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遠足

作者: 杉谷馬場生

「ただいま」

「おかえりなさい。遠足楽しかった?」

「うん。」

「楽しかったのに楽しそうじゃないのね」

「うん」

「どうしたの?」

「遠足でね。僕は遠くの公園に行ったよ」

「そうね」

「それでね。遊んでね。お弁当食べてね。帰ってきたんだ」

「そうね」

「学校に帰ってきてね。運動場に並んでね。先生が言うんだよ」

「何を言われたの?」

「家に帰るまでが遠足ですって言われたんだ」

「そうね。それがどうかしたの?」

「それでね。僕はわからなくなったんだ」

「何を?」

「遠足は公園に行くのが遠足ではないの?」

「そうね」

「だから僕は公園に行って遊ぶまでが遠足だと思ってたんだ」

「そうなの」

「だから公園からまた歩いて帰っている時はもう遠足は終わっていると思ってたんだ」

「うん」

「でもね。学校に戻ったら先生は『家に帰るまでが遠足です』って言うんだよ。だとしたら遠足の目的地は公園じゃないってことになる」

「なるほど」

「家に帰るまでが遠足だったら目的地は家だってことになるよ。だとしたらずっと家にいてよかったんじゃないかと僕はぐるぐる考えていたんだ」

「そうなのね」

「ねえ、先生は何を言っていたんだろう」

「あなたは自分で一生懸命考えたのね?」

「そうだよ。でもよくわからないんだ」

「まずあなたが一生懸命考えたことはとてもいいことよ」

「うん」

「あなたが公園で遊ぶことが遠足の目的だと思っていたのなら、先生が言った『家に帰るまでが遠足です』って言葉は確かによくわからないわね」

「そうでしょ?」

「でもね。公園で遊ぶまでが遠足だったら、公園に着いて遊んでお弁当を食べたらどうやって帰るの?」

「どう言うこと?」

「公園で遠足が終わったらそれからの時間は何?公園で終わったらそこから何もできないよ。どうやって帰ればいいんだろうね」

「歩いて帰るよ」

「もうそれは遠足じゃないの?」

「それは遠足だよ」

「あれ?言ってることが違ってるよ?公園で遊んだら終わりじゃなかったの?」

「あ、うーん…」

「お母さん、怒っているんじゃないんだからね。逆に自分で考えているあなたを偉いなと思っているだから」

「僕は偉い?」

「えらいえらい」

「ありがとう」

「まずは手を洗ってきて、うがいもね。それからまたお話ししましょう」

「うん」

————————

「手を洗ってきたよ」

「うがいもした?」

「うん」

「えらいえらい」

「ありがとう」

「じゃあ遠足の話だけどね」

「うん」

「遠足の目的はね、公園で遊ぶことだけではないの」

「そうなの?」

「そうよ」

「じゃあ何が目的なの?」

「公園で遊ぶことや安全に道路を歩くこと。遊ぶことで楽しいと感じること。遊んだ後のお弁当がおいしいと感じること。そして楽しんだ後にしっかりまた安全に道路を歩くこと」

「歩くことも目的なの?」

「そうよ。漢字でどう書く?」

「習ってない」

「あ、そうか。遠足はね、遠い足って書くの」

「とおいあし?」

「足で歩いて遠くに行くって意味ね」

「そうか、歩くのも大切なんだね」

「そうそう、もちろん公園で遊ぶことも大事。遊んで楽しいと思った?」

「思ったよ」

「じゃあそれをお母さんやお父さんにも教えなくちゃいけないでしょ?」

「うん」

「教えるためにはまたしっかりと安全に道路を歩いて帰らなくちゃいけないよね?」

「そうだね」

「お父さんやお母さんに遊んだことを教えないまま遠足が終わったらどうする?どうやって遠足したことをお父さんやお母さんに教える?」

「それはいやだよ」

「そうでしょ?あなたが遠足したことをお父さんやお母さんに教えてくれないとお父さんやお母さんも心配する」

「うん」

「じゃあちゃんと聞くわね。遠足は何が目的なのかな?」

「みんなで歩いて遠くの公園に行って遊んで、お弁当食べて、安全に歩いて帰って、そのことをお父さんとお母さんに教えてあげること」

「そうね。ちゃんと帰ってこないと遠足は終わりじゃないのよ」

「わかったよ」

「また賢くなったね」

「うん。遠足は『けいけん』するって事だね」

「まあ、そんな難しい言葉知ってたの?」

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