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71.夏休みの予定

 ロイスと途中まで一緒に帰った後、寮の前で別れた。

 そして女子寮に入ると真っ先にアロラの元へ行き今回の成績とアロラは関係ないと宣言し、無事に誤解を解いた。

 

 そして、一学期最後の日。

 学園長の話も午前中に終了し、私たち生徒は学園前で実家の馬車を待っていた。


「メルディのとこの馬車は? まだかかるの?」

「渋滞になるから少し遅めに来てもらうつもり。混んでてゆっくりになるじゃない」


 アロラの問いに答えながら周囲を見渡す。

 学園前には多くの馬車で溢れていて帰宅するのに混雑するのが目に見えている。

 なので私と同じように少し時間を空ける生徒は一定数存在する。


「アロラとオーレリアの馬車はもうすぐ来るのよね」

「はい。私は領地へ帰るので早めに出発する予定なので」

「私は早く屋敷でゴロゴロしたいー」


 オーレリアは約四ヵ月ぶりに領地に戻る予定で、辺境のため早めに出発する予定らしい。一方のアロラの理由は眉を顰めてしまう。


「メルディアナ様は王都で過ごすのですよね」

「ええ。ごめんね、領地に招待したかったんだけど」

「いえいえ! その予定も後半だったし特に平気です。また春の長期休暇でも構いませんから」


 予定を変更させてしまったオーレリアに謝ると謙遜するようにそんなこと言ってくれる。こちらの都合で予定変更させてしまったのに、オーレリアは優しいと思う。

 私が王都で過ごすので父も母も今年は王都で過ごす予定だ。お兄様は今は領地にいるけど私が夏休みに入れば王都へ来ると聞いている。


「オーレリアは領地でずっと過ごすのよね」

「基本的にはそうですね。近隣領地のお茶会や夜会には少し参加する予定ですけど、久しぶりに領民や孤児院の子どもたちの様子も見たいので」


 笑いながらこれからの過ごし方を教えてくれる。その言葉の節々から領民思いだなと思う。

 そんな感想を内心抱きながらロイスの方を見ると、友人であるステファンと話している姿が見られた。

 ロイスは明日から早速政務が始まるので早めに王宮に戻って一日ゆっくりと過ごすと聞いている。


 そんな二人を眺めていると視線に気付いたのか、ロイスと目が合う。

 大勢の人間の前ということもあり、淑女の笑みでニコッと微笑むとロイスも同じようにニコリと微笑む。

 そして隣にいるステファンに向けて何やら話すと二人でこちらへやって来る。


「やぁ、メルディアナ。メルディアナたちももう乗るの?」

「いいえ、混雑しているので私はもう少ししてから乗るつもりです」


 問いかけてくるロイスに微笑みながら受け答えをする。混雑するのが嫌だからね。


「そうなんだ。アロラとマーセナス嬢は? もう出発するの?」

「はい、早くゴロゴロしたいので私とオーレリアちゃんは一足早く出発する予定です!」

「私は領地が遠いこともあり、早く行こうかと……」


 ロイスの問いにアロラとオーレリアがそれぞれ答えていくけどアロラ、それ堂々と言う必要ない。

 それは一緒にいたステファンも思ったようでアロラに向かって小声で注意しているのが視界の端に映り込む。


「アロラ、それは決して堂々と言うは必要ない」

「えー、だって~」

「だってじゃない」

「えー、は~い」

「伸ばすな」


 注意するステファンにアロラが頬を膨らませて不満を見せる。見慣れた光景なので指摘しない。

 そんな不満を見せるアロラに苦笑しながらロイスが口を開く。


「まぁまぁ。アロラは? 領地に戻るの?」

「! はい、半分は領地で過ごしてもう半分は夜会やお茶会に参加する予定ですよ」


 ロイスの助けにアロラが元気に返していく。どうやら長期休暇なので社交活動をしっかりするつもりらしい。


「ステファンは? 侯爵様の元でお勉強?」

「まぁね。父上の視察についていく予定だよ」


 アロラからの問いにステファンが簡潔に返す。

 ステファンも父親の元で領主になるための勉強をするようでそれぞれ色んな予定を過ごすようだ。


「殿下」

「あ、それじゃあ僕はもう行くよ」


 王家所有の馬車が到着してロイス付きの従者が声をかける。

 従者に合図をすると私たちに別れを告げる。


「そうだ、マーセナス嬢。王都からマーセナス領は遠いから道中気を付けてね」

「あ、はい……! ご心配、ありがとうございます……!」

「はは。じゃあね」


 突然のロイスからの声かけにオーレリアが驚きながら返事をする。

 そんなオーレリアに笑いながら、私たちに手を振って一足早く帰った。


「殿下、嬉しそうだったねぇ」

「そうね」

「……?」


 アロラと二人で囁いているとオーレリアが不思議そうな顔を浮かべる。

 理由を言うわけにはいかなかいので微笑んで誤魔化したのだった。




 ***




「じゃあねー、メルディ!」

「ええ」


 ブンブンと大きく手を振るアロラに目を細めながら軽く手を振って返す。

 ロイスのあとオーレリア、ステファンと順番に迎えの馬車が到着して、ついにアロラも迎えが来て去ってしまった。

 そして、私のところの馬車はというと──。


「……もう少しかかりそうね」


 ちらりと時計を見てポツリと独り言を呟く。

 去年は結構混雑していたので遅く迎えに来るように指示していたけど、もう少し早く来てもらってもよかったかもしれないとほんの少しだけ後悔する。


 殆どの生徒は迎えの馬車に乗ってしまい、学園前にいるのは私と学園を警備する守衛くらいだ。

 いつまでもここにいるのも、と思うので踵を返して学園の方へ足を進める。

 

 生徒がいないからといって学園も休みというわけではない。

 教師は授業や今後のプリントの作成に司書は本が傷まないように管理し、庭師は新しい花を咲かすための準備をするために学園に来て仕事をしている。


「学園の図書館でも行こうかな」


 寮の部屋で過ごすのもいいけれど膨大な知識の元である図書館で時間を過ごすのもいいだろう。そう考えて学園図書館へ向かう。


「こんにちは、迎えの馬車が来るまでここにいてもいいですか?」

「いいですよ。ゆっくり読んでね」

「ありがとうございます」


 受付にいる司書の女性に尋ねると快く許可してくれるのでお礼を言って足を進める。

 兵法関連が多く収蔵されている三階でもいいけど、今日はそんな気分じゃないので戯曲になっている本でも読もうと二階へ上がる。

 予想はしていたけど、図書館内には生徒はまったく見えず広々とした館内を歩いていく。


「えっと、これと……あ、これ」


 読みたいと思っていた本を背伸びして取ると、その隣に建国祭でアロラたちと観た恋愛小説『王女の初恋』が並べられていた。

 

「まさか学園にもあったなんて」


 建国祭で観たその小説も手に取って以前ロイスとオーレリアと三人で勉強会した長テーブルへ向かうと知っている髪色を見つけて足を止める。


「……なんでここにいるんだか」


 苦虫を噛み潰した顔になる。別に、会う約束していなかったのにどうして会うのだろう。

 長テーブルに突っ伏して眠っているのはユーグリフトで、規則正しい寝息を立てているのが窺える。


「…………」


 そっ、と気配を消して音を立てずに歩いていく。

 教室や授業でもよく眠っているけどその顔は机で伏せられているため顔を見ることが出来ない。

 だけど今は。今は顔を腕に乗せていて横顔が見えている状態になっている。


「…………」


 眠っているので当然ながら紅玉の瞳は閉じられていることもあり、思わずじっと見てしまう。

 寝ているからこうして凝視しているけどこんな時でも白銀の髪はサラサラとしていて寝顔も整っている。美形って本当にすごい。まるで彫刻のようだ。

 こうして見ると意地悪な顔は鳴り潜めていることもあり、ついつい見てしまう。


 ……やめだやめ。いつまでも人様の顔を見るのはよくない。

 それも、眠っている相手の顔だ。知らない間に寝顔を見られていたらあまりよく思わないだろう。私も見られたら嫌だし。

 とりあえず、何も見なかったとしてそっと立ち去ろうと背を向けて歩き出す。


「……やっぱりカーロインって覗き見の趣味でもあるの?」


 ……後ろから声が聞こえた気がするけど気のせいだろうか。背中から不思議と汗が感じる。

 いや、起きているはずがない。うん、気のせいだ。私の空耳だ。


「へぇ、無言は肯定ってわけね」

「んなわけないでしょう!?」


 我慢出来ずに反射的に振り返って言い返す。だぁれが覗き見の趣味なんてあるかっ!!

 噛みついて振り返るとそこには頬杖をするユーグリフトがいて意地悪な笑みを浮かべている。そんな笑みを浮かべるな。

 

「違うの? 人が眠っているのを凝視していたくせに」

「見てたけどそれは覗き見じゃないわよ。一度凝視と覗き見の意味をしっかり調べたらどうかしら」

「相変わらず憎まれ口叩くよな」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわよ!」


 私が憎まれ口? 確かにそうかもしれないけど、それを言うのならユーグリフトもだ。少しはエルルーシアちゃんの清らかで素直な心を見習ったらいいと思う。


「というか、寝ていたんじゃないの? 寝てるふりしてたの?」

「実際に寝てたよ。ただ、気配に鋭いというか人が近付いてきたら目が覚めるんだよな。カーロインが本取ってこっちに歩き始めた時にはもう目が覚めたし」

「は?」


 予想外の言葉に呆然としてしまう。私が歩き始めた時にはもう目が覚めたと?

 ちょっと待て。気配も消して足音も立てずに近付いたのに目が覚めるって鋭すぎないか。ちゃんと睡眠は取れているのだろうかと逆に心配になってしまう。


「それってちゃんと眠れているの?」

「ご心配なく。眠れているし短眠型なんで短くても平気だから」


 じゃあ短眠型なんで授業中寝ているんだと問いたいが聞きはしない。

 ちらり、とユーグリフトが読んでいたであろう本のタイトルを見る。神学関係の本を読んでいたようで神学の本が一冊ユーグリフトの隣にある。


「神学の本読んでいたのね」

「興味はないけど、どちらかというと苦手な方だから読んでたんだ」


 そういえばユーグリフトが乗り込んできて最終的には四人で勉強会することになった時も神学の本を読んでいたな。苦手だったんだ。

 神学は必修科目で三年間ある。その神学が苦手だと言うけど何点取っているんだろう。

 ちなみに私は得意でもなければ不得意でもない。この間の神学も九十二点取っていて普通にいいと思う。

 苦手だと聞いてしまい、好奇心が芽生えてしまう。この前の試験は何点だったんだろう。


「ふーん。それで? この間の神学何点だったの?」

「九十二」

「なんでやねんっ!!」


 思わず突っ込んでしまう。何が苦手なんだ。普通に得意科目じゃないかっ!!

 それに同点。私は得意でも不得意でもないのにユーグリフトは苦手科目とのこと。それで同点だなんて。

 これ何? 喧嘩売ってる? 売られているの? 誰か切実に教えてほしい。


「なんで睨んでくるの?」

「自分の胸に聞いてみなさいよ」

「胸? 分からないな」

「少しは考える素振りを見せなさいよっ!」


 即答で分からないと答える噛み付くとユーグリフトがはは、声を上げて笑い出す。笑うなと言いたい。


「ほんっと、カーロインって面白い」

「っ……」


 ここで揶揄いが含んだ笑みでもしてたら言い返せたのに、そうじゃないのがズルい。

 あんな、憂いのある顔を見てしまったから。憂い顔するくらいなら笑っていろと思ってしまう。

 ひとしきり笑うとまっすぐと私を見てくる。


「それで? カーロインは帰らないの?」

「帰るわよ。迎えがもう少しかかるだけ」

「ふぅん」


 興味あるのかないのか分からない声音で返事する。

 頬杖しながらそれだけ呟いて沈黙する。しん、となって少し居心地悪い。


「……ユーグリフトは? 屋敷には帰らないの?」

「俺?」


 目をぱちくりと開いて聞き返すユーグリフトにこくりと頷く。

 エルルーシアちゃんの話によると去年ユーグリフトは屋敷に帰ってこなかったらしい。

 父親との確執があるのは知ったけど、やはり今年も帰省しないのだろうか。

 

父親(あの人)と顔を合わせることになるし帰る気ないよ。でも、せっかくの長期休暇だから弟妹の我儘を聞くつもりだからいない間に屋敷には顔を出すけど」


 どうやら帰省はしないけど屋敷には顔を出すようで内心ほっとする。エルルーシアちゃんは特に上であるユーグリフトを慕っていたから喜ぶだろう。


「それならよかったわ。エルルーシアちゃん、寂しそうだったからちゃんと顔出しなさいよ」

「分かってるよ。家令に侍女長にも言われてるし」


 使用人たちにも言われているようでそんなことを話す。その話しぶりから使用人とは仲が悪くないのが読み取れる。


「それじゃあね。私あっちで読むから」

「別にここ使ってくれてもいいよ。どうせ生徒なんていないしそこでも座れば?」


 トントンと指で叩くのは同じ長テーブルの斜めの席。

 ……確かに生徒もいないし別に離れて座る必要はないかと思う。時計も近いから馬車の時間を見るにいいし。

 そう考えてユーグリフトの提案に乗る。


「じゃあそうするわ」

「どーぞ」


 ユーグリフトの斜めに座って本を開いていく。まず見るのはお気に入りの戯曲だ。

 南のカサンドラ王国で作られたこの作品はカサンドラ語で綴られているけど難なく読めるので読み進めていく。

 時折、馬車の時間を気にしながら時計を見る。まだ大丈夫そうだ。

 再び本に目を向けようとすると斜めから視線を感じて本に視線を戻さずそちらへ向けると紅玉の瞳とぶつかる。


「何よ」

「いや、カーロインって恋愛小説見るんだなって」

「見るわよ! っていうか、勝手に本を見るんじゃないっ!!」


 私が持って来た恋愛小説の表紙を凝視しながら失礼な発言をするユーグリフトに再び噛みついたのだった。


今後の更新はしばらく週1で更新予定です。詳しくは活動報告で伝えるつもりなのでよければぜひ。

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