第十五話
草縄村の普請は順調に進んでいた。
冒険者としての活動により、資金も順調に溜まってきている。
エインにとって意外だったのは、草縄衆が予想以上に勤勉だったことだ。
与えられた仕事をこなしながらも、それぞれに情報収集や訓練を欠かさない。
元々は町のはみ出し者や年寄り、居場所のない女子供の集団であったのだが。
今ではすっかり、頼もしい実働部隊となっていた。
「あの連中、妙に労働意欲が高いんじゃよなぁ。なんでじゃろう」
エインは様々な分野でそれなりに優秀だったが、絶妙に人の心の機微に疎い所があった。
というか、基本的に他人の事を気にしないタイプなので、想像がつかない、と言うのが正しいだろう。
「まっ、わしにとっては得しかないから、良いんじゃけどものぉ」
エインは基本的に、自分が幸せならそれで良しとするタイプであった。
今のエインにとっては家族の幸せも自分の幸せなので、「家族さえ幸せなら、後は比較的どうでもいい」ということになる。
何ともいえない状況になっていた。
「さてさて、と。歴史の事も分かったし、後はもうちょい草縄村の事をやらんとのぉ」
村としての外見は、とりあえず整いつつあった。
家などの建物も建ち、物資なども買い込んできている。
だが、肝心なものが無かった。
「畑じゃ。畑が無い。この村には決定的に畑が無いんじゃよなぁ」
この領地の領主は、エインの父である。
父はエインが手放しで認めるほどの、農業の天才であった。
そんな人物が領地を治めているのだから、当然領民はそれに倣って畑を耕すべきである。
別に誰がそう言っていたわけでは無いのだが、エインは自分で勝手にそう考えていた。
「じゃと言うのに、何じゃこの村の畑の体たらくは」
村には、魔法や魔法道具を使い、急ごしらえの畑は作ってあった。
だが、エインの目から見てすら分かるほど、出来は良くなかったのだ。
それどころか、キールやチャムですら顔をしかめる出来である。
「なんか、ダメなかんじだねぇー」
「じょーじゅくないねぇ」
チャムが言っているのは「じょうずくないね」。
つまり、「上手じゃないね」の、幼児語、というかチャム語である。
サメの「ジョーズ」とは無関係であった。
エイン達にそんな風に言われ、コンランツは恐縮しきりと言った様子で頭を下げる。
「申し訳ありません」
「いやいや。お主達、荒事に慣れた者はおっても、農業従事者は一人も居らんかったという話じゃからなぁ。仕方ないじゃろ」
コンランツ達もあれこれ工夫はしているのだが、いかんせん経験が足りなかった。
正直、こればかりは時間をかけて、経験を積み重ねるしかない。
ちなみに、まだ種や苗などの植え付けは行っていなかった。
今の状態の畑では、大した実りを期待できないとエインが判断したからだ。
「とはいえ、農業に関してはわしも未だ素人同然じゃからのぉ。どうしたら良いか、今一判断が付かん」
生まれ変わる以前のエインは、農業にほとんど興味が無かった。
今持ち合わせている知識や技術は、父に教えられたモノだけである。
「手を拱いておっても碌な事は無い。ここは一つ、最も詳しいお方にお出まし願うのが良かろう」
「えー? だれにたのむのー?」
「父上じゃ。この領地内で、農業知識で父上の右に出るものは居らん」
「そっかぁー!」
首をかしげていたキールだったが、エインの言葉ですぐに納得顔になった。
キールも、父ならば的確なアドバイスをしてくれる、と判断したのだ。
一方のコンランツは、驚愕したように目を剥いていた。
今の草縄衆にとって、エインは絶対的な尊敬と崇拝の対象である。
そのエインが、常日頃から「自らの父にして、敬わなければならないお方」としているのが、「ご領主様」であった。
草縄衆からして見れば、エインでさえ自分達よりも遥か高みの存在である。
となると、そんなエインが絶対的な信頼と強い尊敬を抱く相手とは、いったいどれほどの人物なのだろうか。
コンランツには全く予想が付かなかったし、正直な所、そこまで行くともはや伝説や物語の中の人物。
あるいは、現人神の様な認識であった。
「ご領主様に、草縄村へ御出で頂く。ということですか?」
「うむ。その心算じゃ」
血の気が引いて青くなるコンランツをよそに、エインは難しい顔で腕組みをする。
「とはいえ、のぉ。今のままではここに来て貰うのは、いささか気が引けるんじゃよなぁ」
父のアドバイスを貰えれば、村の畑はある程度形になるだろう。
だが、わざわざ出張って頂く以上、何かしらの「手土産」は持ち帰ってもらいたい。
領主であり家長である父への配慮、と言うより。
単純に「家族に喜んでもらいたい」という気持ちが、エインの中では強かった。
何か良い方策はないか。
考え込んでいるエインの横で、「そーいえば」と、キールは手を叩いた。
「ねぇー、にーちゃん。この間のコーウンキって、いつ父上にみせるの?」
「うむ? アレは試作の改良途中なんじゃが。そうじゃなぁ。ぼちぼち、一度お見せするのも良いかもしれんのぉ。っと。その手があるか。コンランツ!」
「はっ!」
怯えてはいても、コンランツはエインの声に素早く反応する。
「数日中に、父上を村にご招待する。凄まじく手をかける必要はないが、それなりの歓迎はせねばならん。なにせ、新しくできた村に、初めてご領主様をお呼びするのじゃからな」
「わかりました。ただ、何分私達はそういった経験が無く」
「そりゃそうじゃろう。指示はわしが改めて出すじゃによって、それまでは特に何かせんでも構わんわい。わしの方で、先に準備をせねばならんことがあってのぉ」
「しなければならない事、ですか」
「試作型耕運機の改良作業じゃ。父上にこの村へ来て頂く際、一緒に御披露目することとする」
コンランツの表情に、ますます緊張の色が滲んだ。
現在試作中の耕運機には、エインが前世知識を基に作った「回転盤」が使われている。
回転盤は現在、領内に住む鍛冶師のアモウスが生産していた。
この生産作業には、草縄衆も駆り出されている。
アモウスの鍛冶場には従業員などが居ないため、臨時で手伝いに行っているのだ。
草縄衆は魔法や内魔法術、魔法道具などの扱いに長けているため、かなり重宝されているらしい。
その流れで、耕運機の試作品改良作業には、草縄衆の一部も関わっていたのだ。
「まあ、作業の中心はもちろんわしじゃが、草縄衆も手伝っているのは間違いないからのぉ。ここで披露する必然性はある。なかなか良い案じゃな。キースから出たヒントを的確に形にするとは、流石わしじゃわい!」
高笑いを響かせるエインの横で、コンランツは緊張に震えていた。
兎に角、速く草縄衆全体で情報を共有し、事に当たらなければならない。
もし万が一今回の事で何か失敗でもあれば、「エイン様」の顔に泥を塗ることになる。
それだけは死んでも避けなければならない。
実際、今回の事を無事に終わらせるためならば、本当に命を投げ打つ草縄衆は、少なくないだろう。
無論の事、コンランツもその中の一人である。
こうして、エインの全くあずかり知らぬところで、草縄衆達の命がけの戦いが始まったのであった。
記憶というのは生理現象であり、主に脳内で起こる現象によって支えられている。
それだけでなく、少なくともエイン達の暮らす世界の理としては、魔力や魂が密接にかかわっているのだが。
細かいことはともかく。
生まれ変わる前のエインは、魔法によって記憶容量を大きく増強していた。
魂やら、纏っている魔力やらに、記憶の一部を移すなどしていたのだ。
エインが今も特に問題なく知識を利用できているのは、それらの「外部記憶」が生きていたからなのである。
そして、幸いなことに「外部記憶」の中に、耕運機に関するものが入っていたのだ。
「たしか、病院かなんかの待合室で読んだ雑誌が、農業関係だったんじゃよなぁ。そこに乗ってた小型耕運機の写真を、記憶領域にぶち込んで置いたんじゃろうなぁ」
恐らく、何となくカッコよく見えて、特に理由もなく記憶して置いたのだろう。
幸運な偶然、というヤツである。
もちろん、エインに言わせれば「流石わしなんじゃよなぁ。当時からこんなこともあるじゃろうと思ってたに違いないわい」と、言った所であった。
無論、実際の所は完全なる偶然である。
とはいえ、それが役に立つことがあるのだから、世の中分からない。
記憶から小型耕運機の形をトレースして、素材を魔法で加工し、組み立てる。
既に生産してあった回転盤を内部に仕込んでやれば、出来上がりだ。
あとは、少しずつパーツの形などを変化させて、良さそうなところを探ればいい。
「完璧は目指す必要はないじゃろ。今後はアモウスの鍛冶仕事に任せる訳じゃし、多少効率が悪くても作りやすさを考えるべきじゃな」
あれやこれやと弄くり倒し、四日ほど。
ようやく、それなりに納得できるものが完成した。
「まだこだわれると言えばこだわれるんじゃがのぉ。一先ずはこんなもんで良いじゃろ。コンランツ! 設計図も書いてあるから、コレと一緒にアモウスの所にもって行くんじゃ!」
「はっ。すぐに作り始めて貰いますか?」
「とりあえず持って行くだけで良いわい。今は農機具の修繕などで忙しい時期じゃろうからな。頭の中で製作工程を考えて置くように、とでも言っておくと良いじゃろ」
「そのように」
「ていうかコンランツ。お主ちょっとやつれて居らんか?」
「やつれる、ですか? 自分ではわかりませんが。特に健康状態に問題はないと思います」
エインは改めて、コンランツをまじまじと見た。
目の下にクマが出来ているし、少々血色が悪い気がする。
のだが、まぁ、それは最近のコンランツの状態から見て、の話であった。
何しろ、最初に会ったときは、相当に酷い状態だったのだ。
町から逃げ出し、食べものもなく、放浪していたのである。
着の身着のままでやせ細っていたわけで、健康状態も悪くて当たり前だっただろう。
それが、今は見違えるように好青年然とした姿になっている。
いまだにちんちくりんな自分の体と見比べ、エインは「ううむ」と唸った。
「父上や母上に似れば、わしもイケメンマッチョになるはずなんじゃがなぁ」
「マッチョ、ですか」
「いや、それはどうでもいいんじゃが。まぁ、問題無いなら良いわい。しかし、あれじゃなぁ。お主、顔も良いんじゃなぁ」
「自分ではその、よくわかりません」
「良いんじゃよ、お主の見た目は。実に良いことじゃ。お主は草縄衆の頭じゃからな。その見た目が良いというのは、草縄衆にとって大きな利益になる。交渉の席などで、印象が良くなるじゃろうしな」
正直、コンランツは自分の見た目に関心を払ったことが無かった。
どうでもいいと思っていた、と言うのでもなく、本当にそんなことを考えたことが無かったのだ。
だが、今後はそういった事も気にしなけれならないらしい。
「そうじゃ。父上が来るときには、草縄衆達には野良着など着せて置かんようにのぉ。父上はそういった事を気にされる方ではないが、礼儀は礼儀じゃ。礼服とは言わんが、一応洗ったりしたこぎれいな格好をして置くように伝えて置くんじゃぞ」
「ただの農民には、ただの農民相応の晴れ着というものがあるそうです。既に用意はして居りますので、それを着るようにする予定です」
「流石じゃな。これで、わしは忙しいのでのぉ。細々したところは任せるわい」
生まれ変わる以前から、エインは常に一人で動いて来た。
あれこれ好き勝手をやるには、身軽な方が楽だったからである。
なので、草縄衆への指示は凄まじくおおざっぱ。
細々した調整などは、コンランツやミーリスに丸投げしていた。
普通なら混乱の一つも起きそうなものだが、幸いなことにコンランツは人の上に立つ能力が高い。
必要な事を割り出し、優先順位をつけ、的確に人に割り振っていく。
エインにとっては、得難い片腕へと育ってきていた。
「微力を尽くします」
「うむうむ、まぁ、無理はせんで良いぞ。適当にのぉ。適当に」
自分の指示がどんな事態をうむのか。
この時のエインは、予想だにしていなかったのである。
草縄衆に三人いる班長の一人、ミーリスは、魔法を得意とする少女だった。
元々持ち合わせていた才能をエインに見いだされ、班長を任されたのである。
複数の才を持つミーリスだが、その一つは高い記憶力であった。
既にエインから数百の魔法を教えられているのだが、ミーリスはそれらすべてを完全に記憶、自らのものとしている。
今、ミーリスが行使している魔法も、まさにその中の一つであった。
「モンスターは見つかったか?」
薄暗い部屋の中で座っていたミーリスにそう尋ねたのは、コンランツであった。
両手をテーブルに付け、じっと目を閉じていたミーリスは、ゆっくりとコンランツに振り返る。
「事前に設定した範囲内のモンスターは、大半狩り尽くしたようです」
ミーリスの目は、僅かに発光していた。
目の中を覗き込めば、そこには細かな文様のようなものが蠢いているのがわかるだろう。
いわゆる魔法陣であり、ミーリスは今も魔法を発動しているのだ。
「村周辺の状況を探ってくれ、とは言ったが。あまり無理はするな」
すでに日が沈んでかなりの時間が経っており、村人の多くも寝静まっていた。
だが、未だに動いている者も、少なからず居る。
「平気です。幸い、私はそれなりに魔力が多いようなので」
ミーリスは、一般的な「魔法使い」より魔力が多いようだった。
元々許容量が多かったというのもあるのだが、エインから「魔力許容量増加」系統の魔法を教えられたことも、要因の一つである。
一度覚えれば常時発動し続ける種類のものであり、ゲームなどでいう所の「パッシブ能力」のようなものであった。
こういった魔法は、実は珍しくない。
言ってみれば「内魔法術」も、そういった類の延長にあるものなのだ。
「聞いている。魔力的には余裕があるかもしれないが、精神的疲労はどうにもならんだろう」
自ら能動的に使用する魔法と言うのは、発動させるのにも維持するのにも、集中力が必要となる。
魔法道具使いであるコンランツには、正直わからない感覚ではある。
だが、それが疲労を伴うであろうことは、想像できた。
「日が沈む少し前からだ、と聞いたが」
ミーリスが今使っているのは、「視界などの感覚の一部を、別の場所に飛ばす」という魔法であった。
探索などに用いられる魔法であり、非常に便利なものではある。
だが、発動するにも維持するにも難易度が高く、必要な魔力も多かった。
それを、ミーリスは日が沈む少し前から今まで、ずっと行使し続けていたのだ。
草縄衆の中でも、これほど長時間この術を行使し続けられるのは、ミーリスだけである。
「はい。夜にならないと姿を見せないモンスターも、多いですから」
草縄衆は、草縄村周辺のモンスター討伐に躍起になっていた。
エインの父である「ご領主様」が草縄村にいらっしゃるまでに、少しでも危険を排除するためだ。
ミーリスはそのモンスターを探すため、魔法を使っていたのである。
昼間ならばともかく、夜の森を歩くというのはただでさえ危険が伴う。
モンスターを探そうにも、普通の方法では難しかった。
そこで、ミーリスは魔法を使って、モンスターを探していたのだ。
「確かにそれも重要だが、あまり根を詰めすぎるな。お前はエイン様のお気に入りだからな」
実際、エインは良くミーリスに魔法を教えていた。
草縄衆の中ではコンランツに次いで、エインとの接触時間が長い。
何しろ、ミーリスは教えれば教えただけ、魔法を覚えてしまう。
エインは面白がって、有用そうなものを片っ端からミーリスに教え込み、喜んでいるのだ。
「お気に入り、というか。珍しい動物を弄っている感じなのでは、ないでしょうか。私なんて」
「エイン様が、ミーリスは教えがいのある生徒だ、と言っていた」
コンランツの言葉を聞いた途端、ミーリスの目にあった光が激しく点滅する。
魔法陣が散り散りになって、崩れてしまったのだ。
精神が乱れ、集中が途切れたらしい。
「へっ、変なことを言うから、しゅうちゅう力が切れたじゃないですかぁ」
今にも泣きそうな顔で言うミーリスに、コンランツは苦笑を漏らす。
ずいぶん頼もしくなっては来ているのだが、やはり「エイン様」が絡むと話が変わるらしい。
まぁ、それはミーリスに限らず、草縄衆全員がそうなのだが。
「そんなこといったら、私だけじゃなくて頭もですよ」
「俺か?」
「狩りに行ってたんですよね?」
たしかに、コンランツは狩りから戻ったところであった。
夜に徘徊するモンスターを仕留めてきたのである。
「昼間も働いて、夜もあれこれ働いて。あまり寝ていないじゃありませんか」
ご領主様をお迎えするため、草縄衆は急ピッチで準備を進めていた。
謁見する際に着る服の準備に、「農民としての」礼儀作法。
万が一お出しすることになった際のための、食事の用意。
ご休憩の際にお使いになる、建物の建築。
畑の手入れも、続けている。
それから、道の普請。
草縄村は森の中に突然できた村だったので、まともな道が整備されていなかった。
ずっと獣道を使ってきたのだが、ご領主様のお越しを期に道を普請することにしたのである。
これは、別にエインの指示ではない。
草縄衆自体が自主的に行っている、「細々とした調整」の一つであった。
エインの知らないところで、草縄衆達は凄まじい勢いで働いているのだ。
それらを指揮しているコンランツは、当然のように忙しく動き回っていた。
「礼儀作法の周知徹底、他の村との折衝、建物の確認、農作業の指揮、ゴーレムを使っての道の普請。いつ休んでいるんです?」
言うほど働いていないし、きちんと休んでいる。
そう返そうとしたコンランツだったが、言う前に口を閉じた。
ミーリスは持ち前の記憶力と魔法を駆使して、草縄衆の行動を把握している。
そうすることで、的確な指示を出すことが可能になるからだ。
当然、頭であるコンランツの行動も、把握している。
適当なことを言ったところで、お見通しなのだ。
「ご領主様が、初めてこの村にいらっしゃるんだ。多少の無理はする。なに、魔法や魔法道具に頼っているからな。言うほどのことも無い」
のんびり休んでいる暇はない。
コンランツは、回復魔法や同じ効果を発揮する魔法道具を駆使して、働き続けているのである。
「流石に睡眠はとっているし、問題ないだろう」
「一日に何度も魔法のお世話になっているのは、問題ないとは言いません。最低限は休んで頂かないと」
「そうは言うが」
「回復魔法は、一日一度までにして下さい。それから、きちんと寝ること。言っておきますが、これでも私はきちんと寝ているんですからね」
どこか得意げな顔をするミーリスに、コンランツは参ったというように肩をすくめた。
「わかった。言う通りにしよう。ただし、ミーリスも同じようにな。昼間、魔法の使い過ぎで倒れそうだったと聞いているぞ」
「うっ」
魔法を使い過ぎると、魔力の枯渇や精神的疲労などで、気絶することがある。
昼間、ミーリスはその一歩手前まで行っていたのだ。
ミーリスは魔力の容量も大きいが、回復速度も速かった。
おかげで、すぐに仕事を再開させられたのだが。
身体的、心理的疲労を完全に拭い去ることは、出来なかった。
「俺も魔法は一度までにして、あまり無理はしないようにしよう。ミーリスもそうしろ。でないと、エイン様に報告せねばならなくなる」
「うぐぅ。わかりました」
結局、「魔法による精神的肉体的疲労回復は一日一度まで」ということで話がまとまった。
それではほかの草縄衆と同じであり、余分に働くことが難しくなってしまうのだが。
「無理はせんで良い」と言われている以上、納得するしかなかった。
ちなみに。
魔法があまり普及していない現在、回復魔法を使って無理矢理働き続けるという発想自体が狂気の沙汰なのだが。
世間一般の常識にあまり触れてこなかった草縄衆は、誰もその異常性に気が付いていないのであった。