20.剣術大会2
カァァン、と音が試合場に響く。
同時に相手の手から木剣が落ちる。
「し、勝者、メルディアナ・カーロイン!」
わぁぁっと声がざわめくのが感じる。なんとか勝てた。
さすがは準決勝。上位四人ということで後半に行くにつれ苦戦することが増えてきた。今の相手だったラモー様も中々の強敵だった。
ふぅ、と手の甲で額の汗を拭う。
「決勝戦の前に三位決定戦を行います。一年生と二年生の敗者はこのまま残ってください。決勝戦に出場する方は休憩を」
「なお、決勝は一年が先に、その後二年がします。一年の決勝はA組のメルディアナ・カーロインとB組のユーグリフト・スターツで二人の対戦は暫しお待ちください」
大会関係者二人が観客席と来賓席に向かって説明する。どうやら決勝は一年生と二年生別々なようだ。
ちらりと隣の試合場を見る。
隣で対戦していたユーグリフトは私より先に決着をつけて涼しい顔をしている。対戦相手であったジェフリー様は準決勝まで残ったことから明白だけど強い方なのに。
「カーロインも勝ったんだな」
「ええ。ユーグリフトも勝ったのね」
ユーグリフトが近付いてきて返事する。
これで準決勝は終了。ならあと私が戦う回数は一回のみ、決勝戦だ。
そしてその最後の対戦相手は目の前のユーグリフト・スターツ。予選でずっと当たらなかったけど、ついに戦うことが出来る。
「これで最後ね。私が勝つから」
「勝ち気な発言だな。ま、いいよ。俺は実力を出すだけだから」
互いに一言告げ、最終試合が始まるまで休憩するために移動したのだった。
***
「ではこれより一年の部最後の試合を行います。両者、前へ」
審判の指示に従い前へ進んでいく。
「「「きゃー、ユーグリフト様ー! 頑張ってくださいー!!」」」
「メルディー! 頑張れー! やっちゃえー!」
「メルディアナ様ー! 頑張ってくださいー!!」
観客席にはユーグリフトを慕う女子がたくさんいるのか、ユーグリフトに声援を送る声が聞こえる。
一方、私を応援する声も聞こえる。今のはアロラとオーレリアの声だ。
二人の声援を聞きながら向かいにいるユーグリフトを見る。
「…………」
目の前にはいつもどおり、何考えているか分からない表情をしたユーグリフトがいて同じくこちらを見る。
「では試合──開始!」
合図が鳴り、剣をしっかり握りながらユーグリフトの動向を観察する。
時間が許す限り、ユーグリフトの試合を眺めていたけどユーグリフトの戦闘方法は定まっていない。
例えば私の場合はお祖父様に習ったこともあり、お祖父様と戦闘方法が近い。
そしてそれは癖も多少影響する。なので癖に対する対策もする必要がある。
だけどユーグリフトには各戦闘の共通点がない。攻めと守りの形は何通りも存在し、見極めにくく、対策がしにくいと言うのが実状だ。
そのため、相手の動きをよく見て対応する対応力と瞬発力、そして風の動きが鍵となる。
「…………」
ユーグリフトの動向を観察するも、相手も私同様観察しているのか、じっと剣を持ちながら私を見る。
「来ないんだ?」
「ええ。そっちに譲るわ」
挑発するように尋ねてくるユーグリフトに淡々と感情を乗せずに返事する。今は、感情に呑まれるべきではない。
「そう。じゃあ、お言葉に甘えて行こうか」
そして小さく笑い走って間合いを詰めてくる。
剣を振り上げるのを確認し、ユーグリフトの力を確認するために一回戦同様、衝撃を霧散しながら受け止める。……力が強いなと思う。
そしてユーグリフトの剣を振り払って今度はこっちから素早く剣を振り上げると、ユーグリフトは難なく私の剣を受け止める。
それからは互いに剣技をぶつけ合い、時には斬撃、時には突き、時には相手の剣をギリギリで躱しながら何度も剣がぶつかり合う。
「意外に強いんだな」
「そっちこそね……!」
カァァンと音が鳴り、ユーグリフトの剣を振り払って距離を取る。
距離が空いたことで警戒をしたまま、小さく肩で息をする。
そして思う。奴、ユーグリフトは今までの対戦者の中でも一番強い、と。
力が強ければ立ち回りもよく、さらには洞察力に俊敏力もある。背後を狙った攻撃にも即座に対応して受け止めて来るし、懐に入って攻撃しようとするとあやうくこちらが負けそうになるし、本当に強い。
実際、木剣だから大丈夫だけど真剣だったら危なかった場面も幾つかあるのは内緒だ。
「どうしようかな……」
まさかここまでユーグリフトが強いなんて思わなかった。決勝まで残ったため強敵だと思っていたけど予想以上だ。
「…………」
ユーグリフトの動向を窺いながら勝利するための道筋を立てていく。どうしたらいいだろう。
ユーグリフトを視界に捉えながら幾つもの方法を考えては消去していく。
「……っ!」
その直後にユーグリフトが動いたのを確認して肌が粟立つ。
そしてユーグリフトの素早くて力強い斬撃を最大限衝撃を緩衝して受け止める。
「もうそろそろ降参してくれない? 俺もしんどいんだけど。パシリにするのはなしでいいからさ」
「ならそっちが降参してくれないかしら?」
「は? 嫌だよ。そっちが降参しろよ」
「絶対にするかぁぁ!」
攻防しながら互いに口論を展開する。誰が、誰が降参などするものか!
「ってか気配読み過ぎじゃない? 背後の攻撃に強すぎてすっごく腹立つんだけど!」
「背後は特に警戒してるんでね。そっちこそよく連続攻撃受け止めるよな。しぶといんだけど」
「あ、そう。あんたに褒められて光栄よ!」
ギリギリと木剣同士が悲鳴のような音を挙げるも私たちは退かない。
視界の端でユーグリフトが足を動かすのを確認する。コイツ、足引っ掛けて人の態勢を崩そうとしてるな。
その隙に攻撃して勝ちを取ろうとは。そんなことさせぬ!
逆にこっちも足で引っ掛けようとする。
「おいおい、お前なぁ……! 同じように足動かすなよ……!」
「そっちが先に仕掛けてきたんでしょう……!? 腹黒いのよ!」
「はっ、実際の戦場じゃあ剣だけで戦えると思ってるのか……!?」
「無理でしょうね! 対人戦だと体術に敵攪乱に場所地形を利用して戦闘することになるでしょうね!」
互いに青筋立てながら口論もどんどん激化していく。ユーグリフトも腹を立ててるのか語尾が強くなってる。涼しい顔は完全に消え、人を揶揄うような笑みが消えている。その姿を見ると清々しい気持ちになる。
「仮にも女だし回し蹴りしたくない俺の気持ちを汲み取ってくれないか?」
「そっちこそ腕返ししたくないからやめてくれない?」
「腕返し? なんでそんなの使えるんだよ」
「極東に住むお祖父様のご友人に教えてもらった体術よ!」
回し蹴り? ふん、その程度で怯むと思ったら大間違いだ。
木剣で攻防しながら口と足でも戦争している私たちは観客からどう見えているのだろう。考えたくない。きっと滑稽だ。
「ってかなんで知ってるのよ! これ有名じゃないのに!」
「学園の本にあったからだよ」
「ああ、そうだったわね!」
そう言えば学園の図書館にあったなと思い出す。そんな本も読んでいるとは。
いつまでも攻防したくない。私も何度も対戦していてそろそろ体力的に限界だ。
なので残していた体力を使用して剣を振り払う。
「うりゃあああ!」
「っ、とんだバカ力かよっ……!」
僅かに姿勢を崩すユーグリフト。それを見逃す私じゃない。
そのまま接近して剣柄を狙う。
「させるかよっ……!」
しかし、ユーグリフトがすぐに体勢を整えると、今までの中で一番強く剣を振り上げた──。
「っ……」
カラン、と物が落ちる音とともに手に痛みが走る。私の手から、木剣が落ちた。
しんっ、と空間が静まり返るも、数秒すると審判が大きな声で張り上げて勝敗を伝えた。
「勝者、ユーグリフト・スターツっ!!」
同時にわぁぁぁと今日一番の歓声が試合場に響いた。
***
その後、二年生の決勝が始まり、勝敗が決してから授与式が行われた。
「一年、準優勝おめでとう。カーロイン公爵令嬢」
「……ありがとうございます」
学園長に表彰盾を貰って礼をする。
その隣には涼しい顔に戻ったユーグリフトが優勝者が貰う黄金の優勝カップを持っている。……ああ、負けたんだ。
悔しいと言う気持ちが胸を占める。これが圧倒的な力量差ならまだ諦めがついたかもしれない。
でも、実際は接戦だったから悔しいことこの上ない。
しかし、ユーグリフトは本当に強かった。そこは認めるつもりだ。
閉会式になり、最後に陛下の言葉を聞いて退場する。
歩いていると、目の前には美しい白銀の髪を持つライバルが歩いていた。
「ユーグリフト」
「……カーロイン?」
名前を呼ぶと驚いたのか僅かに目を見開いて振り返る。
「珍しい。そっちが呼び止めて来るなんて」
「用がないと呼び止めないわよ。……悔しいけど、今回は貴方の勝ちよ。約束は守るわよ」
「約束?」
首を傾げてなんのことだという顔をする。パシリって言葉なんて言いたくない。言いたくないが……負けたのは私だ。潔く言うしかない。
「だから……ぱ、パシリの件よ」
「ああ、それ?」
「そうよ。とは言っても出来ないものははっきり出来ないって言うけどね」
あらかじめそれは伝えておく。あとで面倒なことになりたくないから事前に伝えておくのが重要だ。
しかし、予想外の言葉が飛んできた。
「別に。さっきも言ったけど、パシリにするのはなしでいいよ」
「……いいの?」
「ああ言ったら燃え上がるだろうなって思っただけ。本気でするはずないだろう?」
いや、私は勝ったら本気でユーグリフトをパシリにするつもりだったけど。でも、今はそれは口に出さないでおこう。
「……そう。分かったわ」
「それより、手は大丈夫か?」
グイっと一歩近付いて私の顔を窺う。……なんだろう、心配してくれている? もしそうだとしたら意外だ。
「……? 大丈夫よ、手の感覚はあるから」
一応、ユーグリフトの前で手を開いては閉じて見る。痛みは少しあるけど、感覚はしっかりあるため問題ない。
「そう。最後力加減なく振り上げたけど大丈夫ならいいや」
「平気よ。これくらい、今まで何度も体験してるわ」
剣術には怪我はつきものだ。これくらい、薬でも塗ったら治るだろう。
「今回は負けたけど、私は諦めないわ。次は学期末試験で勝ってやるわ」
「……まだ懲りてないんだ。元気だな」
「私はねぇ、貴方に勝つまで勝負を挑むわよ」
「本当元気だな。はいはい、じゃあ頑張れよ」
適当に返事をすると振り返らずに手だけ振って歩いて行った。
何、あの余裕の態度。あれが勝者の余裕? もしそれなら解せぬ。おのれ、次こそは勝ってやる!
そう決意して早歩きしてユーグリフトを追い抜かすと、競技場の外でロイスとステファン、アロラにオーレリアが待っていた。
「あっ、メルディー!」
気付いたアロラがぶんぶんと手を振って笑いかけてくる。
「どうしたの、皆。こんなところにいて」
「皆で帰ろうとメルディアナ様を待ってたんです」
「そうなの?」
疑問にステファンが答えてくれる。待ってくれていたなんて。ちょっとくすぐったい。
「メルディアナ、二位おめでとう。最後の試合本当にすごかったよ」
「本当です! 私、見ている側なのに剣技が早くてついていけませんでした。本当にすごかったです!」
隣を歩くロイスが微笑みながらおめでとうと声をかけ、オーレリアが興奮したように語る。確かに、武術を嗜んでない人には何がなんやらだったかもしれない。
それでも最後まで応援してくれていたのは知っている。だから、嬉しくて。
応援してくれた皆にありがとう、と笑いながら伝えて五人仲良く皆で寮へと戻ったのだった。




