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第十話

「鉄材で作ろうかと思ったが、背に腹は代えられん。石器時代の魔法道具で勝負じゃ」


 魔法道具というのは、要するに魔力を籠めれば魔法が飛び出す道具の事である。

 極論、魔法が発動するならば、材料は何でもよかった。

 鉄や木材などにこだわる必要もなく、そこらへんで拾ってきた紙屑でもいいし、石ころだって十分に素材たり得るのだ。

 では、質の良し悪しが性能に関わりないか、と言えば、全くそんなことは無かった。

 質の良い、つまるところお値段の高い素材を使った方が、精度も高くなるし、耐久性も上がる。

 安物買いの銭失い、というように、高かろうが質の良いものを使った方が、結果的に安く上がることがほとんど、なのだが。


「いかんせん、先立つものがないんじゃよなぁ」


 何しろ、コンランツ達、草縄衆を食べさせていかなければならなかった。

 洋服や食器、家具などの生活必需品も全く足りていない。


「草縄衆の最大の収入源は、モンスター狩りにする予定なんじゃよなぁ。連中の適性もそこじゃし」


 元々荒事をしていた連中なので、得意なところと言えば暴力であった。

 その適性を最も穏当に発揮させて、尚且つ金儲けをさせようと思えば。

 やはり、冒険者として働かせるのが妥当だろう。


「じゃが、そのためには魔法道具が必須なんじゃよなぁ」


 草縄衆のうち、三分の一ほどが魔法道具に適性があった。

 ほかの者達はそれぞれ、魔法使い、内魔法術に適性があり、既に戦闘訓練を始めている。

 現状でも草縄衆だけでのモンスター狩りは、不可能ではない。

 だが、やはり魔法道具を使える者は居た方が良い、というのがエインの判断であった。

 魔法道具は「道具」である分、色々と応用が利く。

 狩りをするモノ達の中に魔法道具使いが居ると、安定感が格段に増すのだ。


「じゃによって、仕方なくそこらへんで拾ってきた素材で、魔法道具を作って居る訳じゃよ」


「へぇー。石とか木のボウとかで、つくれるんだねぇー」


 草縄村、と名付けられた、天幕が建っているだけの土地。

 今日も今日とてやって来たエインは、拾ってきた石やら木の枝やらをせっせと加工していた。

 自身で「天才じゃ天才じゃ」というだけあって、エインはかなり器用な部類である。

 集めて来た素材を加工する様子は、迷いもなく手際もよい。


「作れるは作れるんじゃが、どうしても耐久面がのぉ。すぐに壊れてしまうじゃろうし、モノによっては使い捨てになってしまうのじゃよ。全く、効率が悪いことこの上ないわい」


 そこらへんで拾ってきた石と木の棒でも、魔法道具を作ることはできる。

 ただ、出来る物は一回限りの、完全な使い捨て品になってしまうのだ。

 将来的にはそういった魔法道具を使うのもよいだろうが、未だ練習の段階である。

 魔法道具の使用に慣れるまでに、一体どれだけ魔法道具を消費することになるのか。


「しかもそれを作るのがぜぇーんぶわしじゃ。酷い、あまりにも酷い。一体どこの誰が、天才であるこのわしにこんなことをさせて居るのかっ!!」


 すぐに自分自身だと気が付き、エインは今しがたの叫びをなかったことにした。

 エインはそういう所は割と融通が利く性格なのである。




 そんな感じでぶつくさと文句を言いつつも、エインは丸一日かけて一人頭二十本の魔法道具を用意した。

 まあ、丸一日とはいっても、一日に自由に使える時間は限られている。

 その中で作った数としては、異常な部類であった。

 いくつもの魔法を平行起動しての、力技ともいえる作業だ。

 自称天才の面目躍如、といったところだろうか。

 早速、草縄村にやって来たエインは、魔法道具使いに適性のある面々を呼び集めた。

 全員が揃っていることを確認し、満足げに頷く。

 そして、いつものように一緒についてきていたキールの方へ振り向く。


「キール。以前に教えた、自分の適性は覚えておるかのぉ?」


「たしか、魔法道具っていわれたとおもうー」


「よく覚えて居ったのぉ。その通り、お主の魔力は魔法にも内魔法術にも一ミリも役に立たんが、魔法道具にだけは常軌を逸したレベルで適性がある。才能という意味では、チャムの内魔法術適性に匹敵すると言って良いじゃろう」


 チャムに匹敵する才能。

 それを聞いた草縄衆は、一斉に騒めいた。

 草縄衆にとって、チャムというのは畏怖の象徴である。

 毎日エインと一緒に村にやって来ては、気まぐれに岩を放り投げたり、木を引っこ抜いたり、地面をベチベチ叩いて土壁の様にまっ平にしたりしていた。

 もはや「幼子」などと言う分類としては認識されておらず、超自然的不可侵存在だと思われるようになっていたのだ。

 ぶっちゃけ、ドラゴンとかと同じ扱いである。

 そんなチャムと、キールが同じレベルだという。

 草縄衆にとって、キールというのは唯一に近い癒しであった。

 ヤバさの根源であるエインに、そのエインが溺愛しているフィジカルモンスターのチャム。

 二人と草縄衆の間に立ってくれていたのが、キールだったのである。

 そのキールが、チャムと同じようなモンスターだったとしたら。

 一体自分達は何を頼りに生きていけばいいというのか。

 草縄衆の面々が小さくない衝撃に体を震わせる中、エインとキールは全く気が付いていない様子で話を続ける。


「じゃによって、今日はお主にも魔法道具の使い方を教えてやるからのぉ。しっかりと聞くのじゃぞ」


「えー? むずかしい?」


「なぁに。お主にとっては、文字を覚えるより簡単じゃよ」


 キールも草縄衆の側に立たせ、エインは早速説明を始めた。


「さて、当たり前の話から説明するが、しっかりと聞くように。魔法道具というのは、魔力を入れると魔法が発動する道具の事じゃ。名前の通りじゃな」


 言いながら、エインは足元に並べていた石ころを拾い上げた。

 もちろん、ただの石ころではない。

 表面には模様のようなものが彫られており、草の茎で編んだと思われる紐が縛り付けられていた。


「魔法道具というのは道具というだけあって、種類様々。使い方も様々じゃ。ただ、魔力を流し込むということに関してだけは、共通しておる」


 エインは手にした石ころをもてあそびながら、草縄衆一人一人と、キールの顔をしっかりと見回す。


「まず、最初の一つめ。これは、爆弾石。クラッカーなどとも呼ばれる武器じゃ。これに魔力を込めて、付いておる草の縄を引き千切る。すると、10数えたのちに爆発する。というような代物じゃ」


 草の紐をつまみながら説明するエインに、草縄衆は真剣に聞き入っている。

 キールも、いつものボケっとしたような表情ではあるものの、しっかりと聞いていた。


「本来ならいきなりやって見せて驚かせたいところなんじゃが、流石にそれは出来ん。ガチで危ないからじゃ。わしがガチで危ないというぐらいじゃから、割とシャレにならんレベルだということがわかるじゃろう」


 草縄衆とキールは、思わず一歩後ろに下がった。

 言葉がきちんと伝わったのだろう。

 エインの普段の行いの賜物である。


「とはいえやって見せんことには始まらん。手本を見せるから、動かんようにのぉ」


 言いながら、エインは弄んでいた石ころをしっかりと握り直した。

 草縄衆とキールに良く見えるよう、手を動かして角度を変えて見せる。


「まず、爆弾石に魔力を流しいれる。掌の真ん中から、魔力を出すイメージじゃ。必要な魔力が溜まると、それ以上は入らなくなる。魔力を入れようとしても、抵抗を感じるはずじゃ。後で確かめるとよいじゃろう」


 皆の視線がしっかりと集まっているのを確認しながら、エインは続ける。


「見た目にはわからんじゃろうが、しっかりと魔力を一杯にした。魔法道具に込めた魔力というのは、放っておくと発散してしまう。質の良い素材を使えばそれを遅らせることも出来るが、そこらの石では300数える間に魔力が散ってしまうじゃろうな」


 エインは爆弾石に付いた紐を、指でつまみ上げた。

 良く見えるように、軽く上下して見せたりもする。


「魔力を一杯に注ぎ込んだら、この、導火線。と言っても分からんか。ビローンってなって居る紐を引っ張って引き千切る。別にどこからどこまで、という決まりはない。紐が切れた、という事実がトリガーになって、魔法が発動するんじゃ」


 爆弾石についている紐を、指に絡ませる。


「コレを引き千切り、10秒。まぁ、10数えるぐらい経つと、この爆弾石が爆発を起こす。よく見て居るんじゃぞ」


 エインはわざと大袈裟なしぐさで、爆弾石に付いた紐を引き千切った。

 同時に、大きな声で「いち!」と数を数え始める。

 素早く後ろに振り返り、手の中にある爆弾石を放り投げた。

 草縄衆とは反対方向に飛んでいったそれに、全員の注目が集まる。


「耳を塞ぐんじゃ! はち! きゅう!」


 草縄衆もキールも、慌てて耳を手でふさぐ。

 そして。


「じゅう!」


 エインの声と同時に、爆発音が轟く。

 強く白い発光、閃光も迸った。

 思わずといった様子の悲鳴も上がったが、草縄衆の動揺は少ない。

 既にエインやチャムの常識破りな破壊力を見せられているからだろう。

 この程度で激しく驚くようなことは、無くなっていた。


「一度爆発すれば、それで終わりの使い切り。それが、爆弾石じゃ。よし、威力を確認しに行くから、付いてくるんじゃぞ」


 爆発の中心地点に行くと、地面が大きく抉れている。

 近くに人間が居れば、腕の一本や二本。

 あるいは上半身、下半身のどちらかぐらいならば、吹き飛んでいただろう。

 エインの魔法ほどではないが、人間やモンスターを相手にするならば、なかなかに頼りになるはずだ。


「さて、他にもう一つ、魔法道具を用意したのじゃが。そちらはまだいいじゃろう。とりあえずは爆弾石じゃ」


 手本を見せた後は、実地での訓練である。

 エインは草縄衆とキールに指示を出し、さっそく爆弾石の使い方を詳しく教え始めるのであった。

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