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98.婚約発表の夜会

 二学期の学期末試験から数日。

 四位だった前回の汚名を払拭して今回は二位だった。

 とは言え、純粋に喜べない。その理由はユーグリフトも二位だったので奴に勝ったとは言えないからだ。

 例え自覚しても奴に勝ちたいと思う気持ちは消えないということだ。


 そんな学期末試験が終了して王家から夜会の招待状が各家に送られた。

 異例の夜会に驚いている家もあるけど、ロイスの婚約発表の夜会であると知っている私は特に動揺しない。

 カーロイン公爵家にも招待状は届いていて、私も招待された。なので私も参加しようと思う。

 事前に夜会が開かれるのを知っていたのでドレス選びは既に終えていて、急いで準備する必要がなかったのはよかった。


「メルディー。ほら、手」

「もう少し丁寧にエスコートしてもいいんじゃない?」

「はぁ? 今更ぁ?」


 面倒そうに言うアルビーにカチンとなる。

 今日のエスコート役はアルビーで、雑なアルビーは適当な部分がある。

 それでも令嬢に人気なのは家柄や剣技もあるけど、一番は人懐っこい笑顔のせいだ。顔か、結局は顔なのか。

 馬車から下りる際にヒールで足を踏みつけてやる。


「痛ぇ! 何するんだよ!」

「あらごめんあそばせ? でもダンスを求める令嬢に言い訳出来るでしょう?」


 謝るが嘘だ。踏んだ言い訳を適当に言っただけである。

 しかし、気付くべきだった。相手はあのアルビーだと。


「あ、そうか。さすがメルディ。賢いな!」

「…………」


 踏んだ言い訳を適当に言ったのに感心され、さらには感謝されて複雑な気持ちになる。


「やっぱりダンスに応じなさいよ」

「嫌だよ面倒くさい。言い訳として利用しよっと」


 やっぱり足踏まなければよかったと思ってももう遅い。これを理由に逃げるつもりだ。

 負けて悔しいと思うけどここは王宮。これ以上ふざけるのはやめるべきだ。

 アルビーのエスコートを受けながら王宮の会場へ向かう。


「そういえばメルディはこの夜会なんか聞いてるのか? 殿下と幼馴染だろう?」

「守秘義務があるから無理ね」


 尋ねてくるアルビーを躱す。どうせこの後発表されるけどまだ秘密にしておく。

 入場すると既にたくさんの貴族がいて、当主や夫人同士が談笑したり、子息令嬢が婚約者や友人と話していたりしている。


「メルディ、アルビー」

「お兄様」


 名前を呼ばれて振り向くとお兄様がやって来る。


「遅かったね。アルビーが遅刻でもした?」

「違うって。途中渋滞にあったんだよ」

「ああ、今日は参加者が多いからね」


 アルビーが口を尖らせて答えてる。確かに今日はかなりの参加者だ。

 なので渋滞になりやすい。私たちも途中遭遇してしまったし。


「お兄様は婚約者と一緒ではないのですか?」

「エスコートはしたけどさっき友人と会ってね。今はそっちにいるよ」


 そう告げて目線を変える。きっとその方向に婚約者がいるのだろう。


「父上と母上には会ったからメルディもあとで会いに行くといいよ」

「はい」


 お兄様の話を素直に聞く。両親は他の当主や夫人と話していて忙しそうなのであとにしよう。

 そしてお兄様とアルビーと別れてアロラを探すと、ステファンと一緒に食事エリアにいた。


「あ、メルディ」

「こんばんは、メルディアナ様」

「こんばんは、ステファン、アロラ」


 気付いた二人に挨拶する。二人はお揃いの装飾品を身に付けていて今日も仲睦まじいのを披露してくる。


「こんな時も料理なのね」

「だって今日の主役は私じゃないもーん。だから王宮のお料理堪能しようと思って!」

「メルディアナ様は会いましたか?」


 答えながら料理を選別するアロラの隣でステファンが尋ねてくる。その口調からロイスだけではないのが読み取れる。


「いいえ、会ってないわ」

「そうなんですか」

「ええ。だからお楽しみね」


 ステファンの問いに答えてくすり、と笑う。

 婚約発表の夜会である今日はいつもの王宮の夜会より豪華だ。察しのいい人は気付いている。

 本日の主役である二人は別室で王妃様たちから最後の確認などを受けている頃だろう。

 前日見たオーレリアの礼儀作法は完璧だったので王妃様から見ても問題ないはず。あとは笑顔で臨むだけだ。


「なんかドキドキしてきた。主役じゃないのは分かってるのに」

「分かるわ。私もわくわくとドキドキよ」

「メルディも?」

「だって友人の晴れ舞台だもの」


 二人は私にとって大切な友人で、祝福の場に居合わせるのだ。心踊るのは当然だ。


「そうだね。しっかり目に焼き付けて置かなきゃ!」


 アロラが決意表明しながらくるくるとフォークで巻いてパスタを頬張る。相変わらず食欲旺盛だけど、楽しみにしているのは一緒だ。

 オーレリアは元々素材が良い。だから磨けばすごく輝くことだろう。

 それから他愛ない話をして時間を過ごし、両親の挨拶が落ち着いたのを見計らってアロラたちに別れを告げる。


「お父様、お母様」

「メルディアナ」

「まぁ、メルディ」


 両親に近付くと振り向いて名前を呼んでくる。なので微笑んで応じる。


「挨拶は終わったのですか?」

「知り合いなら終わったところだ」

「丁度よかったわ。メルディ、冬休み幾つがお茶会に参加する? 夏休み夜会に積極的だったでしょう? 貴女も誘われているのだけど」

「詳細は屋敷で聞かせていただきます」


 すぐさま返事が出来ないので曖昧に濁す。夏休み夜会に積極的に参加していたことがこうなるとは。何か対策しなければ。

 そう思っているとラッパが鳴る。王族の入場の合図だ。


「国王陛下、王妃殿下のご入場ー!」


 続いて近衛騎士団長が国王夫妻の入場を声高に告げる。

 王族のみ利用が許される重厚な両扉から現れるのはロイスの親である国王夫妻で、ゆっくりと優雅に階段を下りていく。

 それと同時に貴族一同、(こうべ)を垂れる。


(みな)の者、よい。頭を上げよ」


 王妃様と一緒に階段を下りた陛下の言葉に従い、皆一様に頭を上げる。普段は王妃様の存在感が強いけど、今日はロイスの婚約発表なので陛下も頑張っている。

 顔を上げると陛下たちの近くにユーグリフトの父親であるスターツ公爵が控えている。宰相だからか。

 一瞬、公爵がこちらを見るもすぐに違うところへ目を向ける。父に何か用があったのだろうか。

 内心首を傾げていると陛下が参加者たちが頭を上げたのを確認して声を上げる。


「本日は急な夜会にも関わらず応じてくれて感謝する。本日は息子、ロイスのことで報告がある」


 皆、静かに耳を傾ける。その様子を見ながら陛下が話を続ける。


「この度、縁があってロイスに婚約者が出来た。皆、祝ってほしい」


 そう告げると陛下たちが入場してきた扉が開かれてロイスが入場してくる。

 見上げるその姿は、遠くからでも分かるくらい幸せに満ち溢れている。

 そしてその隣──美しく着飾ったオーレリアを愛おしそうに見つめながらエスコートして一緒に下りていく。


 隣を歩くオーレリアはロイスの瞳の色である水色のドレスを着こなしてよく似合っている。さすが王宮の侍女たち。儚げな容姿をよく把握しながらオーレリアの魅力を上手に引き出していると思う。


 ロイスの幸せに満ち足りた微笑み、ロイスに手を引かれて入場してくるオーレリアに貴族たちが驚いているのが窺える。


 階段を下りてロイスたちが陛下たちのところまで行くと、陛下が口をゆっくりと開く。


「彼女はオーレリア・マーセナス。マーセナス辺境伯の娘だ。そして、ロイスが選んだ婚約者だ」


 ざわっとざわめくのが聞こえる。それと同時に、私に視線が集中する。


「メルディアナ様じゃないの……?」

「カーロイン公爵令嬢は非の打ちどころのない令嬢なのにどうして田舎貴族の娘を……?」

「殿下の幼馴染である彼女以外あり得ないだろう……?」


 ひそひそと囁いているのが聞こえてくる。確かに、ロイスの婚約者は私だと思い切っていた彼らからしたらさぞ驚きだろう。

 だが私やロイスは勿論、陛下たちも私の両親も誰ひとり婚約者と発表していない。全ては彼らの勝手な憶測で思っていたことだ。


「驚いた人もいるかもしれません」


 そんなこと思っているとロイスが静かに言葉を発する。その声にざわめきが静まっていく。


「確かに僕とカーロイン公爵令嬢は幼馴染で幼少から交流がありました。──ですが、それはあくまでも友人で皆さんが推測するような関係ではありません。むしろ彼女は、ずっと僕を支えてくれていました」


 静かに全体を見渡しながらロイスが微笑んで続ける。……んん? 


「僕とマーセナス嬢の仲を取り計らってくれたのは彼女です。──どうか、彼女に多大なる拍手をお願いします」

「……!?」


 ロイスの発言に内心ぎょっとする。ちょっと、何言ってるんだ!?

 事前に私とは幼馴染でそれ以上の関係はないと断言するのは知っていた。だけど、これは聞いてない。

 ロイスの演説にあっちこっちから拍手が聞こえてくる。


「そうだったのか」

「メルディアナ様は殿下の恋路を助けていたのね……!」

「素敵。なんてお優しいの……!」


 称賛する声が聞こえて来るけどやめてほしい。恥ずかしい、穴があるのなら入りたい。

 ロイスを見るとこっちを見ながら小さく口を動かす。……あれは「ありがとう」か。

 感謝の言葉はありがたいけど他でやってほしかったという思いが本音だが、祝福する気持ちは本当で。


「殿下は大切な幼馴染ですから。――この度はご婚約、おめでとうございます。殿下とオーレリアの進む道に幸多からんことを」


 大切な友人を見つめながら自分の気持ちを伝える。

 微笑んで祝福すると、ロイスとオーレリアが嬉しそうに頷いた。

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