第二十六話
無事に「鉄のモンスター」討伐も終わり、エルドメイ家の領地は一応の落ち着きを取り戻していた。
次の季節は冬と言うこともあり、農家達は畑仕事が一段落ついている。
エルドメイ発動機は相変わらずの生産ペースだが、従業員達も仕事に慣れて来ていた。
全体的にのんびりとした空気が漂うエルドメイ家の領地にあって、凄まじく忙しそうに動き回っている者達もいる。
草縄衆の面々だ。
まず、チュアラン。
少数精鋭の実働部隊隊長であるチュアランは、新たに使えるようになった領地の安全確保に苦心していた。
既に「鉄のモンスター」の討伐は終わっているが、本当にすべて破壊できたのかは分からない。
一体残っていればいくらでも増えるという特性を持つ相手なので、油断する事は出来なかった。
もちろん、気にすべきなのは「鉄のモンスター」だけではない。
普通に徘徊しているモンスターも、十二分に危険だった。
整地などが始まる前に、少しでも安全を確保しなければならない。
エルドメイ発動機で作られた装備を最優先で回されてはいるのだが、何しろ範囲が広く、数も多かった。
成果が上がっていない、とは言わないのだが、順調に仕事が進んでいる、とも言い難い。
とはいえ、こればかりは地道にやるしかなかった。
ある程度の安全さえ確保できれば、土木作業を始める予定だ。
一先ずその「ある程度の安全」を目指し、仕事を進めていくしかない状況であった。
次に、メリエリ。
大量の「鉄のモンスター」の残骸が手に入ったことにより、エルドメイ発動機の技術レベルは飛躍的に上がっていた。
エインは当然のように、草縄衆の装備を一新したのだ、が。
装備が新しくなれば当然、慣熟訓練が必要になる。
強力な装備と言うのは得てして、使うのが難しい物なのだ。
また、新たに搭載された「人工知能」にも苦戦していた。
戦闘などのサポートをしてくれ、対話が可能という高度なシロモノではある。
しかし、如何せんまだ成長しきっておらず、教育が必要な段階であった。
つまりメリエリと部下達は、自分達の訓練と同時に、「人工知能」の教育も行っているのだ。
兎に角目の回るような忙しさだったが、やるしかなかった。
そして、ミーリス。
エルドメイ発動機の運営から、「人工知能」の準備、空飛ぶ船の運航。
その他、大きい物から小さな物まで、片っ端から様々な仕事をこなしていた。
見聞きした全てを記憶する特殊能力を持つミーリスは、事実上エインの直弟子のような立場になっている。
現状、エインに次いで魔法技術についての技術と知識を持っていた。
おかげで、現在の草縄衆の仕事には、「ミーリスにしか出来ないもの」が大量にあるのだ。
とは言っても、死ぬほど忙しい、と言う状況ではなかった。
ミーリスは自身の仕事を手伝わせるため、複数の「人工知能」を「育てて」いたのだ。
自分の仕事量を考えつつ、ミーリスはこの「人工知能」達に、適度に仕事を押し付けていたのである。
エインからは「他の草縄衆に仕事を押し付けてしまえばいい」と言うようなことを言われていたのだが、残念ながら現在は草縄衆全員が多忙な状況であった。
そこで、仕事を押し付ける先を、わざわざ作ったのだ。
これを聞いたエインは、大いにミーリスの事を褒め称えた。
おかげでテンションが振り切れたミーリスは、ますます仕事に精を出すようになったのだが。
そのあたりはご愛嬌だろう。
最も忙しいのが、コンランツであった。
なにしろ、四六時中エインのそばにいて、用事を言いつかる立場である。
あれやこれやの注文を真っ先に聞き、すぐさま実行。
それだけでも大変なのに、草縄衆の頭目としての仕事まであった。
普通なら、目が回るほどの忙しさになるところだろう。
だが、コンランツは平然とした顔でやってのけていた。
エインが言うように、コンランツは非常に優秀だったのである。
草縄衆だけでなく、エルドメイ発動機の運営も掌握。
その上で、エインの意思を最優先する。
曲芸のような離れ技であり、莫大な労力を要求される仕事だ、と言えるだろう。
まさに、コンランツにしかできない仕事である。
普段のエインなら、草縄衆全員が忙しくしているのに気が付けば。
「なんじゃお主ら。少しは休まんかい、パフォーマンスを保つのも仕事じゃぞ」
などと言って、休ませていただろう。
だが、ここ最近のエインは、草縄衆の体調を気遣っている余裕もない状態であった。
何しろ、ずっと求めていたものの一つを、ようやく手に入れることが出来たのである。
「我が世の春じゃぁあああ!!!」
エインはようやく、求めていたもの。
すなわち、金と暇を手に入れることに成功したのだ。
と言っても、期間限定の物ではある。
農閑期が終わり、次の植え付けの準備が始まるまでの間、畑仕事の手伝いも無い。
キールに勉強を教えるという仕事も、一段落ついている。
あまり勉強が好きではないキールだったが、それを一撃で覆し、やる気を数千倍引き出す方法を発見したおかげだ。
ゴーレムである。
ある時はゴーレムに例え、ある時はゴーレムを操縦するのに必要だと言い、またある時はテストでいい点を取れたらゴーレムを作ってやると言って釣り。
兎に角ゴーレムを絡めさえすれば、キールは嬉々として勉強に精を出したのである。
おかげで、ひとまず必要な範囲の勉強は終えることが出来た。
この後の勉強は、教会や、王都の学校で行う事に成るらしい。
どちらにしてももう少し先の話であり、当面は気にする必要は無かった。
他にもこまごまとしたこともあったのだが、それらはすべて一切合切、コンランツ達草縄衆に丸投げしている。
「持つべきものは優秀な部下じゃのぉ! 全く草縄衆は拾いものじゃったわ!」
嬉しいことに、ようやく出来た金と暇を費やすに足る研究テーマも、既に発見している。
兄であるクリフバードが見せた、「ゴーレム操作法」の解析と応用だ。
「鉄のモンスター」討伐も終わり、クリフバードに専用機に乗って貰いながら、調整をしていた時の事である。
機体の魔力効率が、異常なほど良い事にエインは気が付いたのだ。
明らかに、想定スペックを逸脱している。
原因として真っ先に思い浮かぶのは、クリフバードだ。
何かしらの方法で、効率を上げているに違いない。
早速聞いてみると、やはりクリフバードが原因であったらしく、すぐに理由を説明してくれた。
「ゴーレムの装甲の裏辺りに術式はっ付けてて、霧散する魔力を一時的に留まらせてるのよ。一瞬でも止まってくれてれば、内魔法術で回せるでしょ」
「そりゃそうじゃろうけども」
兄の説明を聞き、エインは顔をしかめた。
意味が解らなかったから、ではなく、きちんと理解できたからこその表情である。
ゴーレムの稼働箇所。
例えば関節などは、それそのものがエンジンなどのような動力源となっていた。
そこで魔力が消費されて、動力へと変換されるのである。
消費される、とはいっても、魔力が消えてなくなるわけでは無い。
霧散して、空気中に溶け込んでしまうのである。
厳密に言うともっと複雑な反応が起きているのだが、まぁ、簡単に言えばそんなところだろう。
もちろん、この「空気中に溶け込んでしまった魔力」と言うのは、通常は再度利用する事は出来ない。
体の外に出て、蒸発してしまった水分と似たようなものだ。
クリフバードはそれを再度集め、利用している。
と言っているのだ。
驚いているエインだったが、その方法論だけならば「生まれ変わる前」でも発見されているモノであった。
実用化もされていたし、エイン自身そういうものを搭載したゴーレムを設計したりもしている。
だが、兄の言葉に良く分らない箇所が有った。
「なんじゃ、術式を張り付けて霧散する魔力を留まらせるって。どんな方法じゃそれ」
霧散するはずの魔力を、一時的に留まらせる。
それさえ可能になるのであれば、その魔力を利用することは難しくなかった。
体内の魔力を循環させる「内魔法術」の応用で、再利用することが可能だ。
確かにクリフバード専用機は、「内魔法術」を応用した機構を組み込んである。
だがそれは出力を上げるためのものであって、魔力効率を上げる目的のものではない。
とはいえ「内魔法術」を扱う下地はある訳であり、クリフバードが言うようなことが不可能なわけでは無かった。
実際、クリフバードはやって見せてもいる。
問題なのは、「魔力の霧散を防止する方法」である。
エインが知る方法と言うのは、至極簡単。
魔力が霧散する場所を、特殊な素材で覆う、と言うものだ。
まあ、もちろん、完璧に霧散を防ぐことが出来るわけでは無いのだが。
それでも劇的な効果を発揮するのは、間違いなかった。
この素材と言うのが難物で、手に入れるのも加工するのも凄まじく難しい。
正直、今のエルドメイ発動機の技術レベルでは、材料を手に入れられたとしてもにっちもさっちもいかないだろう。
その位しか方法が無かったはずなのにもかかわらず、クリフバードは全く別の方法を示したのだ。
「魔力の霧散を防ぐ術式って、そんなものどこで教えられたんじゃね」
「どこって。母上だよ?」
エインも知らないような術式を使った手法を、母が知っていた。
大慌てで母のもとに走ったエインは、いったいどこでそんな術式を知ったのかと尋ねる。
帰ってきたのは、思っても見ない答えだった。
「うちの実家のあるところでは、結構よく見る術式なのよ?」
「実家って。エルフの里と言う事かのぉ?」
「そうそう。これを使うと、魔法を使う時に疲れにくくなるでしょう? すっごく便利なの。こういうのライフハックっていうのかしらね」
「そんな日常や仕事で役立つちょっとしたアイディアみたいなものではないと思うんじゃが。エルフの秘術などではないのかのぉ?」
実際、かなり完成度の高い術式であった。
効率も良く、無駄な構成も少ない。
何人もの術者が、長い年月をかけて磨いていったものなのだろう。
「わしのような天才が作った鋭さは無いんじゃが、長い期間をかけて積み上げられた石垣のような堅牢さを感じる術式じゃ」
「エインちゃんってば、詩人さんねぇ。そんなに大袈裟なものじゃないと思うけど。近所のおばちゃんとかもよく使ってたものだし。掃除のときとか、とっても便利なの!」
「なんて気軽さじゃ。時に母上。コレを研究して、エルドメイ発動機で使いたいと思うんじゃけども。良いかのぉ?」
「もちろん構わないわよ? 別に秘密にしているモノでもないし。エインちゃんてば、律義ねぇ。パパに似たのかしら」
そんな訳で、エインは早速、母の術式の研究を始めた。
目標は、「省エネな魔法動力を作る事」。
これが上手くいけば、ゴーレムだけでなく、空飛ぶ船などにも応用できるはずなのだ。
「ていうか、この術式を知って居ったからってゴーレム動かしながら使わんじゃろ、普通。どういう頭をして居るんじゃ、うちの兄上は」
実際、クリフバードはゴーレムに乗りながら、相当にテクニカルなことをやってのけていた。
ゴーレムを操る、という魔法道具使いとしての動きをしつつ。
術式を張る、という魔法使いの技術を駆使し。
さらに、魔力を循環させる、という内魔法術使いの力を発揮する。
たっぷり三人分の仕事を、クリフバードは一人で、しかもそれぞれを絶妙に協調、調和させて行っていたのだ。
「メチャメチャ息が有った三人分の仕事を、たった一人でじゃぞ。単純に三人力って話じゃないじゃろうに」
改めて、異次元の器用さを見せる兄に、エインはあきれるやら感心するやら、複雑な気持ちになるのだった。
そんなこんなで、研究を始めてから一週間ほど。
「やっぱりわしってば天才なんじゃよなぁー。さらっと違いを見せつけてしまうんじゃよなぁー、さらぁーっと!」
エインは無事に、術式の解析を終え。
だけでなく、それを応用した魔法道具の製作にまで成功していた。
「これで高級素材に頼らんでも、低燃費のゴーレムが作れるわい!」
利点は、それだけではない。
ゴーレムの小型化、人工頭脳の高性能化も、可能になった。
とはいえ、難点もある。
「魔力を空気中に霧散させないための術式を、常に展開させておかなければならんのじゃよなぁ」
この術式が難物で、どこかに刻み付けて置けばいい、と言う種類の物ではなかった。
魔力の出力や稼働状況、使用魔力の濃淡によって、その時々で構成を変えなければならなかったのだ。
人間がそれを制御しようとすれば、かなりの労力と集中力を必要とする仕事である。
魔法道具の大きさにもよるが、例えば中型以上のゴーレムであれば、人一人がかかりっきりになる必要がある作業であった。
「ゴーレムを効率よく動かすための術式の制御で手一杯になって居ったら、何がしたいのか意味が解らなくなるからのぉ」
そこでエインは、術式の制御を「人工知能」に任せる事にした。
人間ならば難解な作業である術式の制御だが、むしろ「人工知能」にとっては得意な仕事だった。
プログラムさえ組んでしまえば、人間で言えば息をするような気軽さでやってのけてくれる。
「おかげでこの機構を組み込んだ魔法道具は、漏れ無く全て人工知能搭載と言う事に成ってしまったが。まぁ、良いじゃろう」
元々そんなものを搭載する必要があるような魔法道具と言うのは、高い性能を求められるような代物ばかりである。
人工知能が搭載されていたとしても、便利でこそあれ、困ることは無い。
問題があるとすれば、制作難易度が上がり、コストが嵩んでしまう点ではあるが。
「今のエルドメイ発動機ならば、問題あるまい。人工知能に作業サポートさせれば良いんじゃからな」
慣れていない人間であっても、人工知能がサポートすれば大抵の仕事は出来る。
そうするうちに、人間にも人工知能にも経験値が蓄積していく。
どちらの成長も望める、良い状況と言えるだろう。
「問題は生産コストじゃが。原材料も燃料も人材も自前で用意して居るし、製造工場じゃって自前じゃもんな。何も金がかかって居らん」
もちろん人の労力などはかかっているが、それだけでどうにかできる、と言うのは素晴らしい。
エインが設計図さえ作ってしまえば、後は丸投げするだけで完成品が上がって来る。
「じゃが、人工知能を搭載する関係で、どうしても使えるのがでかいものに限られてしまうんじゃよなぁ」
人工知能を入れるための、人工頭脳。
これがそれなりのサイズがあるため、搭載可能な魔法道具はそれなりの大きさになってしまうのだ。
何にでも気軽に使える技術、とはいかなかったのは、エインとしては非常に無念である。
とはいえ、便利なのには違いない。
「戦闘用ゴーレムに、空飛ぶ船。あの辺りには組み込めそうじゃな」
ゴーレムの駆動系に割く魔力を減らせれば、色々なことが可能になる。
稼働時間を増やすことも出来るだろう。
今までと同じ魔力を要求しつつ、出力を上げることも可能だ。
搭載可能な人工頭脳の性能もあげられるから、人工知能によるサポートも手厚くなる。
そうなれば、戦闘能力の向上も見込めるだろう。
「メリエリ達も随分戦い易くなるじゃろうて。キールは文句を言うかもしれん、が。自分で人工知能を育てさせるのも良かろう」
キールは人工知能によるサポートを、「余計なことをされる」と嫌っていた。
まぁ、あれだけの魔法道具使いとしての才能が有るのだ。
生半可な人工知能では、手出しされても邪魔なだけだろう。
だが、キールには魔法使いとしての才能は無く、術式の管理などとてもできない。
そうなれば、人工知能はどうしても必要になって来る。
「どんなサポートが必要で、何が不必要なのか。きちんと覚え込ませれば、人工知能はちゃんと働いてくれるからのぉ。その内、キールの好みにも合わせられるようになるじゃろうて」
極端な性能であるキールに合わせれば、それはもうどうしようもないほど極端な人工知能に育つことだろう。
ほかに応用が効かないのは多少問題ではあるが、キールの能力を考えれば、惜しくもない。
「尖った性能の人工知能、のぅ。うむ? 待てよ? そうじゃ、良い事を思い付いた! さっすがわしじゃぁ! こういう所が天才たる所以なんじゃよなぁ!!」
研究により新たなものが生まれ、またそれを発展させることで新たな研究へと行きつく。
エインにとっては最高の循環が生まれた瞬間であった。
「という訳で完成したのがコレじゃ」
「にーちゃん。とつぜん、という訳で、っていわれても、意味わかんないよ」
「一回言ってみたかったんじゃよ。コレ」
草縄村の広場で、エインは困惑顔のキールに嬉しそうに返した。
一度やってみたかったやり取りだったらしい。
そんなやり取りを聞かされても、集められた面々は真剣な面持ちを崩していなかった。
集まっているのは、草縄衆の主だった者達と、キール。
チャムも居るのだが、少し離れたところでツタを使って首飾りを作っていた。
そろそろ寒い季節なので、お花は希少なのだ。
「さて、お遊びはアレとして、まずは説明からせねばならんのぉ。少し前、わしが魔法道具の効率化の研究をして居ったのは知って居るのぉ? その過程で、人工知能が必要になったことも」
クリフバードの魔法道具運用から着想を受けた、魔法道具の効率化、高性能化の研究がある程度完成してから、さらに一週間が経っている。
既に戦闘用ゴーレムはメリエリをはじめとした魔法道具使い、ゴーレム乗りに支給されており。
工場機械の新調なども少しずつ始まっていた。
皆、まさに目の回るような忙しさである。
そんな中で新たな研究結果を披露し、発明品を発表すれば、皆さらに忙しくなるだろう。
だが、今のエインはそんなことお構いなしであった。
「そこで製作可能になったのが、これじゃ」
エインが指示したのは、金属製のゴーレムであった。
高さは、2mほど。
球体のような体に、頑丈そうな足が四本。
さらに、作業用と思われる小型の腕が、二本付いている。
ゴーレムはその小さな腕を振り上げると、ひらひらと振って見せた。
「こんにちわー」
思いのほか、かわいらしい声である。
「人工知能による自立行動が可能な、汎用ゴーレムじゃ」
「へぇー。ってことは、じぶんで考えてうごくってこと?」
「まぁ、そう言う事じゃ。もっとも、仕事はまだ何も覚えて居らんがのぉ。これから教えて行く事に成る訳じゃが」
「すっげぇー!」
話を聞いているのか居ないのか、キールはゴーレムに近づき、ぺちぺちとその表面を叩く。
ゴーレムはくすぐったそうに笑いながら、身を捩っている。
「此処に居るのはこの一機だけじゃが、他にも十数機が既に稼働して居る。今後もっと増やす予定じゃ」
相当な数である。
かなり大掛かりな計画の様だと、草縄衆は気を引き締めた。
「この間の研究により、魔法道具の性能を飛躍的に向上させることに成功した。それは、魔力備蓄装置についてもいえる。魔力を貯めて置く装置の小型化、高性能化に成功したことで、これだけの小型化に成功したわけじゃ」
元々、魔力を備蓄する装置と言うのは、かなり大型のものにならざるを得なかった。
技術的な問題と言うより、素材的な問題である。
素材でこれを解決しようとすると、ダイヤモンドやらプラチナやらが必要になるのだが。
残念ながらこんなド辺境では、いくら金が有ったところで手に入らない代物である。
それが技術的なもので解決できたのだから、母上様様だ。
「一度の魔力補給で、平均三日は稼働できる。汎用と言うだけあって戦闘も可能じゃが、戦闘行動を継続したとしても丸一日は補給の必要が無い。最大魔力備蓄量は、人が乗るゴーレムが二時間稼働する程度の魔力量じゃ」
普通ならわかりにくい例えだろうが、普段からゴーレムに慣れ親しんでいる草縄衆である。
すぐにどの程度の量なのか、理解することが出来た。
「こ奴らには、無線で情報をやり取りする機能が付けてある。あの鉄のモンスターと同じようなモノじゃな。アレは簡単な情報のやり取りだけが目的じゃったが、こ奴らに搭載した物はさらに発展させておる」
「はってんさせたもの? なんか、すごくなってるってこと?」
「そう言う事じゃ。こ奴らは獲得した経験や技術を、共有することが出来る。見聞きした知識、獲得した技術を無線でやり取りできるのじゃ」
キールは首をかしげたが、草縄衆はそれぞれに驚きの表情を見せた。
もうずいぶんとエインの作ったものと接しているので、草縄衆はエインが言ったことの意味を正しく理解できたのだ。
「例えば一体が勉強を覚えれば、全ての機体が理解できるようになるし。一体が逆上がりが出来るように成れば、全ての機体が出来る様になる。という具合じゃな」
「すっげぇー!! じゃあ、この子たちがたくさんできれば、すっごいいきおいで、かしこくてつよくなるのかぁー!」
ゴーレムが絡むと、キールの理解力は飛躍的にアップするのだ。
「という訳で、こ奴らの基礎学習をやらせたいのじゃが。面倒を見る者を草縄衆から選ぼうと思うんじゃよ」
「きそがくしゅーって、なにやるの?」
「色んな事じゃよ。経験値は多い方が良いからのぉ。各部署に分散させて、アレコレ覚えさせる予定じゃ」
「えー?」
明らかに不満があるように、キールは顔をしかめた。
思わぬ反応に、エインは驚いたように目を見開く。
「なんじゃね?」
「それってさ、けっこうたいへんなお仕事なんでしょ?」
「アレコレ教える仕事じゃからなぁ。まぁ、四六時中とは言わんが、目を離せる時間は少ないじゃろうし。大変ではあるのぉ」
「もう、草縄衆のひとたち、たくさんお仕事してるよ。いっぱいいっぱいなんじゃない?」
「ふむ」
キールに言われ、エインはまじまじと草縄衆を見回した。
特に変わった様子はない。
チュアランはこなれた感じの中年のおっさんだし、メリエリは妙に目に力が入った青年だし、ミーリスは若干抜けた感じの少女である。
コンランツは最近、妙な迫力が出て来ていた。
将来大物になりそうな気がする。
こんな所で自分が使い潰すのもどうなのか、と思わなくもないエインだった、が。
便利なのでいいか、と改めて思い直した。
基本的に、エインは自分本位なのである。
ともかく。
見た目的には、元気そうに見える。
だが、エインも草縄衆とは、それなりの期間付き合っていた。
「お主らまたぞろ魔法やらなんやらで無茶をして居るのか。そう言えば、最近は研究やらに掛かりっきりじゃったからなぁ。お主らの事を全く気にして居らんかったわい」
「いえ、そのような」
慌てて否定しようとするコンランツを、エインは片手を上げて制す。
「ううむ。そうなると、余計な仕事を増やすのもアレじゃのぉ。よし、基礎学習はわしが見るとしよう」
「エイン様の研究が、止まってしまう事に成りますが」
コンランツの表情が歪む。
草縄衆にとって、エインの研究が止まる、と言うのは由々しき事態であった。
そもそも草縄衆と言うのは、エインが研究をするために作った組織なのである。
草縄衆はそのことを、エインが思うよりもずっと重く受け止めていた。
「よいよい。大体、こ奴らがどう育つかと言うのも興味が有るしのぉ。とはいえ、わしだけで育てると多様性がのぉ。お、そうじゃ。良い事を思い付いた」
「えぇー。なんか、ろくなことじゃなさそうー」
「この天才に向ってなんて事を言うんじゃ」
実際、エインが思いついたのは、それなりにロクなことではないものだったのである。