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星祭《カルネヴァーレ》の夜(6)

「君のログインポイントを、フェロヴィーアのコックピットにしておいたから」


 手元の端末を操作しながら、カムパネルラは言った。


「しばらく君の星に帰ることはできないかもしれないけれど、メンテナンスに不都合がないよう、最大限の努力をしよう。迷惑をかけて本当に申し訳ない」


 カムパネルラがそう言って頭を下げるので、ジョバンニは少しだけ慌てた。


「おいおい何だよ、気持ち悪ぃな」


 そう言ってから、ジョバンニは自分の気持ちをできるだけそのままカムパネルラに伝えようとする。何度も口ごもり、慎重に言葉を選びながら続けた。


「――俺は俺のために、おまえについていくことに決めたんだから。おまえは、正々堂々俺を利用すりゃあいい」


 ぼそぼそと告げられた愛想のないその言葉を聞いて、カムパネルラは心底おかしそうに笑った。


「何それ。君って、優しいのか優しくないのかよくわかんないな」


 そう言ってひとしきり笑った後、カムパネルラはふと真顔になる。


「そろそろリアルでは午後十時くらいだろう。ログアウトした方がいいんじゃないか?」

「まだ大丈夫だって。いつも寝るのは大体十二時くらいだし」


 反論するジョバンニを遮るように、カムパネルラは厳しい表情のまま言葉を続けた。


「それでも、今日はイレギュラーなことばかりだっただろう。早く休んだ方がいい」


 その表情があまりに真剣だったので、ジョバンニは抵抗することを諦め、彼の言葉に従うことにした。


 メニュー画面を開き、人差し指でログアウトボタンを押そうとして、はたと気付く。


「……おまえは、戻れないんだよな」


 ぼそっとつぶやいてから、失言だったと後悔した。しかし、カムパネルラは笑って、「そうさ。だからずっと、この星を見ていられる」と両手を広げて見せた。


 それが彼の本心なのかは、ジョバンニにはわからない。


「まぁ、とにかくゆっくり休んでよ。次にインした時にまた会おう」

「……あぁ」


 短くそう返して、ジョバンニはボタンを押した。閉じかけたまぶたの隙間から見えたのは、離脱のエフェクトと、どこか寂しげなカムパネルラのほほ笑みだった。




「ログアウト、確認しました」


 聞きなれた合成音声とともにデバイスの前面が開き、ハルカは現実世界へと帰還した。


 両目を開き、右手、左手と順番に指を動かす。異常なし。どうやら無事に還ってくることができたようだ。


 ハルカはデバイスから出るとそのままベッドの上へと倒れこむ。室内灯にかざした右手をじっと見つめながら、今日自分の身に起こった出来事を思い返した。


 はじまりのおわりフィーネ・クレアシオン。そんなものが実際に存在するなんて、正直今でも信じられない。しかしその現象の存在を認めなければ、今日出会った青年、カムパネルラの身に起こったことが説明できなかった。


 去り際に見た、彼の物悲しげな瞳がちらりと頭をよぎる。


 ハルカはふるふると首を振ると、そのまま右手をベッドの上へと投げ出して、目を閉じた。やはり疲労がたまっていたのだろうか。泥のような眠気がハルカの意識を絡め取る。


 遠のいていく意識の中で、何度も生まれてははじけた星の光が、何かの信号のようにちかちかと浮かんでは、はかなく美しく消えていった。

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