型の何か。その何かが顔を上げる。


「うわっ!」


 プレイヤーたちは驚きのあまり大声を上げる。プレイヤーたちが見た黒いローブの人型の正体、それは骸骨だった。


「骨…骸骨…」


「ただの骸骨ではありませんよ。皆さん覚えていますか?このゲームには死神カードというカードが存在します。もうお分かりですね。これは死神です。」


 死神は真っ黒い目でプレイヤーたちを見ている。瞳はないはずなのに間違いなくその目はプレイヤーたちを捉えていた。


「同じ数字を引いてしまった、または死神カードを引いてしまったプレイヤーは、この死神によって『死刑』というペナルティーをくらいます。方法はその時の死神の気分次第なので、今私が断言できることではありません。が、大体皆さんが想像するもので合っていると思います。」


 エリシエルのその言葉にプレイヤーたち全員の脳内に、ありとあらゆる死刑の方法が浮かんだ。


「い、嫌だ…あれだけは…あれだけは嫌だ。」


「そんな、死ぬ方法すらも運だなんて。」


 恐怖


 会場を覆いつくすのはプレイヤーたちの恐怖の感情。

 だがここでも1人笑っている。


「はは。面白いルールだ。さっさと始めようぜ。」


「そうですね。では最後にゲームでの禁止事項を。他のプレイヤーへの暴力行為、5分以上の遅延行為です。いずれかの行為をした場合でも死神からの死刑が待っています。それとこの会場は特殊な力で覆われていますので、ここから出ようとしても絶対に出れません。それでは始めていきましょう。」


 エリシエルは言い終えると指パッチンをした。するとプレイヤーたちはカードが伏せられている机を囲むように身体を移動させられた。


「カードを引く順番は今私が適当に決めました。まあ普通の神経衰弱と違って順番なんて関係ないのでこれでいいでしょう。それでは最初に引いてもらうのはあなたです。」


 エリシエルが指さしたのは、最初の方にエリシエルに悪態をついていた女プレイヤーだった。


「わ、私?」


「はいそうです。それではこれよりデスゲーム『死刑衰弱』スタートです!」


 ゲームが始まった。


「ちょっと待ってよ!いきなりトップバッター任されて心の準備が出来ていない状態でスタートさせないでよ!」


 女プレイヤーはそうエリシエルに文句を言った。相当焦っているのか、露出が多い恰好をしている女プレイヤーの胸、腹、脚、それ以外の部分から大量の汗が出ていた。

 エリシエルはそんな女プレイヤーを一切見ず、冷静に言った。


「もうゲームは始まっています。先程も言ったように5分以上の遅延行為はルール違反です。カードを引いて助かる可能性に賭けるか、カードを引かずに死ぬのを待つのか、決めるのはあなたです。」


 女プレイヤーは荒い呼吸をしながら伏せられたカードを見る。


「もう決めたわ。引く。引くのよ。54枚の中から同じカードたまたま引いてしまう確率なんてほんのわずかなはずよ。今まで運だけで私は生き残ってきた。私なら大丈夫。」


 女は伏せられたカードの1枚を引いた。


「♡2。2以外のカードを引けばとりあえず生き残れる。」


 そう呟くと女は2枚目のカードを引いた。それは2ではなかった。


「よし!2じゃない。これでまだ…ってあれ…?これって…」


 それを見て笑うコウ。


「初っ端から死神カードじゃねーか。」


 死神カード。それはどんな数字でもその数字の代用として使われてしまう恐ろしいカード。

 

「はああああああああああ!なんで!なんでこの私がこんなカードを引くのよ!おかしい、誰かが私を陥れる為に仕組まれてるのよ!そうに違いない!」


 女は叫ぶ。冷静さを失い、ただ目の前に訪れる死を恐れて。

 

 死神カードを引いたと同時に黒いローブの死神が動き出す。


「ちょっと!来ないでよこの化け物!」


 しかし死神が動きを止めるはずもなく。死神が手を前にかざすと何もなかった空間からロープが現れた。

 その場にいる全員が察する。


「ま、まさか…」


 死神は人の目には見えない速さで女の首にロープを巻き付ける。そして死神は浮かび上がる。


「ちょっとまって、お願い、お願いだから…」


 絞首刑


 女の足が浮く。女は必死に首に巻かれたロープを取ろうともがく。死神はゆっくりと上がっていく。その間も女はもがき苦しんでいる。

 死神は5メートルの高さまで上がったところで浮遊をやめた。女の顔は段々と青白くなっていった。足をバタバタとさせ、声とも言えない音が聞こえる。女の股からは尿が垂れ、地面に落ちる。


 多くのプレイヤーが女から目を背け、耳を塞いでいた。アリスも同様に耳を塞いで別の場所を見た。その目に映ったのはコウの顔だった。

 コウは目を背けることも耳を塞ぐこともせず、じっと女を見ていた。その表情はいつもの恐ろしい笑顔ではなく、何を考えているのかわからない。真顔だった。


 女は血走った目を見開いたまま動かなくなった。

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