思わぬ来客
デスゲーム「氷鬼」を終えた翌日、コウは、デスゲームで稼いだ賞金で買った屋敷で過ごしていた。1人で住むにはかなり大きな屋敷。二階建てで部屋は12個もある。だがその部屋のほとんどを使うことなく、普段は30畳もあるリビングか12畳ほどの書斎にこもっていることがほとんどだ。
しかしこの日は、連日のデスゲームの疲れを取るためか、台所でコーヒーを入れていた。豆をひき、湯気が立ち、部屋全体にコーヒーの香りが広がる。
コーヒーが出来上がると書斎に入り、大量の本に囲まれながら、本を片手にコーヒーをゆっくりと味わった。
なんの予定もなく、ただひたすらにその日を満喫していた。
「うん。いい味だ。」
だがこの素晴らしい日常を壊す不快な音が。
ドンドンドンドンドン
屋敷の扉を力強く叩く音。
コウの眉間にしわが。だがコウはそれを無視してコーヒーを飲みながら読書を続ける。
するとまた。
ドンドンドンドンドン
同じリズムで扉を叩く音が聞こえてくる。かなり力強く叩いているようで、ものすごく大きな音が屋敷中に響いていた。このままでは扉が壊れそうだ。
だがそれでもコウは無視を貫いた。すると案の定。
ドンドンドンドンドン
三回目になり明らかに扉を叩く音が強くなっている。
これにはさすがのコウも。
「さっきからうるせえな!」
コーヒーと本を机に置き、部屋から出て階段を下り、扉へ向かう。
扉にたどり着いた瞬間にも、扉を叩く音が。
ドンドンドン…
扉が叩かれている途中でもコウはそのまま扉を開く。開いている途中で、叩いていた人物に扉が当たったようで、ドンという鈍い音が聞こえた。
「おい!誰なんだ。さっきからしつこいぞ!」
コウの視線の先には扉がぶつかったおでこをすりすりさすっている1人の女が立っていた。
「お前は…」
「やあ。昨日ぶりだなコウ。」
女は艶やかなブロンド髪を手で払いながらそう言う。
「アリス・アークライト。」
コウの屋敷を訪ねてきたのは、昨日のデスゲームでコウが散々利用しつくし、命の危機にさらした女。アリスだった。
「なんのようだアリス。俺は昨日、強くなってから出直してこいと言ったはずだぞ。いくら何でも来るの早すぎだろ。ていうかどうして俺の家知ってるんだ。」
「アークライト家の力をなめてはいけないよ。誰がどこに住んでいるのを知ることなんてお茶の子さいさいだよ。」
どや顔で言うアリス。コウはそのまま扉を閉めようとした。
「ちょっと待って!何で閉めるの。」
アリスは自慢の馬鹿力でそれを止める。
「くそ、相変わらずなんて力してやがる。」
コウもこれには思わず愚痴を漏らす。結局コウは扉を閉めることを諦め、アリスの話を聞くことにした。
「で?なんのようだ。」
「こんな所で話すのもなんだな。屋敷の中で話そうじゃないか。」
「おい、その言葉を言うのは俺だぞ。」
「まあまあ。」
「はぁ…俺の休暇が…」
コウはアリスを屋敷に上がらせた。
「コーヒーが冷めるから書斎でいいか?」
「客間はないのか?」
「あってないようなもんだ。」
「そうか仕方ない。書斎でもいいぞ。」
「お前客の立場だろ。なんでそんな偉そうなんだ。」
アリスの根っからのお嬢様っぷりにコウはため息をつく。
書斎に入るアリスとコウ。そして書斎を見てアリスは驚く。
「思ってよりも本が多いな。こんなにあって死ぬまでに読み切れるのか?」
「読み切れるだろ。お前普段本読まないな?だから馬鹿なんだよ。」
「うるさいな。」
「で?本題はなんだ?」
「あ、そうだった。」
ぼけーと書斎を見渡していたアリスはコウに言われ用事を思い出したようだった。
「単刀直入に言おう。私を強くしてくれ。」
「は?」
アリスの発言に思わずそう声が漏れるコウ。
「強くするってまさかデスゲームでってことか?」
「もちろんそうだ。」
「おいアリス、お前昨日俺をデスゲームで殺すって言ってたよな。それなのにその殺したい相手に協力を求めるのか?」
「その通りだ。それの何がいけない。」
「こいつ思っていたよりも馬鹿だった。」
その後アリスの話を聞いたコウはさらに呆れる。
アリスの話をまとめるとこうだった。アリスはデスゲームでコウに復讐をしたい。その為には強くなる必要があった。だがアリス1人ではどうやって強くなるのかやり方がわからなく、手段も思いつかなかった。だからアリスが知る中で一番デスゲームが強いコウに自分を強くしてもらおうと頼んだ、というものだった。
「なんでそんな面倒を俺がしなくちゃいけないんだ。」
「頼むよコウ。私あと一か月以内に転生者を殺せなかったら家を追放されちゃうんだよ。」
「だから俺がお前に協力してやる義理はないだろ。」
「はぁそうか、それなら仕方ない。」
「やっと諦めてくれたか。」
アリスが諦めてくれたと思ったコウは安堵した。しかしアリスは予想外の行動をする。
なんと着ていた服を脱ぎだしたのだ。
「ちょ、おい何してんだアリス。」
白い布で覆われた豊満な肉体をあらわにしているアリス。胸はほどほどに大きく、腹筋はバキバキに割れている。女性特有の柔軟な部分もあり、見とれてしまいそうな体つきだった。
そしてアリスは少し顔を赤らめながらこの行動の説明をしだした。
「昨日お前、私の胸を触っただろ?つまりお前は私をそういう目で見ているってことだ。だからお前にお願いをするときの最終手段として私は身体で払おうとしているのだ。」
「まじかよ…」
「光栄に思え。私の身体に触れることなどほとんどの人間はできないぞ。」
「いや、服を着てくれ。」
冷静に言うコウ。
「なぜだ嬉しくないのか?昨日は触っていたじゃないか?」
「昨日のは何も気づいていなかったお前にヒントを上げるつもりでやったやつだ。ほぼいたずらみたいなもんだよ。それに俺はお前をそういう目でみていない。お前のようなオスゴリラ。」
上半身ほぼ裸のまま、アリスは燃えるように怒っていた。
「よくもこの私に恥をかかせてくれたな。」
「恥をかかせたっていうか、お前が勝手に脱いだだけだろ。」
コウの言葉はアリスの耳には届いていなかった。
「それになんだオスゴリラって。ゴリラという存在は知らないが、ド級の悪口だってことだけはわかるよ。」
「まあ確かにそれは悪口だな。」
「許せない!」
アリスはそう言ったあと拳を強く握り、コウを思い切り殴った。コウはそれを避けることなく顔面で受けた。衝撃によりコウの頭は少しのけぞったが、ダメージは一切ないようだった。
「殴りたいなら好きに殴ればいいさ。でもな、俺にデスゲームのルール以外でダメージを負わせることは不可能だ。」
アリスもそれを知っていたが、それでも怒りを抑えきれずに殴ったのだった。
「くそ、転生者の特権。もどかしい。」
「それがわかったならさっさと服着て帰ってくれ。」
アリスはコウに言われると脱いでいた服を着始めた。
「わかったよ。帰るよ。私の身体で払う作戦、うまくいくと思ったんだけどな。」
「そんなのうまくいくわけないだろ。もう二度と来るなよ。」
ぼそぼそ喋りながら書斎の扉に向かって行くアリス。
「はあ、他の転生者の情報を教える作戦もあったんだけど、正直これもあんまりだよな。」
最後にアリスが言った言葉、それをコウは聞き逃さなかった。
「おいアリス、ちょっと待て。」
「え?何?」
完全に帰る気でいたアリスは引き留められて驚いていた。
「お前、他の転生者の情報を持っているのか。」
「うんまあ。昨日コウとのゲームが終わって、家に帰ってから転生者の情報はあった方がいいなと思ってアークライト家にある情報を片っ端から見てみた。そしたらいくつかそれらしい情報が見つかった。」
棚から牡丹餅展開にコウの表情は明るくなる。さっきまで服を脱いで間抜けな姿をさらしていた女からこんな情報が聞けるとは。
女神が送り込んだ、コウのような野心に満ちたデスゲームの強者。コウはそいつらとの戦いを待ち望んでいる。
「なぜそれを早く言わなかった。」
「え、まさか私の身体よりもそっちの方が重要だったってこと?」
「当たり前だろ。というかこの世のほとんどのことはオスゴリラの身体より重要だよ。」
アリスは二度目のオスゴリラ発言にまた拳が出そうになったがそれを抑えた。
(今ならいける。)
「それなら都合がいい。他の転生者の情報を教えてやる。その代わり、私をデスゲームで強くしろ。」
コウの答えは決まっていた。
「いいだろう。俺がお前を強くしてやる。」
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