死刑衰弱 ルール
そう言って現れたのは、しわ一つない白色の服を着た、肩から羽が生えている天使だった。「氷鬼」の時にいたリリスとは違い、青髪で髪は短めのボーイッシュな天使だった。
「今回進行役を務めさせていただきます。エリシエルです。どうぞよろしく。」
エリシエルは軽くお辞儀をした。
「さて、本題のゲームですが、今回皆さんにやっていただくゲームは『死刑衰弱』です。」
「神経衰弱の間違いじゃないんすかー」
どこからかプレーヤーがエリシエルにそう問う。
「いえいえ、間違えてなどいないですよ。『死刑衰弱』です。」
その物騒な名前のゲームにアリスは少し身構える。
「ダジャレかよ。」
しかし反対にアリス以外のプレイヤーはなぜか笑っていた。
(なんだろうこの違和感。)
「それではルールの説明を始めさせていただきます。皆さんは神経衰弱というゲームをご存知でしょうか?」
エリシエルはプレイヤーたちにそう聞いた。
それに対し、1人の女プレイヤーが答える。
「知ってるに決まってるでしょ。そんなトランプゲーム、誰だってガキの頃にはやったことあるわよ。」
「そうですか、ありがとうございます。他の方もルールを知っているということでよろしいですか?」
再度エリシエルは聞く。すると。
「だから知ってるに決まってんだろ。」
「しつこいぞ天使さん。」
「さっさとルール説明してくれないか。」
などと怒号が飛び交った。
そこでアリスはさっきから感じていた違和感に気づいた。
(ここにいるやつら、もしかして…)
「危機感がないな。」
口にしたのはコウだった。
そうアリスが思っていたのはそれだった。「氷鬼」の時のプレイヤーたちは、気の強い人は確かにいたが、死ぬかもしれないという覚悟や危機感は感じられる人がほとんどだった。しかし今ここにいるほとんどのプレイヤーにはそれらが感じられなかった。
「なんでこいつらはこんなに危機感がないんだ?今からデスゲームをやるんだぞ。」
アリスにはわからなかった。しかしコウは原因がわかっている様子で。
「こいつらに危機感がない要因、それはゲーム難易度に関係している。」
「難易度?」
「ああそうだ。このゲーム、<運>の項目だけが異様に高い。つまりこのゲームに挑むやつは運がいいという自負があるやつばかりだ。そういうやつは、自分は運がいいからこんな所で死ぬはずがないと思うんだ。そして実際そういうゲームで生き残ってきた猛者たちなのだろう。」
「そういうことか。」
(だからこいつらは全員全くの危機感が感じられないんだ。)
プレイヤーたちの怒号を聞き終えた所で、エリシエルが話し始める。
「皆さんルールを知っているようで良かったです。知っているようなので、神経衰弱のルールの要点だけを簡単に説明させていただきますね。」
「だから説明はいらないって言ってるのに…」
プレイヤーたちは小声で愚痴をこぼした。
「神経衰弱のルールですが、伏せられたトランプから二枚を引き、同じ数字ならその二枚を手に入れ、違ったら場に戻す。これが場にカードがなくなるまで行い、最終的に一番多くのペアを持っている人が勝ちというルールでした。」
そう、これは皆が知っている神経衰弱だ。
「そしてここからが今回のゲーム、『死刑衰弱』のルール説明となります。まず神経衰弱と根本的に違う点は同じ数字を引いてはいけないということです。」
「どういうことよ。」
さっきの女プレイヤーが聞く。
「つまり『死刑衰弱』では同じ数字を引いた人間が死ぬのです。」
エリシエルのこの言葉に一瞬狼狽える女プレイヤー。
エリシエルはルール説明を続ける。
「同じ数字を引いた瞬間に『死』です。さらに『死刑衰弱』では、ジョーカーを入れます。しかしこのゲームではジョーカーとは言わず、死神カードと言います。」
そう言いながら、エリシエルはプレイヤーたちに二枚のカードを見せる。
そこには、鎌を持った骸骨が描かれていた。
「ジョーカーを入れた場合の神経衰弱であれば、ジョーカー同士が揃わないといけないルールでしたが、『死刑衰弱』では違います。『死刑衰弱』では、死神カードをワイルドカードとして扱います。」
「ワイルドカードってどういうこと…?」
アリスがそう呟いた。それを聞き取ったのかエリシエル、説明を始める。
「ワイルドカードとは、トランプゲームで他のカードの代用としてジョーカーを使うということです。つまり、『死刑衰弱』で死神カードを引くと、死神カードはそのターン引いた他のカードと同じ数字の扱いになるということです。」
ここに来て会場に危機感が生まれ始める。
「死神カードを引いたら自動的にもう一枚のカードの数字と同じ数字扱いになるってことか?」
「さようでございます。」
「え、じゃあつまり死神カードを引いた時点で一発アウトってこと…」
「さようでございます。」
焦るプレーヤーたちに、表情一つ変えずに答えるエリシエル。
「で、でも制限時間内に死神カードを引かないで、同じ数字を揃えなければ生き残れる。俺の運ならそれくらい楽勝だ。」
「そうよね。それくらいならいけるわ。」
自分に言い聞かせているプレイヤーたち。しかしその思いを打ち砕く人物が1人。
そう、コウだ。
「お前ら本当に馬鹿だな。ここまで聞いてなぜ気づかない。このゲームには制限時間なんて甘いもんは存在しない。」
その言葉に全員がコウに注目する。
「制限時間が存在しないってどういうことだよ!天使だってそんなこといってないじゃないか。」
「まあ確かにそうだな。じゃあエリシエルさん、このゲームの終了条件を教えてくれるか?」
「はい。もちろんでございます。『死刑衰弱』ゲーム終了の条件はゲームが続行不可能になるまででございます。このゲームには制限時間がございません。」
コウ以外のプレイヤー全員の頭に「?」が浮かんだ。
「ゲームが続行不可能?それって一体どういうことだ。」
「そのままの意味でございます。」
「だからそのままの意味ってどういう…!」
感情的になるプレイヤーたちを収めたのはまたもコウだった。
「まあ落ち着け。最初から考えてみろ。まずこのゲームの参加者がなぜ28人だったんだ。こんな中途半端な数、何か意図があるとは思わないか?」
「え、まあ確かに。」
考え始まるプレイヤーたち。それと一緒にアリスも考える。
(28?何か意味がある数字だとは思えないけどな。)
数分経っても誰も答えがでないようだったので、ついにコウが口を開く。
「お前ら本当に馬鹿だな。じゃあ教えてやるよ。このゲームの真意を。」
と言って説明を始めた。
「ジョーカー、じゃなくて死神カード二枚を含めたカードは全部で何枚になる?はいそこの君。」
コウにいきなり当てられた若い男は一瞬フリーズしたが、すぐに答えた。
「54枚だ。」
「正解。じゃあ次、54枚使った神経衰弱では数字のペアはどれだけ揃う?はい君。」
「えっと~…54割る2だから…27ペアか。」
「はい正解。で。この会場には何人いる?はい君。」
当てられたのはアリスだった。
「…28人だ。」
「馬鹿なお前らでももう気づいたんじゃないか。27ペア揃う。これはつまり27人死ぬってことだ。そしてプレイヤーは全員で28人ってことはつまり?」
そのままアリスが答える。
「この中の1人しか生き残らない。」
「正解だ。ゲーム続行不可能、これはつまりプレイヤーが1人だけ残り、引くカードが無くなってしまうことを意味する。」
この瞬間には、会場に危機感がない人間など存在していなかった。
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