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83.対戦2

 この瞬間を、ずっと待っていた。


 二回戦、三回戦、四回戦、五回戦と勝利し続けてついに、ついにここまで辿り着いた。


「それでは二年生の部、最後の試合を行います。両者、前へ」


 審判の声に従い、私と対戦相手が前へ進む。


「これより、B組メルディアナ・カーロインとB組ユーグリフト・スターツの試合を始めます」


 審判の言葉にまっすぐと対戦相手――ユーグリフトを見る。

 私が当たった対戦者を全て倒したように、ユーグリフトも当たった対戦者を全て倒した。

 今は残るのは私とユーグリフトのみ。奴の試合は出来るだけ参加者用の観戦席で見たけど、どの試合でも焦る様子を見せることなく勝利してきた。


 そして今、私の目の前にいる奴は感情を見せない目でまっすぐと私を見る。


「ユーグリフト様、頑張ってくださいませー!」

「あと一勝ですわー!」

「おーい、メルディー! 頑張れよー!」

「メルディアナ様! 頑張ってください!」


 両者の声援が耳に入る。女子生徒の言うとおり、あと一勝で二年生の試合は全て終わる。

 息を小さく吸って呼吸を整える。……疲労は多少あるけどまだまだいける。いいや、むしろ気持ちは身体の疲労と逆で燃え上がる。

 自然な素振りで観客席と貴賓席に視線を動かして公爵の確認する。よし、まだいる。

 ユーグリフトも父親がいることに気付いていると思うけど公爵の方を一切見ない。……公爵とはあれから話したのだろうか。


 思うところはあるけど今は試合前。今は考えずに目の前の試合にだけ集中しろと自分を叱責する。

 息をゆっくりと吐いて木剣を構えてユーグリフトと対峙すると向こうも木剣を構える。


「それでは――試合開始!」


 審判の宣言と同時に両者とも走る。そしてお互い同時に木剣を動かして木剣がぶつかり合う。

 すぐさまユーグリフトの木剣を振り払う。相変わらず力が強い。衝撃を霧散してよかった。

 その後、木剣を上から振り下ろしたり横へと水平に動かしたり下から振り上げたり突きと様々な剣撃を繰り広げ、それを時には避けて時には防いでと試合開始早々から激しい戦いを展開させる。


「やっぱりお前って強いな」

「あんたもね」


 カキン、と木剣同士がぶつかってギリギリと悲鳴を上げているのを聞きながらユーグリフトと会話を交わす。

 背後を狙った攻撃は予知されて避けられ、不意打ちによる攻撃を予知して躱したりと両者攻撃と守りを幾度も替えて繰り返す。


「やっぱり普段二位なだけあるよな」

「一言余計なのよ、あんたは」


 嫌なこと指摘されてカチンっと来る。大事な試合中に嫌なことを思い出させる。

 普段の剣術の授業は常に二位だ。勿論、一位はユーグリフトである。

 たまに授業で接戦の末にユーグリフトに勝つことはあるけどそれは稀で、いつも敗北を食らっている。

 だからこそ大きな大会であるここで、奴の膝を折らせてやりたい。


 夏の長期休暇中もこの日のために鍛練をしてきたけどやっぱり男女の力の差は小さく出来てもどうやっても覆せない。

 徐々にユーグリフトの力に押され始めてこのままだと不利だと直感し、振り払って後退して距離を測る。

 呼吸を整えながら距離を開ける私にユーグリフトが不敵な笑みを浮かべる。なので私も負けじと不敵な笑みで返してやる。


 その間も互いに相手から視線を逸らすことなく次の動きに警戒する。

 観察しているとユーグリフトは余裕なのか額から汗を流していないのが分かる。

 ついさっきまで剣撃を繰り広げていたのに奴だけ余裕そうで腹が立つ。その余裕そうな顔、歪ませてやりたい。

 息を整えてユーグリフトに告げる。


「悪いけど一位の座は貰うわ」

「へぇ? 悪いけど、優勝は渡せないな」


 観客席は声援で私たちの声は聞こえないだろうが私たちははっきりと聞こえる。

 優勝は渡せないと言うけれど、それは私も同じだ。この試合、負けられないのは私も同じだ。


 呼吸を整え終えて勢いよく走り出すとユーグリフトが守りの姿勢に入る。

 俊敏さを活かして素早く木剣を振り上げるも悔しいことに攻撃は見事防がれる。

 そして防いだユーグリフトが今度は攻撃態勢に入って私は逆に守りに入る。

 ユーグリフトの幾度の攻撃を防ぎながらユーグリフトの動きを観察する。……やっぱり、強い。


 今まで戦ってきた対戦相手も皆、強かった。

 対戦相手の中には剣術大会で初めて見せた剣技や技術もあって驚くこともあったし、準決勝は少し苦戦を強いられた。

 皆、強い。それは分かるけどその中でもやっぱりユーグリフトは頭一つ分、いいや二つ分くらい飛び抜けて――戦うのが楽しい。


「……ふふ」

「笑ってるなんて余裕だな?」

「だって、強いあんたと戦うのは楽しいんだもの」

「へぇ、それは同感だな。――お前と戦うのは楽しいよ」

 

 返って来た反応に、試合中というのに息を呑んでしまう。

 ユーグリフトは揶揄ったり意地悪なこと言うけど、秘密にしてほしいと言ったら守ってくれるし嘘は言わない。

 そんな彼から「楽しい」と返ってきて、場違いだけど嬉しくなる。

 

 昔から騎士を目指していたから強い人と戦うのは好きだし楽しい。

 だから本当はまだまだ戦いたいけど身体はそろそろ限界のようだ。

 攻撃を繰り出すユーグリフトも今現在守りに徹する私も疲労は大きいはず。このまま戦っていると体力的にも私の方が不利になる確率が高い。


 だから、ここらで決着をつけるべきだ。

 一瞬、後ろに後退するも一気に間合いを詰めて攻勢に入る。


 木剣を横に動かすとユーグリフトが自分の身を守るために木剣を動かす。その動きに内心笑う。

 そして素早く横へ動かしていた木剣を――ユーグリフトの木剣に触れる直前に上に移動させて振り下ろす。


「貰ったぁ!」

「っ、この……!」


 気付いたユーグリフトが間一髪左へと避けるも姿勢を大きく崩す。

 そして、それを見逃す私じゃない。

 首元に狙いを定めて木剣を素早く動かすも――手に衝撃が走って顔を歪めて木剣を放してしまう。

 カラン、と木剣が落ちる音が響く。

 私の首元のすぐ横にユーグリフトの木剣があり、これが真剣なら死を意味する。

 ユーグリフトも私も肩で息をしながら見つめ合う。……すごく、すごく悔しいけど仕方ない。

 両手を上げて小さく声を上げる。


「……降参するわ」


 私の敗北宣言を聞き取ったユーグリフトが木剣を鞘に戻して審判に目を向ける。


「し、勝者ユーグリフト・スターツ! よって二年の優勝者はユーグリフト・スターツです!」


 審判の勝敗宣言の後、観客席から大きな歓声がなって二年生の決勝は終了した。




 ***




 授与式は去年と同じ表彰盾を貰う。

 学園長からは二年連続、私とユーグリフトが一位と二位を制していて学業も剣術も素晴らしいと褒めてくれるけど……正直、打倒ユーグリフトを思っていたので気持ちは晴れない。

 隣に佇むユーグリフトは学園長の賛辞に口角を上げて優等生のような感じで感謝の言葉を述べる。ここでも負けるのは嫌なので私も学園長に感謝の言葉を述べる。

 

 ふと貴賓席の方へ見ると陛下と父が拍手をしながら何やら話しているのを見る。

 陛下の隣にいるロイスは私の方を見ながら拍手してくれている。

 そして公爵はというと――私の隣にいる息子を見ている気がした。


「…………」


 結果としてユーグリフトが優勝したけど、公爵は今日のユーグリフトの姿を見てどう思っただろう。

 親子の溝は深いと思う。だけど、これを機にユーグリフトの実力と騎士への思いを知ってほしいと思う。


 そうして、待ち望んでいた剣術大会は今回もユーグリフトを倒すこと出来ずに二位という形で幕を閉じた。


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