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65.ロイスの本音

 座り直して改めてロイスと向かい合う。

 父から犯人の件について聞くだけと思っていたのにまさかこうなるとは……。あの強引さ、王妃様も噛んでいるのは明白だ。


「…………」

「…………」


 互いに無言になる。……なんだろう、一体。

 でも予想外だったけどこうしてロイスと会うことが出来た。ずっと謝りたいって思っていたから謝るのなら今だ。

 顔を上げると勢いよく声をあげる。


「「ごめん!!」」


 そして勢いよく謝罪するも私以外の声も重なって再び無言になる。……んん?

 疑問の感情を浮かべながらロイスを見るとロイスも私と同じように困惑を顔に書いていた。


「今、なんて?」

「何って……謝罪だよ。メルディアナは?」

「私も謝罪よ」


「「…………」」


 またしても両者沈黙となる。いや、この短時間で何回無言になっているんだ。

 とりあえず、場の空気を変えるために咳払いをする。


「こほん。……なんでロイスが謝罪するの? ロイスが謝ることなんてないじゃない」


 まずは思ったことを述べる。私は八つ当たりしたから謝る必要があるけど、ロイスは謝る必要はないはずだ。


「ううん。僕も意固地になってメルディアナを心配させたなと思うから」


 首を振りながらロイスがそんなことを呟く。その表情や瞳の様子から嘘ではなく本心だと感じ取れる。


「違法な金製品は国の信用を揺らがせる大きな問題だから多少無理してでも調べて証拠を見つける必要があったとはいえ、言い方が悪かったなって思う。言葉足らずだったと思う。ごめん、メルディアナ」


 いつもどおりの声音、いつも私やステファンに見せる素の表情で謝罪する。ロイスが悪いわけじゃないのに。


「……ロイスが謝ることないわ。悪いのはロイスの事情を知らずに首突っ込んで怒った私よ。……私の方こそ、ロイスに嫌われたかもって思っちゃった」

「えっ、そんなはずないのに! どうして?」


 正直な気持ちを伝えるとロイスが大層驚愕した様子で目を見開いて尋ね返す。どうしてって……散々ロイスを引き摺りまわしていたからに決まっている。


「だって昔からロイスを引き摺りまわしていたもの。初めて会った時も舎弟扱いしてきれいな服を土だらけにして汚しちゃったし。ロイスは優しいからいつも付き合ってくれていたけど、それこそ幼い頃は呆れられていても仕方ないことたくさんしていたし」


 過去の自分の行いを呟く。王子として育ったのにいきなり初めて会った女の子に怒られながら木登りや近衛騎士たちから逃げる所業に付き合わされてよく怒らなかったなと思う。

 それ以外にも室内で過ごすこと多かったロイスをよく外に連れていって、ロイスはいつも色んな遊びに付き合ってくれていた。


「……そんなことないよ。確かにメルディアナは破天荒なところがあるけど、いつもメルディアナと遊ぶのは楽しかったよ」


 出会った頃を思い出しているのか、これまでの遊びを思い出しているのか、口許を緩めて懐かしそうに呟く。


「小さい頃は王位を継いだばかりで両親は今よりもっと忙しかったし、一人っ子だから物心がついた時から王太子教育を受けていて教育係の期待は大きくて。メルディアナと出会うまでは静かに勉強して静かに本を読むほうが多かったな」


 懐かしそうに「当時の自分の生活」を語っていく。……国王夫妻の一人息子として生まれたロイスは物心がついた時から色んな教師から様々な内容を学んでいたというのは知っている。

 そしてロイスはその教育係の期待に応えられる子どもだった。一教えたら勝手に四、五と吸収していくので教育係はロイスを褒め称えて幼いながらに難しい内容も教えていたと聞く。


「でもメルディアナと会ってからは日々の生活がいつもより明るくなって楽しくなったな。内気な僕に愛想つかさずに手を掴んで引っ張ってくれて。知らない遊びを教えてくれて、勉強も僕と張り合うように競争してくれるから勉強するのも楽しくなって……メルディアナと出会えてよかったなって思う」


 少し恥ずかしそうにロイスがそう告げる。……その言葉を聞いてロイスの言葉が胸に響いて温かくなる。


「だから嫌いになるわけないよ。前にも言ったけど、僕の一番の友人はメルディアナだよ。それは、これからも変わらないと思う」

「ロイス……」


 ロイスの名を呼ぶとニコッと微笑んでくれる。私を一番の友だと断言してくれる。

 私も、この先ロイスを嫌いになることはないと思う。


「……ごめんね、ロイスがそんなこと調べているとは知らずに怒って」

「気にしないで。僕も言葉足らずだったのは事実だし。……調べていくと金製品の犯人はシェルク侯爵の可能性が浮上してきたけど確定とは言えない。学園内で無闇に言える内容ではないし、建国祭中に荒くれ者を雇った犯人はまだ特定出来ていない中でメルディアナを巻き込みたくなかったからね」


 そして例の事件の話へと移動する。……確かに、無闇にシェルク侯爵のことを話すのは愚策だ。そもそも、私はまだ学生だからそんな話に巻き込むわけにはいかない。

 それに学園には娘のシェルク侯爵令嬢もいる。余計に口を慎む必要がある。


「だから学園に通いながら王宮へ行ってスターツ宰相たちと協力して調査していたけど、結局メルディアナやステファンには心配させてしまったけどね。母上にも『友人に心配させるなんて』って随分と怒られたよ」


 頬をかきながらそんなことを呟く。王妃様に怒られたことを思い出したのか苦笑いを浮かべる。


「だから早く解決させないと思って泊まり込みで必死に調べて。それでようやく動かぬ証拠を掴んだ」

「そうだったの……。スターツ公爵とね」


 スターツ公爵……ユーグリフトの父親たちとずっと協力しながら金製品の件を調査していたんだ。


「…………」


 水面下で、周りに悟られずに学業に生徒会、貴族の犯罪の調査をよく学生の身でこなしていたなと思う。感服する。


「すごいね、忙しかったのに見つけて」

「主導で調査していたけど、周囲の助けも大きかったよ。スターツ宰相や他の文官たちが協力してくれてね。彼らがいなかったら発見するのが長引いていたと思うから僕一人の功績じゃないよ」

「謙遜しなくてもいいと思うわ。学生なのに頑張ったと思うわ」

「そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう、メルディアナ」


 本音を伝えると嬉しそうに感謝の言葉をロイスが紡ぐ。協力者がいたとしても本当に頑張ったなと思う。


「違法な金製品は回収しているんでしょう?」

「うん。あとは顧客リストを見て被害者を助けないと。……さすがに、侯爵やシェルク嬢の処罰は管轄外だから僕は何もしないけどね」


 ゆっくりと息を吐きながらソファーに凭れる。……ロイスは、シェルク侯爵令嬢が犯人と知ってどう感じたのだろうか。

 ロイスもシェルク侯爵令嬢と面識がある。そのシェルク侯爵令嬢が私たちを害そうとしたのだから複雑な気持ちだろう。


「シェルク侯爵令嬢が犯人だったなんて。驚いたわ」

「……そうだね。侯爵だけが罪を犯したのなら彼女はまだ処遇が軽かったかもしれないけど、彼女自身も罪を犯したからね」

「面識遭ったから余計に複雑ね」

「うん。……でも、どんな理由であれ、メルディアナとマーセナス嬢に危害を加えようとしたのは許されることじゃない。犯した罪はきちんと償ってもらうつもりだよ」


 ロイスが堂々と答える。……確かにそうするしかないと思う。彼女は、罪を犯したのだから。


「……じゃあそろそろシェルク侯爵令嬢の元へ行くわ。これが最後の挨拶だと思うから少し話してくるわ」

「じゃあ僕が案内するよ。僕も、彼女と話したいことがあったから」

「そう? 分かったわ」


 ロイスも同行すると聞いて頷く。ロイスもシェルク侯爵令嬢に話があるのなら一緒に行ったらいいと思う。

 そしてロイスの執務室から出ると護衛として執務室の前で控えていたシャヘル副団長が護衛としてついてくる。


 王宮に備え付けられている牢は大きな事件や犯罪を起こした貴族を一時的に収監する空間だ。

 ロイスが看守に来た理由を説明して私についてくるように告げる。


「私が先に話してもいい?」

「いいよ。一応、牢の中にいるけど近付きすぎないでね」

「分かっているわよ」


 ロイスの注意に頷く。それくらい分かっている。

 そしてロイスの後ろをついていきながら気になることを問いかける。


「シェルク侯爵令嬢が捕まったのはいつなの?」

「昨日の放課後だから大体一日かな。僕はそこにはいなかったけど、初めは否定していたけど証拠を提示すると青ざめていって最終的には認めたみたいだ」

「そう……」


 ロイスの話に耳を傾けて返事する。

 コツコツ、と石畳の上を歩く音が楼全体に響き渡る。三人歩いているので三人分の音が耳を通る。


「今はシェルク侯爵家の人間だけ収容されている。父親のシェルク侯爵はここより一つ上の階へ収容されていてここにはシェルク嬢一人だけだ」

「そうなのね」


 ドアの前でロイスが立ち止まる。このドアの先にシェルク侯爵令嬢が収監されている。

 ロイスがドアノブを回るとギィっと音がする。

 再び石畳の上をコツコツと足音を響かせながら歩いていく。

 歩きながらちらりと見ると、貴族用の牢ということもあり、衛生的でベッドに丸テーブル、椅子が置いてある。

 そんな貴族用の牢を見ているとロイスが立ち止まって私に視線を向けて合図する。

 合図を受け取ったため、小さく息を吸いながら背筋を伸ばして歩いていく。

 そして私を視認したら彼女は目を細めた。


「……なんだ、メルディアナ様。来たんですね」


 冷たい声でそう呟くのは私を害そうとした張本人──アマーリヤ・シェルク侯爵令嬢がベッドに座りながら睨み上げて私を見上げたのだった。



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