第二十五話
爆発音と同時に加速したゴーレムが、手にした薙刀状の長柄物を振るう。
刃が向かう先に居たのは、「鉄のモンスター」だ。
既に足が数本潰されており、まともな回避行動はとれない。
速度が乗ったその一撃は、「鉄のモンスター」の下腹部。
人の上半身と、蜘蛛型の部分を正確に捉えている。
刹那、響いたのは、金属同士をこすり合わせる、甲高い異音であった。
極々短いものだったその音を引きずりながら、「鉄のモンスター」の体が宙を舞う。
正確には、人間の上半身のような部分が、である。
普通の生き物、それこそ「アラクネ」などならば、これで絶命するところだろう。
だが、「鉄のモンスター」は自立型のゴーレム。
これだけでは機能停止しなかった。
動き出そうとする「鉄のモンスター」の蜘蛛の部分だったが、すぐに縫い留められたように静止する。
先ほど「鉄のモンスター」を両断した長柄物が、今度は傷口に突き刺されたからだ。
その刃は、「鉄のモンスター」にとって重要な部品を、正確に破壊している。
完全に沈黙したのを確認すると、ゴーレムは長柄物を引き抜いた。
「やったぁー! 兄上ー! またやっつけたよー!」
どこか間の抜けたようなあっけらかんとした声が、ゴーレムから響いた。
ゴーレム「爆速号」に乗った、キールの声だ。
大きく手を振るゴーレムの動作は、実に自然なものである。
「おーう、お疲れー」
落ち着いた声でそう返すのに、クリフバードはかなりの精神力を使った。
爆速号の周りには、「鉄のモンスター」の残骸が転がっている。
先ほどキールが仕留めたものだけではない。
都合、十数体分の「鉄のモンスター」の残骸が散らばっているのだ。
すべて、キールが一人で仕留めたものである。
クリフバードや草縄衆も武装したゴーレムに乗り、同行しているのだが。
まるで出番はなかった。
下手に手を出せば、かえって邪魔になっていただろう。
「ここで、少し休憩するぞー。残骸の回収に、機体の修理補給も必要だからな」
「そっかぁー! わかったー!」
クリフバードもキールも、拡声器を使って会話していた。
無線機もあるのだが、こういう会話は周りに聞こえるようにした方がいい。
実際、クリフバードが指示を出すと、草縄衆はすぐに動き出してくれた。
心の準備が出来て居れば、自然と仕事は早くなる。
もちろん、草縄衆が優秀だ、と言うのも多分にあるのだが。
「メリエリ君。キールってさ、何時もあんな感じなの?」
無線通信で尋ねられたメリエリは、一瞬黙り込む。
だが、すぐに質問の意図を察し、「何と申しましょうか」と苦そうな声を出す。
「ご存じの通り、ゴーレムには様々な種類があり、それぞれに性能差があります。現在は日進月歩で製造技術が進んでおり、次々に新型のゴーレムが製作されております」
「みたいだね。エインの奴やり過ぎなんだよなぁ」
「それは、その、私などではなんとも」
メリエリの立場としては、なんとも言えない所である。
「それで、ゴーレムですが。基本的に、新しく作られたものの方が、性能は高くなっております。キール様は常に最新のゴーレムをお使いになっており、乗ってすぐにその性能を引き出してしまわれます」
乗ってすぐに性能を引き出す。
かなり異常なことのはずなのだが、キールの事となると、納得するしかない。
クリフバード自身、新しく与えられたゴーレムや装備を、その場で使いこなす姿を見ていた。
ゴーレムを乗りこなすことの難しさは、クリフバード自身身に染みて理解している。
だからこそ、キールの異常さが良く分っていた。
「ですので。より良いゴーレムに乗っている分、以前よりは戦力戦果は確実に上がっております、が」
「キールの能力を考えれば、当然と言えば当然。いつも通りな訳で。戦果的にはいつもよりスゴイけど、何時もあんな感じではある、と。なるほど、絶妙になんて答えていいか迷う質問なのね」
「説明能力が足りず、申し訳ありません」
「いや、俺の質問が悪かった。あと、キールがおかしいのが悪い。ったく、うちの弟たちは。どうなってんだろうねぇ」
言いながら、クリフバードはゴーレムを歩かせ始めた。
キールが暴れ回ったために使わなかった攻撃魔法の術式発動待機を解除し、霧散させる。
内魔法術を発動させるためにゴーレム全体に回していた魔力の量も、絞って置く。
自分の体でならともかく、ゴーレムで内魔法術を使うには、少々気を使わなければならないのだ。
そういった操作に合わせて、クリフバードの乗ったゴーレムの外見が変化していく。
機体そのものを可変させることによって、機能を切り替えているのだ。
「俺もこういう小技なら、得意なんだけど」
苦笑交じりに、クリフバードが肩をすくめる。
もっとも、今しがたクリフバードがやって見せたような「小技」は、異常なまでの魔法的精密作業を要求されるものであり。
とてものこと、ここ最近ゴーレムに乗り始めたものが出来るようなモノでも無ければ、数か月単位で訓練をしたところで、高い適性が無ければスタートラインにすら立てないような事なのだが。
当のクリフバードにそのことを教えてくれるものは、この場には居ないのであった。
「鉄のモンスター」は、それぞれが無線通信で繋がる、一種のネットワークを形成していた。
記録や情報を共有し、互いに現在の状況を確認しあう。
そうすることで、戦闘や防衛の効率化を図っていたのだ。
と言っても、繋がりはかなりゆるい。
もし別の人工知能を使ってネットワークに介入できたとしても、ハッキングを仕掛けてゴーレムを乗っ取る、などと言ったことは出来なかった。
あくまで共有するのは記録や情報だけであり、人工知能の根幹部分は切り離してあったのである。
また、ネットワークを作る際につきものの、中核になる機体なども存在していない。
そのため、精密で素早い連携。
あるいは正確で間違いのない判断、といったモノは苦手としていた。
ただ、全ての「鉄のモンスター」が同程度の性能、機能を持つことから、どの機体がどのように破壊されたとしても、全体には影響が少ない、という利点があった。
さらに、一体でも機体が残ってさえいれば、自己再生、自己増殖機能により、戦力を回復させることが出来る。
取捨選択への賛否は分かれるところだろうが、「鉄のモンスター」は実に優秀であり。
それだけに厄介な「敵」であると、エインは評価していた。
「じゃによって、天才であるこのわしが。考えに考え抜いた丹念につぶす方法を。天才であるこのわしが、一生懸命に準備して実行したわけじゃ」
相手が強いなら、それを圧倒できる位の戦力を整えてからぶっ潰せば良い。
それが、エインの基本スタンスであった。
「そう言うとなぁ、よく聞かれたもんじゃ。戦力が揃えられない時はどうするのか、とのぉ。それこそ、わしの天才さを見せつける場面じゃろう?」
通常であれば、どうにかして武器などを調達し、ギリギリまで人員を確保し、作戦を工夫することでどうにかしようとするだろう。
だが、エインは魔法研究者であり、自称天才である。
「多少の物資が有れば、物資を調達するための道具を作ることが出来る。なにせこのわしは、壊して作れる魔法研究者じゃからのぉ。必要な道具、武器を作るのなんぞお茶の子さいさいじゃわい」
この世界は、案外物騒な場所である。
なにしろ、魔物や魔獣がうろついているのだ。
よくフィールドワークをしていたエインは、そう言ったもの。
あるいは、こちらに敵意を持った人間などと、よく遭遇をした。
当然、身を守るためには戦わなければならない。
生まれ変わる前のエインは案外、武闘派な魔法研究者だったのだ。
「その結果。まぁ、こうなったわけじゃなぁ! ぬぁーはっはっはっはっ!」
エインは両手を広げ、のけぞるようにして悪役っぽい笑い声をあげた。
目の前に積み上がっているのは、「鉄のモンスター」の残骸である。
既に重要な魔法道具は切り離して居り、ここにあるのはまさに残骸。
それでも、素材という面で見れば、貴重な「鉄材」であった。
「壮観ですねぇ。こんだけ鉄を集めるのなんざ、相当な金がかかりますよ。いや、金が有っても手が出ないかなぁ」
「ほう? どういう意味じゃね?」
隣でぼやくように言ったチュアランの言葉に、エインは興味深そうに顔を向ける。
それほど深刻そうな顔ではなく、どこか楽しげな表情だ。
「鉄ってのは一応、戦略物資ですから。大量に揃えようとすると、目立つんですよ。そうなると、色々横やりが入りますので」
一般人の場合は、領主が。
貴族の場合は、他の貴族や王族が危険視することになる。
近所に戦争に必要な品物を揃え始める物が居たら、警戒するのが当然だろう。
「貴族の仕事なんてモノは、どう上手く暴力を振るうか。見たいな所が有るからのぉ。王族も同じじゃろうて。そりゃぁ、鉄なんて物騒なもの集め始めるヤツが居ったら、邪魔もするわな」
「これも、バレたら不味い。ですかね」
言いながら、チュアランは「鉄のモンスター」の残骸、鉄材の山を手で指した。
「そうじゃな。じゃが、バレずに集める事が出来た。なかなかのアドバンテージじゃね」
「戦闘用ゴーレムの量産でもなさるおつもりで?」
もし、今回手に入れた素材を、兵器製作に回したら。
エインは相当な武力を持つことになる。
こんな物騒な世界なのだ。
武力を持つということは、そのまま影響力を持つことを意味している。
何をするにしても、有利に働くはずだ。
しかし。
「そりゃ、多少はそういうものも作るけどのぉ。キールにもせっつかれて居るし。じゃが、そんなモノだけに使わんわい、勿体ないじゃろ」
「では、なにを?」
不思議そうな顔をするチュアランに、エインはニヤリと笑って見せる。
「農機具じゃよ。耕運機をはじめとした便利なものをいくつも作り、近隣領地で売るんじゃ」
「農機具、ですか」
エインの言葉を聞いて、チュアランは考え込むように眉間に皺を寄せた。
それを見て、エインは苦笑しながら手をひらつかせる。
「なぁに、それほど大した話じゃないんじゃよ。少し考えれば誰でも思いつく程度の話じゃて」
エルドメイ発動機が作る農機具、耕運機などは、圧倒的な効率での耕作を可能にしていた。
作業効率が上がれば、耕作面積も増え、当然収穫量も増える。
すると、何が起きるのか。
「人口が増える。食えるものが増えるのじゃから、当然そうなるじゃろう?」
「たしかに、そうなると思いますが」
「色々と工業なども発展するじゃろうなぁ。効率の良い農機具に支えられた、豊富な食料によって」
そこで、チュアランは背中に冷たいものを感じた。
エインが農機具などを売った近隣領地は、食料供給の改善により、人口が増える。
人手が余ることで、確かに工業なども発展するだろう。
だがそれは、「エインが農機具などを売る」から成り立つものなのだ。
魔法道具であるそれらを他の領地で作ることは、現状不可能だろう。
つまり。
「エイン様が農機具の類を売るのをやめれば。すぐにではないにしろ、その領地の農業生産能力は落ちることになる。そうなれば、増えた人口は支えられなくなり、大量の餓死者が出る。ってことですか」
「流石にそこまでする心算は無いがのぉ。まぁ、お願い事はしやすくなるじゃろうて」
エイン自身にその気がなくとも、それが出来る状況になることに意味があるのだ。
一度でもエルドメイ発動機の農機具を使いだせば、その時点でその領地は首輪をはめられたことになる。
人間は一度手にした便利で安全で豊かな生活を、手放そうとはしない。
その命運を握る相手の「お願い事」ならば、多少の無理でも受け入れるだろう。
ならば、最初から農機具を買わなければいいか、と言えば。
それは不可能だろう、と、チュアランは考えた。
エインは「近隣領地に売る」と言っている。
つまり、一か所ではないのだ。
例えばその領地の領主が、エインとの取引を拒否、禁止したとしよう。
その領地に住む住民達は、他の領地がどんどん豊かになっていくのを、指をくわえて見ていることになる。
自分達だけが何も変わらない。
そんな状況で耐えられる人間が、どれだけいるだろう。
もし「我慢」し続けられたとしても、それはそれで問題は無い。
時間が経てば経つほど、農機具を買った領地は豊かになっていき、相対的に買っていない領地は貧しくなっていくのだ。
当然、影響力も弱くなっていく。
放って置くだけで、取るに足らない存在になってくれる。
そこから脱出するには、エインに頭を下げるしかない。
「言うて、そんな優位性なんぞすぐに崩れるじゃろうけどもな。農機具に使って居る魔法道具なんぞ、そんなに特別なものじゃないんじゃから。直ぐにコピーされるじゃろうて」
笑いながらそういうエインだが、チュアランには冗談にしか聞こえなかった。
素人であるチュアランの目から見ても、「農機具に使われている魔法道具」だけで、尋常ならざるものである事は分かる。
よしんばあれを解析し、似たようなものを作れたとしよう。
それにはどれだけの時間と労力がかかるのか。
正直、見当も付かない。
少なくとも、一朝一夕で出来ることではないのは確かだろう。
時間をかけて複製品が出来たところで、意味があるとも思えない。
その頃には、エイン、エルドメイ発動機は、さらに技術力を上げている事だろう。
不可能とは言わないが、後追いでエインの知識と技術力に追いつくのは、相当に難しいはずだ。
「さて、チュアランよ。宴会の最中に呼び出してすまんかったのぉ。今後の予定について、話して置こうと思ったんじゃよ」
「はっ」
チュアランは居住まいを正し、片膝を地面に付いた。
頭を下げているのだが、エイン自身がお子様であり、視線を合わせているようにしか見えないのだが。
その辺はご愛嬌だろう。
エインとチュアランがいる少し離れた場所では、盛大な宴が催されている。
「鉄のモンスター」討伐に成功した、祝いの宴だ。
キールの初陣祝いと言うこともあり、多くの人が詰めかけている。
気さくでいつもにこにこしているキールは、領民にも人気があるらしい。
「鉄のモンスターは、ほぼ殲滅した。生き残りが居るかもしれんが、まぁ、勢力を盛り返すには時間がかかるじゃろう。その間に、土地を開拓する」
元々エインは、そのつもりで「鉄のモンスター」の討伐を発案していた。
予定通り、と言うことになる。
「農地開拓のほかに、戦闘訓練やエルドメイ発動機の工場やらなんやらも作る。領民兵と草縄衆用の軍事施設ものぉ」
かなり広大な土地が必要になるが、「鉄のモンスター」が居なくなった今なら、確保する事は出来るだろう。
「鉄のモンスターが居なくなったとは言え、他のモンスターやらなんやらの脅威は残って居る。チュアラン。お主にはそれらを排除する、責任者をやって貰いたい」
「自分が、ですか?」
「コンランツとミーリスには、別の仕事を任せる予定じゃ。メリエリは、お主の下に付ける」
チュアランからすれば、思ってもみない言葉であった。
どちらかと言えば、チュアランは少数精鋭を指揮するのに向いている。
出来ないというほどではないが、大人数を動かすのは上手くはない。
「色々な便利アイテムが手に入ったからのぉ。それらを使って装備を整えるのに時間がかかるんじゃよ」
エインが時間をかけて、何かをしようとしている。
それだけで、チュアランは冷や汗が出る思いだった。
あの「エイン様」のことである。
またぞろ、凄まじいことをしようとしているに決まっているのだ。
期待も大きいが、同じように恐ろしいものを見るような気持もわいてくる。
「ゴーレムやら魔法道具やらの量産。空中船の制作にも取り掛かる、んじゃが。今だからこそ手を付けたいところがあってのぉ」
エインはニヤリと笑うと、自分のこめかみを突いて見せた。
「高性能人工知能じゃよ」
既に人工知能は、ある程度実用化されている。
だが、エインはさらにその先を目指そうとしていた。
「こちらの指示に合わせ、自分で考え自分で動く。そういうことが出来る高性能な人工知能を作るというのは、実は結構な面倒がかかってのぉ」
魔法道具による人工知能制作と言うのは、案外ハードルが低い。
古今東西、魔法で作られた「勝手に動くなにか」と言うのは多かった。
それにきちんと形を与えてやったのが「人工頭脳」であり、そこに搭載されるのが「人工知能」である。
「頭脳だけ有っても駄目でのぉ。そこに搭載する知能を、別に用意してやる必要があるんじゃ。一度出来てしまえば、複製も可能なんじゃが。大元を作るのが骨でのぉ」
「かなり難しい技術が必要。と言うことですか?」
「いや、単純に時間がかかるんじゃよ」
人工知能と言うのは、形を作ったら完成、と言う種類の物ではない。
使い物になるようにするためには、「育てる」必要があるのだ。
「この学習がなかなか厄介でのぉ。何しろ時間をかけるしかないんじゃよ」
手間も暇もかけてやらなければ、良い人工知能を育てる事は出来ない。
「今はそうでもないが、近いうちにうちの領地は人手不足になる。その時、作業の補佐、戦闘補助、資源回収。そういった事が出来るゴーレム。それに搭載する人工知能の制作は、今のうちからやっておかねば間に合わん」
「ゴーレムに、人工知能を。つまり、自分で考えて、動くゴーレム。と言うことですか。その、鉄のモンスターのように」
あの厄介だった「鉄のモンスター」。
それが味方になり、仕事を手伝ってくれるとするなら、これほど頼もしいことは無い。
実際に対峙した経験があるだけに、チュアランには猶更そう感じられた。
「まあ、あれよりは随分穏当な形になるとは思うがのぉ。エルドメイ発動機で作ったゴーレムに、搭載する予定なんじゃし。形や大きさは自由自在じゃわい」
「蜘蛛と人の形にこだわることは無い。ってことですか」
「そうじゃよ。犬やら猫でもよいし、人でも良い。それらとかけ離れた形じゃって良いんじゃ。人工知能の育成さえ出来れば、じゃがね」
「俺以外の三人は、本来の仕事のほかに、人工知能の育成にも力を入れさせる訳ですか」
「そう言う事じゃね。お主は、バリバリの現場指揮官じゃからな。育って居らん人工知能を実戦場に放り出すわけにもいかんからのぉ。育った人工知能は使う側であって、育てるのには向かんわけじゃ」
正直、チュアランにはその「人工知能」がどういうものなのか、完全には理解できていなかった。
自分が育てる側、ではなく、使う側、と言うのも、正直良く分らない。
しかし「エインが言うことは常に正しい」と言う事だけは、理解できていた。
「まあ、正直人工知能の制作育成にも時間はかかるんじゃが。他にもやらにゃならんことが山積みでのぉ。いいんだか悪いんだかじゃわい」
エインはぼやくようにそう言いながら、改めてチュアランに向き直った。
「そんな訳でのぉ。しばらくはお主に現場全般を任せる事に成る。その代わり、人工知能搭載のゴーレムが完成すれば、お主の仕事も楽になるはずじゃからのぉ。楽しみにして居るんじゃぞ」
「はっ」
チュアランの返事に、エインは満足そうに「うむ」と頷く。
そこで、エインは不意に顔を別の方へ向けた。
賑やかな宴会の音がする方向である。
つられてチュアランもそちらへ顔を向ければ、パタパタと言う足音が聞こえて来た。
「にぃに! ぱん! ぱん、あげう!」
「チャムー。それパンじゃなくて、鳥のまるやきだよー」
「おうおう、チャムにキールか! にぃににご飯を持ってきてくれたんじゃなぁ! 良い子じゃのぉー!」
エインはでろでろに相好を崩すと、嬉しそうに小走りする。
先ほどまでとは打って変わった様子に、チュアランは何とも言えない苦笑を漏らした。