第四話
エインは身内に、特にチャムにはベタベタに甘いのだが。
その能力に関して、過小評価するようなことは一切なかった。
チャムに武器を持った連中が襲い掛かっても、傍観していたのはそのためである。
エインに言わせれば、あの程度の連中はチャムにとってダンゴムシと同じ程度の危険度しかない。
例えば幼い妹がダンゴムシを眺めていたとして、それを「危ないっ!」とか言い出すものはなかなかいないだろう。
精々、摘まみ上げて口に入れようとしたら止める程度だろうか。
チャムは襲ってきた連中を食べようとはしなかったので、止める理由もなかったのだ。
それでも普通なら、武器を持った連中が妹に近づいて行ったら、止めるモノだろう。
残念ながらエインは、普通とは若干異なる感覚の持ち主なのである。
そんなエインが、目の前の光景に頭を抱えていた。
「ホンマなんかいっ!! いや、普通こういうのは盗賊とかの逃げ口上じゃろっ! 誰もマジじゃと思わんじゃろうが!」
エインは目の前にいる人々。
痩せて、汚れた格好をしている女性と子供、怪我人や年寄り達の視線も気にせずに、苦悶の表情で大声を張り上げた。
あまりに大きな声なので怯えられているようなのだが、今はそれどころではない。
「なんでお前、本当のこと言うんじゃぁ! こういうのは誤魔化したりするもんじゃろうが!!」
「本当のこと言わなかったら殺すっていうからっ」
青ざめた顔で答えたのは、魔法で作り出したロープでふんじばられたコンランツである。
エインは素早く襲撃者の中からリーダー、つまりコンランツを見つけ出し、比較的穏やかに質問をした。
内容としては、「今からする質問に嘘を吐くたび、同行者の手足をもぐ」というものだ。
自分が痛めつけられるよりも、仲間を大切にしているらしいコンランツの性質を見抜いての事である。
もちろん、本当にもぐつもりなど毛頭なかった。
弟と妹の教育に悪いからである。
もしエインだけの時に襲われていたら、もいでもよかったのだが。
所詮、「たられば」の話だろう。
「にーちゃーん。いくら何でも理不尽だよ。自分でホントのこと言え、って言ったんじゃない」
「じゃがな。女子供や怪我人年寄を抱えておるんじゃぁ、殺さないでぇ! などと言うのは、どう考えても舌先三寸の命乞いじゃろう! 何で本当に女子供と怪我人年寄を抱えておるんじゃぁ!」
エイン達がいるのは、森の中ほどにある少し開けた場所であった。
あまり人が立ち入らないその場所で、コンランツ達はキャンプを張っていたのである。
キャンプといっても、テントなどがあるわけではない。
地面に敷物と、急ごしらえの竈がある程度だ。
「うごける人みんなでおそいに来た。っていってたじゃない。で、うごけない人とか、戦えない人はここにいるって」
キールの言葉に、エインは顔をしかめながらもう一度周りを見回した。
なるほど、確かに残って居るのは動けず、戦えない者達だけなのだろう。
皆、怯えた様子でエイン達を見ている。
それも仕方ないだろう。
何しろエイン達は、コンランツ達を魔法のロープでふんじばり、引きずりながらやってきたのだ。
彼らからしてみれば、恐怖でしかない。
怯えた視線、不安げな表情、中には明らかに恐怖で引きつり、すすり泣いているものまで居る。
エインは思い切り顔をしかめた。
「どーせ仲間の所とかに連れて行ってわしらをハメようとするに決まっておると思っていたというのに! 何でマジでこんな感じになっとるんじゃぁ!」
エインの出した大声に、コンランツ達は体を震わせた。
ふんじばった人間十数人を、一人で引きずってきた相手である。
見た目は子供だが、この場の誰一人として「普通の子供」として認識していなかった。
「どーするの、にーちゃん」
「どうせ罠を張っておるじゃろうから、それを食い破って全員ボコボコにするつもりだったのじゃが。コレでソレをやったらわしの方が究極で完璧なヒールになってしまうわい」
「そーゆーものなの?」
「そーゆーものなんじゃ。大体にして、わしは自分勝手でやりたい事やったもん勝ちじゃとは思っておるが、人の心が無い残虐非道なゲス野郎だと思われるのはご免なんじゃ。何しろわしってば心優しく穏やかで、善の心が固まって出来上がったような人間じゃから」
キールは「なにいってんだにーちゃん」と思ったが、口には出さなかった。
思っていても口にしない程度の優しさが、キールにもあったのだ。
「はぁーっ! 仕方ないのぉ。とりあえず、チャムを母上に預けに行くしかないようじゃな」
「チャムを? なんで?」
「危険だからじゃ」
無論、チャムの身に危険が及ぶかもしれない、という意味では全くない。
チャムに危害を及ぼそうと思ったら、何かしらの兵器とかを引っ張り出してこなければならないだろう。
キールはいかにも不思議そうな顔で、首を捻るのであった。
チャムをおんぶして、エインは飛んで家へ戻った。
飛んで、というのは比喩ではない。
エインがその気になれば、魔法である程度の飛行が可能なのだ。
といっても、ある程度術式を練り上げる必要があり、とっさの時の発動などは難しい。
だが、ある程度準備をして発動すれば、これほど便利な魔法も少ないだろう。
難点としては、術式がしこたま難解であり、覚えるのにも発動させるのにもかなりの練度と才能を要するという所だ。
チャムを母親に預け、コンランツ達の所に戻ってきたエインは、ブンブンと腕を振り回した。
「さて、まずは治療からじゃな。と言ってもわしに出来るのは回復魔法だけじゃし、医療行為の専門家でもないわけじゃが。まぁ、どうにでもなるじゃろ」
生まれ変わる前、エインは興味を持ったものに片っ端から手を出していた。
回復魔法も、その一つである。
「このわしがナンバーワンじゃぁあ!!」
エインが大振りに手を振るうと、そこから光の粒子が飛び散った。
その一つ一つが、怪我をした者へと飛んでいく。
目の前まで来ると、粒子はベールのように薄く広がり、一人一人を包み込んだ。
すると、見る見るうちに怪我が塞がっていく。
外傷はないものの、ずっと苦しそうな顔をしていた子供なども、その表情が和らいでいた。
「怪我のついでに、軽く病気なんかも治しておくかのぉ。いや、ぶっちゃけこれで治ったかどうか知らんけども。どうにかなるじゃろう」
エインは興味がある事以外に関しては、かなりアバウトな性格なのである。
「よし、皆大体治ったじゃろ。そうしたら、動ける連中。お主らはわしに付いてくるんじゃ」
そういうと、エインは指をパチリと鳴らす。
すると、コンランツ達を縛っていた魔法のロープが、空気に溶けるように消えてしまう。
突然自由になり、皆困惑した様子である。
一人、比較的冷静だったコンランツが、エインに顔を向けた。
「どこに、行くんだ。いや、どこに、行くんですか?」
「うむ。ちょっとモンスターを捕りにのぉ」
よく言われていることだが、いわゆる「モンスター」と「動物」の差は、特にないとされていた。
その地域に住む人が危険だと思えば「モンスター」などと呼ばれ、そうでもないと思われていれば「動物」と呼ばれる。
よって、ここでは「モンスター」に分類されるが、別の場所では「動物」に分類される、などと言うものも少なくなかった。
今エインの前で威嚇の声を上げている「オオキバシシ」も、その類である。
見た目は巨大な猪、といったもので、地面から体の一番高い位置までで、大体2mほど。
頭の先から尻の先までは、4mはあるだろうか。
これでおおよそ平均的な大きさで、性格はいたって獰猛。
縄張りに侵入した大型の動物に対しては、容赦なく攻撃を加える。
人間にとっては非常に残念なことに、その「大型の動物」には人間も含まれていた。
オオキバシシは雑食であり、普段は地中に埋まった植物や、木の実、キノコなどを食べている。
だが、時には縄張りに侵入した者を倒し、喰らうこともあった。
その巨体と、二本の大きな牙。
さらに、額からまっすぐに伸びた剣のような角で獲物を引き裂き、捕食するのだ。
とはいっても、好んで肉食をするようなことはない。
縄張りに入りさえしなければ、イモやら木の実、キノコなどを食べている、比較的安全な部類の生き物である。
そのためか、エインの住む辺りでは「動物」ということで通っていた。
「まあ、動物にも危険な奴はおるわけなんじゃけどもな」
凶暴な雄叫びを上げ、オオキバシシが足で地面をえぐりながら、エインに向かって突進していく。
エインは特に慌てたりもせず、真上へ飛んだ。
数mの高さまで一気に上昇すると、先ほどまでエインがいた場所を、オオキバシシが通過していく。
その瞬間を見逃さず、エインは軽く腕を振るった。
「コレがわしの自慢の一撃じゃぁあああ!!」
放たれた光の刃は、狙いたがわずオオキバシシの首に達する。
そして。
さしたる抵抗もなく、そのまますっぱりとオオキバシシの首を切断した。
エインは体を回転させ、崩れ落ちたオオキバシシの隣に着地を決める。
「わしにかかれば、動物だろうがモンスターだろうがイチコロじゃわい」
「うわー! にーちゃん、すっごいなぁー!」
エインとオオキバシシから、少し離れたところ。
木陰に隠れていたキールは、両手を叩いて嬉しそうな声を上げた。
完全に恐怖に引きつった顔をしているコンランツ達とは、雲泥の差である。
エイン達がいるのは、村から少し離れた森の中。
動物やモンスターの領域で、立ち入るときは気を付けるように、と領主から触れが出されている地域である。
「以前から、このオオキバシシには目を付けておってのぉ。いつか狩ってやろうと思っていたのじゃが、事情があって手を出せんかったのじゃ」
「じじょう? なにそれ」
無事にオオキバシシを倒したのを見て取ったキールが、エインの方に小走りに駆け寄りながら訊ねる。
エインはそんな弟の顔を見て、片眉を上げた。
先ほどの攻撃魔法に、首を刎ねられたオオキバシシ。
驚いて少しは怯むかと思ったのだが、キールには全くそんな様子が無い。
半ばこの反応を予想していたエインだったが、いざ目の前にすると、やはり少し驚いていた。
なかなかどうして、キールもなかなかのタマなのだ。
「こいつはデカいからのぉ。わしらだけでは運べん訳じゃ」
「魔法で運べばいいんじゃないの?」
「確かにものを運ぶ魔法というのはある。じゃが、ずっと使い続けると疲れるんじゃよ。それと、じゃ。こんなデカイものとったところで、わしらだけだと持て余すんじゃよ」
「もてます?」
「肉としても食いきれんし、物々交換の品にするにもデカすぎるわけじゃ」
「じゃあ、なんで狩ったの?」
「わしらだけだと持て余すが、こ奴らが居ればちょうどよいわけじゃな。お主ら! 何をぼさっとしておるんじゃ、手伝わんかい!」
惚けているコンランツ達の尻を文字通り蹴飛ばすと、エインは作業の指示を始めた。
一定時間ものを軽くする魔法をオオキバシシの遺体にかけ、コンランツ達に運ばせる。
木に吊るして、血を抜く。
絶命してはいるが、生命力が強いのだろう。
心臓はまだ動いているようで、案外早く血が抜けていく。
しっかりと抜けたことを確認したら、魔法で水をぶっかけ、氷漬けにする。
「なんで凍らせるの?」
「毛皮にはノミやらなんやらが付いておるからのぉ。本来は水に沈めて冷やすのじゃが。そんな悠長をして居る時間はないから、魔法で中まで凍らせてやったわい。ついでに、寄生虫も死ぬじゃろう。死なんのも居るが」
何事も例外というのはあるものなのだ。
氷漬けのオオキバシシはしばらく置いておくとして、エインは魔法で木の伐採を始めた。
魔法であっという間に乾燥させると、その辺に生えていたツルを引っこ抜く。
「おらっ! お主らも手伝わんかい!」
コンランツ達にツルを編ませ、ロープを作らせる。
その間に、エインは乾燥させた木を魔法で加工し、板材と太く長い棒にしていく。
すべての材料がそろったところで、エインの指示でそれらを組み上げる。
出来上がったのは、大型の輿のようなものだった。
「普通なら重くてこんなものに載せられんじゃろうが、わしが軽量化魔法をかければ運べるじゃろ。お主ら、オオキバシシを乗せて、わしに付いてくるんじゃ!!」
有無を言わさぬ勢いに、コンランツ達は大人しくエインの指示に従った。
出来上がった輿にオオキバシシを乗せ、全員で担ぎ上げる。
エインのいう通り、オオキバシシは見た目よりはるかに軽かった。
少し前まで町に居たので、コンランツも魔法や魔法の道具を見たことはある。
だが、ここまで高度な魔法を、まるで手足のように使う魔法使いを、コンランツは見たことが無い。
ヤクザ者の用心棒や治安維持の衛兵が、攻撃魔法を使っているのを見たことはある。
何と恐ろしいものなのだと思ったものだが、今のエインの魔法を見た後だと、お遊戯の様にしか思えない。
全く魔法が使えないコンランツですらそう思うほど、エインは異質な存在であった。
「ねぇー、にーちゃーん。どこにいくのー?」
「村じゃ。この近くに領民兵連中が居る村があるじゃろ」
エインの家は弱小貴族家だったので、専業兵士というものを抱えていなかった。
必要な際は領地内の領民を徴用し、兵士としているのだ。
もちろん、徴用する者はある程度決まっているし、そういった対象にはある程度の戦闘訓練などを施してはいる。
そういった人員のことを、この辺りでは「領民兵」と呼んでいるのだ。
エインが向かっているのは、その領民兵が多く住んでいる村である。
「あそこの連中はよく食うからのぉ。肉にも需要もあるじゃろう。コレをもって行けば喜んで引き取ってくれるはずじゃ」
「えー? このイノシシ、あげちゃうの?」
「いや、物々交換じゃ。村にもって行って、物資と交換してもらうんじゃよ」
「そっかー。ふつうに、イノシシたべるんじゃダメなの?」
「物資と交換、と言ったじゃろ。交換してもらうのは、食料だけじゃないんじゃよ」
エインのいうことが今一理解できず、キールは首を傾げた。
だが、キールは基本的に、兄のすることに間違いはない、と思っている。
きっと何かいいアイディアがあるのだろうと、深く考えもせずに納得したのだった。
突然現れた輿に載せられたオオキバシシに、村は一時騒然となる。
だが、エインの仕業だ、と知れると、皆納得したように解散していった。
エインは記憶が戻る前から突飛なことしかしていなかったので、村人達全員すっかり慣れてしまっているのだ。
記憶が戻る前から、エインはかなり無茶苦茶なことをやりまくっていたのである。
すぐに話を聞きつけた領民兵達が、エインの元へ集まって来た。
「エイン坊ちゃん。こりゃ、何の騒ぎですか」
呆れたような諦めたような顔で尋ねてきたのは、古株の領民兵だ。
実力もあり、人望も厚いことから、領民兵達のまとめ役をしている人物である。
その役割から、兵長、という名で呼ばれていた。
「おう、兵長。実は拾いものをしてのぉ」
「拾いもの?」
「後ろでオオキバシシを運んでいる連中じゃ。いわゆる流民というヤツでのぉ」
エインは親指で、コンランツ達の方を指した。
それを見た兵長は、納得したように頷く。
「昨今増えて居るそうですからな。都会の方は不景気なんだとか」
「うちはほとんど関係ないからのぉ」
エインの実家が持つ領地はけっして広くはないのだが、自然環境に恵まれた場所にあった。
水が豊かで、土は栄養をたっぷりと含んでいる。
領民は殆どが農家であり、その恩恵をしっかりと受けていた。
まあ、豊かすぎるあまりモンスターもうじゃうじゃいるし、他にも2、3問題はあるのだが。
基本的には自給自足可能な、とても住みやすい土地である。
そのおかげもあって、外の不景気などの影響をほぼ受けないのだ。
まあ、好景気の恩恵もほぼ受けないのだが。
「で、じゃ。この連中とちょいと縁が出来てのぉ。面倒を見てやらにゃならなくなったわけじゃよ」
「相変わらず突拍子もないことをしておりますな」
「どういう意味じゃ。まあ、とにかく。それで、頼みたいことがあってのぉ。このデカブツを持ってきた訳じゃ」
「オオキバシシですか。確かにこれは大きい」
「こいつで、物々交換と貸し出しをお願いしたくってのぉ」
「物々交換はともかく。貸し出しですか」
不思議そうに眉間に皺を寄せる兵長に、エインは「うむ」と頷いて見せた。
「まず物々交換。食料が欲しいんじゃよ、それもなるべく加工が簡単なもの。イモなどが理想じゃな」
「すぐ食えるもの、というわけですな」
「それと、行軍に使う野営道具を借りたいんじゃ。天幕と毛布、調理器具などじゃな」
「おお、なるほど! それで、物々交換と貸し出しですか!」
兵長は、合点がいったというように手を叩いた。
食料だけであれば、オオキバシシを食べればいい、という考え方もあるだろう。
だが、放浪していたコンランツ達には、それだけでは足りないとエインは考えたのである。
解体が面倒なオオキバシシをそのまま食べるよりも、それを加工しやすいイモなどに交換。
ついでに、雨風を凌げるテントや毛布、その他諸々のものを借り受けた方が良い、と判断したのだ。
話を聞いていてあっけにとられていたコンランツだったが、すぐに首を振って気を取り直した。
そして、意を決したように声を上げる。
「あ、あの!」
「なんじゃい」
「なんで、その、いいんですか?」
誘拐をしようとした自分達に、何故そんなことをしてくれるのか。
そう聞きたかったのだが、言葉が出てこなかった。
しかし、エインにはそれで十分に通じたらしい。
「良いも悪いもあるか! 言ったじゃろう、わしは基本的に命の限り好き勝手やる性分じゃが、非人道的サイコパスとか言われるのは嫌いなんじゃ!」
「はっはっは! 相変わらずですなエイン坊ちゃんは! 良いでしょう。とりあえず、人数を教えて頂けますかな」
あれこれと相談し、とりあえず全員が三日ほど食いつなげるだけの食料。
それから、野営に必要な道具を貸し出してもらえることとなった。
オオキバシシを肉とだけ見ると、かなり割に合わない取引に見えるが、実際はそうでもない。
食肉以外にも、オオキバシシには使いどころがいろいろとあるのだ。
まず毛皮。
モンスターとされる地域があるほどの生き物のそれは、非常に丈夫で強靭だ。
調度品に使うもよし、武器防具に使うもよし、需要はいくらでもある。
爪や牙、骨すらも素材として使用することが可能。
極めつきは、体内にある魔力蓄積器官、魔石の存在だろう。
大抵の生き物には、魔力を蓄積するための魔臓と呼ばれる臓器がある。
この中にあるのが魔石であり、これは魔法道具の素材などとして使用された。
大きなものは需要が高く、つまり高値で取引される。
体格のいいオオキバシシの魔臓、その中にある魔石は当然大きく、売ればかなりの現金を手に入れることが出来た。
「野営道具は、お貸しするだけです。出来るだけ早く返してくださいよ」
「わかっておるわい」
「それと、ご領主様へのご報告も」
「大丈夫じゃわい。夕食のときにでも話しておくからのぉ。お主はわしに無理やり手伝わされたことにすればよいじゃろ」
記憶が戻る前からやらかしまくっていたので、エインのせいにすれば大体丸く収まるのだ。
まあ、収まってはいないことが多いのだが。
とにかく。
無事に物資を仕入れることに成功したエインは、コンランツ達にそれらを背負わせ、元の場所へと戻った。
すぐにテントを張らせて、石などで竈を組ませる。
いざ、調理を始めようという段になって、エインは空を見上げて凍り付いた。
その表情は、幾分か引きつっているようにも見える。
「いかんっ!」
「どーしたの、にーちゃん」
「もうすぐ日暮れじゃ! 夕食に間に合わんかったら、母上にバチボコ叱られるぞ!」
基本的に穏やかで優しい母親なのだが、怒ると家で一番恐ろしいのだ。
エインは大急ぎでキールを担ぎ上げると、飛行魔法の準備を始める。
その間に振り返り、コンランツ達に向かって叫ぶ。
「明日も来るから、ここに居るんじゃぞ! 今回の件はお主らへの貸しじゃからなっ! しっかり働いて返してもらうつもりじゃから、覚悟しておくんじゃぞ!」
「にーちゃーん。そういうのって、気にしなくていいっていうほうがかっこいーんじゃないのー?」
「良いんじゃそんなもん! わしはナチュラルでカッコイイからのぉ! それにせっかく手に入れた労働力なんじゃぞ! 考えてみたら、あの連中を働かせればハンズフリーでおやつが手に入るんじゃ! 上手くすれば現金収入も得られる!」
「えー?」
「考えようによればこれはラッキーかもしれんぞ! 流石わしじゃ! 日ごろの行いの賜物じゃのぉ! ぬわっはっはっは!!」
そんなことを言っているうちに、準備が出来たのだろう。
エインはキールを担いだまま宙に浮かび上がると、凄まじい勢いでいずこかへと飛んでいく。
コンランツ達はその後姿を、唖然とした顔で見送ったのであった。