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94.恋は難しい

 杞憂は終わった。

 創立祭の翌日、いつもの談話室に集まってロイスから結末を聞いた私たちは喜んだ。

 そしてロイスの隣には小さくはにかむオーレリアがいて、本日も大変かわいい。


「あの、メルディアナ様は……殿下の気持ち知っていたんですか?」

「ええ、知ってたわよ。だから二人の気持ちどっちも知っていたってことね」

「そ、そうですか」

「……だから攻勢に出ろって言ってたんだ」

「こ、攻勢!?」


 両者の気持ちを知っていたと正直に告げるとオーレリアは恥ずかしそうに、ロイスはようやく納得したようにこぼす。


「それじゃあ、私の言ったこと次々と一蹴したのは……」

「メルディアナに『多少強めに押せ』って言われてて。まさかそう意味で言っていたとは……」

「だってオーレリアが逃げる理由言わないでって言うんだもの。でも両片思いの二人を放置出来ないからちょっと助言したのよ」


 告白現場を見てないので何があったのか詳細は分からないが珍しくロイスの押しが強かったのだろう。


「まぁ二人とも好きなのに相手は違うって盛大にすれ違ってたからねー。ちょっとくらい無理しないと」


 笑いながらアロラが声を出す。

 ちなみに、昨夜はルーヘン伯爵令嬢の足止めを頼んでいたが見事成し遂げてくれた。

 会場に戻ったらやけに機嫌がよくて聞いてみたら「久しぶりにハンナと二人で話せたから」という言葉のみ。

 そしてルーヘン伯爵令嬢はというと、私の隣にいるアロラを見るとびくっと肩を大きく揺らして逃げて行った。こちらも一体、何話していたんだと言いたい。

 一応報告するが聞いても「大したこと話してないよ」と言うのみで教えてくれなかった。


「オーレリアちゃん、殿下が好きにきっかけ知ってる?」

「あ、お聞きしました……。まさか音色だったなんて」

「廊下を歩く度は今日はあの音色聞けるかなって思ってたんだ。特に童謡とか楽しそうにアレンジしていて聞いてて興味深くて」

「あ、あれは誰もいないって思って……!! いたら弾いていませんでした!」


 ロイスの言葉にオーレリアが頬を赤くしながら恥ずかしそうに弁明する。


「そうなの? 僕はあのアレンジ好きだったんだけどな」

「っ!? ……た、たまになら、弾きます」

「本当? よかった」


 首を傾げながらロイスが口にするとオーレリアが折れ、たまになら演奏すると言うとロイスが嬉しそうに笑う。ちょっと、何この空間。私たち邪魔じゃない?


「退散する?」

「退散しましょうか?」

「退散してはダメですよ」


 アロラとこそこそと言っているとステファンがダメだと言う。ステファンはもうちょっとふざけてもいいと思う。

 ステファンに注意されてアロラが空気を変えるために明るい声を上げる。


「それにしても本当よかったですね、殿下」

「大変喜ばしいです」

「ありがとう、アロラ、ステファン」


 アロラとステファンの祝福にロイスがこちらを向いて微笑む。その微笑みに私も嬉しくなる。私も祝福の言葉をかけよう。

 そう思ってロイスを見て微笑む。


「おめでとう、ロイス」


 そして敬語を消してロイスを呼び捨てで呼ぶ。ロイスの隣でオーレリアが驚いたように淡い緑色の瞳を少しだけ見開かせて私を見る。

 一方、呼ばれたロイスは笑いながら頷く。


「うん、メルディアナもありがとう」

「私は出来ることをしただけよ」


 感謝の言葉を述べるロイスにそう返す。実際、私が出来ることをしたまでだ。

 オーレリアがロイスを好きになったのは、ロイスが自ら行動して頑張ったからだ。


「ふふ、驚いた? 実は私はロイスのこと呼び捨てにしてるの」

「そうだったんですね。少しびっくりしました」

「初対面が王族に取る態度じゃなかったんだけどロイスは怒らずに笑ってくれて。それでずっと名前で呼んでるの」

「私とステファンは殿下呼びだけどねー。王子様を呼び捨てにしてお洋服を泥だらけにするなんて恐れ多いもん」


 オーレリアに説明するとアロラがそう付け加える。確かに小さい自分は王子様相手に恐れ多いことたくさんしてきたなと思う。

 でも、ロイスは困った顔をしても怒らず、いつも帰り際に「また遊びに来てね」と言ってくれた。

 もし初対面で王族に対して無礼だと言われたらこんなに気さくな関係になっていなかったはずだ。

 

「両親以外は皆、僕のこと『殿下』って呼んでいたからね。だからメルディアナに呼び捨てで名前を呼ばれて、壁が感じなくて嬉しかったんだ」


 そして懐かしそうに昔の話をする。確かに王宮の使用人も近衛騎士も私の両親も皆ロイスのこと『殿下』と呼んでいたなと思い出す。

 殿下という敬称は確かに臣下みたいに思って壁が感じられる。それが寂しかったのか。


「あ、でも今は気にしてないよ。ステファンやアロラは僕のこと殿下って呼ぶけど壁は感じないよ」

「それならよかったです」

「今は、壁なんて持ってないですからねー」

「アロラはもう少し礼儀正しくするべきだ」

「えっー!」


 ステファンが注意するとアロラが抗議の声を上げてロイスが笑う。

 その光景を見て三人が出会った頃を思い出す。

 出会った頃は王太子と侯爵子息・伯爵令嬢だったけどあっという間にそんな身分の肩書が消えて友人になってそれから数年、四人で過ごした。

 

「いいよ、アロラ気にしないで。……皆には、本当にお世話になったね」


 皆、というロイスにオーレリア以外の私たち幼馴染組がロイスを見る。


「普段からさりげなく協力してくれて、昨夜も僕のために動いてくれてありがとう」

「殿下……。いえ、当然のことですよ。大切な友人である殿下の為ですから」

「そうですよ! 殿下にはいつも勉強とかお世話になっていますし普段のお礼ですから!」


 ロイスの感謝の言葉に二人が嬉しそうに返していく。二人の嬉しそうな笑みにロイスも口許を緩める。

 そしてロイスが私の方を見る。


「メルディアナもだよ。僕の背中を押してくれてありがとう。最初にメルディアナが引き合わせたから彼女と話す機会もたくさん増えて一緒に過ごすことが出来た。最後には助言もしてくれて……本当に、ありがとう」


 幸せを顔に書いて感謝の言葉を口にするロイスに胸がじんわりと温かくなる。

 大切な友人で一番長い幼馴染。そのロイスが幸せな未来を掴んだことが嬉しくて、私も笑みを浮かべる。


「どういたしまして。オーレリア、ロイスをよろしくね」

「は、はい!」

「王妃教育はこれからだけど分からないことや困ったことがあれば言って頂戴。力になれると思うから」

「メルディアナ様……。ありがとうございます、その時はお願いします」

「私も力になるからね!」

「はい、よろしくお願いしますね」


 協力すると言ったらアロラも名乗り上げてオーレリアが微笑む。

 これからオーレリアは王妃になるための王妃教育が始まる。

 ロイスの母親である王妃様は幼少期から陛下と婚約していたからゆっくりだったと聞いたことあるけど、オーレリアはこれから始まる。数年後には王太子妃になるオーレリアの王妃教育は忙しいと思う。

 私は王妃にならない。でも、力になれることはある。

 非の打ちどころのない令嬢と呼ばれるだけあって教養もマナーも国内から近隣諸国の様式も叩き込まれている。それらの知識をオーレリアに授けることは可能だ。

 そう思いながらまだほんのりと温かいお茶に口を付けたのだった。




 ***




 それから穏やかに時間は過ぎてお開きとなってそれぞれ寮やら生徒会へ戻った。

 

「それでは、メルディアナ様、アロラ様。また明日」

「ええ、また」

「バイバーイ!」


 部屋の前でオーレリアに別れを告げるとアロラと一緒に歩いていく。


「上手く行ってよかったけど、メルディはこれから大変だねぇ」

「そうね」


 アロラの呟きに苦笑する。確かに、これから私は大変だろう。

 今まではロイスという防波堤がいたけどこれからはそれも通用しない。私に近付きたい子息は今まで以上に増えるだろう。


「覚悟の上よ」

「……気になる人はいないの?」


 周囲を確認しながらこそっと聞いてくる。その質問にまたしても苦笑する。


「残念ながらいないわね」

「そっか。まぁ、急ぐ必要はないっか。メルディはモテるしその中にいい人いるかもしれないし」

「そもそも恋に落ちるきっかけがよく分からないわ。小説は素敵だと思うけど」


 恋愛小説は読んでて素敵だし多少憧れる気持ちはある。だけど、自分が恋に落ちるイメージが全然想像つかないのも事実だ。


「メルディは難しく考えすぎじゃない?」

「そう?」

「それこそ色々だよ。私はステファンに一目ぼれしたけど、オーレリアちゃんはゆっくりと変化して気付いたし。人それぞれだよ」

「ふーん」


 アロラの話を聞いて考える。人それぞれ、か。

 それは人によっては千差万別というわけで。うむむ、やはり恋は難しい。

  

「メルディはまだまだそっち方面は子どもだね。過保護なジュリアン様やライリー様たちのせい?」

「どういうこと?」

「分かんないならいいや」


 アロラの発言にカチーンと来る。おのれ、自分の方が恋愛では先輩だからと……!


「……明日の天文学の課題、教えない」

「えっ! ちょっと、それ無理!」

「知らないわ」

「メルディー!」


 アロラを置いて足を進める。いつも私の部屋に来るんじゃなくてたまには自分で解けばいいのだ。

 そう思いながら部屋へ戻った。 

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