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67.戻って来た平穏

 王宮でシェルク侯爵令嬢と対峙した後、再び学園に戻って守衛に帰省手続きをして実家の公爵邸で週末を過ごした。 


 お兄様は領地の市場を視察していて不在だったけど王都の公爵邸では久しぶりに両親と食事をしてゆっくりと過ごすことが出来た。

 そして週明け、公爵邸から学園へ登校すると、どこから知ったのかシェルク侯爵家の悪事が広まっていた。


「ねぇ、ご存じ? シェルク侯爵のこと」

「ええ。金山の未報告に違法製造でしょう?」

「以前、わたくしの伯母が混ざり物の金製品を購入されたのだけどまさかシェルク侯爵が製造の指示をしたいたなんて……!」


「そもそも私は前から彼女が嫌いだったんですの。侯爵令嬢だからって偉そうに……。私たち下級貴族をバカにしていて」

「分かりますわ。平然と指図する場面もありましたわね。わたくしも思い出して嫌になりますわ!」


「シェルク侯爵のこと聞いてすぐ調べたんだけどさ、偽物って分かって母上がそれはもう大激怒で怖かったよ」

「そもそも金山を未報告で採掘なんてそんな重罪よくしたよな」

「こりゃあ侯爵家は終わりだよ。侯爵家と取り引きしていた家も調査範囲になっているって聞いたぜ?」

「うわぁ、大変そう」

「お前、本当に大変だって思っている?」

「はは、どうかな」


 シェルク侯爵家の悪事を知った生徒たちは次々と批判し、悪口を言って面白おかしく笑っていて歩いていると耳に入ってくる。


「あ、メルディ。おはよー」

「おはようございます、メルディアナ様」

「おはよう、アロラ、オーレリア」


 教室へ着くと既に登校していたアロラとオーレリアが挨拶してくる。座ると二人が近付いてくる。


「もう朝から大変だよ。シェルク侯爵家が学園の話題を奪ってるね」

「そうね。私も教室(ここ)に来るまでずっとシェルク侯爵家のことばかり耳にしたわ」

「噂って怖いですね……。色んな噂が広がっていて……」


 アロラは肩をすくませ、オーレリアは噂の広がりの速さに驚いて若干怖がっているのが窺える。まぁ、皆他家の不祥事だから面白おかしく話しているなと思う。

 これが当家ならとても嫌がるのに他家なら興味津々になるのが貴族だ。

 そうして頬杖をしていると廊下から大きな声が響く。


「私は関係ないわ!! シェルク侯爵家が犯罪を犯していたなんてまったく知らなかったわ!!」


 大きな声で響き渡り、オーレリアがびくっと肩を揺らす。その姿が少しかわいく見えたのは内緒だ。

 騒ぎがして廊下に顔を出すとそこにはシェルク侯爵令嬢と一緒にいた令嬢が大声で叫んでいた。


「そもそもシェルク侯爵令嬢なんて本当は大嫌いだったんだもの!! 私を男爵の娘とバカにしていつも命令して!! 逆らったらもっとひどい目に遭うから我慢していただけよっ!!」

「そうよ! 侯爵令嬢だからって偉そうにして格上の公爵家には顔色を窺ってあんな人、大嫌いよ!!」

「私たちは被害者よ! 悪いのはシェルク侯爵令嬢よ!」

「…………」


 シェルク侯爵令嬢とよくいた令嬢たちが次々と言い訳する。……すごいなと思う。この前まで「アマーリヤ様」と呼んで仲よくしていたのに素早い手の平返しだ。

 私は彼女たちとシェルク侯爵令嬢の関係は知らない。……でも、仮に彼女たちの言い分が事実だとしても声をもう少し抑えた方がいいと思う。悪い意味で注目する。

 

「アマーリヤのお友達は大変そうだねぇ」

「そうね」


 アロラの呟きに同意する。これから彼女たちはどうなることやら。


 シェルク侯爵家の悪事は学園中で話題となると同時に、それを暴いたロイスには称賛の声があちらこちらから聞こえる。

 

「殿下、よくぞシェルク家の罪を見つけましたね!」

「学業に生徒会の仕事もしていたのに流石です!」

「ありがとう。でも僕一人の功績じゃないよ。協力してくれた大勢の人たちのおかげだよ」


 食堂へ向かうとロイスの席に大勢の生徒たちが囲んでロイスを称賛する。その称賛にロイスが穏やかな笑みを浮かべている。


「いいえ、殿下のおかげですよ! シェルク侯爵令嬢も罪を犯したとか?」

「何かは公表されていないけど犯罪に手を染めてとんでもないよな」

「本当、同じ貴族として恥ずかしいですわ」


 口さがない生徒たちがシェルク侯爵令嬢の悪口を囁く。それを聞いたロイスが穏やかな表情のまま口を開く。


「それより、もうすぐ学期末試験だけど問題ないかな。分からないところがあるなら教えるよ」

「え、よろしいのですか!?」

「勿論。僕が教えられる内容なら教えるよ」

「はい! よろしくお願いします!!」


 褒め称える称賛の声に微笑みながら話をすり替えるロイス。ロイスは必要だったから暴いたけど、やっぱりシェルク侯爵令嬢とは面識もあったからあまり彼女の悪口を聞きたくないのが窺える。


「……何はともあれ、これで一件落着かな」


 しばらくはシェルク侯爵令嬢の話題が続くだろうけど、もうすぐで学期末試験になる。その時期になると少しは落ち着くだろう。

 シェルク侯爵令嬢が捕まったことで私たちの外出制限も解除され、私の周りはゆっくりと、以前の平穏な日常を取り戻しつつあった。




 ***




 休日、長い黒髪をそのままおろして貴族にしては地味な簡素なワンピースを着て学園を出て王都を歩く。

 学園を出ると目的地へ向けて寄り道せずに最短距離で歩いていく。

 そうしてたどり着いた店のドアを開けると、鈴の音が店内の中で響く。


「おや、お嬢様。こんにちは」

「こんにちは、修理出来たと聞いて取りに来ました」

「ああ、そうなのですね。分かりました、少々お待ちください」


 奥から顔を出してきた店主にニコリと微笑んで用件を告げると店主が納得したように返事して再び奥へ戻る。なので私も店内で待つ。

 数分後、奥から戻って来た店主が白くてきれいな箱を開けて私に()()を見せる。


「こちらですね。このとおり、無事に修理出来ました」

「ありがとう」


 店主から修理出来た品を受け取ってボタンを押す。カチッときちんと音が鳴って動く。うん、ちゃんと治っている。

 私が訪れたのは時計屋で、壊れた懐中時計の修理を依頼していて、修理出来たと連絡が来てこうして訪れていた。


「お気に入りの時計だったの。治って嬉しいわ」

「それはよかったです。お嬢様の普段遣いが丁寧なのですぐに治りました」

「ふふ、どうもありがとう。また調子が悪くなったら見てもらうわ」

「はい、お待ちしております」


 時計屋の店主に代金を払って店を出ると風が吹いて髪を抑える。少し風が強かったけど気持ちいい。


「今日は少し涼しいな」


 ポツリと独り言を呟く。まだ初夏の季節なので涼しいけどこれからはもっと暑くなって夏休みになったら今以上に夜会やお茶会の誘いが来るんだろうなと考える。


「さて、これからどうしようかな」


 シェルク侯爵令嬢が捕まったことでこうして王都を歩くことも出来るようになり、久しぶりの外出とあって休日の外出申請を出して一人歩いている。

 もうすぐ試験一週間前になるのでこれが試験前の最後の外出になるだろう。

 試験が終わればまた外出したいなと思う。今度はアロラとオーレリアの三人で。


「この服なら市場に行ってもそんなに目立たないかな」


 さっと自分の服装を確認する。王都をゆっくりと散策しようと思っていたので貴族にしては地味なワンピースを着てやって来た。これなら少し裕福な家の娘で通用するはずだ。黒髪も珍しくないのでいけると思う。


 そうして王都を一人ゆっくり散策していく。やっぱり国の中心ということもあって市場には色んな商品が並んで人がたくさんいる。

 国内で収穫された果物にそれを加工したジュース、他国から取り寄せられた布生地やカーペット、平民向けのアクセサリーなどが並んで市場には活気が溢れている。


「ふふ、実家の領地の光景を思い出すなぁ」


 実家のカーロイン公爵領は王都よりは劣るけど国内有数の商業都市で人と物とお金が回っている土地だ。

 幼い頃は市場を視察するお兄様についていってよく市場を散策したなと思い出す。

 今日は休日だからか人が多く、男女に年齢に偏りなく様々な人々が歩いてる。活気があるのはいいことだ。人が買えばその分、流通がさらに回って経済が潤っていくから。

 そしてせっかく市場に来たので私も商品を見て興味ある商品は店主と言葉を交わして小物を購入していく。

 公の場では公爵令嬢として身分相応のものを身に付けないといけないけど私の家はそれ以外の場面では寛容な方だ。だから別に平民向けの小物を持っても咎められることはない。

 貴族と平民と身分に差はあるけど、私たち王侯貴族はたくさんの平民に支えられている。そんな彼らの作り出すものは優れたものも多いので私は好きだ。


「今はラヴェル王国の水彩画とカサンドラ王国の切り絵が芸術面で人気なんだなぁ」


 市場を見ると他国の芸術が平民に人気だと窺える。カサンドラ王国なら伝手がいるから領地にいるお兄様に手紙で報告しておこうと考える。

 ラヴェル王国はカーロイン公爵領と距離があるから難しいけど、オーレリアの領地であるマーセナス辺境伯家を通じたら少し安く仕入れることが出来るかもしれないからそれも一応伝えておこう。


 そんなことを考えていると市場を出ると、前方から声をかけられた。


「あれ……? メルディアナおねえちゃん?」

「えっ?」


 前方から名を呼ばれて声がした方向を見る。誰が私を呼んだんだろう。

 そして妙に視線を感じると思いそちらへ目を向けると、そこにはエルルーシアちゃんがいた。


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