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無敵の男

 2030年、世界ではテクノロジー産業の発展がすさまじかった。

 日本も例外ではなく、ありとあらゆる技術が発展していった。そして発展しすぎるが故の弊害があった。それは民間企業の財閥化である。これにより日本では貧富の差が顕著となった。その上普通に働いて暮らしていけない者まで現れた。


 そんな状況をおもしろがった一部の金持ちたちは、とあることを始めた。

 それが「デスゲーム」である。彼ら金持ちは死んだら負けのオリジナルゲームを多く考案し、ゲームに賞金をつけ、金がないものたちにやらせた。


 当然初めの内は国が止めていたが財閥はついに国家よりも力をつけた。これを機にデスゲームは一般化した。デスゲーム鑑賞は飢えた金持ちたちの心に刺激を与え、金がない者は生きていくために必死に縋り付いた。


 そんな時1人の青年が現れた。男の名は四宮コウ。年は二十代前半、ぼさぼさの黒髪、鋭い目つきをした愛想の悪い男。常に黒のコートを着ておりつかみどころがなかった。

 しかし四宮はデスゲームにおいては最強だった。どんなに難しくても、どんなに自分に不利でも、どんなに過酷でも、四宮は負けることがなかった。

 四宮はデスゲームについてこう語っていた。


「デスゲームをクリアする上で何が重要か教えてやろう。まず一つ目、身体能力だ。金持ちたちは貧乏人が必死に走って汗を流し這いつくばる様が大好きなんだ。だからゲームでもそんなんばっか出る。その為には身体能力が重要だ。二つ目、次に重要なのは頭脳だ。身体能力でクリアできても頭を使わないとどうやったってクリアできないゲームも存在する。そして三つ目、これが一番重要といっても過言ではない。それは運や直感だ。デスゲームには身体能力や頭脳だけではどうにもできない場面が出てくる。そんな時最後に頼れるのは自分の運と直感だけだ。」


 時は経ち

 都内某所でとあるゲームが行われていた。

 四畳半の全面ガラス張りの部屋に1人の男が立たされていた。この男こそ四宮コウである。

 主催者は財閥子会社の社長とその秘書。ゲーム内容はガラスの部屋の中にある三つのレバーのうち一つを引いて生き残れたら四宮の勝ちというもの。当然レバーには仕掛けがあり、レバーはそれぞれ細い管に繋がれており、三つの管の先端だけ部屋に入っているという状況だ。そしてその内二つの管には毒ガスがあり、外れのレバーを引いてしまえば部屋に毒ガスが充満し挑戦者は死ぬ、というもの。


「要は三分の一で当たりが引けるくじ引きってことね。」

 

 挑戦者の四宮は呟く。

 一度部屋に入ってしまったら当たりレバーを引かない限り部屋から出られない。

普通の人間であればその時点でパニックになってしまうが四宮は動じていない。


 その状況をモニター越しで2人の男が見ていた。


「この男、中々やるようだな。」


 主催者の山口。


「ええ、彼はデスゲーム界では無敵の男と呼ばれている四宮コウですからね。」


 と山口の秘書平山。

 平山の言葉を聞いた山口が笑いながら、


「それならなおさらおもしろい。無敵の男が毒ガスで苦しんでいるところを拝見させてもらおうじゃないか。」


(どうせそんなような会話してるんだろうな)


 2人の会話は四宮には聞こえていないが四宮は山口と平山の会話を勝手に想像しながら苦笑いを浮かべた。


「まあそんなことはどうでもいい。俺がやることは一つだけ。」


 四宮はそう呟くと三つのレバーとレバーの下についている三つの管を見つめた。


「確か、レバーの下にある管がそのレバーと対応してたんだよな。」


 そう言いながら四宮は一歩も動かない。


「はっは、四宮のやつビビってるんじゃないのか。」


「そうかもしれませんね。くっく。」


 モニター越しでその様子を見ていた山口と平山は笑う。


「私の勝ちは決まったか。正解を教えてあげるよ。当たりのレバーは真ん中だよ四宮くん。こういう場面で人はなぜか真ん中を選ばないもんなんだよ。はっはっは。」


「社長、その声は四宮には聞こえていませんぞ。くっくっく。」


 止まらない笑い。その中でモニターの四宮がレバーに手をかけていた。


『真ん中だろ。おっさん。』


「は?はああああなんでわかるんだよ!?」


 四宮はこの山口の問いが聞えているかのように答える。


「勘だな。三分の一だ。当たっても別に不思議じゃないさ。」


 山口の顔は真っ赤になっていた。


「おい平山、向こうの部屋と声をつなげ!」


「ですが社長…」


「いいから早く、奴がレバーを引く前に!」


「わかりました。」


 平山は近くにあった機器を操作した。


「準備できました社長。」


 その言葉を聞いた山口は慌ててモニターに向かって叫ぶ。


「おい四宮正解は真ん中じゃないぞ。お前は間違っている。」


「あれ?会話出来るんじゃんおっさん。」


 四宮は不気味な笑みを浮かべている。山口はその笑みに潰されそうになったが声を振り絞った。


「本当に真ん中でいいのか?」


「なあおっさん、なんであんたは今更になって正解を教えようとしてるんだ?あんたは挑戦者の死が見たいんじゃないのか?」


「いや、いつもはそうなんだが君のような有能な人間は私の会社で働いて欲しいと思ってね。君なら通常の給料の10倍で雇ってあげよう。」


 無理のある言い訳だと山口本人もわかっていた。だがこれしかなかった。


(くそ、私の負けか…)


 そう思った山口だったが四宮は思わぬことを口にした。


「いいよ。信じるよあんたの言葉。」


(かああああああ!バカでよかったああああああ!)


 山口は心の中でそう叫んだ。


「そうかありがとう。本当の当たりレバーは左だ。」


 四宮は何の疑いもなく


「了解。」


 と言った。


(これで無敵の男、四宮コウの死に様が見れる。)


 四宮は左のレバーに手をかける。そしてレバーを下に降ろそうとした時に手を止めた。


「どうしたんだ四宮くん?」


「いや別にあんたのこと疑ってるわけじゃないんだけど確認したいことがあってね。」


(くそが、早くしやがれクソガキ)


「ああ、構わないよ。」


 山口は怒りを抑えながら優しい声で答えた。


 四宮が何をするのかと思えば管の中を丁寧に観察しているだけだった。


(何をしているんだこのバカは。さっさと左のレバーを引け。)


 四宮の様子を見てイライラしていた山口だったが、隣に座っていた平山が突然


「し、しまった。」


と小さな声を漏らす。


「なんだ平山。」


 強い口調で平山に圧をかける山口。


「私たちはずっとあの部屋をゲームに使ってましたよね。」


「ああそうだ。」


「ずっと真ん中のレバーと管のセットを毒ガスのでない当たりにしてましたよね。」


「だからそうだって言っているだろ!何がいいたいんだ。」


 平山は唾をゴクリと飲み込み言葉を口に出そうとする。

 しかしその前にモニターの中の四宮の声が聞えた。


『あ~やっぱりおっさん嘘ついてたね。当たりレバーは真ん中だ。』


「な、なぜわかったああああああ!」


 山口は冷静さを忘れ叫んだ。


「簡単なことだよ。真ん中の管だけ綺麗だった。」


 この説明だけでは山口は理解できなかった。


「ど、どういうこと?」


「仕方ない、1から説明してやろう。左右の管の内部は錆びてボロボロだった。だが真ん中のだけは綺麗だった。これはなぜか、それは毒ガスが通ったことによって金属の管が錆びてしまったんだ。毒ガスが出る管を毎回シャッフルしていればこうはならなかったがお前たちはそれをしなかった。そこに隙が生まれた。」


 山口は開いた口がふさがらなかった。まさか自分がそんな初歩的なミスをするなんて、と。


「俺の直感が真ん中が正解だと言ってる上にさらにこんなわかりやすい目印がついてるんだ。つまり真ん中のレバーを引いても毒ガスはでない。」


(そ、そんな~~~)


 山口と平山の完全敗北だった。


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