末
目を覚ますと家だった。リオンが泣き疲れた目で私の腕で寝ていて、セルは私の手を握りながら眠っていた。寒い季節だというのに。毛布を肩に掛けようとして、手を放そうとすると、ぱっと目を覚ます。
「ラニ、」
「身体は大丈夫か?」
「何処も痛くありませんよ。セルが助けに来てくださったんですね」
「あぁ、当然だ」
視線が合っていつものようにキスをされそうになるから、手のひらでそれを止めた。
「ま、マリーさんや、アレン様は?」
「お前に危害を加えたんだ。生かしては置けない」
「マリーさんは、セルの」
「お前の未来視を見た」
「っ……、では、な、何故マリーさんを?私は、セルの本当の幸せを」
手のひらを無理に剥がされてキスされる。病み上がりだというのにセルはお構いなしに私をベッドに押し倒した。
「ん……、まま、ぱぱ?」
「「ッ!?」」
「わっ、ちゅーしてる!僕も、ママにちゅーする」
「お前最近色気づいてるからママにちゅーすんな」
「やだっ、パパ邪魔」
この私の今までの人生で一番大事な話をしているときに、リオンがぐずってそれどころではなくなった。何とかあやして、落ち着くのに2時間もかかって、2人の間にリオンは落ち着いた。
「お前は何であの日、マリーたちを殺すのを止めた?」
「っ……それは、自分の幸せのために、セルの幸せを奪ってしまった事実が怖くて」
己のあまりに自己中心的な考えで、セルを孤独の独裁者にしてしまったこと。それはあまりに知られたくない事実だった。
「ラニの幸せはなんだ?」
「セルの、愛を独り占め、することです。この世界を滅ぼしても、貴方自身の幸せを奪っても、セルに愛されたかった」
伏せた顔をあげることができなかった。なんで本当の未来を知ったセルがマリーを殺し、ここにいるのかわからなかった。
「顔を上げて」
そう言われても怖くて顔を上げられなかった。
「お前が俺のために死んでくれるといったとき、俺を愛してくれる人間がいると知った。お前がルキを刺したとき、俺に生きていてほしいと思う人間がいるんだと知った。お前が毒を盛られた日、殺しまくって血まみれの俺を見て、安心して眠れると笑った。ラニだけだ。俺の人生を褒めて愛して受け入れてくれるのは」
下から顔が覗かれて、溢れた涙を見て笑われる。
「私も、マリーさんのように、セルの本当の幸せを示したかった。そんな正しい人間でありたかった」
「うん」
「でも、セルが好きで、全部好きで私のすべてで。セルがしてくれるすべてが、うれしかった。セルが私のためにたくさんの人の命を奪っても、うれしいとしか思えなくて、大好きで、マリーのようになれなくて」
ぐちゃぐちゃに泣いた顔に笑ってキスされる。
「俺もラニの全部が好きだよ」
「ッ……、」
「愛してるって言って」
マリーが死んだ。その事実は。いわれもない安堵だった。どうしようもなくうれしくて、そんな自分がたまらなく嫌いだった。
「せ、セルの、全てを心から愛しています……貴方のおかげで、安心して暮らせます」