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18.宣戦布告

 二学期が始まって数日。

 昼休みに分類される時間、私は一人廊下を歩いていた。

 そして目的の場所へたどり着くとコンコンとドアをノックする。


「失礼します、剣術大会のエントリーで参りました。ダレル先生はおられますか」

「お、入れ入れー」

「失礼します」

 

 室内から入室の許可を得たのでドアを開いて礼をする。


「お、カーロイン。剣術大会受けるのか?」

「はい、先生。なので受付お願いします」

「はいはい、りょーかい」


 伸ばして返事するダレル先生に苦笑する。相変わらず貴族らしくない人だと思う。

 向かったのは剣術実技を担当するダレル・フロスト先生の教官室だ。

 ダレル先生は三十代半ばの男性で、元近衛騎士。フロスト伯爵家の三男で、明るくて豪快という言葉が似合う人だ。

 それでも元近衛騎士ということで実力は本物で、ダレル先生の剣術は勉強になる。なので来年、二年生に進級しても受講しようと思う。


「しっかし、カーロインも受けるのか。今年は一年は参加者多くてなー。大変だぞ?」

「なら余計やる気が出ますね」

「お、言うねー」


 雑談を交わしながらダレル先生はエントリーの手続きをする。

 ちなみにダレル先生は生徒たちを皆呼び捨てする。なので私のことも当然カーロインと呼ぶ。


「まぁ、一年だけじゃないけどな。卒業を控える三年は勿論、二年も参加者が多くてな」

「それは殿下が入学したからですか?」

「そ。この大会でいい成績を残したら将来殿下の護衛騎士に選ばれるかもしれないし」


 ロイスは今は王太子だけど将来は国王になる。

 そして王族の護衛騎士は名誉なことだけど、中でも名誉なのは国王と王太子の護衛騎士に抜擢されることだ。そりゃあ、皆意気込むわけだ。

 しかし、だからと言って私も負けるつもりはない。生来負けず嫌いな私はここでも全力で優勝を狙うつもりだ。


「私以外の女子生徒は参加するのですか?」


 同学年でも私以外数人、剣術実技を受講している女子生徒が数人いる。彼女たちも参加するのだろうか。


「参加するぞ。だけどやっぱり男子と比べると少なくてなー」

「仕方ありませんよ。まず体格だけで差がありますから」


 体格や腕力など、どうしても男子と戦うとその違いを思い知らされる。

 だからこそ、俊敏力などでその違いを補う必要がある。


「だからカーロインには期待してるぞ。剣術大会は攻めが重要だ。元騎士団長のヘルムート殿の教えを受けてきたカーロインなら最後ら辺まで残れるんじゃないか? 頑張れよ!」

「はい、頑張ります」


 応援の声援をくれるダレル先生に返事する。

 他のクラスは分からないけど、同じクラスの男子の癖は何となく把握しているので対応出来るだろう。

 授業でもいい成績を残す私にダレル先生は期待してくれている。勿論、頑張るつもりだ。

 そして私のエントリーが完了して控えを千切って渡してくる。


「ん、ほら完了っと。まぁ、カーロインは一年で今回が最後じゃない。だから怪我しないように気を付けろよ。場所が悪いと二度と剣が握れなくなるからな。無理のない範囲で鍛練に励んでよく食べてよく寝る! これが強くなる近道だからな!」

「はい、体調管理には気を付けます」


 ダレル先生の力説にニコッと微笑む。

 体調管理は大事なことだ。それは私も分かっているので気を付けるつもりだ。 

 そんな風に考えていたら後ろのドアから誰かが来た。


「失礼します、ダレル先生はいますか」


 しかし、その声にピクッとなった。……この声。


「お、どうした?」

「剣術大会のエントリーしに来ました」


 ダレル先生が私を無視して後ろの男子生徒と話し始める。剣術大会だと?

 するとダレル先生が剣術大会の出場を聞いて嬉しそうに声を弾ませる。


「おー! ()()()()、お前も参加するのか?」

「はい。まだ手続きの途中ですか?」

「いいや、たった今カーロインの手続き終わったから来ていいぞ」


 先生……!! 名前を、名前を出さないで欲しかった……!!

 それにしても、ここで会うなんてなんて確率なんだろう。別にエントリーの受付は今日だけじゃないのに。

 後ろから足音が聞こえる。こちらに来ているのだろう。


「カーロイン? カーロインも剣術大会に参加するんですか?」


 隣に来た奴──ユーグリフトが私をちらりと見ながらダレル先生に尋ねる。

 今日も白銀の髪はサラサラしている。男のくせになんできれいなんだろう。


「ああ、カーロインも参加するんだ。スターツはカーロインとクラスが違うから対戦したことないだろうがカーロインは女子だが強いぞ」

「そうなんですか」


 ふぅん、とユーグリフトが紅玉のような瞳をこちらへ向けてくる。

 視線を感じて私も目を向けると、紅の瞳と視線がぶつかる。


「カーロインも出場するんだ」

「何ですか? 文句ありますか?」

「文句なんて言ってないだろう。なんでそうすぐ噛みついてくるんだ?」

「それは過去の自分に問いただせば分かりますよ」


 ふん、と顔を背ける。忘れたとは言わせないぞ。人の神経を逆撫でしてきて。


「まだ根に持ってるんだ? 言い方はまぁ悪かったかもしれないけど、事実だし。カーロインは隠密向いてないからやめろよ」

「わざわざ口に出す必要はないから!」


 ぐるりと振り返りユーグリフトに言い返す。黙って思い出せばいいものを!


「隠密? はは、カーロインそんなことしていたのか?」

「先生、違います! 少し事情があって……!」

「いいや、いい。皆まで言わなくてもいい。そうだな、たまには羽目を外したいよな。俺も学生の頃はよく授業を脱走したりしていたからな~。だが、カーロイン。程々にしろよ?」


 ダメだ、全然伝わっていない……! なんか誤解されている気がする……!

 きっ、とユーグリフトを睨む。もう、奴には敬語すら使う必要なし。


「あんたね……! 先生が誤解したじゃないの!」

「じゃあなんであんな行動してたんだ? 俺、理由知らされてないんだけど」

「ぐっ……」


 そこをつつかれたら言えない。ロイスのことは部外者のユーグリフトに言うつもりなんてない。

 だけど、だからと言って許すつもりもない。


「決めた。今回という今回ばかりは敗北を味わわせてやるわ!」


 そしてビシッと指を差してユーグリフトに宣戦布告する。


「勝負よ、ユーグリフト・スターツ。剣術大会でその余裕綽々の顔を歪ませてやるわ!」


 目尻をあげて大きな声で宣言する。

 思えばユーグリフトには学期末試験に負けている。あの時は「次は勝つ」と言ったけど、二学期の学期末試験を待つ必要なんてない。この剣術大会で奴に勝って雪辱を果たしてやればいい。


「勝負、ねぇ……。……ふぅん、なら受けて立たないとな」

「そうしていられるのも今のうちよ。今回ばかりは私が勝つわ! そして謝罪の言葉を要求するわ!」


 今回ばかりは私が優勝してユーグリフトから謝罪の言葉を貰う。これは決定事項だ。


「なら俺が勝ったら願いを一つ叶えてもらおうかな」

「願い事?」


 ユーグリフトの言葉に反応して反芻する。奴が私に願い事……? 今度は何を企んでいるのだろう。


「その顔、なんか企んでいるって思ってるだろう?」

「さぁ、なんのことやら」

「否定しないということは肯定ってことだよな」


 肯定ですが何か? 

 しかし、それは口に出さず、ふふふ、と微笑むのみ。


「よし、なら手加減しなくていいな。俺が勝ったら一日パシリにしてやる」

「手加減なんて結構よ。むしろ、手を抜いた方が許さないわ」


 情けで手加減されて勝手も全然嬉しくない。それなら全力で戦って潔く散った方が遥かにいい。


「はいはい、じゃあ手は抜かないさ」

「それでいいわ。私が勝ったら一日ユーグリフトをパシリしてやるから覚悟なさい」

「へぇ」


 私も同じように宣言すると紅玉のような瞳を細める。それに負けじと見上げて睨む。

 

「おーい、ここで火花散らすな。口喧嘩するならスターツの受付を終わってからだ。ちなみに廊下でな」


 互いに張り合っていたらそれまで声をあげずにいたダレル先生が苦情を言う。よく見ると手でしっしっと追い払っている。……確かにここは先生の教官室で騒いでも迷惑なだけだ。

 ダレル先生に言われてユーグリフトから目を逸らす。


「先生に迷惑かけるわけにはいかないわ。だからここは引くわ。だけど覚えておきなさい、剣術大会で容赦なく叩きのめしてやる!」

「じゃあ期待しとくよ」


 はっ、と笑うユーグリフトにカチーンと来る。余裕の姿が腹立たしい。

 おのれ、必ず膝を折らせてやる……! 


「精々今のうちに余裕こいてなさい!」


 それだけ告げてふんっ、と音を出して教官室から退室したのだった。




 ***




「ということでユーグリフト・スターツに宣戦布告したわ」

「ねぇ、剣術大会に出るのは知ってたけど、なんでそんなことなってるの?」

「流れってやつ?」

「め、メルディアナ様ぁぁぁ……!?」


 寮の部屋で二人に報告したら二人からそう返された。うん、見事に真っ二つだ。


「メルディってなんでそんなユーグリフト様をライバル視するの?」

「始めからライバル視していたわけじゃないわよ。あっちからいつも仕掛けてくるの。だからムカつくから応戦しているだけよ」

「はぁ」


 アロラが適当な返事をする。だけど事実だ。今回の果たし状以外、基本的にユーグリフトから仕掛けている。


「ほんっとう、負けず嫌いなんだから」

「メルディアナ様……その、大丈夫なのですか?」


 呆れた声を出すアロラの隣でオーレリアが心配そうな目で見上げてくる。


「大丈夫よ。参加者の三分の一はクラスメイトだから癖は把握しているし、未成年だから真剣じゃなくて木剣だから大きな怪我はないわ。今回ばかりは勝つわ」

「……どうか、お怪我だけはしないでくださいね。応援くらいしか出来ませんが、当日は一番前で応援します」


 両手を握ってオーレリアが告げる。だから安心させるように勝気な笑みを見せる。


「ありがとう。優勝カップ持って帰ってくるわ」

「はぁ……。じゃあ私もオーレリアちゃんと応援に行くね」

「ええ。優勝してくるわ」

 

 オーレリアを安心させるために優勝を宣言する。二人にもこう言ったし、大会まで頑張ろう。

 授業は勿論、放課後の自主練習のメニューを考える必要がある。

 そして剣術大会までのスケジュールを頭の中で組み立てたのだった。


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