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93.煌めく夜会と夜空に浮かぶ月2

 外に残した二人のこと考えながらゆっくりと歩いていく。

 オーレリアに頼まれたため、ロイスにはオーレリアが避けている理由を伝えることが出来ず「嫌いというわけではない」と言うのが精一杯だった。

 そんな両思いなのにすれ違っているそんな二人のために、ここ数日アロラたちと色々と手を尽くしたのは記憶に新しい。


 副会長であるロイスは本当は会場を離れること出来ない。だから生徒会長にステファンと一緒に頼み込んで終盤だけ時間を貰えるように交渉し、今はステファンが生徒会長の近くにいるはずだ。

 アロラはというと、ロイスの側から離れないルーヘン伯爵令嬢の足止めを頼んでいる。今頃、笑顔で時間を稼いでいる姿が目に浮かぶ。


 そしてロイスに対しては自分の気持ちを正直に伝えるように且つ攻勢に出ろ、これは攻城戦だと言っておいた。アロラからは「なんで攻城戦?」と言われたがスルーした。


「とは言っても、ロイスは押す性格じゃないのよね」

 

 うむむと考えてしまうが今から戻るわけにもいかない。あとは、本人たち次第だ。

 そして二人の気持ちがきちんと通じ合うように祈りながら二階へ繋がる階段を上ろうとして立ち止まってしまった。

 階段の踊り場にいたのは珍しい白銀の髪の青年――ユーグリフトだったから。


「ユーグリフト……」


 紅玉の瞳と目が合い、見開いて呟くと相手も立ち止まって見下ろしてくる。


「カーロイン? なんでお前ここにいるの?」

「それはこっちのセリフよ。……なんでここに?」


 尋ねてくるユーグリフトに尋ね返す。どうしてここで遭遇するんだ。


「何度も断ってるのに踊ってほしいって言う令嬢たちに辟易して逃げてきた」

「だとしてもどうしてここなの? 去年みたいテラスに逃げたらいいのに」

「逃げてたけど探しに来るから会場から出てきたんだよ」

「ふーん」


 疲れた様子でユーグリフトが答える。

 どうやら既にテラスに避難したが見つかったようだ。で、ここまでやって来たと。人気なのも大変だと思う。


「カーロインは?」

「……会場が熱気から避難してきたのよ」

「ふぅん。じゃあどっちも会場から避難してきたってわけか」

「そうなるわね」


 嘘は言っていない。実際に会場の熱気から逃げるために外に出ていたのだから。

 そう言い聞かせているとユーグリフトが下りてきてぎょっとする。まさか、ダンスから逃げるために外に出る気か!?


「待って」

「……何?」


 平静を努めて待てというと怪訝な顔を向けられる。だが、ここを通すわけにはいかない。

 外にはロイスとオーレリアがいる。せっかく気を遣って二人きりにしたのに部外者が来たらどうなることやら。ここは何があっても守り通す。


「外は寒いから出たら風邪引くかもしれないわ」

「少しいるだけだから問題ないと思うけど」

「強風が吹いてたからやめた方が適切だわ」

「テラスにいた時は特段強風なんてなかったけど」

「あんたのファンの子がいたからやめた方がいいわ」

「会場にいるよりいいと思うけど。それに、外は広いし暗いから見つかる前に逃げるから別に困らないし」


 カチーンとなって青筋が立つ。コイツ、止めるために色々と言うが全て切り返してくる。本当に口が立って腹立つ!


「とりあえず! 外はやめた方がいいわ!」

「……ふぅん」


 語気を強めて言うと何か探るような目で見てくる。そんなじっと見るな。

 視線を全身に感じながら見つめ返す。先に目を逸らした方が負けだ。


「……へぇ。何か隠し事があるって感じ?」

「さぁ、なんのことやら」


 ニヤリと不敵な笑みを向けて来るがとぼける。こっちの計画をユーグリフトに言う必要などない。


「いいよ。じゃあ代わりに創立祭が終わるまで付き合ってよ」

「……分かったわよ」


 やや間があったが許してほしい。これはあれか。去年と同じく話し相手になれってことか。

 断ってもいいけど譲歩してくれたという恩もあるので頷く。どうせ終わるまで二十分もないし。

 踊り場まで上ってユーグリフトと相対する。だってずっと見上げるのは悔しいから。


「カーロインはずっとダンス?」

「そうね。ほぼそれで終わったわ」

「人気者は大変だな」

「ユーグリフトだってダンスに応じればいいのよ。そうしたら逃げる必要ないのに」

「一人二人なら付き合うけど頼んでくる人数が多いから面倒なんだよ。カーロインなら分かるだろう?」

「……それは分かるけど」


 ユーグリフトの言葉にそれ以上言えなくなる。私だって今日はずっとダンスだったし。

 創立祭は令嬢が気になる子息にダンスを申し込める貴重な機会で高位貴族は特に申し込まれる人数が多い。

 その中でもユーグリフトはスターツ公爵家の後継ぎで女性を引き付ける容姿をしている。婚約者や恋人がいても奴と踊りたいと思う令嬢はいるのは知っている。

 

「まぁ大勢に申し込まれたら辟易するのは分かるわ。でも踊ってみたら楽しいわよ」

「カーロインはダンス好き?」

「特別好きじゃないけど嫌いじゃないわ」

「ふぅん」


 運動神経がいいからかダンスの講義も嫌じゃなかったのを思い出す。やっぱり運動神経がいいのはいいことだ。剣術や乗馬を習う時でも有利だし。

 そんなこと思っているとふと、エルルーシアちゃんを思い出して尋ねる。


「そういえばエルルーシアちゃんは元気?」

「元気だよ。今は領地で令嬢教育をしているところかな」

「そう。元気ならよかったわ」

「あいつはもっと令嬢教育受けるべきだ。夏の休暇は振り回されて大変だった」


 ユーグリフトがげんなりとした顔で話す。いつもすまして大人びた顔を剥がすエルルーシアちゃん、すごい。

 でも、口ではそう言いながら口許は柔らかくて完全に嫌だったわけではないのは十分読み取れる。


「振り回されているあんたを見たかったわ」

「それ、絶対笑うだろ?」

「正解」

「お前なぁ……」


 片眉を上げて聞いてくるユーグリフトに肯定する。エルルーシアちゃんに振り回されている。うん、面白そうじゃないか。

 そんな風に話していると会場の方からゆっくりと美しい音色が聞こえ始める。確かこの曲、最後のダンスの曲だ。


「これ最後の曲?」

「そうね。ダンスの途中に会場に戻れば? そうしたらダンス申し込まれないもの」


 確認してくるユーグリフトに頷くと共に提案する。曲の途中でダンスを踊るのはマナー違反なので途中で戻れば女の子たちもお願いしてこないだろう。私もユーグリフトが会場に戻ったのを確認したら会場へ戻ろう。

 そして奏で始める音色を聴いているとユーグリフトが思いついたように呟く。


「じゃあ踊ってみるか。付き合ってくれる?」

「……は?」


 予想外の内容を聞いてユーグリフトを凝視する。ちょっと待て、ダンス踊りたくないから逃げて来たんじゃないの?


「なんで急に?」

「カーロインが踊ればいいのにって言うからだろう。最後の曲だし踊ろうかなって」

「だとしてもなんで私?」

「失敗するか心配? ま、カーロインはずっとダンスしてて疲れてるから無理か」

「はっ、あんたと一曲踊るくらいどうってことないわよ。受けて立とうじゃないの!」


 ユーグリフトの挑発に反射的に返す。その挑発、買おうじゃないか。かかってこい。上手って言わせてやる。


「階段の踊り場だろうと優雅に踊れるのを証明しようじゃないの!」

「へぇ。それじゃあ──美しいご令嬢、どうか私と一曲踊っていただけますか?」


 手を差し出して得意げな顔で私に宣戦布告する。

 だから私も負けじと微笑んで手を重ねて了承の意を述べる。


「ええ、勿論」


 手を重ねて音色に合わせて向かい合うとメロディに合わせてステップを踏み始める。

 曲がゆっくりと穏やかな音色のため階段の踊り場でも十分踊ること出来る。まぁ、踊り場が広いのもあるけど。


 演奏に合わせて優雅に、時に華麗に踊っていく。

 思えばユーグリフトと踊るのはこれが初めてだ。手首や腕やら掴まれたことはあるけど手を重ねるのは初めてだ。

 重なっている手は当然のことながら私より大きい。まるで男女差を思い知らされる気がしてなんか嫌だ。

 そしてさらに腹立つのはユーグリフトのリードが上手いということだ。私が自由にステップを踏んで回ってもいとも簡単についてきては崩さずにリードし続ける。……弱点じゃなくて悔しい。何か一つくらい弱点ないのかと問いただしたいけど絶対教えてくれないだろうな。


 奏でられる音色を聴きながら互いに無言で踊り続ける。

 会場の煌びやかなシャンデリアも、賑やかさもないけれど、これはこれで悪くないなと思う。


「何か考えごと?」


 色々と思っているとユーグリフトが問いかけてくる。ダンスのせいでいつもより距離が近い。……本当、顔は整っていると思う。


「弱点がないのかなって思って。苦手なものはないの?」

「そりゃああるけど教える気はない」

「そう言うって思ったわ」


 軽口を叩きながら最後まで集中力を切らさずにステップを踏み、最後の回転する。

 踊り場の窓から月の光が差してきてユーグリフトの紅玉の瞳と目が合い、私も見つめ返してしまう。


「…………」

「…………」


 互いに無言のまま曲が終わり、手を離してお互い感謝の姿勢を取り、内心ほっとする。なんか、あっという間だったな。

 しかし、我ながらいいダンスが出来たと思う。まぁ、ユーグリフトのリードが上手かったのもあるのは認めるけど。

 そう思っているとユーグリフトが私に向けて言葉を放つ。


「上手かったな」

「……!」


 上手という言質が取れて嬉しくなって頬が緩む。やった、上手と言わせることが出来たぞ私!

 嬉しい気持ちを抑えながら口角を上げてさっきユーグリフトがしたように不敵に笑う。


「そうでしょう? ──だから、私の勝ち」

「────」


 笑いながら勝利宣言する私にユーグリフトが珍しく紅玉の瞳を見開かせる。それがなんか面白くて笑ってしまう。


「ふふ、何その顔」

「……その顔ってどんな?」


 指摘するとユーグリフトが不機嫌そうな顔で問いかけてくる。どんな顔、か。


「なーいしょ」


 そして尋ねてくるユーグリフトに笑ってはぐらかして、くるりと背を向けて会場へ歩いたのだった。

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