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76.お出かけ

「よし、これでいいかな」


 長い黒髪をハーフアップして外出用のワンピースに着替えてくるりと鏡の前で一周する。

 ワンピースは貴族の令嬢らしく気品さが出ていて悪くないと思う。


「それじゃあ行くわ。夕方には帰るから」

「かしこまりました。私は同行しなくても?」

「ええ、平気よ。劇を見てカフェに行くだけだから」


 ケイティの質問に答える。人通りが多い場所ばかり行く予定だし、剣がなくても護身術も身に付けていて戦えるので護衛は必要ない。

 チラリと部屋に飾っている時計を見る。現地集合しているのでそろそろ出発した方がいいだろう。


「行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃいませ」


 深く一礼するケイティに見送られながら屋敷から出る。

 向かう先は貴族向けのお店が多く立ち並ぶエリアにある噴水広場で集合場所へ歩いていくと藍色の髪がふわりと風で揺れる。

 懐中時計を見るとまだ時間になっていないけど早く来たようだ。声をかけようと近付く。


「リーチェ、お待たせ」

「! メルディアナお姉さまっ!」


 こちらに気付いたリーチェが花が咲いたようにぱぁぁっと笑顔を見せて私の元へ駆け寄る。なので私もリーチェの元へ向かう。


「早かったのね、待たせてごめんね」

「全然っ! 私も今来たところだもの!」

「それならよかったわ」


 愛らしい笑みで告げるリーチェに自然と口許が緩む。こう慕ってくれていて嬉しくなる。

 アロラに適度に気分転換するようにとアドバイスを受け、久しぶりにリーチェと純粋に遊びに行こうと決めて誘ってみた。

 そして遊びの誘いに応じてくれたリーチェとこうして歩いているということだ。


「お姉さまとお出かけするのは久しぶりですね」

「そうね。屋敷でお茶はするけど出かけるのは随分と久しぶりね」

「お姉さまは学園に通ってお忙しいし仕方ないと思います。……でも、こうしてお姉さまとお出かけ出来るのは嬉しいです」

「リーチェ……、ありがとう」


 ありがとう、と述べると嬉しそうにはにかむリーチェ。ああ、やっぱりかわいい。オーレリアと一緒で守ってあげたくなる子だ。


「まずは観劇ね。リーチェ、見たいの決めてる?」


 リーチェに問いかける。私から急に誘ったからこの子の好きな劇を見ようと思い、任せていたのだ。


「うん。大河ファンタジーものなんだけどいい?」

「へぇ、面白そうじゃない。じゃあまずは劇場へ行きましょうか」


 頷いてリーチェと一緒に劇場へ向かいながら話していく。


「それにしても大河ファンタジーね。てっきり恋愛ものって思ってたわ」

「恋愛ものも好きだけどファンタジーも好きだもの。今日のは遠い国で実際にあった人物をモチーフに描いた作品みたいで王女様が王位争いから女王になる物語なの。原作小説もあって見たけど恋愛要素に陰謀もあってハラハラしてページを捲るのが止まらないの!」

「へぇ。大河ファンタジーで王位継承争いね」


 陰謀もある大河ファンタジーとは。聞いていても面白そうだけど、そんな小説読んだことあるだろうか。

 頭を捻らせるけど……うーん、思い出せない。


「前からあった小説?」

「ううん。最近外国から輸入されて人気になったんだ。私も読書好きの友達から教えてもらって。外伝もあるみたいだけどそっちの方はまだ読んでないの」

「なら劇の後にでも書店に寄ってみましょうか」

「うんっ!」


 笑顔で頷くリーチェにこちらも笑いながら劇場へと向かった。




 ***




「小説も面白かったけど、劇も本当すごかったっ……!!」

「そうね。特に陰謀で嵌められたところから形勢逆転するシーンは見応えがあったわね」


 劇場を出てエントランスホールを歩きながらリーチェが興奮気味に語る。確かに見応えあったし陰謀も乗り越える場面は面白かった。


「原作にはない場面もあったし、最後の即位の儀式の衣装もカッコよくて、女優さんも凛々しくて素敵だった!」

「そうね。剣技のシーンも迫力あって見ていて息を呑んだわ。かなり練習したでしょうね」

「お姉さまもじっと見ていましたね」

「剣を嗜んでいる人なら見ると思うわ」


 主役の女優は勿論、他の役者の演技力も上手かったと思うし衣装や道具もよかった。まだ来たばかりの作品のようだけど人気になっていく作品だと思う。


「まぁ、メルディアナ様」

「メルディアナ様! ごきげんよう!」


 するとご令嬢二人が私に声をかけてくる。二人共、上級生の三年生だ。

 近付いてくる先輩たちに微笑んで挨拶をする。


「こんにちは、先輩」

「メルディアナ様もこの作品を見に来たのですか?」

「はい。最近話題になっていると聞いて妹のようにかわいがっているこの子と」


 さりげなくリーチェを紹介するとリーチェが小さく礼をし、先輩たちも微笑んで礼を返す。


「そうだったのね。わたくしたちもたった今見たところなの」

「私も初めて見ました。今日知った作品ですが面白かったです」


 先輩たちと穏やかに会話していく。この二人は昔から知っている人で小さい頃は母と一緒にお茶会に参加したりもしていた。


「そうだ、今度我が家でお茶会を計画しているの。メルディアナ様もどうですか?」

「予定が合えばぜひ。お手紙お待ちしていますね」

「それじゃあ決まり次第お送り致しますわ」


 それから二、三言言葉を交わして先輩たちと別れる。

 先輩たちと別れてからは書店へ立ち寄って先ほど見た劇の原作小説を購入してカフェへ向かった。


「ふふ、外伝も買えてよかった! ちょっとだけ読もうかな」


 好きな劇を見れてクオリティもよく、ほしかった外伝小説も買えたからか嬉しそうにはしゃいでいる。


「紙の上にこぼさないでよ」

「こぼさないもん」


 注意するように伝えると頬を膨らませて顔を背ける。そんな表情されてもかわいいだけなのに。

 視線を小説の方へ向けてわくわくとした表情でページを捲っていくリーチェに目を細める。急に誘ったけど、楽しんでくれていてよかった。

 アロラの言う通り出かけてよかった。ずっと悩んでいても気が滅入るだけだから気分転換は大事だと改めて感じた。

 外伝に夢中になっているリーチェを見ながら私も一巻を手に取ってパラっとページを捲ったのだった。

 



 ***




 カフェで小説を少し読んだ後、リーチェと王都を散策して屋敷へ帰る。

 今日は比較的涼しかったけどまだまだ暑い日が続いているので本格的に涼しくなる秋にまたリーチェと王都を散策してみたいなと思う。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ええ、ただいま。私がいない間何もなかった?」

「平和でしたよ。お嬢様がいないおかげで怠惰に過ごすことが出来ました」

「よし、お前はクビよ」


 ケイティに指を差しながら宣言する。

 すると呆れたように小さく溜め息を吐きながら呟く。


「指を差すなんてお行儀よくないですよ。まったく、冗談じゃないですか」

「安心しなさい。限られた人にしかしてないから。それとそのままそっくり返すわ」


 鞄や小説が入った紙袋を机に置く。なんだかんだ言いながらこの侍女とは長い付き合いなので適当に返す。

 怠惰なのは問題だけど侍女として能力も戦う力も高いから少しくらいは目を瞑るべきだろう。不本意だけど。

 髪ゴムを取るとケイティが声を出す。


「あ」

「何? なんかあったの?」

「そうですそうです。お嬢様宛にお手紙です」

「私宛に?」

「はい、スターツ公爵様からです」


 その言葉にピタッと動きを止める。スターツ公爵から?


「それ、もっと早く言いなさい」

「すぐに言ったでしょう」

「ふざけたこと言っていた口は誰なのかしら」


 注意をのらりくらりと躱すケイティに呆れながら手を出して渡すように催促する。


「どこ?」

「こちらです」


 渡してくる手紙を受け取って差出人を確認する。

 名前は確かに公爵の名前が記されていて蝋もスターツ公爵家の家紋である白い十字の紋様が記された盾に一角獣だ。

 ペーパーナイフで封を切って公爵からの手紙を読んでいく。


「……ふぅん」

「なんと?」

「まぁ要望は通ったわね」

「?」


 ケイティが問いかけてくるもはぐらかす。手紙の中身は知らないため疑問符を浮かべている。

 手紙の内容は至ってシンプルで、一度対面で話をしたいと簡潔に綴られていた。

 場所はスターツ公爵邸。宰相で忙しいのだろう、日時が指定されていて数日後の昼頃になっていた。

 私は学生で今は長期休暇なので何かと融通が効く。なので、ここは私が合わせるべきだろう。


 だけど、どうして急に応じようと思ったんだろう。

 これまでユーグリフトの話じゃなくても騎士の話をするだけで拒絶して逃げてきたのに急に応じるなんて。こんなこというのもあれだけど、まさかの急展開に邪推してしまう。

 私も疑問符を浮かべてしまうけどこれがまたとないチャンスなのは確かだ。一度あってみようと思う。


「返信するわ。書き次第公爵家へお願い」

「かしこまりました」


 何はともあれ返信して約束を取り付けるべきだ。なので急いで机と向かい合って返信を綴ったのだった。


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