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75.親友とのお茶会

 ユーグリフトの父親であるスターツ公爵に手紙を送ってから数日。

 あまり多く送るのも、と一応遠慮してまだ一通しか送っていないけど、返信は今のところ届かない。

 手紙は先週送ったので確実にスターツ公爵家へ届いているはずだ。なのに返信の気配が一切感じられない。

 本当は一通でも返信するのが常識なのにこの態度。腹立つが仕方ない。もうしばらく様子見するしかないと考えながら冷たく冷えたお茶を口に含む。


「もう、メルディ。私の話聞いてる?」 

「ええ、聞いているわ」


 名前を呼んで問いかけてくる親友に答えながらお茶の味を味わう。さっぱりしていて夏にはいいお茶だと思う。


「まぁいいや。それで? それで? 急に夜会に参加するようになってどうしちゃったのさ?」

「…………」


 そして再度同じこと聞いてくる幼馴染兼親友──アロラを見るとニコニコと意味深にこちらを見ていた。……この興味津々の目は好きじゃない。

 夏休みは忙しく過ごすと言っていたのに突然「お茶会しよう!」と手紙で伝えてきてアロラの屋敷へ来たらこうだ。


「何? 急に」

「急にじゃないよ! 去年も一昨年もお茶会はともかく夜会には乗り気じゃなかったのに急に積極的になってびっくりするに決まってんじゃん。ハンナもさぁ、何か心境の変化があったのかって私に聞いてくるんだもん」


 とぼけて尋ねるとそう言ってフルーツタルトを頬張る。

 なるほど、どうやら私が積極的に夜会に参加していることが話題になっているようだ。

 王妃狙いの令嬢は私が急に夜会に出るようになって気になるのだろう。それこそ、私が好きな人が出来て辞退したら王妃の座に近付くし。


「それで? ルーヘン伯爵令嬢に教えてあげたの?」

「言うわけないじゃん。ハンナには『知りたいのなら自分で聞けば?』って言ったもん」

「そう」

「で、何かあった?」


 そして再度私に問いかけるアロラ。ルーヘン伯爵令嬢には教える気はないけどどうやら私の行動には興味津々で理由を知りたいようだ。


「別にアロラが期待するようなものではないわよ」

「はっ! もしかして恋!? 恋したの!?」

「なんですぐそう恋愛と結び付けようとするのよ。アロラのその耳は飾りか何かなの?」


 人の話を聞かずに勝手に一人できゃーきゃー盛り上がるアロラに毒舌を放つ。勝手に進まないでほしい。


「えー、だって~。メルディと恋バナしたいんだもん」


 頬を膨らませてそんなことを呟くアロラに溜め息が出そうになるのを抑える。まったく、この子という子は。


「恋なんてしないわよ。今の私はそんな余裕なんてないもの」


 カチャリ、と僅かに音を立てながらティーカップを置いてそう答えるとアロラが大きな茶色い瞳を丸める。


「余裕ない? メルディが?」

「ええ。今は正式に騎士になることとロイスの恋が成就すること、それとユーグリフトに剣術に学業どちらでも勝つことで忙しいもの」

「うわぁ、いっぱいだね」

「でしょう? どれも捨てること出来ない大事なものよ」


 淡々とアロラの問いに答える。それに公爵のことも加わるともっと忙しくなって恋愛なんかに手が回らない。

 騎士になれるかどうかは三年生で受ける騎士団入団試験の結果次第だ。いくら学園の剣術大会で良い成績を残しても最後の入団試験でヘマをしたら不合格となる。

 だからこそ剣術大会で良い成績を残すのは勿論、日々鍛練に取り組むのが大切でこの夏休みも毎朝運動がてらに鍛練するようにしている。


 そして私の夢のためにも、ロイスの恋のためにもオーレリアを守る防波堤になったり間に入ったりとして二人の距離が縮まるようにサポートする必要がある。

 

 それと最後、卒業するまでにユーグリフトを倒さないといけない。勉学に剣術、どちらも僅差で敗北していてこのまま勝ち逃げされるわけにはいかない。なんとしても勝利しないといけない。


 現段階でやらないといけないことが既に三つあるし公爵のことも追加されると四つになる。恋愛なんてとても出来るわけない。

 

「捨てること出来ない、か。メルディらしいね」

「そう?」


 アロラの褒め言葉(?)に首を傾げる。私らしい発言したつもりはないのだが。


「なんだかんだメルディって面倒見いいじゃん。私が泣きついたら文句言いながらも最後まで見てくれるし、殿下の事だって協力して。一見きつく見えるけど実は甘いのはメルディらしいなぁって思うよ」

「それ、褒めてる?」

「褒めてる褒めてる」


 のほほんとフルーツタルトを食べながらアロラが肯定する。……そんなこと言われると背中がむず痒くなる。

 そしてロイスの名前が出て手紙のことを思い出して話す。

 

「そういえばロイス、オーレリアの領地に視察したみたい」

「え、なんで?」

「王妃様の差し金でしょうね。王妃様は勘づいているから」

「それも初耳なんだけど」


 言われてそういえば言ってなかったなと気付く。春休みで学園のように毎日顔を合わせるわけじゃないからすっかり忘れていた。


「オーレリアちゃんと少しは進展したかな。殿下は? もう王宮に帰ってるの?」

「手紙によると今度は南部の視察に行ってるみたいだから帰って来るのはまだでしょうね」

「そっかぁ」


 イチゴにフォークを刺しながらアロラが残念そうに呟く。この声はあれだ。興味津々なのに楽しむこと出来なくて残念な声だ。


「普段は学生だから公務や視察もセーブされてるけど忙しく動き回っているとやっぱり王太子様なんだなって思うよね」

「そうね。長期休暇中の今は陛下や王妃様の隣で政務もしているからね」


 感慨深く呟くアロラに同意する。

 三年ある学園生活も半分が過ぎた。卒業後は皆それぞれ自身が望む道へ歩んでいく。

 ロイスも卒業したら今以上に忙しくなるだろう。なんたってロイスは直系唯一の王位継承者だから。


「メルディもメルディでなんか忙しそうに夜会に参加してるし。必要になったら言ってね、力になるから」

「ありがとう。でも大丈夫よ」


 アロラに微笑みながら静かにお茶を飲む。

 アロラの申し出は嬉しいが相手が公爵なので頼るわけいかない。自分が首突っ込んだことだし自分でなんとかしたい。


「解決しそうな内容?」

「どうかしら。相手次第ね」


 今は公爵が無視しているけどどうなることやら。このまま手紙を送っても無視するのなら違う手も考える必要がある。

 八月になり夏休みも半分過ぎた。学園が再開されれば学業と剣術の鍛練で夜会に参加するのも難しくなる。なので夏休み中に決着つけたいのが本音である。


「あんまり根詰めすぎないでね。たまには気分転換してお出かけでもしなよ」

「気分転換……。そうね、アドバイスありがとう」

「えへへ、どういたしまして」


 返事しながらマドレーヌを一つ取って口に含む。甘味が頭を癒してくれる。

 アロラの言う通り、たまには気分転換した方がいいだろう。ずっと悩んでても頭も身体も疲れるだけだ。

 ストレス発散で毎朝鍛練しているけど近々王都でもいいから出かけるのもいいかもしれないと考える。


「ところで二学期の話だけど、来月の剣術大会にはエントリーするの?」

「勿論。近衛騎士団長に王立騎士団長も見に来るんだから。自分を売り込む最大のチャンスを逃すはずないじゃない」


 アロラの問いに力強く頷く。

 来月末には剣術大会がある。目的は優勝なので長期休暇の朝は毎日鍛練して体力をつけている。

 

「暑いんだから無理はダメだよ? 倒れたら意味ないんだからねー」

「分かってるわ。安心して」

「ならいいんだけど」


 フルーツタルトを完食して次はチョコレートケーキとマカロンを取る。甘い物をそんなに連続と食べてよく胃もたれしないなと思う。


「やっぱり異次元空間になってるのかしら」

「何が?」

「アロラの胃の話」

「まるで人を違う生命体のように言うのやめようよ!?」


 なら少しはケーキ食べるペース落そうと言いたい。が、言っても落ちないのは長年の付き合いで分かっているので言うまい。


「はいはい。ステファンとは会ってるの?」

「会ってるよ。えへへ、この前は王都でデートして色違いのレターセット買って中々会えない時は手紙送り合ってるんだ」

「そう」


 デートか。ステファンも父親の侯爵と視察と忙しいはずだけどちゃんとアロラとの時間も取っていてくれているようだ。


「相変わらず仲良しで何よりよ」

「大丈夫だよ。ちゃんと侯爵家と侯爵夫人の勉強もして最近は合格貰えるのが増えてきてるんだよ?」

「へぇ、よかったわね」

「うんっ!」

 

 嬉しそうに笑うアロラに私も表情が和らぐ。

 貴族は政略結婚が多い。勿論、お兄様やアロラのように恋愛して婚約する人もいるけどそれは少数派だ。

 だから好きな人と婚約して幸せそうなアロラを見るとロイスも同じようになってほしいと思う。

 ロイスが背負うものは重い。国や近隣諸国の情勢によっては時には厳しい決断をする必要もあるだろう。

 だからこそ、ロイスの心に寄り添い、支えてくれる役割をオーレリアに願ってしまう。


「……進展してくれたらいいんだけど」

「何か言った?」

「ロイスとオーレリアの件よ。友人としてなんだろうけどロイスのこと好意的に見てる雰囲気だから少しは進展してくれたらなって」

「そうだねぇ。恋なんて気付けばあっという間だからねぇ。その人のことばかり考えてしまったり、その人が他の女の子と楽しそうにお話していて嫌だなって思ったらそれはもう恋だよ」


 アロラが感慨深く話す。恋愛したことない私はこの手の内容はアロラに敵わないので黙って耳を傾ける。

 それにしても気付けばあっという間、か。まだ私にはよく分からない。


 そんなこと考えながらも久しぶりのアロラとのお茶の時間は穏やかに流れていき、楽しいひとときを過ごしたのだった。



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