第二十二話
「これじゃこれじゃぁ! これが欲しかったんじゃぁ!!」
草縄衆が持ち帰った鉄のモンスターの残骸を漁っていたエインは、体をのけぞらせて歓喜の声を上げた。
突然の行動で、普通なら驚くところだろう。
が、キールや草縄衆は、エインのそういった動きに慣れていたので、特にリアクションはない。
「ねぇー、にーちゃーん。なんかいいものあったのー?」
「うむ。精密3Dプリンターが仕込んであったんじゃよ。それも、わしが知らんような極小型の奴がのぉ。恐らくわしが死んだ後に作られたんじゃろうなぁ」
自己修復、自己増殖が可能な拠点制圧防衛兵器。
それを実現するためのネックの一つだったのが、精密3Dプリンター。
様々な魔法道具を作るための魔法道具の、小型化であった。
高性能なものを作ろうとするとどうしてもでっかくなってしまい。
小さいものを作ろうとすると、精度が疎かになってしまうのだ。
「既存のものを改良するのは、どうも面倒でのぉ。わしはそこで興味が尽きて、他に投げてしまったんじゃが。コレはコレは、なかなかの代物じゃわい」
鉄のモンスターの腹の中に納まっていた装置に解析魔法をかけながら、エインはニヤニヤと笑みを浮かべた。
精度は高いまま、小型化に成功している。
「ポイントは、この3Dプリンターも、他の3Dプリンターで生産したもの、と言う所じゃな。3Dプリンター増殖が可能じゃわい」
「にーちゃんの魔法でも、作れるんじゃないの?」
「作れるは作れるが、わしがシコタマ疲れる。その上、それをやって居る最中他の事が出来んくなるじゃろうが。じゃがコレがあれば、材料と面倒を見る人員さえおれば良いんじゃ」
さらに漁っていくと、目当てのものが次から次に出てくる。
「良いぞ良いぞ! 人工頭脳に、無線装置! 入出力機もじゃぁ! わしが知らん型式じゃから、死んで暫くした頃の物じゃろうて!」
「それって、なにするものなのー?」
「人工頭脳と言うのは、演算と記録のための装置でのぉ。コレがあれば、設計やら計算やらが楽になるんじゃぁ! このサイズなら人工知能も積めるわい!」
「なにか、いーことあるのぉ?」
「このレベルの人工頭脳があれば、ゴーレムが相当簡単に作れるようになるじゃろうな。それに、ゴーレム自体の性能も段違いになるわい」
「ほんと!? じゃあ、すぐに作ってよ!」
「ちょっ! くるしっ」
突然キールに首根っこを掴まれ、エインは押し倒されないようになんとか踏ん張る。
こと、ゴーレムが絡むと、キールは驚異的な瞬発力を発揮するのだ。
「落ち着けっ! 物には順序があるんじゃぁ! まずはエルドメイ発動機で3Dプリンターを使った生産ラインを構築する! ゴーレムの量産はそのあとじゃ!」
「えー!?」
「えー、じゃないわい。まあ、お主とチュアラン。それからコンランツ用には、その前にワンオフ機を作る予定じゃがな」
「やったぁあああ!!!」
「それにしても、草縄衆! よくやってくれたのぉ! 上手く捕って来てくれたおかげで、欲しいと思っていたモノが全て丸っと手に入ったわい!」
エインの労いの言葉に、草縄衆はそれぞれの反応を見せた。
素直に喜ぶもの、旨く仕事がこなせたらしいことに胸を撫で下ろすもの。
なんにしても、全員が喜んでいることは間違いない。
「兄上が戻ってくるまで、30日ちょっとじゃな。良いか皆の衆! バリバリ仕事をこなすのじゃ! さすれば領地領民の生活は向上! 当然お主達の暮らしも良くなる! わしの夢の生活も近づくというものじゃわい! ぬぁーっはっはっは!!」
上機嫌なエインの言葉に、草縄衆達は表情を引き締める。
「ここからじゃ! 忙しくなるぞぉ! なぁに、心配するには及ばん! 何しろ、楽しい忙しさなんじゃからなぁ!」
クリフバード・エルドメイは冒険者である。
同時に、辺境の弱小貴族家であるエルドメイ家の嫡男でもあった。
エルドメイ家は、周囲の領地に比べて税が緩いことで有名である。
それでもあまり人口が多くないのは、あまりにも土地が過酷すぎるからだ。
土地は肥沃であり、水にも恵まれているものの、兎に角周囲にモンスターが多かった。
特に危険なのは「鉄のモンスター」だろう。
古代魔法文明が作った、などとも噂されているソレは、実際そう思わせる戦闘力を持っていた。
退けるのは不可能、とまではいわないが、連中のナワバリから人間の生活圏を切り取るのは難しい。
「さぁって。もう少しかなぁ」
そんな独り言を溢しながら、クリフバードは周囲を見回した。
高い木の上であり、かなりの範囲を見渡すことが出来る。
見覚えのある景色を見つけ、クリフバードはふっと短く息を吐いた。
「少し休憩といきますか」
クリフバードはそうつぶやくと、足場にしていた木の枝に座り込んだ。
冒険者の中には、人間離れした身体能力を持つ者が少なくない。
木の枝を次から次と飛び移りながら、一日に200km以上の移動もやってのける者もいた。
クリフバードが、まさにそれだ。
積載量は極端に減るものの、一日に軽く200km以上を走破することが出来た。
それが出来るからこそ、こうして気軽に帰ってくることが出来るのだ。
王都からエルドメイ家の領地へは、普通の方法なら二週間ほどの旅程になる。
クリフバードは、それを三日弱で走り抜けることが出来た。
無理をすれば二日ほどで駆け抜けることも可能なのだが、それは流石に疲れすぎてしまう。
実家に戻る目的は、畑仕事の手伝いであり、あまり疲れてしまっていては作業が出来なくなる。
それでは、本末転倒。
ほどほどの移動速度で行くのが、一番である。
「父上や母上は元気だとして。弟妹達はどうしてるかねぇ」
キールは、まぁ、元気だろう。
ぼへーっとしているようだが、アレは意外と図太い上に芯が強い。
チャムが元気でない訳はない。
いつの間にかエインが教え込んだ内魔法術と気功術を体得したあの幼児は、弟妹では一番フィジカルが強い。
問題があるとしたら、やはりエインだろう。
出所不明な高度な技術と知識を大量に保有する不思議な弟は、何をしでかすかわからない危うさがある。
冒険者として出稼ぎに行く前、アレコレと教えてくれたのはありがたかったのだが。
「なんであんなこと知ってるのか、全く分からんのよなぁ」
恩恵には預かっている訳だが、それはそれだ。
「ただなぁ。なぁーんか、ヤな予感するんだよなぁ」
エインが何か、良からぬ事をして居そうな気がする。
根拠のないただの勘なのだが、冒険者をしているとこれがあながち馬鹿に出来ない。
この勘のおかげで命を拾ったことが、何度もあった。
兎に角、先を急ごう。
クリフバードは三度ほど屈伸をすると、脚に魔法を込めて、跳躍した。
久しぶりに実家に帰ったら、近所にでっかい工場と従業員宿舎が建っていた。
普通ならば何事かと騒ぐなり、唖然としたりするところだろう。
だが、一番上の弟であるエインが関わっていると知ったとたん、クリフバードは「ああ」と納得した。
「お前はいつかこんなことしそうだとは思ってたけど。いろんな種類の魔法道具を作る工場かぁ。ハチャメチャだな」
「驚かせてしまったかのぉ。まぁ、わしがあまりにも天才すぎるんじゃよなぁー。天才がすぎてしまうのが玉に瑕なんじゃよなぁー」
ドヤ顔で言ってくるエインを一先ずスルーして、クリフバードは実家の玄関の前から、見知らぬデカい建物に顔を向け直した。
元々、クリフバードの実家。
つまりエルドメイ家の屋敷は、村から少し離れたところにある。
まぁ、屋敷と言うか、でっかい百姓家なのだが。
それはそれとして。
元々エルドメイ家は、周囲に何もない場所に建てられていた。
ぽつんと一軒家、といった状態である。
もちろん、そんな状態になっているのには一応の理由があった。
領地内で何かしらの軍事行動をする際、エルドメイ家の屋敷は拠点になる。
野営地にするにも、あるいは避難場所にするにしても、開けた場所の方が都合が良かったのだ。
当然、村から離れている分不便なところも多々あるのだが、代々の当主はそれよりも利点の方に重きを置いてきた訳である。
もっとも、整地してある訳でもなく、凹凸も酷く、使いにくい土地ではあったのだが。
「その、わざと開けてた土地にでっかいモノ作っちゃってまぁ」
「最初はのぉ? 村の近くに作って居ったんじゃよ。じゃけんども、新しい機材を入れるために工場を広げる段になって、騒音問題がありそうなことに気が付いてのぉ」
「それはそうなんだろうけど。っていうかそもそも、アレって何なのよ」
「エルドメイ発動機の工場じゃよ」
「なるほどわからん。順を追って説明してもらえる?」
「それもそうじゃなぁ。まず、回転盤の辺りからかのぉ」
回転盤と言う魔法道具を作った。
それを使って、耕運機という農業に役立つ品を作る。
人手が必要になったのだが、幸か不幸か、人員の補充は容易だった。
耕運機のおかげで不要になった働き手が、農家に居たからだ。
「耕運機はさっき見たじゃろう? 父上が使っていたやつじゃわい」
「あれな。すごい勢いで畑耕してたヤツ。ありゃ便利だわ」
耕運機を作る工場を作ることになったのだが、後々便利そうだったので会社にすることにした。
社員達が暮らすための施設も必要になり、宿舎も作ることに。
「後はちょっとずつ施設を伸ばして行こうかと思ったのじゃが、誤算があってのぉ」
「なによ」
「鉄のモンスターに使われていた内部装置が、わしが思ってたよりも優秀だったんじゃよ」
「まって。いや、ソッチの内部装置の話も後で聞くんだけど。順を追ってくれってば。鉄のモンスターがどうして今出てくるんだよ」
「ああ、そうじゃった。兄上は知らんのじゃったな。ええっと、これもどこから話せばいいじゃろうか。ご近所に、鉄のモンスターって居るじゃろ」
「そこからかぁ。まあ、うん、知ってる知ってる」
「アレはのぉ、古代魔法文明の遺物なんじゃよ。高度な魔法技術で作られた、ゴーレムなんじゃな」
「ちょっと待て。アイツ等、怪我は治るし仲間を増やすだろ。それがゴーレムだってのか?」
「ゴーレムは要するに魔法道具。魔法仕掛けの人形じゃ。コレは良いかのぉ?」
「まあ、なるほど。わかった」
「ゴーレムは体を動かす魔法道具や、物を考え判断する魔法道具によってできている。そうでなければ、自分で勝手に動かんじゃろ?」
「そうだな。モノを考え判断する魔法道具、か。つまり複数の魔法道具が組み合わさったものがゴーレム。ってことか」
「理解が早いのぉ。その通り、ゴーレムとは魔法道具の集合体な訳じゃ。で、あるならば。自分を治す魔法道具や、仲間を増やす魔法道具が、取り付けられているゴーレムが居っても、不思議ではないじゃろ?」
「確かに。鉄のモンスターは古代魔法文明の、体を治したり仲間を増やしたりする機能がある魔法道具。ってことか」
そこで、クリフバードは額を手で押さえ、うめき声を上げた。
「お前まさか。鉄のモンスター捕まえて、分解したか?」
「うむ。アレコレ弄り回したのぉ」
「あの工場の中に有る工作用の魔法道具って、まさか鉄のモンスターの中に有ったヤツか。最初の一体からとった魔法道具を基にして、魔法道具を量産したんだろ」
「話が早くて助かるわい」
草縄衆達が捕まえた鉄のモンスター。
しっかり調べてみると、使われていた魔法道具は、エインが知っている物より高性能なものも多かったのだ。
当初予定していたよりもはるかに速い速度で工程が進み、あれよあれよという間に工場で使う工作魔法道具を増やすことが出来た。
だが、そうなってくると元の工場では手狭になってしまう。
「最初は村の近所に工場があったのぉ。最初はそれを建て増ししようかと思ったんじゃが、いっそのこと広い土地を確保しようと思ってのぉ。今はそんなでもないんじゃが、騒音問題とかも将来的にあるかもじゃし」
「それで、広く空き地になってるところ。うちと村との間らへんを選んだわけか」
「畑やら家が建って居らん土地じゃからのぉ。相応に凹凸が有ったんじゃが、労働力はあるからのぉ」
鉄のモンスターからの収穫物を使い、今までよりもはるかに高性能なゴーレムを作ることに成功。
これを使い、草縄衆が一気に伐採と整地を行った。
「工場と宿舎の建築も似たようなもんじゃよ。3Dプリンターでパーツを作って、ゴーレムを使って組み立てるんじゃ」
「俺が思ってた斜め上をぶっ飛んでいくんだよなぁ、お前って」
「はっはっは! そこまで褒められると流石に照れるのぉ!」
「褒めてないのよ。っていうか、どうやって稼いでるんだ? 今現在」
「かなり高性能な魔法道具を作って居るんじゃが。まだ領地の外で売るには時期尚早でのぉ。工場で作ったモノを売って稼ぐという事はして居らんのじゃよ」
あまりにも逸脱した性能の品は、扱いも慎重にしなければならない。
エインは生まれ変わる前、貿易摩擦で戦争に発展した国をいくつも見て来ていた。
将来的には領地の外へ売るにしても、時期は考えなければならない。
そして、それを考えるのは、父や兄の仕事である。
自分は魔法研究者なので、そういった機微には疎い。
ならば、全て任せてしまって、自分はそれに従うのが良いだろう。
そう、エインは考えていた。
ぶっちゃけてしまえば、そういうことを考えるのはメンドイので、丸投げしようと思っているのである。
「じゃあ、どうやってあれだけの人数の食い扶持を稼いでるんだ? 工場で働いてる若者達、結構な人数居るでしょうよ」
「売ることは難しくとも、使う事は出来るからのぉ。わしの子飼いに使わせて、冒険者仕事で稼いで居るんじゃよ」
生産した魔法道具を、惜しげもなく草縄衆につぎ込む。
そうすることで草縄衆の地力は、飛躍的に上がっていた。
領地内にいるようなモンスターであれば、苦戦するようなことはほとんどない。
もちろん、鉄のモンスター以外は、の話ではあるのだが。
「お前の子飼いってなんだ。お兄ちゃん知らんぞそんな話」
「後で紹介するわい。兎に角、わしの自由になる人員が居ってのぉ。そいつらに冒険者をやらせて、稼いで居るんじゃよ」
「この辺りのモンスターで稼ぎになるのかぁ?」
エルドメイ家の領地に居るモンスターは、「金にしにくい」モノが多かった。
そうでなければ、わざわざクリフバードは出稼ぎに行かなくても済むのだ。
だが、あくまで「金にしにくい」のであって、「金にならない」訳ではない。
「強靭で倒しにくく、デカくて重い遺体を持ち帰らなければ、金に成ら無い。そうじゃろう?」
「まぁ、そうねぇ。それがあるから、俺も他で冒険者やってるわけだし」
「逆に言えば、強靭さを押し潰せる火力と。デカくて重い遺体を楽に持ち帰る手段さえあれば、それなりの金が稼げるという訳じゃ」
「どちらも魔法道具でカバーできる。ってことか」
実のところ、それらが無くとも草縄衆はそれなりの額を稼いでいたのだが。
魔法道具のおかげで格段に楽になったのは、間違いなかった。
「まぁ、そんな所じゃよ。という訳で、あのデカい建物はエルドメイ発動機と言う会社の工場であり、もう一つの方はその社員宿舎な訳じゃな」
「なるほどねぇ。なんていうか、感心するやら呆れるやら」
「そんなに褒められると照れるのぉ」
「褒めてないけどな」
「そうそう。話が出たついでに言って置くのじゃが。耕運機のほかに、収穫をする魔法道具もあってのぉ。それを使えば収穫作業がハチャメチャに早くなるんじゃよ。必要な人数も劇的に減るんじゃよね」
「お前の事だから、そういうのも作ってるだろうな。ってことは、俺はあんまり仕事しなくていい感じな訳か?」
「だいぶ仕事は早く終わる予定じゃよ。じゃが、兄上に手伝ってほしい仕事はきちんとあるんじゃよ」
不穏なものを感じ、クリフバードはエインの方へ振り向いた。
ニヤニヤと笑うその顔は、明らかに碌なことを考えていない時のものである。
「なによ、仕事って」
「兄上が何時もやって居る事じゃよ」
上機嫌な弟に対し、クリフバードの表情は凄まじく苦いものになった。
草縄衆が暮らすという、草縄村。
そこに案内されたクリフバードは、頭を抱えていた。
エインの子飼いが作ったというその村は、家建物などに関してはごく普通のものだ。
近くにある畑はまだ若く、手入れも素人臭さが残っているのだが、それは仕方ないだろう。
問題は村人である草縄衆と、彼らの装備である。
まず目につくのは、巨大なゴーレムだろう。
人が乗り込む戦闘用のもの、物資や人員などの運搬に特化したもの。
何種類ものゴーレムが、何台も並んでいた。
「全部、エルドメイ発動機の工場で作ったんじゃよ。わしが設計してのぉ」
自慢げなエインの言葉を聞き流しつつ、もう一人の弟の方へ目を移す。
実に楽しそうにゴーレムに腰かけているのは、一番下の弟であるキールだ。
キール専用だというゴーレムは、他の戦闘用だというゴーレムと明らかに異なる外見をしている。
「みてみて、兄上! にーちゃんが作ってくれたんだよ、これ!」
「ああ、よかったなぁ」
キールは何やら興奮した様子でクリフバードを呼びつつ、しきりにゴーレムを叩いている。
接触率を上げることで内部の魔法との親和性を上げる、とかなんとか理由があるらしい。
クリフバードもエインから説明を受けていたのだが、ぶっちゃけ意味は殆どわからなかった。
魔法の専門家でもなんでもない一冒険者である自分にそんなことを言われても、と、クリフバードは心の底から思う。
「あにうえ! すいか! すいか、たべう!」
「おいしそうだなぁー。あんまり服汚さないようにね」
そのゴーレムの足元で、下の妹であるチャムがスイカを食べていた。
幼子が素手でスイカを割って食べている姿はなかなか迫力があったが、とりあえず下の妹はかわいいのでクリフバードは笑顔で頷いて置いた。
ついで目に付くのは、草縄衆と呼ばれる連中である。
魔物が跋扈しているこの世界で冒険者をやって行くのには、相手の実力をある程度察知する能力が必須と言っても良かった。
何しろ、初見の相手とやりあうのが当たり前の商売である。
相手の体に秘められた魔力を感知したり、足音から体重やら何やらを把握したり。
それこそ、おおよその相手の力量を図るための魔法、なんてものも存在している。
一応、王都では一流の冒険者として扱われているクリフバードも、そういった種類の技をいくつか持ち合わせていた。
それらを使ってみるに、居並んでいる草縄衆と言う連中は、全員が全員凄まじい力量を持ち合わせている。
魔法、内魔法術、魔法道具適性。
方向性はそれぞれに違うが、誰も彼もが相当な実力を持っているのだ。
もちろんここでいう実力と言うのは、直接的な戦闘能力の事だけではない。
体内に抱えている魔力やらなんやらの類も、含めての事だ。
「お前、ついに人体実験にでも手出したのか」
「なんてこと言うんじゃ。まあ、言いたいことは分かるがのぉ。この連中は皆、一度死にかけて居るんじゃよ。そこから復活したもんじゃから、不屈の生命力的なアレでこんな感じになっとるんじゃろうね」
「なっとるんじゃろうね、ってお前」
「わしじゃって専門家でも無し、全員を詳しく調べた訳でも無いから、良く分らんのじゃよ。まぁ、不便がある訳でも無いし。病気がある訳でも無いし。コレはコレで良いと思うんじゃよね」
エインは基本的に、興味が無いことに関しては恐ろしいほど適当に済ませる。
弟の悪い部分ではあるが、突っ込んだところでどうしようもない。
クリフバードも、門外漢なのだ。
改めて、クリフバードは草縄衆一人一人に目をやった。
身に着けている装備。
装飾品や一般の武器に見えるそれらからは、魔法の気配を感じる。
「アレ。草縄衆の人らが付けてるの。魔法道具だろ? あれも工場で作ったのか?」
「流石兄上じゃのぉ。アレでも一応の偽装はして居るんじゃが。そうじゃよ。どれも魔法を仕込んで居る品じゃね」
「今日日、軍隊でもあんな重装備しないぞ。何させるつもりなの」
「さっき言った通りじゃよ。兄上が何時もやって居る事じゃよ。つまり、モンスターを倒すんじゃ。鉄のモンスターをのぉ!」
そんな無茶な。
クリフバードはそう言おうとして、口を閉じた。
この領地のものではないが、別の鉄のモンスターと戦った経験が、クリフバードにはある。
あれらがどういったモノかは知らなかったが、どの程度の実力を持っているのかは、おおよそ分かっていた。
鉄のモンスターは非常に厄介で、その割に得られるものが少ない。
傷の少ない遺体を手に入れられれば、ギルドからかなりの額が支払われるのだが、それが相当に難しいのだ。
不可能ではないのだが、費用対効果が合わない。
だが。
「これだけの装備が有れば、話は別。か」
鉄のモンスターと安定してまともにやりあえる能力があるのなら。
話は全く変わって来る。
エインが用意した魔法道具がどれ程のものか、正直クリフバードには詳しくわからない。
だが、あのエインが用意したわけだから、生半可なものではないだろう。
と言うより、既に草縄衆は鉄のモンスターを、少なくとも一度は倒しているのだ。
そうでなければ、エルドメイ発動機の工場で、その部品を使えるわけがない。
「鉄のモンスターを狩って、どうするつもりだ? どうせギルドに売るのが目的じゃないんだろ? お前の事だから」
「兄上は本当に察しが良いのぉ! その通りじゃとも。彼奴等が我が物顔で歩いて居るのは、便宜上エルドメイ家の領地じゃろう?」
「まあ、便宜上は」
「ならば、取り返してもだぁれも文句を言うまい?」
「お前、まさか。鉄のモンスターを狩り尽くすつもりか!?」
「そうすれば、良い農地が確保出来るじゃろう? 楽しみじゃのぉ! 畑じゃ畑じゃぁ! 畑が広がるんじゃもんなぁ!」
食料を生み出す畑。
それこそが、繁栄の基盤である。
生まれ変わる前から、エインは知識としては分かっていた。
だが、実際に畑を耕し、腹を空かせ、収穫物を得てみて、まだまだ認識が甘かったと思い知ったのである。
「畑のために! 次の収穫のために! 次の次の植え付けのために! 領地領民の繁栄は、農作地の確保にかかって居る! うちの家業がお貴族様で、わしの目的が研究開発のための費用確保であるならば! まずせねばならぬのは農地の確保! これに尽きるじゃろう!」
高笑いをするエインの横で、クリフバードは頭痛に苦しんでいた。
とりあえず間違ったことは言っていないのだが、規模感と方法論がアレ過ぎる。
「父上と母上はなんて言ってるんだ?」
「怪我をしないように、との事じゃった。じゃもんで、もう少し装備を整える予定なのじゃよ。まあ、4,5日で準備は整うかのぉ」
「うちの農作業が終わる位か」
例年ならばもっと時間がかかるが、今年はエインが作った魔法道具がある。
確かにその位で、おおよその目途は付くだろう。
「うむ。その間に、兄上のゴーレム作らねばならんしのぉ」
「ゴーレム? 俺の?」
ぎょっとするクリフバードに、エインは力強く頷いた。
「そうじゃとも。専用の奴をのぉ!」
「要らない要らない! マジで要らない!」
「若い者が遠慮せんで良いわい! 楽しみじゃろぉ!?」
「マジで要らないってのよ! なんか怖い!」
結局この後、クリフバードはエインにアレコレとゴーレム制作に必要なことを調べ上げられた。
急ぎの農作業を終え、ほっと一息ついた頃。
本当に完成した自分専用だというゴーレムを見上げ、クリフバードは再び頭を抱えることになったのであった。