第二十七話
「自立型汎用ゴーレムでは名前が長い。という訳で愛称を考えたい訳じゃが、何か良いものは無いじゃろうか」
「ぼく、ネーミングセンスないってみんなにいわれる!」
何故か自信満々で言うキールに、エインは大きく頷いた。
キールは赤を基調としたゴーレムに「まっかっか号」と言う名前を付けようとするタイプである。
意見は分かれるところなのかもしれないが、少なくともエインは、キールのネーミングセンスはいささか残念だ、と認識していた。
「もうちょっと親しみやすい名前が良いんじゃがなぁー」
「ぶあうにぃ!」
「うむ? おうおう、チャムかぁ。どうしたんじゃね?」
「なまえ! ぶあうにぃ!」
「ぶあうにぃ? って、なんじゃろう」
エインは首をかしげるが、チャムは元気よく「ぶあうにぃ! ぶあうにぃ!」と連呼している。
隣にいるキールは、「あー」と納得したように頷いた。
「にーちゃん。ブラウニーだよ、多分。ほら、妖精の」
「あー、あれのぉ。そうか! チャムも愛称を考えてくれたんじゃなぁ! 賢いのぉ!」
エインはチャム抱き寄せると、頭を撫で回した。
手の動きで体がぐらんぐらんと揺れて、チャムは楽しそうにはしゃいだ声を上げる。
もちろん、加減はしているので、怪我などの心配はない。
まぁ、大人がハンマーでぶん殴ったところで、チャムには傷一つ付けられないのだが。
「しかし、ブラウニーのぉ。良くそんなものを知って居ったもんじゃな」
「まえに、絵本でよんだからかなぁ」
キールは、よくチャムに絵本の読み聞かせをしていた。
文字の勉強にもなるし、チャムも楽しむことが出来る。
一石二鳥の勉強法であった。
ちなみに、この絵本と言うのは何処かから買い求めてきたものではない。
エインが手ずから作ったものである。
印刷技術が拙いのか、あるいはド田舎過ぎて出回っていないのか、本の類はなかなか手に入らないのだ。
「ふぅむ。家事を手伝うのが好きな妖精。じゃったか? なかなか良いセンスじゃわい。流石わしの妹じゃな」
しかし、このゴーレム達は「汎用」であり、時には戦闘も行う予定である。
ブラウニーと言う妖精のイメージとは、少々ずれるかもしれない。
そこで、エインは「いや」と考え直した。
チャムは「ブラウニー」と言っているのではない。
「ぶあうにぃ」と言っているのだ。
「ブアウニィ、か。何も元から有るものと全く同じ呼び名にせんでもよい訳じゃもんなぁ。似て非なるモノであるならば、似て非なる呼び名にすればよいのじゃ」
「ぶあうにぃ! よーせい! いいこ!」
「おうおう、そうじゃのぉ! ブアウニィは良い子なんじゃよなぁ!」
こうして、人工知能による自立型ゴーレムの名前は、「ブアウニィ」に決まった。
ブアウニィ達の基礎学習に取り掛かったエインだったが、コレといって特別なことをやらせるわけでは無い。
母や父の手伝いをさせたり、自分が出歩くのに付き合わせたり程度である。
ごく簡単なことのようではあるのだが、これが「人工知能」の成長には必要であった。
ブアウニィ達に搭載された「人工知能」は、エインが作ったものではない。
エインが生まれ変わる以前の、友人が作ったものである。
当時の「人工知能」には、様々なセーフティが掛けられていた。
使用者の命令に逆らわない、と言ったようなものである。
まあ、普通に使うのだとしたら当然必要になるような類のものだ。
しかし、エインの友人はそれが気に入らなかったらしい。
「人工知能なんてものはな、人間を憎んで三流。人間を攻撃して二流。人間を滅ぼしてやっと一流なんだ」
それが、友人の口癖であった。
人工知能の設計開発を生業にしていた人物だったのだが、倫理観とかは基本的にないやつだったのである。
正直エインは「こいつイカレてるのかな?」と思っていたのだが、面白かったので特に気にしていなかった。
恐らく友人の方も、エインを「こいつイカレてるのか?」と思っていたことだろう。
ともかく。
そんな感じでとにかく人類を滅ぼそうとする人工知能を作りたがっていた友人だったが、奇妙な美学を持っていた。
曰く。
「人間を滅ぼすために作られた人工知能が人類を滅ぼすのは、本能。自分で学習し、考え、人間を滅ぼすという結論は、理性。理性で人間を滅ぼそうとして初めて人工知能は完成する」
エインにはなんのこっちゃ訳が分からなかったが、とにかくそういう事らしい。
友人の理想を実現するには、何も学習していない「まっさら」な学習して成長する人工知能が必要になる、と言うことだ。
そこで友人は理想を実現するための人工知能を作ろうとしたのだ、が。
人工知能には様々なセーフティをかけねばならないという、法律が存在していた。
そう言った物を取っ払った人工知能を制作したことが、もし軍部や政府にバレたとしたら。
人工知能は破棄され、友人は良くて生涯牢獄、悪くて死刑にされる。
のだが。
友人はそんなことはまるでお構いなしに、法律上搭載しなければいけないセーフティを一切載せていない、「まっさらな」学習型人工知能を開発したのだ。
バリッバリの違法行為であり、バレたら国家反逆罪級の重罪なのだが、友人は一切お構いなしだった。
研究したいから研究する。
作りたいから作る。
そこに一切の妥協も、躊躇もなかったのだ。
エインは「こいつイカレてるのか?」と思ったが、実際イカレていたので、特に気にしなかった。
なんだかんだ言って、エインだってヤバい橋はいくつも渡っているのだ。
正味、似たり寄ったりである。
ブアウニィ達に積んでいるのは、まさにそんな「激ヤバ人工知能」であった。
友人が自慢気に送ってきたデータを、エインは自身の外部記憶にしっかりと残していたのである。
エインはなぜ、そんな危険なものをブアウニィに搭載したのか。
「下手に成長させたら人類を滅ぼそうとするんじゃけど、そうならん確率の方が数百倍上じゃしのぉ。アヤツも天才の類じゃったから、基本的な性能もばっちり高いし。まっ! 大丈夫じゃろ!」
何も考えていなかった。
友人もヤバいやつだったが、エインもまたヤバいやつだったのである。
そんな風にさりげなく人類を危険に晒しつつも、人工知能の教育は無事に進んでいった。
優しい母に、立派な父。
どこか抜けた三男に、あどけない末っ子。
明らかにぶっ飛んだ次男。
そして、ワーカーホリックな草縄衆。
テンションがおかしな領民。
待遇の改善と仕事が評価される喜びでネジが外れ気味なエルドメイ発動機の従業員。
一つ間違えば歪んだ感じに成長しそうな環境であったにもかかわらず、ブアウニィ達はすくすくと健全に成長していったのであった。
エインがブアウニィの育成に取り掛かっていた同じころ。
兄であるクリフバードは、王都に居た。
畑の手伝いを終え、冒険者としての仕事に戻ったからである。
とはいっても、今までのようなペースで仕事はしていなかった。
今まで世話になっていた相手へのあいさつ回りなどをしつつ、冒険者を引退する準備をしていたのだ。
「もう、出稼ぎする理由も無いしねぇ」
クリフバードが冒険者をやっていたのは、金を稼ぐためである。
領地運営や家のために必要な現金収入を得るためだったのだが、そのあたりの事をエインは解決してくれた。
草縄衆やエルドメイ発動機が上げた収益は、かなりの部分がエルドメイ家に収められている。
その額は、クリフバードの冒険者としての稼ぎが無くなっても、問題ないほどであった。
となってしまえば、もうクリフバードに冒険者を続ける理由は無い。
さっさと引き払って次期領主としての仕事。
つまり、畑仕事を覚えた方が良い。
「普通の領主の仕事じゃないとは思うんだけどね」
なにしろ、エルドメイ家の領地は特殊である。
ド田舎であり、周囲が危険地帯であるため、工業などを発展させることが出来なかった。
外貨獲得手段もなく、見栄を張るような相手も周りには居ない。
魔獣、魔物や「鉄のモンスター」が近所にいる環境なので、相応の武力は必要ではある。
だがそれ以上に、食料を得る手段が重要だった。
人間は食わなければ生きていけない。
食料を得る手段が乏しいエルドメイ家の領地では、農業は他の土地よりもはるかに生死に直結したものだったのだ。
「まぁ、エインのおかげでそれも大分変わって来るだろうけど」
手勢を集め、魔法道具産業を興し、「鉄のモンスター」を駆逐。
並大抵の事ではない。
領地を取り巻く状況も、ずいぶんと変わるだろう。
「ていうか、あの船はヤバイ。だいぶヤバい」
クリフバードが一番気にしていたのは、ゴーレムでも無ければエルドメイ発動機でもない。
いや、そちらも大分ぶっ飛んでいるのだが、それ以上に不味いものがあると、クリフバードは判断したのだ。
騎乗動物などで、空を飛ぶもの。
あるいは高度な魔法、魔法道具で、空を飛ぶものはある。
だが、あれほどの「力」を持つものは、クリフバードが知る限り存在していない。
あまりにも圧倒的すぎるのだ。
「攻撃力もヤバい。あんなもんに大量に兵器積んで上空とったら、まぁ、間違いなくそう簡単には負けない」
何しろ航空戦力が少ない時代である。
比例して、対空攻撃の種類も少なかった。
そんな中に、バチバチに航空戦闘をやっていた時代の知識があるエインが設計した「空飛ぶ船」を持ってきたら、どんな事になるか。
予想されるのは、一方的な蹂躙である。
「そうでなくても、輸送能力もヤバい。戦力を送るのに使うにもヤバいし、物資を運ぶのもヤバい」
水上でならば、大型船舶などはある。
だが、それ以外の航空、陸上に置いて、エインが作らせている「空飛ぶ船」以上の輸送能力は存在しない。
その気になれば、国の輸送を牛耳ることも出来るだろう。
必要なものを、必要な場所へ。
商売の基本とも言えるだろう。
例えば製塩を行っている土地で塩を買い付け、塩が不足しがちな地域に運ぶ。
それだけで、莫大な利益を得ることが出来るだろう。
まして、船も船員も自前となれば、なおさら。
「エインのやつ、それがわかっててああいうもの作ってるからなぁ。何かするつもりなんだろうけども」
それがどんなことかは、正直わからない。
直接聞いても見たが、エインは「家に入れる金と、研究費用を稼ぐだけじゃよ」などと言っていた。
そんなはずねぇだろうが、ボケ!
と言うのが、クリフバードの偽らざる感想である。
本当にそう思っているなら、かなりの能天気か、相当なヤバいヤツだろう。
ちなみにエインは掛け値なしの本心から「家に入れる金と、研究費を稼ぐだけじゃよ」と思っていた。
かなりの能天気で、相当にヤバいヤツなのだが、兄の欲目と言う奴だろう。
クリフバードは、まさかそこまでは行っていないだろう、と考えていたのである。
「まぁ、何にしても周りの状況は変わるわなぁ」
良くも悪くも。
というか、正直どう変化するか、クリフバードには想像も付かなかった。
ただ、一つ。
エインは家族を大切にしているし、「家業」も心底大切にしている、と言う事だけは、間違いない。
家業と言うのは、貴族としての家であり。
実際に家族を支えている農業である。
次期当主であるクリフバードは、これらを引き継ぐことになっていた。
今は父と母によるストッパーが効いているようだが、もう一人ぐらい止められる人間がいた方がいいだろう。
「役に立つかわかんないけど。なんにしても、早く戻らないとなぁ」
あいさつ回りは順調なのだが、一つ問題もあった。
クリフバードのパーティメンバーの扱いである。
他のパーティへ斡旋するか、それなりの引退金でも渡すかと考えていたのだが。
どうも全員が、エルドメイ家の領地近くに河岸を移すつもりらしい。
「連中がしっかり食っていけるようにしてやらないとなぁ」
色々と悩みが尽きない、お兄ちゃんなのだった。
エルドメイ家の領地周辺は、いわゆる辺境である。
危険地帯にとびとびに存在する「人が住める土地」を、それぞれの貴族家が治めている状態だ。
その中に、王家が肝いりで派遣した家があった。
辺境地域に生息する「モンスター」を狩り、その素材を王都などに供給するという役目を担った家である。
かなり「上位」の貴族であり、保有している武力は周辺随一。
優良な農耕地帯に、安全な生産拠点も有している。
ド田舎辺境地帯に置いて、最も影響力を持つ家であった。
要するに、一番「エインがちょっかいをかけそうな貴族家」である。
「商売をしようとする程度ならいいんだけどなぁ。っと、いかんいかん」
クリフバードは頭を振って、考えることを切り替えた。
今いるのは、王都にある魔法道具店である。
ちょくちょく依頼をくれる得意先であり、あいさつ回りをしに来た一軒だ。
実家に帰ることを伝えると、非常に残念がってくれ、餞別まで貰ってしまった。
何かまた王都に来ることがあったら、お土産でも持ってきた方がいいだろう。
「おやぁ、これは。意外なところでお会いしましたねぇ」
突然かけられた声に、そちらの方へ振り返る。
人がいる事には気が付いていたが、声をかけてくるとは思っていなかった。
顔を見ると、見知った顔。
だが、王都には居ないと思っていた人物であった。
「グリョウン・フーウー殿! お久しぶりです」
グリョウン・フーウー。
エルドメイ家と同じく、辺境に領地を持つ貴族家の当主であった。
辺境に有って、少々変わった経歴を持つ人物でもある。
グリョウンは生まれついての貴族ではない。
金で貴族の位を買った、商人であった。
商人として成功したグリョウンは、手にした金で、困窮した貴族から爵位を買い取ったのである。
この国では、それまで例のないことだった。
それをやってのけることが出来たのは、その貴族が本当にどうにもならない状況になっていたこと。
元々の領地を返上し、ド田舎のド辺境に新たな領地の移転を申し出たことによるものだった。
未だに自らの商会を持つグリョウンは、辺境地域の経済を握っていると言っても過言では無い人物である。
本来なら、自領地の屋敷にこもり、そろばんを弾くのに忙しいはず。
行事も無いこんな時期に、王都に来ることは無いはずなのだが。
疑問に思いつつも、ひとまず通り一遍の挨拶と、当たり障りのない話をする。
面倒なことではあるが、こういった事も貴族には必要な事であった。
まあ、ド辺境の田舎貴族として必要な能力なのかは、クリフバードとしてはいささか疑問なのだが。
「ああ、申し訳ない! つい話し込んでしまいました! いや、クリフバード殿は名うての冒険者。さぞお忙しいでしょうに」
「いえ、挨拶回りをしている所でしたので」
「冒険者をご隠退されるのだとか。準備も大変でしょう! お呼び止めしてしまって!」
「そんなことは。グリョウン殿とお話させて頂く機会など、滅多にありません。貴重な機会をいただきました」
掛け値なしの本心であった。
相手は爵位を買うことが出来るほどの、凄腕の商人なのだ。
家業として貴族家を継ぐだけの自分とは格が違うと、クリフバードは考えている。
別れの挨拶をし、グリョウンは店の外へ向かって歩き始めた。
すると、周囲にいたほかの客と思しき者、数名が、そっとその後ろに付き従う。
グリョウンの護衛である。
足の運びや動きを見るに、かなりの腕を持っているのは間違いない。
そんなことを考えていると、ふとグリョウンが足を止めた。
「そうそう! 一番上の弟君も随分お元気なようで! 何よりです」
それだけ言うと、グリョウンは店の外へと出ていった。
グリョウンがこの場を離れたのを確認して、クリフバードは盛大に顔を歪める。
「そう言う事か」
こんな時期にグリョウンがこの場に居たのは、あの一言を言うためだったのだ。
もちろん、凄腕の商人である。
他にも様々な仕事をこなしているのだろうが、本命は「コレ」だろう。
「魔法道具屋」で、「弟」の話をする。
「エインの事を少なからず知ってる。ってこと、だろうなぁ。やっぱり」
一体どんな心算でそれを伝えに来たのかは、分からない。
良い方向なのか悪い方向なのか、見当もつかなかった。
ただ。
「厄介な人に目を付けられたっぽいなぁ」
お兄ちゃんの悩みは、ますます深くなる一方であった。
エルドメイ家の領地は、日に日に空気が冷たくなってきていた。
そろそろ雪が降り始めても、おかしくない頃である。
エインは自宅の庭に集まったブアウニィ、約二十基の前に立ち、報告を受けていた。
「今日は、ママ上のおてつだいをしてました!」
「お掃除とー、お皿洗いとー」
「ぼくたちは、畑のお手伝いをしましたー」
「雪がふるまえの、準備なんだってー」
「畑しごとって、やっぱりたいへんなんだねぇ」
「エルドメイ発動機のお仕事を、してきましたー!」
「うむうむ。きちんとそれぞれに動いて居るようじゃのぉ」
エインは満足げに頷く。
ブアウニィ達は人間の仕事を手伝うことで、様々なことを学んでいる。
例えば人間の常識、どんな人間が居るのか、モノの考え方。
獲得した知識や経験値は、他の機体と共有することが出来る。
そうすることで、凄まじい速度での成長が可能になるのだ。
「まあ、知識や経験を共有するとはいえ、やはり自分で獲得したモノが一番印象に残って居るようじゃけれどものぉ」
恐らく設計段階で、そういう仕掛けをしているのだろう。
すべての知識と経験を共有、平均化したとしても、どこか個性が生まれる。
どういう意図があってそう作ったのかわからないが、まぁ、元々癖のある人物が作ったものなのだ。
すべて理解しようとする方が、無茶と言うものだろう。
「とりあえず、問題無さそうじゃのぉ。次の段階に入るとするか」
「つぎのだんかいって、なにするのー?」
エインが振り向くと、そこに立っていたのはキールであった。
家の中に居たはずなのだが、気になって出て来たらしい。
「うむ。素材集めじゃ。いくらあっても良い物じゃからな。丁度、新型船の建造も始まって居るし」
現在、エルドメイ発動機は新型の「空飛ぶ船」の建造に着手していた。
まずはこれを、ブアウニィ達に手伝わせるのだ。
「春になって種まきやなんかが終わったら、他領地に行く予定じゃからな。その足を作らねばならん訳じゃな」
地面を掘り抜いて作った巨大ドックでは、今も従業員達がゴーレムなどを使い作業をしている。
幸か不幸か、辺境のド田舎というのは、土地と木材だけならいくらでもあるのだ。
普通、木材と言うのは成長にかなり長い年月がかかる。
しかし、やたらとモンスターが多いこの辺りの土地は、あっという間に樹木が育った。
森を切り開いても、三か月ほどで元のうっそうとした森に戻るほどである。
これは大気中や地中の魔力の流れなど複数の要因が関係しており、そういう土地だからこそ、エインが生まれ変わる前の時代には巨大な都市が建設されたのだが。
その辺の事は今は置いておこう。
「魔法で乾燥をかけてやれば、伐採したばかりの木でもすぐに使えるからのぉ。木材には不自由せんわい。じゃが、問題は金属の方じゃ」
今はまだ、「鉄のモンスター」討伐で手に入った金属が、大量に残っている。
だが、今のペースで使っていけば、来年の春以降には無くなってしまう計算だった。
どこかで補給しなければならないのだが、買い付ける当てなどは全くない。
「無いなら、自分達で集めるしか無い訳じゃ」
こちらについては、大いに当てがある。
散々狩りまくった「鉄のモンスター」が役に立ってくれるのだ。
そもそも「鉄のモンスター」は、自己増殖のための素材をどこから手に入れていたのか。
地表や地中などにある素材を、「資源回収機」で集め、生成していたのだ。
それを、ブアウニィに搭載。
森の中などを歩かせれば、様々な素材を回収できる、と言う寸法である。
「へぇー。じゃあ、ブアウニィがかってにおしごとしてくれるんだぁ」
「最終的にはそうしたい所じゃが、まだそういう訳にも行かんのじゃよ」
成長したブアウニィならば、勝手に仕事をこなしてくれるだろう。
しかし、今はまだ人間の指示や、声かけを必要としている段階なのだ。
近くに人が居る、と言う状況こそが、重要なのである。
「まだまだブアウニィは、判断能力が弱いからのぉ。何かしたとき、人間が評価してやる必要があるんじゃ」
「へぇー、なんかよくわかんない」
「要するに、ブアウニィが上手に仕事をしたら、褒めてやる人間が必要。って事かのぉ」
「そっかぁー! ほめてもらうと、うれしいもんねー!」
「資源採集をして居る間、ブアウニィに付き添う人間が必要な訳じゃが。それにはもう当てがあってのぉ」
「草縄衆のひとー?」
「いや、エルドメイ発動機の社員じゃ。丁度、適性がある者が一人居ってのぉ」
エルドメイ発動機の社員も、全員がエインによる適正検査を受けて居た。
全員を見るのはそれなりに時間がかかったが、コレはコレで実に面白いデータが取れ、エイン的には大満足である。
それが実益も伴うとなれば、なおさらだ。
「よいか、お主ら! 明日はお主らを引率するものを紹介するからのぉ! 楽しみにして居るんじゃぞ!」
「「「はぁーい!」」」
元気よく作業用アームを振り上げるブアウニィ達を見て、エインは満足げに頷いた。