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62.すれ違い

 最近、ロイスが忙しそうにしている。

 放課後は生徒会の仕事があるけど生徒会の仕事が終わったあとは王宮へ行っていてステファン曰く、寮の門限のギリギリに帰ってくるらしい。

 それだけではなく、生徒会がない日でもここ連日放課後になると王宮に行っていて、学園や寮の食堂ですれ違うも何か悩んでいるように見える。


「……ロイスは今日も王宮?」

「はい」

「そう」


 いつも利用する談話室でステファンに尋ねるとそう返される。どうやら今日もロイスは授業終了後に王宮へ向かうために王宮からの馬車に乗ったらしい。


「なんかあったのかな。ここずっとだよね?」

「ああ、何か用があるようだけどそれを話してくれないからまったく分からないんだ。メルディアナ様、何かご存じですか?」

「知っているのならこうしてステファンに聞かないわ」

「そうですよね……」


 はぁ、とステファンが溜め息を吐く。大分意気消沈しているのが読み取れる。

 ステファンは私ほどじゃないけれどロイスとの付き合いが長い。男子の中では一番ロイスと仲がよく、誇りに思っている。

 だからこそロイスに頼られず、力になれないことに不甲斐なく思っている。


「ステファンが落ち込むことないわよ。十一年の付き合いのある私にもなーんにも相談しないんだから」

「メルディも大分拗ねてるね……」

「拗ねてないわよ」

「どこがぁ? ムスってしてるじゃん」


 アロラが苦笑しながら指摘する。事実なのでスルーする。わざわざ言わなくてもいいのに指摘するなんてと思う。

 そうだ、拗ねているし不満だ。私が襲撃された時は建国祭の準備などで忙しいのにわざわざ公爵邸に来て『一人で行動せずに危険なことはしないように』と言ったのに自分は何か抱え込んで一人で行動しているのだから。不満に決まっている。


「頼ってくれたらいいのに……」


 ポツリと口からこぼれてしまう。

 ロイスとは十一年の付き合いでお互いのことはよく分かっていると思う。

 困っていたり、悩んでいるのなら頼ってくれたら力になるのにどうして相談してくれないんだろう。

 まるで、自分が頼りないみたいで悔しくなる。


「「はぁ……」」

「二人とも息ぴったりだねー」


 ステファンと一緒に溜め息を吐くとアロラがそんなこと呟いてクッキーを口に含む。こっちは本気で落ち込んでいるんだ。


「殿下も王太子だから忙しいに決まってるじゃん。夏の長期休暇は私たちみたいに羽を伸ばせるわけじゃなくて公務や政務の連続だろうし」

「それにしても連日王宮に行くのはおかしいわよ。大臣や文官たちもロイスが学生なのを配慮して週末や試験の後に打合せするようにしているんだから」

「何それ初めて聞いたんだけど」


 知らなかったアロラがそんな声をあげる。

 確かにロイスは私たちみたいに長期休暇だからゆっくりと過ごせるわけではない。

 王太子ということで長期休暇は夜会に公務、政務に視察にと仕事がたくさんあると去年の夏に珍しく私にこぼしていた。

 だけどそれらの打ち合わせは急遽変更する可能性もあることから長期休暇の直前に打合せしていたはずだ。それには試験の後はゆっくり出来るようにと王妃様の思いやりも含まれている。

 真面目で穏やかなロイスは大臣や文官にも慕われていて皆王妃様の配慮に合わせている。だから視察や公務の打ち合わせではないはずだ。


「私だけじゃなくてステファンにも隠し事するなんてね」

「んー、まぁこそこそと動いていたら気になるけど……」


 今までそんなことなかったのに一体どうしたんだろう。

 はぁ、と溜め息を吐くとアロラが私に向かって言う。


「そんなに気になるのならはっきり聞いちゃえば? メルディ思ったら行動するタイプじゃん」

「失礼ね。一応、考えた上で行動するタイプよ」


 聞き捨てならないので言い返す。……でも、聞いてみてもいいかもしれない。ずっと悩んでいるのは私らしくない。


「……そうね、一回聞いてみたらいいわね」

「うんうん。だって相手はこの中で一番付き合いの長いメルディだよ? メルディが聞いたらきっと殿下だってわけを話してくれるよ」

「確かにメルディアナ様が頼んだら殿下も話してくれるかもしれませんね」


 励ますようにアロラとステファンが話す。きっとロイスなら気持ちを伝えたら話してくれるはずだ。

 明日にでもロイスに聞いてみよう、そう決めたのだった。




 ***




 翌朝、ロイスが登校しているかそっと覗く。ついでにルーヘン伯爵令嬢がいるか確認する。

 もし彼女がいたらまた敵意を持って睨んできたり、後日絡んでくる可能性がある。そうなると面倒なのでタイミングを図る必要がある。

 確認するとロイスは既に登校していてルーヘン伯爵令嬢はまだのようだ。ならチャンスだ。さっさと約束だけ取り付けよう。


「殿下」

「……メルディアナ?」 


 ロイスを呼ぶと私がいるドアの前までやって来る。……上手く隠しているけど疲れているのがうっすらと見えている。


「メルディアナが僕のクラスに来るなんて珍しいね。どうかした?」

「少し殿下にお願いがあって」

「僕に? 何かな」


 ニコッと優しく微笑みながら何か用かと問いかける。なので回りくどくせずに簡潔に頼む。

 

「……放課後、少しお時間よろしいでしょうか」

「放課後?」

「はい」

「うーん……」


 用件を言うと少し困ったような表情をする。でも、ここで諦めてたまるかと思う。

 少し悩んだ様子をするもすぐにいつもどおりの微笑みを見せる。


「……分かったよ。他でもないメルディアナの頼みだからね。王宮の馬車が待っているはずだから長話は出来ないけどそれでもいいかな?」

「構いません。ありがとうございます」

「ううん、気にしないで。それよりごめんね、最近忙しくて」

「いいえ」


 頼んだのはこっちなのに逆に謝られて少し困る。別に時間さえくれたら構わない。


「それでは放課後お願いします」

「うん。じゃあいつもの談話室で」

「はい」


 礼をして立ち去る。ここでルーヘン伯爵令嬢と鉢合わせすると面倒なので立ち去るのが賢明だ。

 その後、自分の教室に戻って午前の授業を真面目に受けて昼休みを挟みながら午後の授業も集中して授業を受けた。

 そして放課後。アロラとオーレリアに別れを告げていつも使用する談話室へ向かう。

 コンコンとノックすると既にロイスがいたようでドアを開けてくれる。


「ごめん、遅くなって」

「ううん。ここでなら気兼ねなく話せるでしょう? それで、どうかした?」


 ニコリと笑いながらどうしたのかと問いかける。……ここは談話室で人目がないのではっきり言おうと思う。


「ねぇ、ロイス。最近何かあった?」

「えっ?」


 思わぬ問いかけだったのか、ロイスが水色の瞳を見開いて驚いた表情をする。


「最近、毎日王宮に行っているけど視察や公務の話じゃないでしょう? 隠しているけど疲れているって分かっているんだから」 


 淡々と簡潔に指摘する。言い逃れなんて出来ないようにはっきり言わないといけない。

 指摘するとロイスが困ったように苦笑する。


「……はは、さすがだね。よく分かったね」

「何年の付き合いだと思っているの? ステファンも心配してるわ」

「そっか、ステファンもか……」


 小さく呟くとそっと目を伏せる。

 するといつもの優しい笑み消して疲れた表情を見せる。やっとはっきりと見せたなと思う。


「何かあったの? 困っているのなら力になるけど」

「メルディアナ……」


 昔の、出会った頃のような気が弱い声で私の名を呼ぶ。これは大分疲れているのが読み取れる。


「私に出来ることがあれば力になるから言って。ステファンも同じ気持ちよ」

「……ありがとう。でも、ごめん。話せない」

「は?」

 

 予想外の言葉に聞き返す。……今、なんと?

 言葉を挟まない私にロイスが口を開く。


「気持ちは嬉しいけど、メルディアナやステファンが気にすることじゃないから大丈夫だよ」


 そしてニコリと張り付けたような笑みで優しく言いながら拒絶する。……何が大丈夫なんだ。この頃ずっと王宮へ行き忙しそうに動いている。難しそうな表情をよく浮かべているのに。

 これが悩んでいるわけではないのなら私も気にしない。

 だけど、ここ数日、廊下や寮の食堂ですれ違う時いつも難しい表情を浮かべている。

 親しくない生徒には分かりにくいかもしれないけど幼馴染として一緒に育った私やステファンには分かる。

 なのに必要ないと言い切る。何か抱えているような……悩んでいるように見えるのは気のせいじゃないのに、だ。


「……私やステファンは頼りないってこと?」

「そんなわけじゃないよ。……ただ、二人が気にするようなことじゃないってことだよ」


 またしてもやんわりと拒絶する。……なんでそこまで意地を張って話さないんだ。

 ロイスとは基本的に良好な関係を維持していて言い合いなんて殆どなかった。そりゃあ、小さい頃はロイスを泣かしたこともあるけどすぐに仲直りして一緒に勉強や剣術、遊びに読書など色々なことをした。

 幼馴染で長い付き合いのあるロイスのことは大体のことが分かると思っていた。

 なのに、今は全く何を考えているのか分からない。


「……幼馴染を心配することがそんなに悪いってこと?」

「それはっ……」


 言い淀むロイスに怒りが込み上げて声を張り上げてしまう。


「知らない、このバカっ!」


 そして私は手を伸ばそうとするロイスを避けて談話室を飛び出した。

 十一年間の間で初めてバカと言って大喧嘩してしまった。


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