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コイントス 結末

「ど、どういうこと⁉」


 アリスは自分の目を疑った。


「そんなはずはない。だって間違いなくお前は右手で取ったはずだ!」


 コウに激しく詰め寄るアリス。しかしコウは不気味に笑いながら言う。


「醜い負け惜しみだな。」


「うるさい!もう一回だ!次こそは私が勝つ。」


 と言ったところでアリスは思い出す。


「もう一回はないと言っただろ。」


「そ、そんな…」


 今までのアリスだったらここで引き下がっていただろう。しかし「氷鬼」を経て、アリスは少し考えるということを身に着けた。


(まだだ。まだ諦めちゃだめだ。考えろ、コウは間違いなく右手で取っていた。これには何かカラクリがあるはずだ。)


「そうだ!左手から落ちたコインが偽物だったんだ。」


 アリスは慌てて床に落ちているコインを拾い、じっくりと見る。しかし。


「最初に見せてもらった記念のコインと一緒だ…」


 アリスの推理は外れていた。


(というかそもそも左手のコインが偽物だったとしても、右手も同時に開いていたんだから右手からコインが落ちてこなかった時点でこの推理は破綻していたんだ。)


「わからない…もう私の負けだ…」


 アリスの頭ではもうこれ以上の答えは浮かばなかった。

 落胆するアリスを見てコウは、笑いながら言う。


「そうか。じゃあこれでお前の特訓は終わりだな。」


「ああそうだな。それで今のゲームで私の特性、長所と短所、どのようなことがわかったんだ?」


「まずお前の長所だが、これは自慢できることだ。デスゲームでもこれは活きる。」


 少し間を開けてコウ。


「お前の長所、それは運の良さだ。」


「は?」


 思いもよらぬ答えだったので、アリスは気の抜けた声を上げた。


「運…だと?」


「そうだ。運だ。だがこれはとても重要なことだ。俺がお前の運の良さに気づいたのは『氷鬼』の時だ。あの時はおかしかったよ。なぜなら、いくらゲーム会場の屋敷が広いとはいえ、自分で会いたいと思うまで鬼に出会わな過ぎた。これはお前の運が良すぎたからに他ならない。」


「言われてみればそうかもしれない…」


「だから俺は今回のゲームで試すことにした。それは本勝負の前にやった六回のコイントスだ。あれに関しては俺は何も仕掛けをしていないがお前は六回連続で二分の一を当てた。これは約1.56%の確率だ。」


(私ってそんなに運良かったんだ。言われてみれば幼少期からじゃんけんだけは強かったような気がする。あの無意味だと思ってた練習にそんな意味があったなんて…ってちょっと待てよ。)


「あれに関しては仕掛けをしてないってどういうこと?ってことはつまり最後にやった勝負では仕掛けをしてたってことになるじゃないか。」


 コウは何を当たり前なこと言っているんだ、というような顔をして言う。


「そりゃそうだろ?」


「じゃあお前の勝利にはカラクリが…」


 アリスは悔しかった。仕掛けがあることはなんとなくわかっていた。しかしそれが何かわからない。自分の力では見抜けない、そんな自分が悔しかった。


「それがお前に短所だ。」


「私の短所?」


「そうだ。お前の短所は、頭が悪いということだ。」


 幼少期からアリスが散々言われてきた言葉。家族にも使用人にも、周りの人間全てに言われてきた言葉。まさかここでもそれをはっきりと言われるとは。

 しかしアリスは怒る気にもなれなかった。もうそれを認めるしかなかった。


「お前の頭の悪さは噂程度では知っていた。アークライト家のアリスは頭が悪い、とな。しかし実際に『氷鬼』や日々の言動を見て、噂よりもっとひどいもんだと思ったよ。だから最後に試そうと思った。今回のコイントスでな。結果は見ての通りだ。」


 アリスは情けなくなってきた。なぜここまで言われなければならないのだろうと。


「特訓はこれで終わりだ。さあ、転生者の情報を教えろ。」


「ちょっと待って!」


 情けなくなると同時に、アリスはこのままではいけないと思うようになった。今まで馬鹿だの頭が悪いだの言われてきていたが、それを受け入れて成長しようと思った。


「コウが最後のコイントスで何をしたのか教えてくれ。」


「そんなこと知って何になる。」


「弱い自分を知らなくちゃいけない。」


 アリスはコウのよどんだ瞳を強く見つめる。


「いいだろう。」


 コウは自分が何をしたのかを話し出す。


「仕掛けといってもタネはシンプルだ。俺は両手にコインを持っていた、ただそれだけ。」


「え?それだけ?じゃあ投げたコインはやっぱり右手で取っていたの?」


「その通りだ。答え合わせの時は両手を開いて左手のコインだけを落とし、あたかも左手が正解かのように見せたわけだ。」


「でも左手から落ちてきたコインは最初に見せてもらった記念コインだった。あれは貴重で、コウも一枚しか持ってないって言ってたじゃないか。」


 この言葉を聞いたコウは笑う。


「お前本当に馬鹿だな。これから真剣勝負をやる相手の言葉全て信じるなんてな。」


 そう言うとコウはポケットに手を入れ、何かを取り出す。出てきたのはコイントスで使った記念コインだった。


「俺はこのコインを二枚持っていた。」


 アリスはさっき床から拾ったコインとコウが持っているコインを見比べる。


「全く同じだ…」


「まあ嘘を鵜呑みにしてしまうのもわからなくはない。なんせ貴重なコインだ。普通はそんな何枚も持っているとは思わないよな。」


(私は左手のコインが偽物だと推理していた。その推理は大体あっていたのか…)


「で、でもおかしいことはまだある!コインを持っていたはずの右手を開いていたけどそこからコインが落ちてくることはなかった。これはどういうことだ!? 」


「ああ、そんなこと。」


 そう言ってコウは手に持っていたコインを手にギュッと押し付ける。


「このコイン、銅とニッケルで作られているんだがこういうコインは手に押し付けると案外くっつく。手汗をかいていればなおさらな。」


 コインが押し付けられた手のひらを地面に向けてもコインは落ちてこなかった。


「十数秒なら落ちることはない。俺はお前の動体視力が優れていると考えた。だからお前は俺が右手で取っていることを見抜くと考え、最初に右手だけ手汗をかき、キャッチしてから強く握りコインを手のひらにくっつけた。反対に落とす予定の左手のコインは軽く握り、手にくっつかないようにした。」


「私の動体視力のことまで考えて今回の勝負を仕掛けたなんて…しかもそれを一瞬で考えたなんて…」


「いや、別にこんなことはすごくない。なぜなら普通の人間ならすぐに見破れる。だからお前以外にはこんな勝負仕掛けられない。絶対に右手で取ったと思ったのに出てきたのは左手だった。こんな状況だったらお前以外の人間は普通、最初に俺の右手を確認するんだよ。だがお前はそれをしなかったから俺は右手にコインを隠すすきができたんだ。」


「確かにそうだな…」


 アリスは自分の愚かさを痛感し、そして噛みしめる。


「私はこの程度の人間だったのか。こんな私がデスゲームで転生者を殺すなんてできるのだろうか…」


 自分の弱さを受け入れたことでいいこともあった。しかし逆に自分に自信がなくなってしまったアリス。そんなアリスを見てコウは言う。


「おいおい、何を落ち込んでいるんだ。なんの為の特訓だと思っている。今回の特訓で確かに短所は見つかったが、逆に長所だって見つかっただろ?」


「運がいいということか?」


「ああそうだ。お前は運がいいということを軽視しているようだが、運がいいということは時にはとんでもなく頭がいいというやつにも勝ることはある。それにお前は運動神経もいい。デスゲームでは<技>、<運>の難易度が高いゲームで有利になれるんだ。<知>のゲームができないだけで落ち込むんじゃない。」


「コウ、お前私を慰めてくれているのか。」


 アリスのこの言葉をコウは鼻で笑う。


「そんなわけないだろ。俺の前でデスゲーム以外でこんな惨めな姿を見せられたくなかっただけだよ。」


 その言葉にアリスは少し元気を取り戻した。


「これで本当に特訓は終わりだ。今度こそ転生者の情報を喋ってもらうぞ。」


「そうだな。私が持っている転生者の情報だが…」

読んでいただきありがとうございます

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